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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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35/36

35.魔法使いと帰省(1/4)

 魔法士官学校では終業式が行われた。


 夏季休暇の過ごし方は、みんな様々だ。


 ミチル先生とトウマ君は魔法士官学校に残るらしい。

 ハクト君は実家へと旅立った。

「シヅちゃんたちも帰省するんだよね? 気を付けてね! お土産は美味しいもの、よろしくねー!」と去り際に言い残して。


 夏季休暇初日の昼過ぎ、私とマリカは馬車で春花州へ向かっていた。


「私、春花州に行くのは初めて。シヅは?」

「私も! 楽しみだね!」


 最終目標はもちろん、私の実家、冬雪州白陰領。

 でも冬雪州と首都は隣接していないから、春花州を経由することになった。


「治安が良く、もしものときにも安全を確保できるよう、私や御者の地理に明るい春花州を縦断しようと考えているのですが、よろしいでしょうか?」


 私もマリカも、もちろん了承した。

 私たちの安全を第一に考えてくださっているのに、拒否する理由はない。


 この馬車もツバキ先輩が手配してくださった。

 小型ながら揺れが少なく、座面が柔らかくて、ずっと座っていても全然お尻が痛くならない。


 マリカはしきりに感心していた。


「さすがは侯爵家の馬車ねえ」


 私も最初に馬車に乗せていただいたとき、こんな感じだった。

 きょろきょろとあちこち見回しては、目につく意匠や機能性に感動を覚えていた。


 さすがに何度か乗せていただくうちに慣れてきたので、今はマリカの反応を微笑ましく眺めていられる。

 そんな私の表情から、マリカは何か勘付いたのかニヤリと笑う。


「ツバキ様に大事にされているのねえ?」

「そ、そうなのかなあ……?」


 なんとなく誤魔化してしまう。

 良くしていただいている自覚はもちろんある。

 でもそれは『偽装婚約』がバレないようにするためなのだから。


「ツバキ様、素敵な方よねえ」

「う、うん……」


 何か疑われてる!?

 もしかして『偽装婚約』だって気付かれた!?


 冷や汗が背中を伝う。

 動揺を隠すために視線をマリカから離さないようにしていると、ふとマリカは恥ずかしそうに目を伏せた。


「お披露目会のときも、すごく救われたわ。ありがとう」


 マリカの照れ笑いを見て、私も安堵のあまり笑みがこぼれた。

 なんだ。マリカったら、それが言いたかったんだ。


「私は何も。ツバキ先輩のお人柄のお陰だね」


 移り行く景色を眺めながら、マリカと取り留めもない話に花を咲かせているうちに、馬車が止まった。


 窓から外を覗くと、高く積み上げられた石壁が遠くまで伸びているのが見えた。

 春花の関所だ。

 馬車の扉をノックする音に続き、ツバキ先輩の声が聞こえてくる。


「到着いたしました」


 外から扉が開けられたその瞬間、すーっと涼しげな風が吹き抜ける。

 首都のむっとした熱気とは明らかに違っていた。


 これが春花の空気なんだ……!


 この清涼な空気とは裏腹に、心の中では弾けるようなわくわく感が込み上げてきた。


 でも、どうしてこんなに空気が違うんだろう?


 そう思いながら、地に降り立ち気付く。

 石じゃない。土だ。

 関所を境に石畳と土の道がくっきりと分かれている。


 それにしたってこんなに涼しくなるものなのかな?

 不思議だなあ。


 春花州の空気を感じながら食事と身支度を済ませるころには、すっかり日は落ち、空には一番星が輝いていた。


「今日、一晩お過ごしいただく馬車はこちらです」


 ツバキ先輩が示したのは、二台の大きな馬車。

 二頭立てで、魔馬(ウマ)も一回り大きい。

 一番違和感を覚えたのは車体だ。

 ずいぶんと前後に長い。


 ツバキ先輩に支えられて馬車に乗ると、まず、その造りに思わず声を上げてしまった。


「ベッドになってる……!」


 寝台馬車、とでもいうべきだろうか。

 車内が小上がりになっていて、奥にはクッションがたくさんあった。

 なるほど、車体が長かったのはこのせいだったんだ。


 私もマリカも、てっきり座面で眠るんだろうと思っていて「明日の朝には身体が痛くなっているかもね」なんて話していたのに。

 さすがは侯爵家、想像の上を行く。


 マリカと顔を合わせると、お互い目を丸くしていて、おかしくなって笑いあってしまった。


「失礼します……」


 靴を脱ぎ、遠慮がちに上がってみる。


 小上がりに敷かれた敷布団はやや硬め。

 シーツはさらさら、肌掛布団はさらっとひんやり、大小さまざまなクッションはどれももっちり。


 これが侯爵家のお布団かあ……。

 贅沢だなあ。


「どうぞお二人でごゆっくりなさってください。私はもう片方の馬車にいますから、何かあればお知らせください」


 ツバキ先輩が馬車の下からそう言うと、一礼して去って行った。

 窓から外を見ると、ツバキ先輩はほかの御者さんと会話を交わし、自身の馬車に乗り込んでいった。

 間もなく、馬車が動き出す。


「ツバキ様、指揮をとられて立派ね」

「うん……」


 こんなにも手厚く私たちを白陰へと送ってくださる。

 本当にありがたい。

 準備や人員の手配も大変だっただろうな。


 けれど本番は、今日これから。


 魔物や『魔狩り』を気にしながら、長距離の運転が必要になる。

 それに、いくら魔馬とはいえ一晩中馬車を引き続けるのは過酷だろうから、途中で馬替えもするはず。

 予定通りにいかないこともきっとあるだろう。


 そうなると、ツバキ先輩はあまり眠れないんじゃないかな?


 とはいえ、私にできることはない。

 手伝おうにも、お邪魔になる可能性のほうが高い。


 それなら、ツバキ先輩のご厚意を無駄にしないよう、きちんと休んでおくべきだ。


 私とマリカはクッションを整え横になり、心地よい揺れに身を委ねているうちに眠ってしまった。

次話投稿は 2026/5/7 21:00 です。

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