決戦――午前、第1波動
陽はまだ低く、霧も晴れきらぬうち。
しかし、戦場はすでに熱を帯びていた。
その日は、風が強かった。
草原の上を駆け抜けるように、兵たちの緊張が連鎖していた。
「全軍、配置完了。陽動部隊、発進まで三分」
連絡兵が冷や汗を浮かべて報告しに来ると、セレンはただ一言返した。
「よし。予定通り進行。——行け」
その声と同時に、陽動部隊が前方の尾根を越えて進撃を開始した。
旗が揺れ、地面が震え、戦の始まりを告げる雷鳴のような咆哮があがる。
敵陣が即座に反応した。
「やはり、陣形の中央が薄い。王子が前に出ている証拠だ」
セレンは地図の上を指でなぞる。
「このまま中央突破を疑わせて……」
彼女の指先が止まった瞬間、爆音があがった。
「——始まったな」
それは、ゼイルだった。
彼は精鋭突撃部隊を率いて右翼から迂回し、敵の側面に取り付いていた。
戦旗は掲げられず、ただ音と閃光だけがその存在を告げていた。
敵軍の伝令が怒鳴りながら本陣に駆け込み、叫ぶ。
「側面からの奇襲!騎兵か、否、魔法部隊の突入だ!」
「違う、それは——“死神の剣”だ!」
怯えたようなその声に、敵軍の士気が一瞬揺らぐ。
「……冗談ではない……あれが噂の、第三軍の“剣”か……!」
空を裂く雷撃が走り、煙と砂塵の向こうから、疾駆する黒の影が姿を現した。
「突撃!止まるな、俺に続け!」
ゼイルの怒声が風を切る。剣を構えたその背には、彼の隊が続いていた。
最前線を駆けるその姿は、まさに死神の奔走だった。
敵兵の間に混乱が広がる。
伝令たちが命令を叫び、指揮官が怒号を飛ばすも、兵の足は鈍り始めていた。
「……敵、後退の兆しあり」
本陣にいた副官が呟くと、セレンはすぐにガロットへ連絡を飛ばした。
「第二波、投入。敵補給線、潰せ」
「了解!盾持ち前に!斧兵は右、隊形崩すなよ!」
ガロットの指示で第二部隊が動く。
ゼイルの突撃で混乱した敵の中後衛へ、重装兵が雪崩れ込むように突入する。
敵の陣はすでに半壊していた。
残るは、前方に出た王子率いる主戦力の部隊だけ——その背後に、今まさにセレンが迫っていた。
「敵本陣、視認。残るは一点突破だ」
彼女の声に、周囲の将兵が応じる。
「第三部、突入用意!支援魔導部隊、射線を確保しろ!」
「我ら、本陣突入部隊、展開!」
セレンの外套が風にひるがえり、銀の髪が光を受ける。
剣を抜いたその姿に、兵たちが一瞬、息をのんだ。
「……行くぞ。今日、この戦に終止符を打つ」
その一言が、戦場に響いた瞬間。
敵陣に向かって、第三波の嵐が放たれた。




