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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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31/36

31.魔法使いとお披露目会(1/4)

 合格祝いをした次の日。

 私が第五実習室を訪れると、ツバキ先輩は気遣わしげに言った。


「ボタン様から伺いましたが、昨日は大変でしたね。お怪我などはありませんか?」


 昨日? と首を傾げそうになって、ふと思い出す。


「そんな、ただ酔っ払いに絡まれただけですから」


 魔法警備隊から校長先生に報告が上がったのかな。

 大したことじゃないのに。

 私が笑って見せると、ツバキ先輩は表情を緩めた。


「ご無事でよかったです」

「心配してくださってありがとうございます」


 私はもう、人間なんて怖くない。

 いつでも魔法が使えるのだから。

 そしてそれは――


「免許の取得、おめでとうございます、シヅさん」


 私もちょうど免許のことを思い浮かべていたものだから、笑い声が漏れそうになった。


「ありがとうございます。ツバキ先輩にご指導いただいたお陰です」

「私は何も。シヅさんの頑張りが報われましたね」


 もちろん、ミチル先生の試験対策は完璧だったから、授業だけでも合格はできただろうなって思う。

 でも、私が自信を持って魔法を使えるようになったのは、ツバキ先輩のお陰だと思うのだ。

 魔力解析で途方もない回数の魔法を使って、できたら褒め、できなくても励ましてくださって。


 魔法実技だけではなく、筆記試験もそうだ。

 分からないところを聞いたら丁寧に教えてくださった。

 お礼を言っても「シヅさんは私の『偽装婚約(こんやく)』者なのですから当然のことです」と返されるばかり。


 いつかツバキ先輩にも恩返しができるといいな、と思う。


「今日お呼びしたのは、一つ、シヅさんにお願いがありまして」

「はい、なんでしょう?」


 改まった様子のツバキ先輩につられ、私も姿勢を正す。


「夏季休暇中に、白陰子爵にご挨拶に伺いたいと思っております」

「……え?」


 白陰子爵――父に?


「『偽装婚約(こんやく)』している身ですのに、白陰子爵に一度も顔を合わせていないのは、些か失礼かと思っておりまして」

「父は気にしてないと思いますが……」

「私が、気になってしまうのです」


 ツバキ先輩は律儀だなあ。

 本来なら私の父が春花侯爵を訪ねるべきなのに。


「そこでお願いがあるのですが、シヅさんにもご一緒いただきたいのです」

「私も、ですか?」

「ええ。……正直なところ、白陰子爵に面会するのに、一人では心許なくて」


 私としても、ツバキ先輩を一人で父に合わせるのは忍びない。

 父が粗相をしないか心配だからだ。


 ただ、いくつか問題がある。


「あの、夏季休暇中の乗合馬車はとても混みあって辛いと思います」


 真夏のうだるような暑さのなか、ぎゅうぎゅうで身動きの取れない馬車に乗るなんて、拷問以外の何物でもない。

 そんな思いはツバキ先輩にしてほしくない。


 でも、ツバキ先輩はかぶりを振った。


「お気遣いいただきありがとうございます。でも大丈夫です。私の馬車で参ります」


 『私の』。

 乗合馬車じゃなくて、ツバキ先輩が所有されている馬車を使うつもりなんだ。

 さすが侯爵令息。


「えっと、時間がかかりますよ?」

「私の馬車であれば乗り換えもありませんし、夜も移動を続ければ二日ほどで到着するかと」

「ふ、二日!?」


 通常五日はかかるのにすごい!

 でも、ツバキ先輩と二日間ずっと向かい合い続けると思うと……。


「ああ、もちろん、シヅさん専用の馬車をご用意いたします」

「え!?」


 なんて贅沢な……!

 こんなに至れり尽くせりでいいんだろうか、と思うほどとても魅力的な案だ。

 けれど、最後に一つだけ、どうしても譲れないことがあった。


「あの、わがままを言って大変恐縮なんですが……私が乗る馬車にもう一人乗せられますか? マリカ……黒陽子爵令嬢も一緒に帰省できればと思って」

「はい、お二人なら問題ございません」


 こうなると、もう拒否する理由はない。


「それでは、よろしくお願いします。お世話になります」

「こちらこそ。当日が楽しみです」


 ツバキ先輩はいつも以上に上機嫌に笑った。

 正直、白陰領なんて田舎で何もないので、楽しみにされると困ってしまうのだけれど……。




* * *




 帰省のことをマリカに話すと、一度は恐縮のあまり辞退したけれど、最終的には一緒に帰省することになった。

 律儀なマリカはその場でどうお礼をすべきか悩み始め、突如ハッと目を見開く。


「大したものではないけど、食事会にご招待したいの」

「食事会?」

「そう。シヅに私の婚約者を紹介するための、食事を兼ねたお披露目会を計画しているのだけれど、ご一緒にどうかしら?」


 そういえば、そんな話もあったなあ。

 私としても、マリカの婚約者様にきちんとご挨拶をしておきたい。


 でもその席にツバキ先輩も一緒となると……悩む。


 だって私とツバキ先輩は『偽装婚約』なのだ。

 食事会で婚約者として紹介するというのは、取り決めからかけ離れている気がする。

 私が戸惑っていると、マリカがしゅんとした顔で言う。


「帰省の馬車を出していただくのに、事前にご挨拶もないなんて、私が非常識だと思われるわ」


 私だって、マリカが無礼な人だとツバキ先輩に誤解されるのはイヤだ。

 でも、しおらしさを貼り付けたマリカの顔に『そろそろシヅの婚約者を紹介してほしいなあ』という気持ちが透けて見えるのは……私の気のせいじゃないと思う。

次話投稿は 2026/5/2 21:00 です。

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