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死神が下りた戦場で  作者: りん
本編
27/57

測れないふたり

──最初にこの部隊に策を下ろしたとき、やはり反発はあった。


そうなることは、最初から織り込み済みだった。

命令は命令でも、初動の抵抗は時間を浪費する。

だがその時間すら、私は計算に組み込んでいた。

本番に入れば、兵は動く。そうでなければ、ただの死だ。

死にたくなければ命令に従う──それが、戦場での常識だ。


だから、最初の反発に眉ひとつ動かすつもりはなかった。

またか、と溜め息をつきかけた、そのとき。


青い男が進み出た。

ゼイル。雷光の剣を持つその男は、部下たちを振り返ることもなく言った。


「俺が行く。ついてこい」


それだけ。

ただ、それだけの言葉だった。


そして、迷いもなく部隊を率いて、敵のど真ん中に突っ込んでいった。

指示通りの突入ルート、敵陣の布陣、脱出経路──

私の策を理解していた。そして信じて動いた。


こじ開けられた敵陣。

その速度、正確さ、そして──損耗、ゼロ。

驚くほど、何もなかった。まるで刃が紙を裂くようだった。


そしてその数拍後。

今度は大男が動いた。ガロット。

取り残された部隊をまとめあげて、突撃した。

それだけではない。進軍中に兵の不安を潰し、疲労を読み、配置を整えた。


あの場にいた兵の中で、あの突破を指示なしで実行できた者は──

間違いなく彼ら二人しかいなかった。


結果は、私の計算を上回った。

一・三倍の速度、予想外の進撃。

そして、あろうことか、損耗率ゼロ。


数名の死傷は許容し、すでに作戦には織り込んでいたのに。

それすらなかった。


…興味が湧いた。


なぜだ?

何がこの精密な計算を狂わせた?

なぜ、突入を選び、なぜ成功させられた?

この部隊と、それまでに率いてきた兵と、何が違う?


調べる過程で、名を覚えた。

ゼイルと、ガロット。


げらげら笑って飯を食い、兵士たちと共に鍛錬し、

しかし戦場では、先陣に立って部下を生かし、勝利を持ち帰る。

理屈ではない。「信頼」という、曖昧で不確かなものに支えられた力。


ゼイルは、特に厄介だった。

計算不能の存在。

勝率六割で組んだ策に、平気で十割の結果を出してきた。


南の丘の戦い──

あの拠点を潰すには、こちらも一つ犠牲を払う覚悟が要った。

私は、最悪、ゼイルの戦士としての命か、自分の腕を引き換えにする気でいた。

それでも得られるものがあるなら、安いものだとさえ思っていた。

さらに、私はある程度の損害を与えたら引き上げる気だった。


なのに。

ゼイルは無傷だった。


即死魔法、広域爆破魔法。

あらゆる手を使って、削る算段だった。

遠慮なく全力で打った。

それを、すべて回避した。

その上で敵の大将首を持ってきた。


冗談かと思った。

こいつ、本当に人間なのか、と。


それ以降、私は策の中に彼らの能力を組み込むようになった。

他の兵士とは明らかに能力が違う。だが、個人として扱うには兵数が足りない。

悩んでいたとき、気づいた。


周囲の兵の能力まで、上昇している。


知識としてはあった。

優れた将が兵を鼓舞することによって起こる上昇効果。

だがそれは、カリスマを備えた軍司令や将軍クラスの話だ。

まさか下士官で、ここまで効果が出るとは思わなかった。


ならば、と私は考えた。

ちょうど空いていたポストに、うまく彼らをはめ込んだ。

……いや、うまくやった、つもりだった。


だが、結果は想像以上だった。

作戦成功率は向上し、損耗率は激減した。

兵の練度が上がれば、戦術の完成度も上がる。

その分、策も通りやすくなった。


そして気づけば、私はあの二人の能力を基点に、作戦を構築していた。

部隊の強さにおいて、指揮官の存在がどれほど重要か──

初めて、数値として“理解”できた気がした。


ゼイル、ガロット。

お前たちがいたから、ここまで導けた。


私は兵をコマとして扱う。

それは変わらない。信念でもある。

だが、お前たちは、“使い勝手の良いコマ”という域を超えた。


私に、計算では測れない勝利を見せた。

それは、きっと──


……想定外という名の、希望だ。

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