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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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315/355

第315話:鏡像の終焉、理想の自分という名の「最強の病」を無の境地で解体せよ

教皇という名の巨神が崩れ去った王都の広場には、美しい翡翠のオーロラが降り注いでいました。しかし、平穏は束の間。教皇が蒐集していたくるるの「失われた両腕」と「封じられた声」、そしてかつての全盛期の「記憶」が、残された膨大な魔力と結合し、ひとつの異形にして完璧な個体へと再構成を始めました。


そこに現れたのは、腕があり、声があり、若々しい活気に満ちた、かつての自分自身。

鏡合わせの自分を前にして、両腕のない現在の枢は、初めて慈愛の奥に鋭い「外科医」の眼光を宿しました。声なき喉から発せられる意志は、もはや世界を定義する神の法へと進化しています。


「(……。おやおや。私の抜け殻が、ようやく私に『診てほしい』と、そう泣き喚いているようですね。いいでしょう。自らの過去を治療し、自らの理想を解体することこそ、鍼灸師にとっての生涯最後の課題ですから。……。さあ、私という名の病を、今ここで完治させて差し上げましょう)」


枢は静かに、ミナの手のひらに自身の「虚無」を預けます。

「理想の自分」という最強の敵を、今の「無」で超えるための、因果を超越した最終往診が始まります。


21時、本日最終。鏡像の外科往診。

聖鍼師・枢、ついに「自分という名の過去」を診ます。どうぞ最後までお読みください。

 王都の広場に降り注ぐ翡翠の光は、祝祭の灯火ではなく、新たな「試練」の幕開けを告げる燐光であった。

 崩れ去った教皇の残滓が、歪な脈動を繰り返しながら一箇所に集まり、くるるがこれまでの旅で失ってきた「すべて」を触媒として、一人の男の形を成していく。


 そこに立っていたのは、数年前、まだ両腕があり、縦横無尽に鍼を振るい、その一喝で病魔を退けていた「全盛期の枢」そのものであった。

 黄金の輝きを放つ両腕と、万人の魂を震わせる美しい声。それを持つ「理想の自分」が、今の、腕もなく声もない「抜け殻の自分」を、冷酷な嘲笑で見下ろしている。


 『見ヨ、不完全ナル本体ヨ。私コソガ貴様ガ望ンダ、救済者ノ完成形ダ。貴様ガ捨テタ腕、貴様ガ失ッタ声、私ナラバ全テヲ救イ、全テヲ支配デキル!!』

 広場に響き渡る声は、かつての枢そのものの美声でありながら、その中身には一切の慈愛がなく、ただ肥大化した自己愛のみが渦巻いていた。


 だが、ミナの細い肩に支えられた現在の枢は、その眩いばかりの「自分自身」を見つめ、静かに、しかし深い憐れみを湛えた微笑を浮かべた。

 彼は声を失った代わりに、世界の「音色」そのものを読み取る術を。両腕を失った代わりに、万物の「経緯」そのものを操作する術を手に入れていた。


 「(……。なるほど。あなたは、私がかつて抱えていた『未練』そのものですね。……。腕があればもっと救えた、声があればもっと伝えられた。そんな古びた後悔を、教皇の魔力がかき集めて形にしたに過ぎない。……。ですが、残念ながら今の私にとって、その腕もその声も、ただのノイズにしか聞こえませんよ)」


 枢の意志は、ミナの脳内で圧倒的な情報の質量となって展開された。

 彼はミナの指先を通じて、自身の全存在を「一本の目に見えぬ鍼」へと変換し、理想の自分が誇示する「黄金の経絡」の脆さを冷静に分析していく。


 理想の自分が、黄金の両腕から数万の光鍼を放った。

 それはかつて枢が、一国の疫病を沈めた伝説の技『翠天の雨』。かつての自分が行使した最強の救済術が、今は最大の破壊術として枢自身を襲う。


 しかし、枢は一歩も引かない。

 彼はミナの体内にある、精神と肉体の統合を司る**『神門しんもん』に、自身の「無」の境地を共鳴させた。


 ――スゥッ……。


 放たれた数万の光鍼が、枢に触れる寸前、霧のように消え去った。

 枢の「無」が、攻撃の意志そのものを「存在しなかったこと」へと書き換えたのだ。力があるゆえに力の限界に縛られる理想の自分に対し、力を持たぬがゆえに無限の無を行使できる現在の枢。その格の違いは、もはや残酷なまでに明白であった。


 「(ミナ。狙うのは、あの男の『声の根源』。喉にある『廉泉れんせん』**です。……。そこを突けば、あの男を繋ぎ止めている虚飾の言葉はすべて霧散する。……。さあ、私という名の『過去の執着』を、今ここで優しく葬ってあげなさい)」


 枢の意志がミナの指先を導き、放たれた透明な一鍼は、理想の自分が叫ぼうとした「最強の言霊」をその発生源で完全に封殺し、喉のツボを正確に貫いた。


 ――ビキィィィィィィィィンッ!!


 「ガ、……。……。声ガ、……。腕ガ、……。消エ……テ……イク……!!」


 理想の自分という名の病。それは、現在の枢が「無」を手に入れた瞬間に、すでに治療されるべき宿命にあった。

 枢は、崩れ去りながら自分を見つめる「かつての自分」に、慈愛に満ちた最後の一言(意志)を投げかけた。


 「(……。お疲れ様でした。若き日の私。……。あなたは十分に戦った。……。だからもう、救えなかった人々の幽霊を背負うのはおやめなさい。……。これからは、私の沈黙の中で、共に安らかに眠りましょう)」


 第315話。

 聖鍼師・枢は、自分自身の理想像という名の最強の病を、今の「無」という真理で完治させた。

 黄金の腕は消え、美声は沈黙へと還り、王都には再び本当の夜が訪れる。

 枢の往診は、自分自身という最大の壁を超え、もはや誰にも辿り着けない高みへと、その第一歩を踏み出した。

本日、水曜日21:00、本日最後の更新を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第四章・第76話(通算第315話)。

教皇を倒した後に現れた、くるる先生の「全盛期の写し身」との戦い。これは、枢先生が自らの過去と、失ったものへの未練を完全に断ち切るための、避けては通れない「自分自身の外科手術」でした。

腕があり、声がある全盛期の自分を、あえて「無」で圧倒する。この描写を通じて、枢先生が辿り着いた境地が、単なる強さではなく、存在そのものの昇華であることを表現しました。


今回、鏡像の自分を解体し、過去の呪縛を断つために枢が駆使した術式を解説します。

まず、精神を「無」へと回帰させ、外的なあらゆる干渉を無効化するための起点とした**『神門しんもん』。手首にあるこのツボに対し、枢は自身の翡翠の気を「静寂」の波動に変えて流し込むことで、理想の自分が放つ最強の攻撃を、概念ごと消失させました。


そして、理想の自分を繋ぎ止めていた「執着の言葉」の根源を封じ、存在を内側から崩壊させるためのアンカーとした『廉泉れんせん』。喉にあるこのツボを射抜くことで、枢は過去の自分という名の「病理」を物理的な次元から切り離し、純粋な記憶へと還したのです。

最後に、自分自身の全霊を再構成し、ミナとの絆をより強固な魂の結合へと高めるための最終回路とした『気海きかい』。この往診を経て、枢先生とミナの関係は、師弟を超えた「一つの生命」としての完成へと近づきました。


次回の第316話(第四章 第77話)は、明日木曜日【08:00】**に更新予定です。


自分自身を乗り越えた枢先生。しかし、王都の地下深く、教皇すらも恐れた「真の創始者」が、枢先生の「無」に呼応するように目覚めを告げます。

新章突入。王都の地下に眠る、最古の鍼灸師との対峙。

「(……。なるほど。私の往診を、まだ受けたいという患者が残っていましたか。……。いいでしょう。夜明けと共に、最古の病を診に行くとしましょうか)」


朝の往診。始祖の外科往診。

聖鍼師・枢、ついに「世界の成り立ち」を診ます。どうぞお見逃しなく。

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