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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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19/36

19.魔法使いと偽装婚約(2/3)

「ただ、シヅさんを利用していることは確かです。不快に思われたのであれば『偽装婚約』はなかったことに――」

「いいえ、お受けします」


 考えるまでもなく、私はそう口にしていた。


 だって、今一番辛い立場に置かれているのはツバキ先輩だ。

 それなのに、私の気持ちを尊重しようとしてくださっている。


 それなら私だって、ツバキ先輩の気持ちを尊重したい。

 力になりたい。


「私、ツバキ先輩の婚約者のフリ、頑張ります! 至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします!」


 目を丸くしているツバキ先輩に、努めて明るくそう言った。


 侯爵令息の婚約者なんて、きっと大変だろうなあ。


 周囲からどう映るんだろう?

 ツバキ先輩に縁談を申し込むご令嬢たちに恨まれるのかな。

 作法も不出来で、家格が釣り合わないと嘲られるのかな。


 でも、やると決めたからには、やらないと!


 ツバキ先輩に恥をかかせないように。

 ツバキ先輩が学業に専念できるように。


 気遣わしげな視線を感じ、私はニッと笑い返した。


「忘れていらっしゃるかもしれませんが、ツバキ先輩と『偽装婚約』することで私も助かるんです。……婚約者の正体、明かせませんから」


 私にとって一番重要なのは、私とシロウ様の『偽装婚約』が公にならないこと。

 それ以上に望むことなんてない。


「ええ、そうでしたね……」


 でも、ツバキ先輩はまだ歯切れが悪い。


 出来過ぎた話だ、と思われているのかもしれない。


 うまい話には裏があるものだ、と私もよく父に言い含められていた。

 侯爵家ならなおのこと、警戒心が強くて当然だ。


 それなら、と私は遠慮がちに口を開く。


「あの、ツバキ先輩。『偽装婚約』に関して、私から一つ、お願いがあるんです」


 私がそう言うと、ツバキ先輩の眼差しがすっと冷え、けれどもすぐにいつもの温度を取り戻す。


「まあ、なんでしょう?」


 穏やかな口調に対し、私はわざと語気を強くして言った。


「私、強くなりたいんです! だから、体術や魔法を教えてください!」


 ツバキ先輩は虚を突かれ、目を点にしていたけれど、しばらくするとふっと表情がほころんだ。


「そのようなことでよろしければ、もちろんです」

「嬉しい! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」


 クラス対抗戦でツバキ先輩の活躍を見たときから、いつかお願いしようと思っていた。

 この断りにくい状況でお願いできるなんて、最高に幸運だ!


「それでは」


 ツバキ先輩は深緑の目で私をまっすぐに見据え、立ち上がる。

 そのまま私の掛けるソファの正面まで来ると、サッと跪いた。


「白陰子爵家ご令嬢、シヅ様。私と『偽装婚約』していただけますか?」


「春花侯爵家ご令息、ツバキ様。ありがとうございます。不束者ですが……、どうぞよろしくお願いいたします」


 なんとも不思議な気持ちだ。

「ふふ」とツバキ先輩もおかしそうに笑う。


 ――「私と『偽装婚約』していただけますか」


 ツバキ先輩の最初で最後になるかもしれないプロポーズの言葉が、まさかこんな言葉だなんて。

 そして私も、こんなプロポーズをすんなり受け入れることになるなんて。

 お互いに言葉を噛み締め、笑い合った。


 気付けば雨脚は弱まり、外はうっすらと明るくなってきた。

 ツバキ先輩はワゴンから細長い箱を取り出し、私に差し出した。


「シヅさん、こちらをどうぞ」

「私に、ですか?」

「仮初めの婚約ではありますが、結納品がないのは些か不誠実かと思いまして」

「そんな……、わざわざありがとうございます」


 シロウ様からも同じことを言われたような、と思いつつ、箱を受け取った。


「開けてもいいですか?」

「もちろんです」


 包装を解き、箱を開ける。

 入っていたのは……、一本足の花簪(はなかんざし)だった。


 櫛同様、簪も贈り物としては一般的なものだけれど、これはとんでもない高級品だと思う。


 軸はピカピカと金色に輝き、赤く大きなツツジの飾りと、下がりに濃淡の違う緑色の宝石がついている。

 ツツジの葉と花は布細工で、少し角度を変えるたびキラキラと瞬く。


 こんな素敵なもの、私が付けて大丈夫だろうか。

 釣り合わないと思うのだけれど。


「すぐにご用意できる物がそれしかなく……。もしお気に召さなければ、無理に付ける必要はありませんので」

「いえ、そんな滅相もない! ありがたく頂戴します」


 恐縮しつつ、でも、結納品をご用意してくださったそのお気持ちはすごく嬉しくて、明日の身支度が楽しみになった。

次話投稿は 2026/3/24 21:00 です。

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