女たち
戦が終わった――そう言われても、終わっていないものがそこには確かにあった。
武器を捨て、鎧を脱いだ男たちの背後で、ぼろ布のような姿で膝を抱えていた女たち。
肌を覆う傷。痩せ細った四肢。生気のない瞳。
解放されたというのに、誰一人として歓喜の声をあげなかった。
ただ、地べたに座り込み、膝を抱え、風に揺れる木の葉のようにわずかに身を揺らすだけ。
セレンは彼女たちの前にしゃがみこみ、静かに視線を合わせた。
自分の顔が、彼女たちの目にどう映るのかはわからない。
だが、彼女たちはセレンを見ようとはしなかった。
「もう、大丈夫」
小さくそう告げても、返事はない。
それでも、何か言わずにはいられなかった。
一人の少女の指先が、かすかに震えていた。
何も持たぬ手をぎゅっと握って、やっとの思いで声が出た。
「……殺された、と思ってた」
「みんな、死んだと思ってた。来てくれないって、思ってた」
嗚咽が堰を切ったように溢れ、セレンの胸にすがりついたその少女を、彼女はそっと抱きとめた。
そのとき――脳裏に、ふと、浮かんだのは“もし”という言葉だった。
(もし、私があのとき西の王に嫁いでいれば──)
この子たちは、こんな目に遭わずにすんだのかもしれない。
あの男の目が、私ひとりに向けられていたなら、彼女たちは玩具にされることもなかったのかもしれない。
だが、すぐに、別の考えがそれを打ち消した。
(……違う)
そうしていたら、私がこの目をしていたのだ。
髪をつかまれ、衣を裂かれ、心を殺され、魂を失って、
こうして誰かにすがることすらできないまま、
あの王の足元にすがりついていたのだ。
目の前の女たちは、私の代わりに、その地獄を味わったのかもしれない。
私が守れなかったすべての代償が、今この腕の中にいる彼女なのかもしれない。
そう思えば思うほど、胸が痛んだ。
抉られるような後悔と、怒りと、なにより哀しみ。
王族として正しい選択だったと、誰かは言うだろう。
将として、この国を守り抜いたと、讃えてくれる者もいるだろう。
だが、それでも、救えなかった命と、壊された心が、目の前にある。
セレンはその少女の頭に手を置き、ひとつだけ、はっきりと心に誓った。
(わたしは、もう二度と、誰にもこういう目をさせない)
──これは罪だ。わたしが背負うべき罪。
だからせめて、この腕の中では泣いてほしい。
自分が生きていることを、誰かに抱きとめられていることを、感じてほしい。
そうして、何度も、セレンは少女の背を撫でた。
すがる声が、涙が、胸元に染み込んでいくたびに、
彼女の中に刻まれるものがあった。
それは、将としての誓いではない。
準王族としての責任でもない。
ただ一人の人間として、誰かの痛みに寄り添いたいという願いだった。




