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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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20/36

20.魔法使いと偽装婚約(3/3)

 私はいつもより早い時間に、女子寮の洗面所で身支度を整え始めていた。


 花簪を挿すのに慣れていないので練習しようと思ったのだ。

 でも何度やってもうまくいかなくて、試行錯誤しているうちに、マリカが寝ぼけ眼をこすりながらやって来た。


「おはようぅ……」

「おはよう、マリカ」


 マリカは私の隣まで来ると目を見開く。

 その視線は簪に釘付けになっていた。


「あら、シヅ、()()()簪を貰ったの?」

「あはは……」


 私は笑ってごまかした。

 マリカは、櫛も簪も同じ人からもらったと思っているのだ。


 それもそのはず。

 まさか婚約者が二人いて、それぞれから結納品をもらったなんてこと、思いつくはずもない。

 ましてや、どっちも『偽装婚約』だなんて。


 というか、櫛が贈り物だって気付いていたんだ。

 誰にも見せびらかしたりしていないのに。

 さすが、マリカはよく見てるなあ。


「ほら、きれいにしてあげるから、来て?」


 私はその誘惑に抗えなかった。

 マリカに櫛と花簪を渡すと、手際よく私の髪をまとめていく。


「はい……っと。どう? 緩くない?」


 私は鏡を見た。

 真っ赤なツツジの花が、私の黒髪で鮮やかに咲いている。

 下がりの宝石も視界の邪魔にならない絶妙な位置で輝いている。

 緩みなくひとまとまりに整った髪は、多少頭を振ってもズレる気配はない。


「ありがとう、マリカ!」

「どういたしまして」


 そのあと、マリカに教えてもらってなんとか自分でも簪をきれいに挿せるようになった。


 マリカにはいつまで経っても頭が上がらない。

 私、もっとしっかりしないとなあ。

 そう思いつつも、お世話を焼いているときの活き活きしているマリカも大好きだから、もう少し甘えたいなって気持ちに負けてしまうのは、仕方ないとも思うのだ。




 * * *




「とてもお似合いです」

「そ、そうですか……? ありがとうございます」


 魔力解析のため第五実習室に入るなり、ツバキ先輩は目を細めた。


 正直、送り主であるツバキ先輩は褒めてくれるだろうとは思った。

 要するに社交辞令だ。


「ツバキ先輩もお似合いですよ」

「まあ! ありがとうございます」


 私が褒めると、ツバキ先輩ははにかんでいた。


 何がお似合いかといえば……、ツバキ先輩の簪だ。

 私と同じ、赤いツツジのついた簪。


 ちなみにこの簪、春花侯爵家の象徴花であるツツジと、象徴色である緑色の宝石がついていて、誰がどう見ても春花侯爵家を連想する代物だ、ということに、朝食の際にお姉様方にからかわれて気付いた。


「いやあ、婚約者同士で揃いの簪なんて、妬けるなー」


 ミチル先生が私とツバキ先輩を見比べたあと、にやにやしながら言う。


 なるほど、ツバキ先輩の狙いはこれか。


 確かに、お揃いの簪を身に付けていたら、仲睦まじく見えるだろう。

 ちょっと恥ずかしい。

 恥ずかしいけれど、これもお互いのためだ。


「そうですよ! 私たち、仲良しなんです!」


 私はもう、ツバキ先輩の婚約者なのだ。

 もじもじしていてもからかわれるだけだから、堂々としていようと思う!

 ……『偽装婚約』だけど!




 * * *




 ――余談だけれど。

 朝の魔力解析を終え、私が教室に入るなり、ハクト君が声を掛けてきた。


「おはよう! わあっ、シヅちゃん、可愛いね!」

「ありがとう。マリカにやってもらったんだ」


 すでに女子寮のお姉様方やツバキ先輩に褒められていたので、ハクト君の言葉は平常心で受け止められた。

 というより、「可愛い」って言うハクト君のほうが、もっとずっと可愛い。


「シヅちゃん、昨日は春花侯爵家にお呼ばれしたんだって?」

「そうだけど……、どうして知ってるの?」

「噂になってたもん」と言って、ハクト君は得意げに胸を張った。


 ハクト君ったら、いったいどこで噂を仕入れているんだろう?

 それとも、私の耳に入っていないだけで、みんな知っているのかな?

 今後も変な噂が流れないように気を付けないと……。


 そんなことを話しているとトウマ君が教室に入ってきた。


「おはよう、トウマ君」


 トウマ君は私を見るなり、目を見開いた。三白眼の赤い虹彩が、私の顔と簪を交互に見比べるように、忙しなく動く。


「に、似合わない……?」


 私がそう言うと、トウマ君はぶんぶんと激しく首を横に振った。


 しまった。

 こんな聞き方なんかしたら、トウマ君に気を遣わせてしまうに決まってる。


「ごめんね、変なこと聞いて」


 そう言いながら、私は気まずくなって俯いた。

 私ったら子どもみたいに浮かれて……。

 恥ずかしくてトウマ君の顔を見られない。


「いや」というかすかな声が落ちてきて、私は反射的に顔を上げた。

「本当に、似合ってる」


 トウマ君は私を真っ直ぐに見て、小さくそう言った。


「へ!? あ、ありがとう……!?」


 トウマ君が明確に褒めてくれるなんて思ってなくて……。

 もちろん嬉しい。

 嬉しいけれど、それよりずっとびっくりしてしまって、胸の鼓動がしばらくうるさかった。


 そして一番びっくりしたのはトウマ君だったみたいで、顔を真っ赤にしてあわあわしたと思ったら、自席で突っ伏してしまった。

次話投稿は 2026/3/28 21:00 です。

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