↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
7/57

軍の形

― それは「人」を拾うことから始まった


西の戦線に赴任したセレンが最初に手をつけたのは、崩れた戦線の立て直しでも、砦の補強でもなかった。


「生き残りの部隊を拾う。できる限り多く。たとえ、一人でも」


それが、彼女の最初の命令だった。


将軍や師団長はほぼ全滅し、指揮系統は途絶え、兵は散り散りになっていた。

生き延びた兵たちは森の中に、村の影に、峡谷の洞に身を潜め、それぞれが小さなゲリラ戦を続けていた。


そんな中、セレンは戦場の地形、補給線、過去の戦闘記録をすべて洗い出し、散逸した部隊の現在位置を「推定」し始めた。


ガロットとゼイルには、それぞれに再構成された部隊の核として、回収任務が与えられた。


「こちらに行けば、三日前に狼煙が上がった村がある。」「この谷には、地形の関係から逃げ込んだ可能性が高い」

セレンが細かく立てた作戦指示には、寸分の無駄もなかった。


魔導地図――セレンが中央から取り寄せた、戦況と地形が魔力によって刻々と変わる特製地図は、二人の行動を強力に支援した。


「便利だな、これ。……でも、便利すぎて怖ぇわ」


「お嬢が頭ん中で何してるか、地図見りゃちょっと分かる気がする」


冗談まじりに笑うゼイルとガロットだが、その言葉の裏には、彼女の思考を信頼する意思がにじんでいた。


そうして始まった三手の回収行。


兵を拾い、集め、砦へ送り返す。

まともな補給もなかった中で、拾った兵の数はゆうに千を超えた。


「この一兵も、戦線を支えるための駒だ」


セレンはその都度、配置と役割を即座に割り振り、

足りない兵種や戦力の穴は地の利で補うため、小さな砦や野営地を戦略的に築いていった。


その過程で、各地では小規模な戦闘も多発した。

が、それらも大抵、ゼイルとガロットの判断で片付いた。


「突っ込むなら正面からだろ」


「いや、お前が正面で騒いでる間に俺が背中を取ってんだが?」


息の合った連携は、散り散りの兵の士気を自然と引き上げ、

やがて「この二人がいるなら勝てる」と、兵のあいだに静かな信仰が芽生え始める。


――ただ、困ったこともあった。


回収された兵の一部が、二人になつきすぎたのだ。


「ガロット隊長以外は嫌です!」「ゼイル中隊長の命令しか聞きたくありません!」


──ならば任命してしまえばいい、とセレンは考えた。


「師団長にしてしまえば、全員あの二人の下につく。文句は出ない」


実に合理的な答えだった。


だが、任命を受けた当人たちは、呆気にとられた顔をしていた。


「……おい、俺ら、貴族でもなんでもねえぞ?」


「師団長って、もっと堅苦しいのじゃないのか? 式典とか、報告書とか……あいつらみたいに?」


「知ったことか。適任だ」


その一言で、セレンは全てを片づけた。


貴族でなければ就けないという暗黙の了解?

騎士家系でもない平民は、そこにふさわしくない?


「戦場に生き残ったのが、彼らだった。それだけで十分だ」


誰に言うでもなく、そう呟いたセレンは、確かな目を持って彼らを「駒」ではなく「戦力」として認めたのだった。


「……しかし、計算には入れにくいな。彼らは“突撃兵”でも、“盾兵”でもない。統計が意味をなさない」


気づけば、セレンの指揮図には、「ゼイル」「ガロット」という個人名で指示が書かれるようになっていた。


そして、二人の呼び方も変わった。


最初の頃は、冗談めかして「おじょうちゃん」「将軍さま」などと呼んでいた彼らだったが――

ある日を境に、その名を、まっすぐに口にした。


「なあ、セレン。こっちの谷に逃げ込んだ小部隊、見つけた」


「セレン、明日には砦の再整備終わるぜ」


その声には、他意のない信頼が込められていた。


セレンは表情を変えなかったが、その瞬間、どこかで部隊が“軍”として形を取り戻した気がしていた。


それはただの集合ではなく、意志を持った一つの軍。


死神将軍の下に、“名もなき兵”が集い始めたのは、この時からだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。