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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
35/57

決戦――当日の朝

薄く霧がかかる、灰色の夜明けだった。

戦地の空は、剣のような冷たさを帯びて静まり返り、遠くでは鳥の声ひとつさえ聞こえない。

風すら、息をひそめているかのようだった。


指揮本陣の幕舎前に、ゼイルとガロットが揃って立っていた。

どちらもすでに鎧を身につけ、剣と副装備の点検を終えている。

その顔に浮かぶのは、覚悟と気迫、そしてほんのわずかな緊張の色。


そこに、セレンが現れた。

濃紺の軍装の上に白の戦斗外套を羽織り、銀の髪を高く束ねた彼女は、まるで氷の剣の化身のようだった。


「おはようございます、准将殿」

ガロットが軽く肩をすくめて敬礼し、ゼイルもそれに続く。


「指揮官としての態度としては間違っていないが……敬意が軽い」


セレンは淡々と呟いたが、口調はどこか冗談めいていた。


「さて、決戦だ」


その言葉に、二人の目が鋭くなる。


「今日、西の国を降伏させる」


その一言は、まるで祝詞のようだった。

宣言ではなく、確信。

セレンの金の瞳が、二人を見すえる。


「ゼイル、突撃部隊を率いて本陣左翼へ回り込め。王子の帳中には精鋭が張り付いているはずだが、そいつらを引きつけて攪乱しろ」


「了解。時間は?」


「日の高いうちに動く。陽が中天に来る直前。陽動の支援が入る」


「……潰せばいいんだな?」


「正確には、“潰したように見せる”だけでいい。そこから先はガロットの部隊に任せる」


「任せられるような器かはわからねえけどな。了解」


ガロットがにやりと笑うと、セレンはわずかに頷いた。


「ガロット、おまえの部隊はゼイルが引きつけた敵の後衛を分断して、補給線を切れ。私は敵本陣を急襲する」


「また無茶なことを……一人で行くつもりか?」


「別動隊をつける。こちらの陽動が効いていれば、王子は前線に出てくる。そこで私が仕留める」


ゼイルが一歩前に出る。


「……セレナ。お前、自分が囮になるつもりか?」


「囮ではない。勝つための最適解を選ぶ。それだけだ」


即答するその言葉に、ゼイルはわずかに口を引き結ぶ。

それでも彼は何も言わず、ただ静かに頷いた。


「なら、守るさ。俺も、お前の勝利のために動く」


「任せろ。こっちの戦線も通す。道は、お前に通させる」


ガロットも続く。


セレンは、二人を見渡すように視線を巡らせた。

そして短く、言葉を発した。


「……期待している。二人とも、誰より信頼している」


それだけを残して、彼女は幕舎の奥へと去った。


その背を見送るゼイルとガロットの間に、しばしの沈黙。


やがて、ガロットがぽつりと呟く。


「……あの目、もう勝ち筋しか見えてねえな。マジで“今日、西を降す”つもりだ」


「言葉じゃない。あれは、やるつもりだ」


ゼイルが低く答える。


そして、ふたりの将は互いに頷き合うと、各隊のもとへと向かっていった。

決戦の時が、いままさに迫ろうとしていた。

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