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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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25.魔法使いと校長先生(2/2)

「……私ね、似たような魔法陣を開発していたの」

「えっ!? 魔法石を生成する魔法陣を、ですか?」

「そうよ」


 私が第一発見者じゃなかったんだ……。


 『黒烏(カラス)』に抜擢されるかも、と舞い上がっていた自分が恥ずかしくなる。


「でもね、なかったことにしたの」

「なかったこと?」

「そうよ。だって、この魔法の研究が進んで、魔法石が量産できるようになったら……人間たちはどうすると思う?」


 私はハッとした。


 ――紅国が豊かなのは、魔法のお陰だ。

 各所に点在する治療院や、天候制御装置などの魔装置、さまざまな魔法工場があるから。


 魔法石が量産できるようになれば、人間はより便利な生活を求める。

 そうなると今度は労働力――魔法使いが不足する。


 そのとき人間は、利便性のためなら躊躇なく魔法使いを酷使するだろう。

 そんな未来は、イヤだ。

 校長先生は私を見据えて言葉を続ける。


「シヅさんがこの魔法陣を見つけたことは、とても素晴らしいことよ。それは間違いないわ。でも、悪用されることが目に見えているから、公表することはできないの。わかっていただける?」

「……はい」


 私は頷いた。

 紅国の魔法使いのために、この魔法はなかったことにすべきだ。

 ……ちょっと残念だけれど。


 校長先生は私に微笑みかけてきた。


「いい子ね」


 校長先生に褒められると、沈んだ心がポッと温かくなる。

 強くて大らかな魔力をお持ちだから、自然と安心感を抱いてしまうんだろう。


 ふと、校長先生が笑みを深める。

 それは今まで誰からも向けられたことのない類の――妖艶な表情だった。


「それじゃあ――忘れてちょうだい?」


 校長先生の手が私の頭へと伸びてくる。

 なんて細くて華奢な指だろう。

 卵型に整った爪が、玉虫色に妖しくつやめいていた。


「ボタン様!」


 私と校長先生のあいだに割って入ったのは、ツバキ先輩だった。


「シヅさんは、口の堅いお方です。必ず秘密を守ってくださいます。ですから、記憶を操作する必要は……」

「あら、坊ちゃん。私の判断に背いて、その子を庇うの?」

「背いているつもりはございません。ただ、考えを改めていただきたいのです。もし担保が必要でしたら、私のすべてを差し出しますから」


 ツバキ先輩はそう言って、自身の左胸――心臓と魔臓がある辺りを手でさすった。


「そうまでして庇うだなんて……」


 ツバキ先輩は、己を奮い立たせるかのようにぎゅっと拳を握り締めていた。

 全身から恐怖が伝わってくる。


 私だって怖い。

 何の素振りもなく記憶を操作されそうだったなんて、震えが止まらない。


 校長先生はツバキ先輩をじっと見つめたまま――ふっ、と息を漏らした。


「坊ちゃんも立派になったわねぇ……」


 校長先生の声音はうっとりとしていて、表情は緩みきっていた。


「これまで従順だった坊ちゃんが、まさか私にこんなこと言ってくるだなんてねぇ……。感慨深いわぁ。でもそうよね、婚約者だもの。大事にしないとね。ねぇねぇ、坊ちゃんはシヅさんのどこが好きなの? あ、馴れ初め! 馴れ初めを聞かせて!」


「校長!」とさっきより強い口調でミチル先生が制止に入る。


「ほら、もう次の仕事があるでしょう。行きますよ!」

「待ってミチル君! 馴れ初め! 馴れ初めだけでも!」

「貴族の婚姻に馴れ初めもクソもないですから!」


 ミチル先生は校長先生を一喝すると羽交い絞めにして、そのままずるずると引きずって第五実習室から出て行ってしまった。


 さすがミチル先生。

 筋肉の勝利だ。


 そうして第五実習室は嵐が去ったあとのように、しんと静まり返った。


「はあ……」


 ツバキ先輩が深々とため息をつき、しなだれる。


「あの……」と私が声を掛けると、ツバキ先輩はびくりと肩を震わせて、瞬時に背筋が伸びた。


「ありがとうございます、ツバキ先輩。記憶の操作なんて想像していなくて、私、動けなくて……」


 強張っていたツバキ先輩の表情が、安堵したように柔らかい笑顔に変わる。


「とんでもないことです。私にとっても都合が悪いので遮っただけですから」

「都合、ですか?」

「記憶を操作する魔法は、同時に、記憶を読まれてしまいます。私とシヅさんの関係について、ボタン様に知られるわけにはいかなかったのです」

「な、なるほど……」


 記憶操作だけでも恐ろしいのに、『偽装婚約』がバレる危険性まであったなんて。

 今さらながら鳥肌が立つ。


「いろいろと懸念はあったのですが……、シヅさんのことをボタン様に紹介できてよかったです」

「どうしてですか?」

「ボタン様は『黒烏(カラス)』なのです」

「え!?」


 校長先生が『黒烏(カラス)』!?

 どうりで貫禄があると思った!


「シヅさんの顔を覚えていただくいい機会だと思いまして。『黒烏(カラス)』になるには『黒烏(カラス)』の承認も必要ですから」


 どきりとした。

 ツバキ先輩が、まさか私の夢を覚えていてくださったなんて。


 同時に後悔した。

 もっと気の利いたことを言って、いい印象を残しておくんだった……!


「それに、ボタン様はきっと、私とシヅさんの関係が良好だと吹聴してくださいます。ボタン様の影響力は強大ですから、縁談の申し入れも止むでしょう」


 さすがツバキ先輩。

 春花侯爵家の伝手とはいえ、校長先生のような強くて影響力のある魔法使いと固い信頼関係で結ばれていて心強い!

 と、思ったところでピンときた。


「もしかして、ツバキ先輩を次期当主に推薦しているのって……」

「……はい。ご想像の通り、ボタン様です」


 やっぱり。

 校長先生のあの溺愛っぷりを見たあとでは納得しかない。


 校長先生、ツバキ先輩が道楽にふけるくらいで逃がしてくれるのかなあ……。

 それに、もしも私がツバキ先輩と『偽装婚約』を破棄したら、恨まれたりしないかなあ?

次話投稿は 2026/4/11 21:00 です。

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