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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第337話:背徳の外科往診、効率に支配された「鋼の医療院」を師弟の慈愛で外科解体せよ

王都の門を精神的な威圧だけで突破したくるるとミナ。二人が向かったのは、白亜の巨塔として聳え立つ「王立中央医療院」の最上階。かつて枢が、数多の不可能と言われた執刀を成し遂げた伝説の聖域です。


しかし、そこに広がっていたのは、枢が知る温かな医術の場ではありませんでした。最新の魔導診察機が冷たく脈打ち、患者はベッドに固定され、ただの「検体」として扱われる無機質な空間。

その中心で、かつて枢の背中を誰よりも熱心に追いかけていた一番弟子、ガストンが冷徹な眼差しで二人を迎えました。


「先生、あなたの医術は美しかったが、遅すぎた。私はこの王都から死を排除するために、命を合理的に管理するシステムを完成させたのです。神の力を失ったあなたに、今のこの完璧な医療を否定する権利などありません」


愛弟子の歪んだ成長。それは枢にとって、自身の肉体の衰えよりも遥かに深く、魂を切り裂くような激痛を伴う「難病」でした。


「おやおや。効率のために心を捨てたというのなら、それはもはや医師ではなく、ただの計算機ですね。さあ、ミナ。私の誇りであったこの男を、もう一度一人の人間に戻すための、特別な往診を始めましょうか」


12時、昼の往診。背徳の外科往診。

聖鍼師、ついに最愛の弟子の凍りついた心臓を診察します。

 太陽が中天に掛かり、影が最も短くなる時刻。

 王立中央医療院の最深部、かつてくるるが「大執刀室」と呼んでいたその場所は、今や異様な静寂に包まれていた。壁一面に張り巡らされた魔導回路が青白い光を放ち、患者たちのバイタルデータが数値となって虚空を流れていく。

 そこには、呻き声も、祈りも、感謝の言葉もない。ただ、機械的に処理される「現象」としての命があるだけだった。


 枢はミナに支えられ、かつて自らが座っていた執刀医の席の前に立った。

 その向かい側には、贅を尽くした白衣を纏い、冷徹な理性を鎧のように身に纏った男、ガストンが立っていた。彼の周囲には、枢の教えを捨て、数値こそが正義だと信じ込む若き医師たちが、盾のように並んでいる。


 「(……。ガストン。……。おやおや。……。随分と立派な城を築いたものですね。……。ですが、……この部屋の空気は、……あまりに冷たすぎて、……命の火が凍りついています。……。あなたはいつから、……患者の瞳を見る代わりに、……流れる数字を診るようになったのですか)」


 枢の声は、冷たい機械音に満ちた部屋の中で、唯一の「熱」を持って響いた。

 ガストンは鼻で笑い、手元の魔導端末を操作した。


 「先生、感情で救える命には限界がある。私はあなたの不在の間、この都の死亡率を三割も減少させた。これは、あなたが翡翠の腕を振り回していた頃には成し得なかった、客観的な成果だ。今のあなたに、私の何が否定できるというのです!」


 ガストンの叫びに合わせるように、部屋中の魔導回路が激しく発光し、枢とミナを排除しようとする精神的な圧力が放たれた。それは、医療を特権化し、弱者を切り捨てることで構築された「歪んだ正義」の波動であった。


 ミナは枢の肩を抱き寄せ、一歩も引かずにガストンを見据えた。

 「(ガストンさん。……。私には、……あなたの数字は見えません。……。でも、……あなたの胸の奥から聞こえる音は、……とても悲しくて、……今にも泣き出しそうな、……孤独な少年の脈動です。……。あなたは、……本当は怖いのですね。……。自分一人の力では、……誰も救えないということが)」


 「黙れ、小娘! 視力を失った出来損ないに、何が分かる!」


 ガストンが激昂し、傍らの警備ロボットに排除の命令を下そうとした。

 その瞬間、枢がミナの右手に、自身の震える左手をそっと重ねた。


 「(……。おやおや。……。教え子が、……患者を出来損ないと呼ぶようになるとは。……。私の教育も、……相当な再診が必要なようですね。……。ミナ、やりなさい。……。彼が無理やり押し込めている『恐怖』を、……外科的に摘出してあげるのです)」


 枢の指示と同時に、ミナは懐から一本の、光を吸い込むような漆黒の銀鍼を取り出した。

 それはかつて、枢がむくろとの戦いで得た、因果の深淵を貫くための特別な鍼。

 ミナは枢の意識をナビゲーターとして、ガストンの傲慢さを支えている精神的な急所――**『膻中だんちゅう』**へと、その鍼を閃かせた。


 ――ズシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 一刺し。

 ガストンの全身を覆っていた冷徹な魔導の衣が、一瞬にして霧散した。

 二刺し。

 部屋中に張り巡らされていた魔導回路が過負荷を起こし、冷たい数字の表示がすべて消え、代わりに部屋の中には、窓から差し込む自然な陽光と、柔らかな風が流れ込んだ。


 「(……。が、……。……。ああ、……。……。)」


 ガストンはその場に膝をつき、自身の両手を見つめた。

 数値が消えた世界で、彼は初めて、目の前にいる枢という男の、圧倒的な「人間としての温かさ」を肌で感じた。


 「(……。先生、……。私は、……。……。あなたのようになりたかった。……。でも、……腕を失ったあなたを見て、……私は怖くなったんです。……。奇跡がなければ、……救えない命があることが、……。だから、……数字に逃げた。……。……。)」


 ガストンの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

 それは、合理という名の仮面の裏に隠されていた、一人の未熟な医師としての、再生の産声であった。


 枢は、ミナに支えられながら歩み寄り、ガストンの震える肩に優しく手を置いた。


 「(……。おやおや。……。やっと、……良い顔になりましたね。……。医師に必要なのは、……万能の力ではなく、……目の前の患者と共に震えることができる、……その脆い心なのです。……。さあ、……立ちなさい。……。王都の本当の治療は、……ここから始まるのですよ)」


 第337話。

 人間・枢。彼は、神の奇跡を失ったことで、かつての弟子を呪縛していた「万能への執着」を、外科的に切除することに成功した。


 医療院の廊下には、いつの間にか、外で待たされていた貧しき人々が、枢の名を呼びながら集まり始めていた。

 鋼の医療院は、再び、血の通った「救済の場」へと還っていく。

 聖鍼師・枢。彼の王都再訪は、一番弟子の完治という、最も困難で最も輝かしい成果を、その歴史に刻み込んだのである。

本日、4月27日(月)12:00、愛弟子ガストンとの再診を描いた一話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第337話。

くるる先生が、合理性に逃げ込んだ一番弟子ガストンの心を、ミナさんと共に行う「共同往診」によって外科的に解放するエピソードを執筆いたしました。


命を管理するのではなく、命に寄り添う。この枢先生の原点回帰が、王都の医療体制を根底から変革させる大きなうねりとなります。


今回、ガストンの凍りついた心を溶かし、虚飾の魔導回路を停止させるために枢先生とミナさんが意識した術式を解説します。

まず、感情を抑圧し、心臓を締め付けていた虚栄の鎧を物理的に解体するための起点とした**『膻中だんちゅう』。胸の中央にあるこの心の門に対し、ミナさんは枢先生の慈愛を乗せた一鍼を打ち込むことで、ガストンの精神的な閉塞を外科的にリセットしました。


そして、過度に活性化した知性による傲慢さを鎮め、地に足のついた感覚を取り戻させるためのアンカーとした『湧泉ゆうせん』。足の裏にあるこのツボを通じて、ガストンの意識を冷たい計算から、温かな大地へと繋ぎ直すことに成功したのです。

最後に、往診を終えた医療院全体の空気を、管理による静寂から「生命の活気」へと再接続するための最終回路とした『百会ひゃくえ』。この往診を経て、王都医療院は特権の城から、万民のための聖域へと生まれ変わりました。


次回の第338話は、本日月曜日【18:00】**に更新予定です。


ガストンと共に医療院の改革を始めた二人。しかし、その動きを察知した王都の元老院が、枢を「国家転覆を企てる反逆者」として指名手配します。

迫り来る王都軍の包囲網。その中には、かつて枢が命を救った「伝説の女騎士」の姿もありました。

「(……。おやおや。……。今度の患者さんは、……随分と鋭い刃を持って診察室に乗り込んでくるようですね。……。さあ、ミナ。……。彼女の迷いを、……外科的に貫いてあげましょう)」


18時、夕方の往診。鉄血の外科往診。

聖鍼師、ついに「かつての友」と戦場で再会します。どうぞお見逃しなく。

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