第三軍への贈り物
祝宴も終盤に差し掛かり、場がゆるやかに静まり返る時間があった。
壇上に、セレンとゼイルが並ぶと、自然と視線が二人に集まった。
その背後には、赤地に黒の雷の意匠が刺繍された軍旗――かつて第三軍が戦場に掲げた旗が飾られていた。
ゼイルが一歩前に出る。
いつものような豪胆な笑みではなく、どこか背筋を正した、静かな顔だった。
「今日、この場に来てくれた第三軍の仲間たち。お前らに伝えたいことがある」
彼はセレンに目をやる。
頷くと、セレンもまた歩を進め、会場を見回すように金の瞳を向けた。
「この勝利と今日という日があるのは、第三軍の戦いがあったからだ。君たちは、この国の最も困難な戦線を守り抜き、進撃し、敵を屈服させた。戦友を喪いながらも、足を止めなかった」
セレンの声音は、柔らかくも凛としていた。
「我々は今夜、お前たちに婚約を告げた。そして、この祝いの席で、もうひとつの“結び”をしたいと思う」
合図とともに、従者たちが銀の盆に並べた小箱を運び始めた。
開かれた箱の中にあったのは――赤地に黒の稲妻、そして白銀の翼を模した意匠が彫られた特別な記章だった。
「第三軍特別従軍章――通称《死神の翼》」
ゼイルが口にすると、ざわりと会場が揺れた。
「これは、俺たちのもとで戦った兵士だけに贈る。王の許しも取ってある、正式な記章だ。
つけて歩いてもいい。飲み屋で自慢してもいい。お前たちはそれに値する」
セレンが少しだけ口元を和らげた。
「私の名ではなく、君たちの力が勝ち取った勲章だ。誇りにしてくれ」
歓声はすぐには上がらなかった。
誰もが、その銀の記章に込められた意味を、呆然としたように噛み締めていた。
その沈黙を破ったのは、誰よりも口の軽い若い兵士だった。
「……もらって、いいんですか!? 本当に……!?」
ゼイルが笑った。
「もらっとけ。お前らが、誰より強かった証だ」
次の瞬間、会場は歓声に包まれた。
笑い声と泣き声と、誇らしげな叫びが飛び交う。
兵たちは、互いの胸元に記章をつけ合いながら、戦友との時間を語り、酒を酌み交わし、笑い、涙した。
それは名誉の勲章であり、
かつて死地を共にした“仲間”である証そのものだった。
その中央で、セレンとゼイルは肩を並べていた。
第三軍の誇りを背に――かつての“戦場”が、今は確かに“祝いの場”となっていた。




