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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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21/62

21.魔法使いと特性(1/3)

「よし、今日から魔法実技の授業を始めるぞ」


 ミチル先生の言葉に、私は胸がわくわくしていた。


 これまでの授業は、座学か体育か、魔力を操る基礎練習ばかりだった。

 けれど今日からついに本格的に魔法が使えるのだ!


「今日はまず、模写をやってもらう」


 ミチル先生が指定した教科書のページには、見開きいっぱいに紋様が描かれていた。

 これは『魔法陣』。

 魔法は、魔法陣の形通りに魔力を流すことで発動するのだ。

 

「今日の課題は、教科書にある五つの魔法陣がそれぞれどんな効果なのか、魔法を発動して調べること。いいな?」


 ミチル先生は私たちに魔法石を配り終えると、一つ魔法を使った。

 魔力がふんわりと教室いっぱいに広がっていく。


「今日は特別に、魔力を見えるようにしておく。全員で協力してやってくれて構わない。頑張れよ」


 パン、とミチル先生が一つ手を叩く。

 開始の合図だ。


 私は早速、一番最初のページに描かれた魔法陣に取り掛かった。


 いつもより大きな、クルミくらいの魔法石。

 これだけあれば不足することはないだろう。

 しかも、普段見えない魔力が、今日は見える。


 きっと楽勝だ!


 ……そう思っていたのだけれど、これが案外、難しかった。


「あはっ! シヅちゃん、ミミズでも描いてるの?」


 ハクト君にめちゃくちゃ馬鹿にされているけれど、ぐうの音も出ない。


 私が描いたのは、一体何が元になったのかさえ分からない、もじゃもじゃ。

 それに対してハクト君は、魔法陣を描くのがめちゃくちゃ上手い。

 腹が立つほどに。


「ねえ、ハクト。コツとかないの?」

「コツ? うーん、なんだろ? 普通にやったら普通にできたからなー」


 ハクト君の余裕綽々な様子に、聞いたマリカも、小耳に挟んだ私もちょっとイラッとなった。

 たぶん、トウマ君も。

 三人の半眼に睨まれたハクト君は、さすがに居心地が悪くなったらしい。


「ごめんごめん。じゃあ、指に魔力を集めて、ゆっくり紙の魔法陣をなぞってみたら?」

「インクみたいに使えばいいってこと?」

「そうそう。空中に描くよりは制御しやすいと思うよ」


 そのアドバイス通り、魔法石から取り出した魔力を指先に集中する。


 魔力は当然、インクとは違う。

 紙にこすりつけたって紙の上には残らない。

 指の動きに合わせて、魔力を紙の上に固めていく。


 これもなかなか力加減が難しい。

 滑らかな線を引きたいのに、べったりと太くなったり、かすれてしまったり……。

 自分に絵心がないのは知っていたけれど、ここまで下手くそだと悲しい。


 でも何回か繰り返すうちに、ようやくそれっぽいものができた。

 遠目に見たらまあまあ雰囲気似てるかも、くらいの出来栄えだけれど、できた!


「いいんじゃない? マリカちゃんのよりはそれっぽいし」

「うるさいわね! 私のほうが早くできたんだから!」

「トウマ君は一回で上手にできたもんねー?」


 ハクト君から急に話を振られたトウマ君は、ビクッと肩を震わせ、すーっと窓の外へと視線を移す。

 その表情は「巻き込んでくれるな」と言いたげだ。


 トウマ君は一回目で魔法陣を完成させた上、試行を重ねた私たちの魔法陣よりもずっと形が整っている。

 ちょっと悔しい。

 これからたくさん練習して、私も上手に描けるようにならないと!


「それじゃあ、魔法を使ってみようよ! 作った魔法陣に魔力を流して」


 さっき作った魔法陣は、魔力を流す道筋を作っただけ。

 ここに魔力を流し込んで初めて魔法が発動するのだ。


 どんな魔法が出るんだろう?


 ワクワクしながら魔力を流す。

 魔法陣全体に魔力が行き渡ると、ポン、ポン、ポン、と音を立てて、三つの小ぶりな花火が上がった。

 ひまわりのようで、とても綺麗だ。


「……あれ?」と私は思わず呟いた。


 上がった花火は三つだけ。

 マリカと、ハクト君と、トウマ君のものだ。


 私の魔法は不発だった。

 苦労して作った魔法陣が、砂粒みたいになってさらさらと消えていく。


「うそ……」


 ショックで声が詰まる。


 私だけ失敗しちゃった……!

 魔法陣の形は確かに歪だけれど、道筋自体に問題はなさそうなのに!


「あれー? これくらいならイケると思ったけどなー。マリカちゃんの魔法陣でも発動したんだし……」

「どういう意味かしら?」


 ハクト君を問い詰めるマリカの声をどこか遠くに聞いていると、俯く私の目の前に教科書が差し出される。


「これ……」


 そう言ってトウマ君が指差したのは、一番最後のページの魔法陣だ。

 さっきの魔法陣より簡単そう。


 私は頷いて、丁寧に魔法陣をなぞった。

 さっきよりはムラがない魔法陣が出来上がる。


 これならきっと大丈夫! 今度こそ、絶対できる!


 私は魔法陣に魔力を流した。

 ……けれど、何も起きなかった。

 魔法陣は静かに崩れ、跡形もなく消えてしまった。

 その後も何度か試したけれど、同じ結果にしかならなかった。


 みんなはどんどん成功させていくのに、私は一人だけ、ただただ魔法陣が消えていく……。


 パンパン、とミチル先生が手を叩く。

 終了の合図だ。

 時間が来てしまったのだ。


 私はその場で崩れ落ちた。


 まさかこんな序盤で躓いてしまうなんて……!


「次はきっと大丈夫よ」とマリカが言った。

「そうだよ、また次の実技で挽回しよ!」とハクト君が明るく言った。

 トウマ君も二人の言葉に力強く頷く。


「……うん。みんな、ありがとう……」


 私は頑張って笑顔を作ったけれど、声が震えてしまった。


 一体、私の何がダメだったんだろう?


 私だけが失敗してしまった悔しさと気恥ずかしさ、それから、みんなに気を遣わせてしまった罪悪感で、しばらく自己嫌悪から抜け出せなかった。

次話投稿は 2026/3/29 21:00 です。

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