33.魔法使いとお披露目会(3/4)
マリカのお披露目会当日、私はツバキ先輩と一緒に馬車に乗って料亭に向かっていた。
「ツバキ先輩、本当にありがとうございます。服もアクセサリーも、さらにお支度まで……」
私はなんと、春花侯爵家の魔法特区邸で身支度をしていただいた。
服の微調整に、髪結い、お化粧まで。
「とんでもないことです。それが私の義務ですから」
向かいで微笑むツバキ先輩がいつもより高貴に映る。
揃いで仕立てた服はさほど格式ばったものではないのに、凛として、どこか余裕のある佇まいのせい。
私は姿勢を正し、胸を張った。
虚勢だ。堂々としていないとあまりに釣り合いが取れないと思ったから。
「ところでシヅさんは、黒陽子爵令嬢の婚約者がどなたか、ご存じなのですか?」
「いいえ、私も知りません。内緒、と言われまして」
でも、私も敢えて追及するつもりはなかった。
マリカが私にサプライズしてくれることなんて早々ない。
純粋にサプライズを楽しもうと思ったのだ。
「ただ、心当たりがないわけではなくて。それで……もしも面倒をかけることがあれば、すみません……」
私のげんなりした声にツバキ先輩が首を傾げたとき、馬車が料亭に到着した。
仲居さんに案内され個室に入る。
白と緑が調和した明るい会場で、マリカが一人待っていた。
「シヅ! いらっしゃい!」
「マリカ、今日はありがとう!」
いつもズボン姿しか見たことがなかったから、ドレス姿のマリカはとても新鮮だ。
白のワンピースはサテンなのか艶めいていて、フリルの分だけ表情豊か。
さらに緩いウェーブがかった黒髪をハーフアップにしてあって、マリカのくっきりとした目鼻立ちが際立っている。
「とっても素敵! 似合ってる!」
「ありがとう、シヅ」
マリカがはにかむと世界が華やぐかのよう。
可愛い。ずっと見ていたい。
マリカは私の後ろへと目を配ると、背筋と表情をきゅっと引き締め、深々と頭を下げた。
「本日はお越しいただきありがとうございます。黒陽子爵家長女のマリカと申します。以後、どうぞ名前でお呼びください」
「春花侯爵家三男のツバキと申します。お招き下さり光栄です、マリカ様。私のことも名前でお呼びください」
ツバキ先輩はそう言うと、華麗に礼を返した。
「ねえ、マリカ。婚約者様はどちら?」
「これから呼ぶわ。なんて言ったって、サプライズだもの!」
マリカは悪戯っぽく笑うと、軽い足取りで奥の扉に向かった。
私はごくりと固唾を吞んだ。
この向こうに、マリカの婚約者様がいるんだ。
マリカが扉の取っ手を引くと――
「シヅー!!!」
マリカの婚約者様は、腕をぶんぶんと振りながら、底抜けに明るい声で私を呼んだ。
声も姿もとても馴染みがある。というか、最近見た。
「……お兄様」
兄だった。
私と血のつながらない、いつも呑気で、顔だけは一級品の、対魔物戦線から左遷させられた疑惑のある、兄だった。
正直、驚きはない。
やっぱりな、という感想だ。
マリカはずっと兄のこと好きだったものねえ。
兄目当てでよく白陰に遊びに来てたものねえ。
兄を見つめる眼差しは恋する乙女そのものだったものねえ。
良かった良かった。
恋心が実ってめでたしめでたし。
祝福の気持ちで胸いっぱいになって視線を戻すと――、さっきまで破顔だった兄が表情を強張らせ、凍ったかのように動かない。
「あの、お兄様……?」
兄の唇が動いたと思ったら、低い声で言った。
「隣の男は誰だい? シヅ」
見えないはずの魔力がめらめらと燃え盛っているような……。
いつかの光景が頭をよぎりつつ、ハッと我に返る。
兄はなんと、ツバキ先輩に指を差していた。
失礼にもほどがある!
ツバキ先輩はぱちくりと目を瞬かせると、すぐに頭を下げた。
「大変失礼いたしました。春花侯爵家三男、ツバキと申します」
ツバキ先輩の美しい礼に、兄はバツが悪い顔をしながら礼をした。
「いえ……、白陰子爵家長男、アスカです」
頭を上げた兄はまだ怪訝な顔をしている。
「それで、どうして侯爵家が?」
そこで大きなため息を吐いたのはマリカだ。
「どうしてって、ツバキ様はシヅの婚約者なんでしょう?」
「はあ!!??」
兄は私とツバキ先輩を交互に見た。
「シヅが、婚約!?」
「えっ、アスカさん、まさか知らなかったの!?」
この口振りにピンときた。
兄は何も知らないのだ。
恐らく、私がシロウ様と『偽装婚約』したことすらも。
なんでそんなことになっているのかといえば、おそらく、兄が父からの定期連絡を無視しているか、もしくは、兄の耳に入れば大騒ぎして面倒臭いことが目に見えているから父が連絡していないか。
なんとなく後者な気がする……。
次話投稿は 2026/5/5 21:00 です。




