67.魔法使いと新学期(1/2)
今日から新学期だ。
久しぶりに一年魔法特科の教室に入ると、トウマ君とハクト君の姿があった。
「おはよう」とみんなで挨拶をして、それから、一番の変化に驚いて口からついて出た。
「トウマ君、焼けたね!」
トウマ君の肌が日に焼けてこんがり小麦色になっていた。
「どこか行ったの?」
マリカがすかさずトウマ君に尋ねた。
「ああ、まあ。魔物討伐を手伝ってた」
「魔物討伐!?」
「……の、手伝い。討伐まではできなかった」
そう言うトウマ君は、しゅんとして、わずかに悔しそうに見えた。
「お手伝いでもすごいよ!」
私は思わず声を上げた。
夏休みのあいだに魔物討伐の現場を肌で感じたからこそ、トウマ君のすごさが分かる。
「こんなに焼けるほど魔物討伐を手伝ったんでしょ。すごいと思うけど」
マリカもそう言った。
「そう、かな」
トウマ君は目を伏せ、照れくさそうに首の後ろを掻く。
それを見たハクト君が一度ニヤリと口角を上げたかと思うと、人差し指でトウマ君の頬をつんとつついた。
「小麦色の肌も似合ってるよ。ねー、シヅちゃん?」
「うん! 焼けてるの、格好いいよ」
本心だった。
だって、トウマ君が頑張った勲章なのだ。
格好よくないわけがない。
それに、ご隠居様と――強い魔法使いと同じでいいなあって思う。
もちろん、ご隠居様の浅黒い肌はもっと濃く、深くて、異質な感じはするけれど。
でもトウマ君は、口を一文字に引き結び、「ん」とだけ言い残して教室の外へ行ってしまった。
あんまり急だったので、私は呆気に取られて、引き留めることも出来なかった。
「……失礼なこと言っちゃったかな」
『格好いい』より『強そう』のほうが良かったかな……。
落ち込んでいると、ハクト君が軽く言った。
「いやいや、あれは照れてるだけでしょ」
「そうなの?」
ハクト君の言うことだから、本当にそうかは分からない。
ただ、不快にさせてなければいいなあと思った。
※ ※ ※
今日は夏休み明け初日ということで、全校生徒は運動場に集められ、始業式が行われた。
魔法士官学校は、敷地全体に温度や湿度を一定にする魔法がかけられ、さらに運動場は魔法で大きな天蓋で覆われている。
それでも、全校生徒が一ヶ所に集められると、汗ばむほどの熱気を感じた。
夏休みが終わったとはいえ、まだまだ残暑は厳しそうだ。
そんな中、校長先生が壇上に上がった。
外套に身を包み、くるぶし丈のスカートという出で立ちながら、涼しい顔で優雅な一礼を披露した。
そして校長先生は、まるで生徒一人一人の顔を確認するかのように運動場全体を見回し、微笑んだ。
なんだか私に微笑んでくださったみたいに思えて、ドキリとする。
校長先生は拡声魔法を発動してから、紅色の唇をゆっくりと開いた。
「まずは、皆の無事が確認できて喜ばしく思います。『魔狩り』も魔物も不審な動きをしている昨今の状況、せっかくのお休みも気が休まらなかったことでしょう」
優しい声。
居住まいも上品で凛々しい。
こうして遠くに校長先生を眺めていると、以前お話したときとは別人のように感じる……。
「さて、既に関係者には通達されていると思いますが、この度、大規模な人事異動を行いました。長らく教職を務めた教師陣は現場に赴きました。その知見を活かし、魔物や『魔狩り』の対策に大きく貢献してくれるでしょう」
そう言われて初めて気付いた。
視線だけで先生方の姿を探る。
魔法士官学校の先生たちは、魔法士官を経験した年配の方が多かった。
いわゆる退役軍人みたいな方々だ。
だから職員室に行くと、独特の空気感があった。
父が執務室で見せる、重苦しいような、息苦しいような、……凄味? みたいなものが漂っていて近寄り辛かった。
そういう先生たちがいなくなっている。
一年魔法特科は特に連絡をもらっていないから、ミチル先生のままなんだろう。
そこは安心した。
「それに代わり、現場より魔法士官学校の卒業生を呼び戻し、教職員の数を増やしました。生徒の皆さんとは歳が近いでしょうから、今まで以上に気楽に教えを乞うとよいでしょう」
私はもう一度、周囲を探る。
その増えたはずの教職員が見当たらない。
「では、新しい教師陣をご紹介しましょう」
校長先生はその呼び声と共に、転移魔法を発動した。
パッと新任の先生方が現れ、ずらりと並んだその中に――やけにキラキラしいオーラを見つけた。
知ってる。
間違えるはずがない。
兄だ、兄がいる。
え、本当に?
でもこんな馬鹿みたいに目立つ魔法使い、兄しかいない。
うわ、こっち見た。
しかもにんまり笑ってる。
悪戯が成功したときの、いつもの顔だ……!
前を見たまま後ずさり、そこにいたマリカに小さな声で尋ねる。
「……マリカ、知ってた?」
「……いいえ、私も知らなかったわ」
マリカの声も震えていた。
そういえば、あのとき兄は言っていた。
――「シロウさんの指示で配置転換があって、それで首都に来たんだよ」
配置転換って、魔法士官学校の教職に就くことだったんだ。
そして、あのときそんなこと一言も言わなかったのは、この瞬間、私たちを驚かせるためだけに黙っていたのだ。
「本っ当に子どもみたいなことするんだから……!」
呆れを通り越し怒りが込み上げてきて、口から恨み言のような呟きが漏れた。
私たちのクラスを受け持ったらどうしよう、と思っていたけれど、発表された受け持ちは全然違う学科と学年で、それは安心した。
けれど、兄と校内で顔を合わせる可能性があるだなんて、嫌な予感しかしない……!
次話投稿は 2026/8/18 21:00 です。




