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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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第338話:鉄血の外科往診、忠義に凍りついた「白銀の女騎士」を師弟の絆で外科解体せよ

ガストンを更生させ、医療院に真の救済を取り戻したくるるとミナ。しかし、その変革を「秩序への反逆」と見なした王都元老院は、枢を国家反逆罪に問い、最強の追跡者を差し向けました。


夕闇に染まる王都の広場、二人の前に現れたのは、重厚な白銀の甲冑を纏った伝説の女騎士、カサンドラ。彼女はかつて、戦場で瀕死の重傷を負った際、若き日の枢がその神の腕をもって、砕けた心臓を繋ぎ止めた恩人でした。


「枢先生。私はあなたの医術に命を救われました。ですが、今の私は王の剣、国家の法を守る騎士です。法を乱す者は、たとえ恩師であっても斬らねばなりません。それが、私の選んだ忠義なのです」


剣を抜き、冷徹な騎士の仮面を被るカサンドラ。しかし、その瞳の奥には、恩師を手にかけねばならぬ深い悲しみと、理不尽な命令への迷いが渦巻いていました。


「おやおや。かつて繋ぎ止めたはずの心臓が、今はこんなにも冷たく、硬い鎧に閉じ込められているとは。カサンドラ、あなたのその忠義という名の不整脈を、もう一度だけ、私が診てあげましょうか」


18時、夕方の往診。鉄血の外科往診。

聖鍼師、ついに愛しき「鉄の女騎士」の迷いを外科的に貫きます。

 王都の中央広場は、燃えるような夕焼けによって血のような朱色に染まっていた。

 くるるはミナの肩に縋りながら、広場の中央に悠然と立つ、一人の騎士の前に立った。カサンドラ。かつて枢が「神の腕」を持っていた頃、最も過酷な戦場から救い上げ、その不屈の魂に敬意を表した女傑である。

 彼女の掲げる大剣は、夕陽を反射して鋭く輝き、周囲には逃げ遅れた民衆と、枢を捕らえようとする王都軍の包囲網が何重にも敷かれていた。


 「(……。カサンドラ。……。おやおや。……。その剣の重さよりも、……あなたの心にかかっている重圧の方が、……遥かに深刻なようですね。……。あなたは今、……王への忠誠を叫ぶことで、……自分の内側にある『良心』という名の拍動を、……必死に抑え込んでいる)」


 枢の声は、重装歩兵たちの喧騒を通り抜け、カサンドラの白銀の兜の奥へと直接届いた。

 カサンドラは一瞬、剣を握る手を震わせたが、すぐにそれを力任せに抑え込み、一歩前へと踏み出した。


 「先生、黙ってください! 私は、……私はこの王都の平和を守る義務があるのです。あなたが医療院で行ったことは、国家の根幹を揺るがす暴挙だ。抵抗するなら、……私はあなたを、……この剣で診察することになります!」


 カサンドラの咆哮と共に、凄まじい剣気が放たれた。

 それはかつて枢が治療した際、彼女の強靭な生命力を増幅させるために施した処置の産物。自身の過去の功績が、今、自身を滅ぼす刃となって戻ってきたのである。


 ミナは枢を背中に隠すように立ち、腰のポーチから一本の、極細ながらも不屈の弾力を持つ「天糸の鍼」を取り出した。彼女には相手の鎧の硬さなど関係ない。ただ、カサンドラの身体から放たれる気が、どの経絡で詰まり、どの部位で悲鳴を上げているかだけを正確に察知していた。


 「(師匠。……。この方の剣は、……とても強くて鋭いです。……。でも、……その足元は、……まるで氷の上に立っているように、……冷たくて不安定です。……。忠義という鎧が、……彼女自身の肉体を内側から締め付けている。……。私が、……その鎧の繋ぎ目を、……開けてあげてもいいですか)」


 「(……。ええ、やりなさい。……。彼女の強すぎる責任感は、……今や心臓を圧迫する『概念の血栓』となっています。……。ミナ、……あなたの純粋な指先で、……彼女を国家の盾から、……一人の誇り高き女性へと還してあげるのです)」


 枢の指示と同時に、カサンドラが地を蹴った。

 白銀の残像が広場を駆け抜け、大剣が枢の頭上へと振り下ろされる。


 ――ガギィィィィィィィィンッ!!


 しかし、剣が枢の体に触れることはなかった。

 ミナが、カサンドラの剣撃の僅かな隙間に潜り込み、その右腕の付け根にある、力の分岐点――**『極泉きょくせん』**へと、銀鍼を吸い込まれるように突き立てたからである。


 一刺し。

 カサンドラの全身を支配していた「国家への強迫観念」が、その鍼を通じて体外へと強制排出された。

 二刺し。

 枢がミナを通じて流し込んだ、かつての戦場での思い出と、彼女の命の尊さを称える「温かな気」が、彼女の閉ざされた心臓へと直接浸透した。


 「(……。あ、……。……が、……。……。)」


 カサンドラの大剣が、カランと虚しい音を立てて石畳に落ちた。

 彼女は兜を脱ぎ捨て、その場に崩れ落ちた。露わになった彼女の素顔には、騎士としての峻烈さはなく、ただ、恩師を傷つけようとした自分への嫌悪と、そしてようやく自由になれたという安堵の涙が溢れていた。


 「(……。先生、……。私は、……。……。守りたかった。……。王都でもなく、……法でもなく、……。あなたの遺した、……この温かな医術が流れる世界を、……守りたかっただけなのに。……。……。)」


 カサンドラは枢の足元に額をつけ、声を上げて泣いた。

 周囲の兵士たちは、自分たちの英雄が、老医師の放つ不思議な静寂に屈した姿を見て、武器を構えることさえ忘れ、ただ立ち尽くしていた。


 枢は、ミナに支えられながら歩み寄り、カサンドラの濡れた髪を優しく撫でた。


 「(……。おやおや。……。ようやく、……重い鎧が脱げましたね。……。騎士も医師も、……最後はただの人。……。人を守るために、……自分という人を壊してはいけません。……。さあ、立ちなさい、カサンドラ。……。これからは、……国家のためではなく、……目の前で泣いている一人の民のために、……その剣を振るうのです)」


 第338話。

 人間・枢。彼は、神の力を失ったことで、武力や権威では決して屈服させられない最強の騎士の心を、外科的な慈愛によって見事に完治させた。


 広場に集まった兵士たちの中からも、一人、また一人と武器を捨てる者が現れ始めた。

 王都を支配していた「恐怖と選別」の呪縛が、枢の往診によって、音を立てて崩れ去っていく。

 聖鍼師・枢。彼の王都再訪は、最強の敵を最強の味方へと変えるという、前代未聞の外科的奇跡を、再びこの歴史に刻み込んだのである。

本日、4月27日(月)18:00、伝説の女騎士カサンドラとの再会と、その心の解体を描いた一話を最後までお読みいただき、ありがとうございます。

.

第338話。

くるる先生が、かつて命を救ったカサンドラの「忠義という名の不整脈」を、ミナさんとの共同作業によって外科的に正すエピソードを執筆いたしました。


力でねじ伏せるのではなく、相手の背負っている「重荷」を共に診る。これこそが、第五章における枢先生の真骨頂です。


今回、カサンドラの凍りついた闘志を鎮め、国家の呪縛から解放するために枢先生とミナさんが意識した術式を解説します。

まず、精神的な過緊張が原因で腕の動きを支配していた「武人の業」を物理的に遮断するための起点とした**『極泉きょくせん』。脇の下にあるこの急穴に対し、ミナさんは枢先生の慈愛を乗せた一鍼を打つことで、カサンドラの攻撃衝動を外科的にリセットしました。


そして、国家という巨大な幻想に囚われていた彼女の意識を、自分自身の肉体と「命の手触り」へと引き戻すためのアンカーとした『心兪しんゆ』。背中にあるこの心臓の反応点を通じて、二人は彼女の砕けそうだった心に温かな脈動を再接続することに成功したのです。

最後に、往診を終えた広場全体の殺気を、平和への祈りへと再接続するための最終回路とした『神門しんもん』。この往診を経て、カサンドラは王の剣から、枢を守り抜く「真の守護騎士」へと生まれ変わりました。


次回の第339話は、本日月曜日【21:00】**に更新予定です。


カサンドラを仲間に加え、いよいよ王都の腐敗の元凶である「元老院」へと乗り込む三人。しかし、そこで彼らを待ち構えていたのは、かつて枢が神の腕を持ってしても「治療不可能」と診捨てた、最悪の闇の正体でした。

それは、人の寿命を奪い、自らの不老不死を画策する、禁忌の術式。

「(……。おやおや。……。数十年前に診捨てたはずの『絶望』が、……これほどまでに醜く肥大化して戻ってくるとは。……。さあ、ミナ。……これが、私の過去における、最後の外科手術になりますよ)」


21時、本日最終。因果の外科往診。

聖鍼師、ついに「自身が診捨てた闇」と決着をつけます。どうぞお見逃しなく。

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