第348話:天神の外科往診、最高神の「全能の雷霆」を神殺しの銀鍼で外科粉砕せよ
夕陽が神の庭を真っ赤に染め上げる中、空が二つに割れ、巨大な雷霆が大地を穿ちました。現れたのは、神々の王・ゼウス。彼は復活した枢を見下ろし、その圧倒的な神威によって空間を歪ませ、ミナやガストンたちをその場に這いつくばらせます。
しかし、その絶対的な重圧の中、ただ一人。
枢先生だけは、耳を穿つような轟音さえも「騒々しい不整脈ですね」と一蹴し、鼻で笑ってみせました。
神の雷は、先生にとっては、冷え切った体を温めるための「お灸」に過ぎない。
「おやおや。……。最高神ともあろうお方が、……これほどまでに血圧を上げて、……顔を真っ赤にされているとは。……。血管が破裂する前に、……私がその肥大した自尊心を、……外科的に摘出してあげましょうか。……。ミナ、……。患者さんの準備はいいですか。……。神様の王様を、……まな板の上に乗せる時間ですよ」
18時、夕方の往診。天神の外科往診。
聖鍼師・枢。最高神の「全能」という名の病を、一鍼で外科解体します。
神の庭の空気は、最高神ゼウスの降臨によって、一瞬で超高電圧のプラズマへと変貌した。
黄金の髭を蓄え、筋骨隆々たる巨躯を晒すゼウスは、右手に握った「ケラウノスの雷槍」を天に掲げ、枢を消滅させんと審判を下す。
「(……。枢よ! ……。神の座を捨て、……死という救済さえも拒んだ大逆人め! ……。貴様の存在は、……この宇宙の調和を乱す猛毒。……。我が雷によって、……細胞の一片まで、……虚無へと完治させてくれよう!)」
ゼウスが雷槍を振り下ろすと、空から数十万ボルトの黄金の雷が、枢の頭上へと直撃した。
大地は融解し、周囲の花々は瞬時に蒸発する。
ガストンが絶叫した。
「(……。せ、……先生! ……。逃げてください! ……。その雷は、……因果律そのものを焼き切る、……回避不能の神罰だ!)」
しかし。
白煙の中から現れたのは、煤一つ付いていない、澄ました顔の枢の姿であった。
彼は右手の指先で、今しがた自分を打った雷の余熱を「摘まむ」と、それを自身の耳の後ろに押し当てた。
「(……。ふぅ。……。少し、……肩が凝っていたのですよ。……。おやおや。……。最高神の全力にしては、……少々刺激が足りませんね。……。家庭用の低周波治療器の方が、……まだマシな仕事をしますよ)」
「(……。なに、……っ!? 我が最強の雷を受け流すどころか、……治療の道具にしたというのか……!)」
ゼウスの驚愕を余所に、枢は悠然と、しかし一歩で数百メートルの距離を詰める「経絡縮地」でゼウスの間合いへと踏み込んだ。
枢の指先には、ミナから回収した「星屑の銀鍼」が、ゼウスの放つ雷を吸収し、さらに不気味な白銀の輝きを放っている。
「(……。ゼウスさん。……。あなたの症状は深刻です。……。神としての『不死』に甘んじ、……自身の臓器が、……贅肉と慢心で埋め尽くされていることに、……気づいていない。……。あなたのその雷、……実は、……心臓が悲鳴を上げているために、……外部へ漏れ出している『虚熱』に過ぎないのですよ)」
枢が銀鍼を横に払うと、ゼウスが纏っていた絶対防御の神力壁が、まるで薄い障子紙のように、音もなく切り裂かれた。
「(……。貴様、……我を、……解剖しようというのか! ……。おのれ、……人間風情がぁぁぁっ!!)」
逆上したゼウスが、千本の雷の矢を同時に放つ。
だが、枢はそれらすべてを「見ることさえせず」、最小限の身体の捻りだけで回避した。いや、回避したのではない。雷の矢の通り道にある「気の隙間」を、最初から知っていたかのように歩んでいるのだ。
枢は、ゼウスの巨大な胸板の前でピタリと足を止めた。
「(……。暴れてはいけませんよ。……。痛いのは、……一瞬です。……。もっとも、……神様のあなたに『痛み』という概念を、……理解できる知能が残っていればの話ですがね)」
枢の銀鍼が、ゼウスの喉元――**『天突』を正確に貫いた。
――ズシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
一刺し。
ゼウスの喉に溜まっていた、数万年分の「傲慢な言霊」が、外科的に排出された。
二刺し。
彼の雷の源泉である心臓の裏側――『至陽』**を貫き、神力の暴走を強制停止させた。
「(……。あ、……。……が、……。……。お、……。……。)」
最高神の口から、雷ではなく、ただの温かな吐息が漏れた。
その瞬間、ゼウスの筋骨隆々たる肉体は、みるみるうちに縮んでいき、ついには、どこにでもいそうな、疲れ果てた「老人」の姿へと変貌した。
背負っていた全能の威圧感は消え、そこにあるのは、自らの老いと向き合うことを拒んできた、一人の弱き魂だけであった。
「(……。バ、……。……。バカナッ!? 天界最強ノ王、……ゼウスサマノ神格ヲ、……タッタ二鍼デ『解体』シテシマッタトイウノカ!! コレガ、……完全復活ヲ遂ゲタ枢ノ、……神ヲ人間に戻ス『究極ノ往診』ダトイウノカ!!)」
ガストンは、その光景を目の当たりにし、腰を抜かして震えていた。
ミナは、師匠のその背中に、かつて以上の、絶対的な「孤高の美学」を見出していた。
枢は、老人となったゼウスを冷徹な目で見下ろすと、銀鍼の血(神の金液)を払い、鞘へと収めた。
「(……。おやおや。……。随分と、……小さくなってしまいましたね。……。ですが、……今のあなたの方が、……よっぽど健康的な顔色をしていますよ。……。せいぜい、……自分の足で大地を踏みしめ、……泥の味でも覚えておくことです。……。それが、……処方箋の代わりですよ)」
枢が踵を返すと、背後の神殿が、最高神の権威の喪失と共に、音を立てて崩れ去った。
第348話。
聖鍼師・枢。
復活後、最初の大仕事は、天界の王を「ただの人間」へと治療し、その支配に終止符を打つことであった。
もはや、天界も地上も関係ない。
枢が歩く場所こそが、世界で唯一の、そして絶対的な「診察室」となる。
「(……。さて、ミナ。……。休む暇はありませんよ。……。王都では、……復活した私に怯えた、……小心者の神様たちが、……最後の悪足掻きを始めようとしているようですから。……。往診の予約は、……まだ山積みです)」
枢先生の無双は、まだ始まったばかり。
神代の再編は、彼の銀鍼によって、さらに冷徹に、さらに慈悲深く加速していく。
本日、4月29日(水・祝)18:00、最高神ゼウスの解体を描いた一話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第348話。
復活した枢先生の「圧倒的な格の違い」を見せつけるため、神々の王・ゼウスを、医学的な観点から「高血圧と慢心の老人」へと堕とす、これぞ聖鍼師無双というエピソードを執筆いたしました。
先生が復活した今、この世界に「敵」という概念は存在しません。あるのは「治療すべき患者」か「摘出すべき腫瘍」のみです。
今回、最高神ゼウスの神格を解体し、彼の暴走する雷を鎮静化させるために枢先生が意識した術式を解説します。
まず、神としての「叫び」や「呪い」を封じ、精神的な動揺を物理的な無力化へと繋げるための起点とした**『天突』。喉にあるこの要衝に対し、枢先生は自身の魂を込めた銀鍼を打つことで、ゼウスの「神の権能」としての発声を外科的にリセットしました。
そして、ゼウスの体内に蓄積された過剰な生命エネルギー(雷)を、大地の地脈へと安全に逃がし、その膨張した肉体を収縮させるためのアンカーとした『至陽』。背骨の裏にあるこの陽気の中心を貫くことで、枢先生はゼウスを「全能の神」から「ただの老人」へと外科的に再定義することに成功したのです。
最後に、神格を失ったゼウスの意識を現世の現実に定着させ、新しい「人間としての生」を受け入れさせるための最終回路とした『湧泉』。この往診を経て、枢先生は世界の階級制度そのものを、その銀鍼によって完全に破壊しました。
次回の第349話は、本日祝日、本日最終更新【21:00】**に予定しております。
ゼウスを倒した枢たちの前に、ついに「第五章の黒幕」とも言える、神々の意志を統括する「摂理」がその姿を現します。それは感情を持たぬ「透明な神」。枢は、世界そのものという名の、最大の難病患者と対峙します。
「(……。おやおや。……。姿も見せず、……数式だけで世界を診ようとは。……。そんなに計算が好きなら、……私が、……ゼロで割るという絶望を、……外科的に教えてあげましょうか)」
21時、本日最終。因果の外科往診。
聖鍼師・枢。ついに「世界のシステム」を解体します。どうぞお見逃しなく。




