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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
42/57

雷と氷の結び目


それは、誰もが予想しなかった報せだった。


西方戦役から約一年――

西の国境を守り、点在していた兵たちの間に、突然、風のように噂が駆け抜けた。


「あの、ゼイル様が……」

「死神将軍セレン様と婚約、だと……!?」


訓練中だった者が木剣を取り落とし、見張りの者が望遠鏡を逆にのぞくほど、混乱は拡がった。

かつての第三軍に属していた兵たちは、にわかに信じられないという面持ちで互いを見合う。


「え、えぇと……あのセレン様と? あの無表情の、冷徹の、戦場の氷壁と称された……」

「しかもゼイル団長? うっそ、団長が手ぇ出せたのか!? てか向こうが許したのか!?」

「つーか、あれってそういう関係に発展する人間だったのか?!」


誰もが叫び、悶絶し、口々に「ありえん」と嘆息する。

中には「一番ありえねぇ女傑と、一番そういうの遠い戦闘狂がくっつくか……!」と項垂れる者もいた。


が、疑問の嵐はすぐにもう一つの報せで吹き飛ばされた。


――中央との合同演習に招集せよ。

対象は、第三軍所属経験者であり、西方戦役を生き抜いた者たち。


「はぁ? なんで俺たちだけ?」「まさか、ゼイル団長が選抜……?」「いや、セレン様が関係してるんじゃ……」

答えは誰にもわからぬまま、兵たちは数年ぶりに一堂に会することとなった。


演習の地――北方の駐屯地・簡易広場

薄曇りの空の下、列をなす兵たち。

中央軍の士官たちの視線を受けながら、かつての第三軍兵たちは一様に落ち着かない面持ちだった。


そこへ現れたのは、かつてと変わらぬ白銀の髪に金の瞳をたたえた若き女性――セレン。

そして、その傍らには、雷のような青い瞳を宿したゼイル、豪胆な笑みを浮かべるガロット。


整然と立つ三人の姿に、場の空気が一変する。

彼らにとっては、いつもの――懐かしい姿だ。

そこに彼らがいるだけで安心する、戦場の守護神たち。

だが次の瞬間――


「……っ」


セレンとゼイルが、見つめあい、互いの手をゆっくりと伸ばした。

そのまま、指と指を絡め合い、確かに握る。


その光景を目にした瞬間、

兵士たちの間で感情が爆発した。


「うおおおおおおおおおおおお!!」

「マジだったのかあああああああ!!!」

「本当に付き合ってたんか!? おい誰だ!前線の夜営で団長が『命令ならどんな女でも口説ける』とか言ってたって報告したやつ!!」

「セレン様、めっちゃ綺麗じゃねえか……」

「ゼイル団長、いい……顔してる……」

「お似合いすぎて泣きそうだ……」


セレンが静かに口を開く。


「……この場を借りて、報告がある。一つ目は、ゼイルが西方部隊、第3軍の軍団長に就任する」


その知らせに、兵は沸き立った。

第三軍は軍団長代理のレオント准将が中央に戻り、師団長だった二人が一緒に戻ってから、明確な将がいない状態で浮いていた。

それが、なじみのゼイル師団長が軍団長に昇格して就任する。

皆にとって思いがけないうれしい知らせだった。


「もう一つ…ゼイル・エステンと私、セレン・カリス・レオントは婚約した」


どよめく兵たち。

それを手で制し、セレンは続ける。


「式は、半年後だ。皆にも出席してほしい。中央から祝砲を撃つ許可も下りた。第三軍は、私の……家族だからな」


一瞬の沈黙。

それを破ったのは、ガロットだった。


「なーにをしおらしく言ってんだお前は! 式には全員来い! 飲み食いはこっち持ちだ! ゼイルが一晩働いて払う!」


「働かせすぎだ……!」


爆笑と拍手の渦が巻き起こる。

兵士たちの顔に笑みが満ち、互いに肩を叩き合う。


「セレン様に祝砲なんて撃てる機会、一生ないぞ!」「一発じゃ足りねえ!百発だ、百発!」

「俺たちの将が幸せになるってんなら、そりゃもう、国あげての祭りだろうよ!」


兵士たちは、あの地獄のような戦場で肩を並べた仲間。

死と隣り合わせの中で、指揮官として、そして命の預け先として信じてきたセレンとゼイルの未来に、

誰もが心からの拍手を贈った。


ゼイルはその光景を見て、握った手を少し強くしながら小さく呟いた。


「……こいつら、ほんと最高だな」


セレンは無表情のまま、少しだけ目を伏せる。

そして、指をほどかぬまま答えた。


「……お前たちが、よく育ててくれたからな」

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