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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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58.魔法使いと鎮静化(1/3)

 結局私は、蔵書庫で眷属の鎮静化に繋がるような情報を得ることはできなかった。

 目を覚ましたシロウ様と一緒に騰蛇城に戻ってきたのが、昨夜の話。


 今日もまた、私とシロウ様は騰蛇城の執務室にやってきた。


 シロウ様が眠っているあいだに得た情報を共有するためだ。


 魔物制御装置の仕様と、騰蛇城を脅かしているのはユヅキの眷属であること、ユヅキが眷属に騰蛇城を攻撃するよう命令していること。

 そしてその対処法として、命令を書き換えろと言われたこと。


 シロウ様は難しそうな顔をして聞いていた。


 やっぱり、シロウ様にも見当がつかないのかな。


「そういえば、ご隠居様は『私に期待してる』なんて仰っていたのですが……」

「シヅさんに?」


 私は控えめに頷いた。

 シロウ様が驚いているように、私だってまだ飲み込めていない。


 でも、あのときのご隠居様はなぜか自信満々だった。

 まるで正解が分かっているかのように。

 烏滸がましいと分かっていても、伝えないわけにはいかない。


「シヅさんの特性、ってことかな?」

「でも、私の特性って『魔法陣の効果を反転する』だけなんです。強くないし、お役に立てるとは、とても思えなくて……」


 そう、私の特性は、強くもなんともない特性なのだ。

 ご隠居様の尋問魔法みたいに、強い特性だったらよかったのになあ。

 つい俯いてしまう。


「単体で強い特性って、あんまりないからねえ」

「そういうものなんですね」


 顔を上げると、シロウ様がいつもの黄金色の眼差しで私を優しく見つめていた。


 私の特性が特別使えないわけではないのかも、と思うと、ちょっとホッとする。


「それに、『魔法陣の効果を反転する』って面白いと思うけど……。試してみてもいい?」

「はい、もちろんです」


 シロウ様が執務机の中に仕舞っていた魔法石を取り出し、手のひら大の魔法陣をさらりと描く。


「シヅさん、この魔法陣、見えているよね?」

「はい!」


 少し複雑だけれど、雫の模様があるから、なんとなく水に関係する魔法陣なんだと思う。


「これは『規定量の水を、規定時間出し続ける』魔法陣だよ」


 その魔法陣の下に手頃な茶杯を置いてから、シロウ様が魔力を流した。

 仄かに光を帯びた魔法陣から、ぽたん、ぽたん、と等間隔に水が滴る。

 水滴が落ちるたびに魔法陣の光が徐々に弱くなっていく。


「それじゃあシヅさん、この魔法陣に魔力を流してくれる?」


 シロウ様から魔法石が手渡される。


 私はいつも魔法を使うときのように、魔法石から魔力を取り出した。


 これまであんまり意識していなかったけれど、魔法石の魔力に私の魔力が混じり合っている。

 私の魔力が針金のような役割をしていて、そこに魔法石の魔力が寄り添ってくれている。


 こうやって魔力に対する解像度が上がったのも、ご隠居様に血を飲まれたお陰なのかな?


 私は魔力を魔法陣に近付けた。

 魔力の先端が、ちょん、と魔法陣に触れた途端、まるで足をすくわれたように流れに巻き込まれていってしまう。


 それまで輝いていた魔法陣が、一度光を失い、魔力が魔法陣をぐるりと一周すると、また光り出す。


 すると、茶杯に溜まっていた水が一粒だけ浮き上がり、魔法陣に吸い込まれる。

 代わりに何かが落ちてきて、茶杯に波紋を作った。

 虫の糞みたいな、もとい、目を凝らさないと見えないくらい小さくて真っ黒なそれは、魔法石だ。


 ――しまった!


 私の特性で魔法石が生成できることは、校長先生に口止めされているんだった!


「なるほど」


 シロウ様はそう呟いて、手を頬に添え、なにやら考え始めた。


 ……魔法石を生み出したのに、シロウ様ったら全然驚いてくれない。


 考え事をしているせいで、事の大きさに気付いていないのかも。

 きっとそうだ。

 だったら、今は素知らぬ顔をしておこう……。


「そうだ」


 そう言うや否や、シロウ様はまた執務机の中から何かを持ってきた。


 真っ黒で、どんぐりくらいの大きさの魔法石。

 シロウ様は片手でそれを包み込むと、一息に魔力を浴びせる。


 そうして机の上に置かれた魔法石は、内側に魔法陣が刻み込まれていた。


「これって、護石ですか?」

「うん、そうだよ」


 護石――持っているだけで様々な魔法の恩恵がある魔法石の加工品。


 クラス対抗戦で先輩方が持っていたけれど、こんなに間近で見たのは初めてだ。


 というかシロウ様、今すんなり護石を作ったような。


「さあ、護石全体をシヅさんの魔力で包んでごらん」


 助言通り、机の上の護石を魔力で包み込んでみた。

 すると、石に水が染みこむように、護石の中に私の魔力がじんわりと広がっていく。


 魔力が魔法陣にまで到達し、そのまま吸い寄せられて、ぐるりと一周した。


 でも、魔法陣にも護石そのものにも、変化はなさそうに見える。


「シヅさん、触ってごらん」


 シロウ様に促されるままに指で触れると――


「冷たっ!」


 叫び声とともに指先を引っ込めた。それほどまでにキンキンに冷えていたのだ。


「この護石には、護石自身が熱くなるよう魔法陣を刻んだんだ。でも、冷たくなった。シヅさんの特性は、護石にも有効なんだね」

「そうだったんですね……」


 知らなかった……。

 私の特性なのに。


「そういえば、魔力測定装置も誤作動したんだったっけ? 魔装置にも魔法陣が使われているから、納得だね」

「……どうしてご存じなんですか?」

「ハクト君から聞いたよ」


 入学してすぐのことを覚えているなんて、その目敏さはハクト君らしいなあ。


 でも、おかげで私の特性のことがまた一つ分かった。


 私の特性は、魔法陣だったら何でも干渉するんだ。

 魔法でも、魔装置でも、護石でも。


「シヅさんの特性、面白いねえ……」


 このシロウ様の高揚した口ぶりからすると、やっぱり珍しいのかな?

 こんなにはしゃいでいるシロウ様、初めて見たかも。


「ねえ、シヅさん。このあともう一つ検証したいんだけど、いい?」

「はい!」


 不思議なもので、魔法に関するあらゆることを解明したくなるのは魔法使いの性みたい。


 シロウ様に負けず劣らず、私も、うずうずとわくわくが込み上げてくる。

 次の検証が楽しみ!


次話投稿は 2026/7/19 21:00 です。

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