21.魔法使いと特性(1/3)
「よし、今日から魔法実技の授業を始めるぞ」
ミチル先生の言葉に、私は胸がわくわくしていた。
これまでの授業は、座学か体育か、魔力を操る基礎練習ばかりだった。
けれど今日からついに本格的に魔法が使えるのだ!
「今日はまず、模写をやってもらう」
ミチル先生が指定した教科書のページには、見開きいっぱいに紋様が描かれていた。
これは『魔法陣』。
魔法は、魔法陣の形通りに魔力を流すことで発動するのだ。
「今日の課題は、教科書にある五つの魔法陣がそれぞれどんな効果なのか、魔法を発動して調べること。いいな?」
ミチル先生は私たちに魔法石を配り終えると、一つ魔法を使った。
魔力がふんわりと教室いっぱいに広がっていく。
「今日は特別に、魔力を見えるようにしておく。全員で協力してやってくれて構わない。頑張れよ」
パン、とミチル先生が一つ手を叩く。
開始の合図だ。
私は早速、一番最初のページに描かれた魔法陣に取り掛かった。
いつもより大きな、クルミくらいの魔法石。
これだけあれば不足することはないだろう。
しかも、普段見えない魔力が、今日は見える。
きっと楽勝だ!
……そう思っていたのだけれど、これが案外、難しかった。
「あはっ! シヅちゃん、ミミズでも描いてるの?」
ハクト君にめちゃくちゃ馬鹿にされているけれど、ぐうの音も出ない。
私が描いたのは、一体何が元になったのかさえ分からない、もじゃもじゃ。
それに対してハクト君は、魔法陣を描くのがめちゃくちゃ上手い。
腹が立つほどに。
「ねえ、ハクト。コツとかないの?」
「コツ? うーん、なんだろ? 普通にやったら普通にできたからなー」
ハクト君の余裕綽々な様子に、聞いたマリカも、小耳に挟んだ私もちょっとイラッとなった。
たぶん、トウマ君も。
三人の半眼に睨まれたハクト君は、さすがに居心地が悪くなったらしい。
「ごめんごめん。じゃあ、指に魔力を集めて、ゆっくり紙の魔法陣をなぞってみたら?」
「インクみたいに使えばいいってこと?」
「そうそう。空中に描くよりは制御しやすいと思うよ」
そのアドバイス通り、魔法石から取り出した魔力を指先に集中する。
魔力は当然、インクとは違う。
紙にこすりつけたって紙の上には残らない。
指の動きに合わせて、魔力を紙の上に固めていく。
これもなかなか力加減が難しい。
滑らかな線を引きたいのに、べったりと太くなったり、かすれてしまったり……。
自分に絵心がないのは知っていたけれど、ここまで下手くそだと悲しい。
でも何回か繰り返すうちに、ようやくそれっぽいものができた。
遠目に見たらまあまあ雰囲気似てるかも、くらいの出来栄えだけれど、できた!
「いいんじゃない? マリカちゃんのよりはそれっぽいし」
「うるさいわね! 私のほうが早くできたんだから!」
「トウマ君は一回で上手にできたもんねー?」
ハクト君から急に話を振られたトウマ君は、ビクッと肩を震わせ、すーっと窓の外へと視線を移す。
その表情は「巻き込んでくれるな」と言いたげだ。
トウマ君は一回目で魔法陣を完成させた上、試行を重ねた私たちの魔法陣よりもずっと形が整っている。
ちょっと悔しい。
これからたくさん練習して、私も上手に描けるようにならないと!
「それじゃあ、魔法を使ってみようよ! 作った魔法陣に魔力を流して」
さっき作った魔法陣は、魔力を流す道筋を作っただけ。
ここに魔力を流し込んで初めて魔法が発動するのだ。
どんな魔法が出るんだろう?
ワクワクしながら魔力を流す。
魔法陣全体に魔力が行き渡ると、ポン、ポン、ポン、と音を立てて、三つの小ぶりな花火が上がった。
ひまわりのようで、とても綺麗だ。
「……あれ?」と私は思わず呟いた。
上がった花火は三つだけ。
マリカと、ハクト君と、トウマ君のものだ。
私の魔法は不発だった。
苦労して作った魔法陣が、砂粒みたいになってさらさらと消えていく。
「うそ……」
ショックで声が詰まる。
私だけ失敗しちゃった……!
魔法陣の形は確かに歪だけれど、道筋自体に問題はなさそうなのに!
「あれー? これくらいならイケると思ったけどなー。マリカちゃんの魔法陣でも発動したんだし……」
「どういう意味かしら?」
ハクト君を問い詰めるマリカの声をどこか遠くに聞いていると、俯く私の目の前に教科書が差し出される。
「これ……」
そう言ってトウマ君が指差したのは、一番最後のページの魔法陣だ。
さっきの魔法陣より簡単そう。
私は頷いて、丁寧に魔法陣をなぞった。
さっきよりはムラがない魔法陣が出来上がる。
これならきっと大丈夫! 今度こそ、絶対できる!
私は魔法陣に魔力を流した。
……けれど、何も起きなかった。
魔法陣は静かに崩れ、跡形もなく消えてしまった。
その後も何度か試したけれど、同じ結果にしかならなかった。
みんなはどんどん成功させていくのに、私は一人だけ、ただただ魔法陣が消えていく……。
パンパン、とミチル先生が手を叩く。
終了の合図だ。
時間が来てしまったのだ。
私はその場で崩れ落ちた。
まさかこんな序盤で躓いてしまうなんて……!
「次はきっと大丈夫よ」とマリカが言った。
「そうだよ、また次の実技で挽回しよ!」とハクト君が明るく言った。
トウマ君も二人の言葉に力強く頷く。
「……うん。みんな、ありがとう……」
私は頑張って笑顔を作ったけれど、声が震えてしまった。
一体、私の何がダメだったんだろう?
私だけが失敗してしまった悔しさと気恥ずかしさ、それから、みんなに気を遣わせてしまった罪悪感で、しばらく自己嫌悪から抜け出せなかった。
次話投稿は 2026/3/29 21:00 です。




