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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
38/57

女たち

戦が終わった――そう言われても、終わっていないものがそこには確かにあった。


武器を捨て、鎧を脱いだ男たちの背後で、ぼろ布のような姿で膝を抱えていた女たち。

肌を覆う傷。痩せ細った四肢。生気のない瞳。


解放されたというのに、誰一人として歓喜の声をあげなかった。

ただ、地べたに座り込み、膝を抱え、風に揺れる木の葉のようにわずかに身を揺らすだけ。


セレンは彼女たちの前にしゃがみこみ、静かに視線を合わせた。

自分の顔が、彼女たちの目にどう映るのかはわからない。

だが、彼女たちはセレンを見ようとはしなかった。


「もう、大丈夫」


小さくそう告げても、返事はない。

それでも、何か言わずにはいられなかった。


一人の少女の指先が、かすかに震えていた。

何も持たぬ手をぎゅっと握って、やっとの思いで声が出た。


「……殺された、と思ってた」

「みんな、死んだと思ってた。来てくれないって、思ってた」


嗚咽が堰を切ったように溢れ、セレンの胸にすがりついたその少女を、彼女はそっと抱きとめた。


そのとき――脳裏に、ふと、浮かんだのは“もし”という言葉だった。


(もし、私があのとき西の王に嫁いでいれば──)


この子たちは、こんな目に遭わずにすんだのかもしれない。

あの男の目が、私ひとりに向けられていたなら、彼女たちは玩具にされることもなかったのかもしれない。


だが、すぐに、別の考えがそれを打ち消した。


(……違う)


そうしていたら、私がこの目をしていたのだ。

髪をつかまれ、衣を裂かれ、心を殺され、魂を失って、

こうして誰かにすがることすらできないまま、

あの王の足元にすがりついていたのだ。


目の前の女たちは、私の代わりに、その地獄を味わったのかもしれない。

私が守れなかったすべての代償が、今この腕の中にいる彼女なのかもしれない。


そう思えば思うほど、胸が痛んだ。

抉られるような後悔と、怒りと、なにより哀しみ。


王族として正しい選択だったと、誰かは言うだろう。

将として、この国を守り抜いたと、讃えてくれる者もいるだろう。


だが、それでも、救えなかった命と、壊された心が、目の前にある。


セレンはその少女の頭に手を置き、ひとつだけ、はっきりと心に誓った。


(わたしは、もう二度と、誰にもこういう目をさせない)


──これは罪だ。わたしが背負うべき罪。


だからせめて、この腕の中では泣いてほしい。

自分が生きていることを、誰かに抱きとめられていることを、感じてほしい。


そうして、何度も、セレンは少女の背を撫でた。

すがる声が、涙が、胸元に染み込んでいくたびに、

彼女の中に刻まれるものがあった。


それは、将としての誓いではない。

準王族としての責任でもない。


ただ一人の人間として、誰かの痛みに寄り添いたいという願いだった。

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