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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼】

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303/362

第303話:慟哭の右腕、救済を忘れた「半身の亡霊」を翡翠の涙で解体する

月明かりさえも翡翠色に染まる夜。くるるの庵へと続く道に、おぞましい「足音」が響きました。それは、かつて世界を救い、今日その役割を終えて切り離されたはずの、あの「右腕」でした。


第四章:忘却の聖者と翡翠の巡礼、第64話(通算第303話)。


第四章、本日最終話。

アルキメスの血を手に戻ったミナの前に立ちふさがったのは、巨大な翡翠の魔物と化した、枢の右腕。それは本体から切り離されたことで「救済のブレーキ」を失い、ただ周囲の気を喰らい尽くす暴食の怪物へと成り果てていました。

「……ミナ。……その少年を……、……私の中へ。……。……そうすれば、……私は……『完璧な神』になれる……」

祖父の声で囁く怪物。ミナは震える手で、アルキメスの血が入った小瓶を抱きしめ、最後の一揃いの鍼を構えます。


「……。おじいちゃんは、……そんなこと言わない。……。……おじいちゃんの右腕が、……あんなに優しかった右腕が、……。……こんなに悲しい声を出すはずがない!! ……。……私が、……今ここで、……あなたを『正しく』終わらせてあげる!!」


21時、本日最終。因果の清算、慟哭の外科往診。

聖鍼師・ミナ、愛する祖父の「影」を、その手で看取る。どうぞ最後までお読みください。

 夜のとばりを下ろした王都に、かつてないほど巨大な翡翠の気が渦を巻いた。

 庵の門前に横たわるくるるへと迫るのは、自身の肉体から解き放たれ、数千、数万の「未完成の鍼」が毛状に生い茂った、異形の右腕だった。

 

「……。なるほど、……。私が救済のために使いすぎた『結晶の力』は、……本体というたがを失った瞬間に、……ただの肥大化したエゴへと成り下がりましたか。……。皮肉なものです、……。……自らの半身が、……最大の医療過誤モンスターになるとは」

 

 倒れ伏す枢の声は、自らの業を静かに受け入れ、流暢に、そして限りなく悲しく響いた。

 ミナは、枢と怪物の間に割って入り、自身の翡翠の気を「拒絶の炎」へと激化させる。

 

「……。来ないで!! ……。……あなたの指先には、……おじいちゃんが大切にしていた『温もり』が、……一つも残っていない!! ……。……そんなの、……おじいちゃんの腕じゃない!! ……。……ただの、……悲しいだけの……『ゴミ』だよ!!」

 

 ミナは、自身の左指で、怪物の放つ「偽りの救済波」を中和するための**『外関がいかん』**を、自身の自身の翡翠の気を「真実を映す鏡」に変えて一気に刺激した。

 

 彼女の心眼には、異形の腕の芯に、枢が切り捨てた際の「自分だけが取り残された」という、右腕としての孤独な意識が、黒い核となって疼いているのが見えていた。

 

 ミナは、自身の全身を、この悲しい亡霊を優しく「ほどく」ための、因果解体鍼へと変容させた。

 それは力でねじ伏せるのではなく、その孤独を癒して還す、聖鍼師・ミナの鎮魂鍼――『翠憐葬診エメラルド・レクイエム』。

 

「……。ごめんね、……。……おじいちゃんをずっと守ってくれて、……ありがとう。……。……でも、……もういいんだよ。……。……これからは、……私が、……おじいちゃんの右腕になるから……!!」

 

 ミナは、自身の全神経を、自身の額にある**『印堂いんどう』**へと、自身の完全に統合された「言霊の演算」を、怪物の肥大化したエネルギーを「無」へと回帰させるための、消失フィルターへと直結させた。

 

 一本目の、そして「執着」を断つ翡翠の鍼。

 ミナはそれを、自身の掌から放たれる「慈愛の涙」と共に放ち、異形の腕の肘にある気の集積点、**『曲池きょくち』**へと、自身の自身の翡翠の気を「安らかな眠り」に変えて一斉に叩き込んだ。

 

 ――カァァァァァァァァァッ!!

 

「……、……ア、……アァァ……。……ミ……ナ……。……。……私ハ……、……痛イ……。……。……寂シイ……。……。……」

 

 枢の声で泣く怪物。しかし、ミナの鍼は容赦なく、その異形の形態を維持するための記述を一本ずつ、丁寧に解いていく。

 

 ミナは、自身の視線を、震える怪物の「指先」へと向けた。

 

 二本目の鍼を、暴走する救済欲の「結節点」へと、ミナは自身の脳を、これまで枢の右腕に撫でられてきた「数え切れないほどの幸福」を質量として使い、呪縛を熱量で溶かすために、魂の全力で投擲した。

 

 ――ドォォォォォォォンッ!!

 

「……、……ぐっ、……!! ……。……ミナ、……。……それで、……いい。……。……その鍼の重みこそが、……私があなたに伝えたかった……、……最後の『処方箋』です……」

 

 枢の言葉。ミナの翡翠の腕が、限界を超えて明滅する。

 自分のルーツとも言える「半身」を殺すことによる、存在への凄まじい反動。

 しかし、その激痛と引き換えに、異形の腕を覆っていた無数の鍼は、浄化の光に包まれ、美しい「翡翠の羽」となって、夜空へと舞い上がっていく。

 

「逃げはしません。……。たとえ、……これが、……大好きなおじいちゃんを傷つけることになったとしても!! ……。……私は、……一人の聖鍼師として、……目の前の『悲しみ』を放っておけないから!!」

 

 三本目の最終鍼。右腕の残滓を枢の肉体へと「記憶」として再統合し、力としての存在を完全に終わらせるための、帰神鍼。

 

 ミナは、自身の自身の全生命を「感謝の記述」へと叩き込むために、自身の左手の指先で、怪物の手の甲にある**『合谷ごうこく』**を、魂の底からの叫びと共に貫いた。

 

 ――キィィィィィィィィンッ!!

 

 庵を包んでいた翡翠の嵐が止み、そこにはただ、塵となって消えていく右腕の残像と、その光を浴びて、右肩の傷が塞がっていく枢、そして力尽きて膝を突くミナがいた。

 ミナは、一人の聖鍼師として、自らの師であり祖父である男の「最大の影」を往診し、自らの手で過去を看取ることで、真の継承を成し遂げたのだ。

 

 次の瞬間。

 

 枢は、残された左手でミナの肩を抱き寄せ、静寂に包まれた王都の夜空を見上げながら、かつてないほど誇らしく、流暢な声で告げた。

 

「……。お見事でした、ミナ。……。……今日、……この瞬間。……。……あなたは私を超え、……真の『聖鍼師』となりました。……。……さあ、……夜明けは、すぐそこです」

 

 第303話。

 聖鍼師・ミナは、暴走した枢の「右腕」を、慈愛に満ちた解体往診で看取り、その力を「記憶」へと昇華させることで、一つの時代の終焉と、新しい救済の始まりを、ここに刻んだ。

 

 深夜の静寂。

 ミナと枢、二人の鍼灸師の影は、寄り添うように重なり合い、翡翠の月明かりの下で、どこまでも長く、そして強く伸びていた。

本日、日曜日・全6回の過酷な更新を、最後まで見守っていただき、本当に、本当にありがとうございました!!


第四章の第64話(通算第303話)。

ついに、くるるの象徴であった「翡翠の右腕」との決別、そしてミナへの完全な世代交代を描き切りました。

自らの半身が怪物となり、それを孫娘が看取るという、悲しくも美しい幕引き。枢が守り抜いた「救済」という意思が、形を変えてミナの中に宿った瞬間。本日最後を飾るにふさわしい、魂の外科往診となったでしょうか。


今回、暴走する巨大なエネルギー体を解体し、安らかな眠りへと導くためにミナが駆使した「鎮魂・鍼灸術」を解説します。

まず、相手の放つ圧倒的な威圧(邪気)を中和し、その内側に潜む「孤独な意識」へと干渉するための起点とした**『外関がいかん』**。手首にあるこのツボを自身の翡翠の気で刺激することで、ミナは怪物の外殻を無力化し、対話の余地を作り出しました。


そして、腕全体の気の流れが最も滞り、暴走の熱源となっている箇所を捉えて冷却・減衰させるためのアンカーとした**『曲池きょくち』。肘の屈曲部にあるこのツボに対し、ミナは翡翠の気を「安らかな眠り」として打ち込むことで、異形の形態を維持するための記述を根底からほどいたのです。

最後に、散り散りになった右腕の残滓を、枢の肉体へと「愛しき記憶」として還元し、因果の連鎖を完結させるための最終回路とした『合谷ごうこく』**。手の甲にあるこのツボを介して、ミナは自身の生命力を「感謝」として叩き込み、かつて世界を救った最強の腕を、翡翠の羽という祝福の形へと新生させたのでした。


次回の第304話(第四章 第65話)は、明日月曜日**【08:00】**に更新予定です。


右腕を失った枢と、真の聖鍼師となったミナ。

平和が戻ったはずの王都に、今度は「東の国」から、枢の命を狙う謎の女刺客が現れます。

彼女の目的は、枢がかつて封印した「呪われた鍼箱」。

「……おじいちゃん。……。……今度は、私が……。……あなたの過去を、全部守ってみせるから」


月曜日の朝、08:00。新章開幕、追憶の外科往診。

聖鍼師・ミナ、東からの刺客を診ます。どうぞお見逃しなく!

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