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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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81.魔法使いと天候制御装置(4/5)

 いよいよ天候制御装置の中に入ることになった。


 さっきは閉ざされていた入り口が開け放たれ、代わりに門番が立っている。

 門番の方々に学生証を見せて中に入った。


 中はひんやりしていて、真っ暗――と思ったら、青い光がゆっくりと灯っていく。

 周りがうっすら見えるくらい明るくなったと思ったら、また暗くなっていった。


 まるで呼吸をするようにゆっくりと明滅を繰り返す様子は、なんだか幻想的だ。

 周囲にも(・)や(・)がかかっているのも相まって、夢の中にいるみたい。


「よし、それじゃあ順番についてきてくれ」


 入って右手側にある螺旋階段へとミチル先生が先導する。


 螺旋階段を上っていくみんなの背中を見送ったあと、私とツバキ先輩はシロウ様を追って左手に進み、突き当たりの扉を抜けると――行き止まりだった。


 突き当たりの壁には、大小さまざまな魔法陣が不規則に描かれていた。


「隠し扉でしょうか?」

「そうみたいだね。ツバキ君、この隠し扉を開く仕組みは分かる?」


 ツバキ先輩はじっと壁を見た。


「ええ。おそらくこの、一組だけ同じ魔法陣が鍵ではないかと」

「それじゃあ開けてくれる?」

「はい!」


 ツバキ先輩は迷わず二つの魔法陣に触れる。

 壁に描かれた魔法陣が燐光を帯び――


「くっ……!」


 苦しそうな声を漏らしたツバキ先輩は、膝から崩れ落ちた。


「ツバキ先輩!?」


 私は咄嗟にツバキ先輩の身体を受け止め、膝の上に寝かせた。


 ツバキ先輩の額に大粒の汗が浮かんでいる。

 少し呼吸が荒い。

 瞼はぴったりと閉じていて、長い睫毛が下を向いて動かない。


 どうしよう!?


 ツバキ先輩を止めなかった自分が憎い。

 さっきの魔法陣、なんとなく嫌な予感がしていたのに!


 焦る私の隣にシロウ様がしゃがみ込んできて、優しく微笑んだ。


「大丈夫、魔力疲労で寝ているだけだよ。侵入者を阻むために、大量の魔力を吸い取る仕掛けになっていてね。ツバキ君が眠ってしまうのは想定内だよ」


 そう言って、シロウ様はツバキ先輩を肩に担いだ。


 荒々しい動作だったにもかかわらず、ツバキ先輩が目を覚ます様子はない。

 全身の力が抜けきって、まるで物干し竿に干された布団のよう。


「無事なら良かったです……けれど、先に教えておいてほしかったです」


 私が非難の目を向けると、シロウ様は悪戯っぽく笑った。


「あはは、倒れると分かっていたら、ツバキ君、やってくれなかっただろうからねえ」

「もう、あとでちゃんとツバキ先輩に謝ってくださいよ!」

「うん、そうだねえ。……それより、ほら、道が開いた」


 前を向くと、ツバキ先輩が触れた壁が消えていた。

 暗闇の奥から、すーっとも(・)や(・)が流れてくる。


 このも(・)や(・)は、魔力だ。

 とても濃い魔力。


 足がすくんで、しゃがんだまま動けない。


 魔力の源流はもっと奥にい(・)る(・)。


「シヅさんはもう気付いていると思うけど、天候制御装置には、動力源として『部品』が囚われている」

「……やっぱりそうなんですね」


 なんとなく分かっていた。

 朱雀領に入ったとき、強い魔力に呼ばれたような感じがしたのだ。


 ――これまでに見た青龍や六合の遺物からも大きな魔力は感じたけれど、朱雀領の魔力とは明らかに違っていた。


 青龍や六合の魔力は、例えるなら天の川。

 小さな星がたくさん寄り集まって大河を形作っていたかのようだった。


 でも、ここ朱雀の魔力は、強い一つの魔力。

 まるで太陽のように燦々と唯一無二の存在感を放っている。


「ここでツバキ君と一緒に待ってる?」


 私はすぐさま首を振る。


「いいえ。私も知っておきたいので」


 ご隠居様は言っていた。


 ――「拘禁の上、血を搾取され続ける。その血が、装置の動力源となる」


 その意味は分かっていても、一体どういう状態なのか、それは私には全く想像できなかった。


 だから見なければ、知っておかなければ。


 そんな使命感に駆られていた。


「そう、それなら行こうか」


 シロウ様は壁際にツバキ先輩を下ろすと、私に手を差し伸べた。


 そのひんやりとした手を掴んで私は立ち上がり、手を引かれるまま、隠し通路の奥へと踏み出す。


 あったのは鉄製の扉だけ。


 塔の中心――大柱の内部へと続いている。


「開けるよ」


 ぎぎ、とぎこちない音がして、わっとも(・)や(・)が溢れてきた。


 隙間から仄青い光が漏れてきて、眩しくて目を眇める。


 ぴちゃん、と音がした。

 水の滴る音だ。


 ぴちゃん。ぴちゃん。

 等間隔に水音が響く。


 光に慣れ、目を開けると――


「これが、『部品』……?」


 まるで胎児のよう。


 液体の満ちる筒状の水槽の中に、頭を下にして、背を丸めて膝を抱えている。


 浅黒い肌に、真っ黒な髪。

 瞼は半分ほど開かれ、青みを帯びた虹彩が見える。

 けれどその目は虚ろで、何も映していないようだった。


 一糸まとわぬ男性の腹部から、へその緒のように管が伸びていて、管の先は水槽の天辺に繋がり、そこからたくさんの細い管が天井に向かって伸びていた。


 私は言葉を失った。

 こんな――生きているのに生きていないような状態で囚われているなんて、想像もしていなかった。


 ふと、ツバキ先輩が眠っていて良かった、と思った。

 なんの覚悟もなしにこれを見たら、ツバキ先輩は卒倒したと思う。


「そう、『部品』となった純血の魔法使いだよ」

「純血、の……?」


 紅国では絶滅したはずの純血の魔法使いが、ここにいる。

 こんな形で。


「もしかして、『部品』ってみんな、純血の魔法使いなんですか?」

「そうみたいだね。……といっても、私も天候制御装置(ここ)と魔物制御装置しか見たことはないけど」


 思い返せば、ユヅキの肌の色も濃かった。

 あれは日焼けじゃなかったんだ。


次話投稿は 2026/10/2 21:00 です。

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