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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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27/36

27.魔法使いと一般教養(2/3)

「……ははっ」


 最初に声を上げたのはミチル先生だ。

 不愉快が一周回って、冷たく乾いた笑い声だった。


「この石ころにそんな機能はない。仮に位置特定や盗聴の機能があったとしても、学校の周りに設けられた魔法で遮断されるしな」


 ミチル先生がブローチを摘まみ上げ、ぐっと力を入れる。

 がしゃん! と大きな音を立てて、宝石が粉々に砕けた。


「喋っていい」

「……ありがとう、ございます」


 トウマ君の意思で発したその言葉はとても力強くて……、それがなんだか、とても嬉しく感じた。

 私だけじゃない。

 マリカやハクト君も、それからミチル先生も、ホッとして一様に目尻を下げていた。


 でも、トウマ君は一人、バツの悪そうな顔で俯いて、頭を下げてしまった。


「今まで、悪かった」

「トウマが悪いんじゃないだろ。大方、白虎伯爵に『魔法使いと仲良くするな』とか言われてたんじゃないのか?」


 即座にそう言ったのはミチル先生だ。

 トウマ君はさらに視線を落とす。


「でも、俺、ブローチのこと、本当は――」

「『気付いてたけど言えなかった』、か?」


 トウマ君がパッと顔を上げた。

 どうやら図星らしく、目を見開いている。


「自信がなかったんだろう? それだって仕方のないことだ」


 ミチル先生の言う通りだ。

 魔法士官学校に来てすぐのころは、魔力の気配を掴むことすら困難だった。

 それがだんだんと魔力というものの存在を、見えないけれど感じられるようになっていった。


 本来なら、その時点で判断を下せたんだろう。

 でも、トウマ君は自信がなくてできなかった。

 自信がなくなるほど、白虎伯爵に虐げられ、貶められてきたんだろう。


「トウマは、悪くないんだ」


 ミチル先生がトウマ君を励ますように肩を叩き、ニッと歯を見せて笑う。

 トウマ君は泣きそうな顔をしていて、私たちまで堪らなくなってしまった。


「そうよ。トウマが謝ることなんてないわ」

「そうそう。僕たちにイジワルしたかったわけじゃないんでしょ」

「そうだよ! むしろ、ごめんね。私たち、何も気付かなくて……」


 ミチル先生もマリカも私も、矢継ぎ早にトウマ君へ言葉をかける。


「いや、それこそ、皆が気に掛けることじゃねぇし……」


 そう言ったあとで、トウマ君が顔をしかめる。


「あ、えっと、……実は、俺、去年まで孤児院で暮らしてて、白虎に養子として引き取られたんだ。その、言葉遣い、気ぃ付けてるんだけどよ、……じゃなくて、いるんだが、人を不快にさせるから喋るなって言われて……」


 誰にそう言われたのかなんて容易に想像がつく。

 白虎伯爵だろう。


 トウマ君が喋ってくれるほど嬉しく感じるのに、そう感じれば感じるほど、白虎伯爵に黒い感情が腹の中で渦巻く。

 心の中に黒いシミがじわじわと広がっていく。

 自分でも信じられないくらいに、衝動的な感情が膨れ上がって、胸から溢れて出てきそう。

 でも今は、その衝動をなんとか抑え込んだ。


「ねえ、トウマ君。私たち、そんな言葉遣いぐらいで不快に思ったりしないから!」

「そうそう。魔法使いなんて不遜なくらいでちょうどいいんだよ」

「ハクトはもう少し慎みってものを持ってもいいわよ……」


 私たちが口々にそう言うと、トウマ君は首の後ろをこそばゆそうに掻いた。


「……ありがとう。ありがとな」


 トウマ君は照れたようにそう言って、笑った。

 初めて見たトウマ君の笑顔は、ちょっとだけやんちゃそうな、くしゃりとした笑顔だった。


 授業はそのまま、なし崩し的に終わってしまった。

 私が自席で次の授業の準備を始めていると、トウマ君が隣に立っていた。


「あの……、シヅ」

「なあに? トウマ君」

「シヅに謝らねぇとな、ってことがあって」

「え? なにが?」


 心当たりがなくてそう聞き返すと、トウマ君は言いにくそうに目を逸らして言った。


「その、……白虎伯爵が、何度もしつこく縁談を取り付けようとしていたらしくて」


 そういえば、父が言っていた。『何遍断っても釣書を送ってくるヤツ』と。

 ……あれ、白虎伯爵だったんだ。


 トウマ君の話を聞く限り、白虎伯爵は魔法使いを見下しているんだろう。

 縁談をしつこく迫るような横柄さにも納得がいく。

 白虎伯爵には腹立たしいけれど……、ここはぐっと堪えた。


「ああ、そんなこと? 大丈夫だよ。トウマ君が謝ることじゃないから、気にしないで」


 本当に、なにも気にしていない風を装って言った。

 だって、トウマ君は何も悪くないのに、わざわざ謝ってきたんだもの。

 これ以上、気を揉ませたくはない。


「すまねぇな、気ぃ遣わせて。『侯爵家と婚約した』って聞いてからは、さすがに手を引いたらしいけど……」

「そっか! そうなんだ」


 しつこい縁談が減って、父の負担が減ったら嬉しいなあ。

 そのために『偽装婚約』したんだから!


 私が胸を撫で下ろすと、トウマ君も肩の荷が下りたようで、二人で気の抜けた笑顔を見合わせた。

次話投稿は 2026/4/19 21:00 です。

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