測れないふたり
──最初にこの部隊に策を下ろしたとき、やはり反発はあった。
そうなることは、最初から織り込み済みだった。
命令は命令でも、初動の抵抗は時間を浪費する。
だがその時間すら、私は計算に組み込んでいた。
本番に入れば、兵は動く。そうでなければ、ただの死だ。
死にたくなければ命令に従う──それが、戦場での常識だ。
だから、最初の反発に眉ひとつ動かすつもりはなかった。
またか、と溜め息をつきかけた、そのとき。
青い男が進み出た。
ゼイル。雷光の剣を持つその男は、部下たちを振り返ることもなく言った。
「俺が行く。ついてこい」
それだけ。
ただ、それだけの言葉だった。
そして、迷いもなく部隊を率いて、敵のど真ん中に突っ込んでいった。
指示通りの突入ルート、敵陣の布陣、脱出経路──
私の策を理解していた。そして信じて動いた。
こじ開けられた敵陣。
その速度、正確さ、そして──損耗、ゼロ。
驚くほど、何もなかった。まるで刃が紙を裂くようだった。
そしてその数拍後。
今度は大男が動いた。ガロット。
取り残された部隊をまとめあげて、突撃した。
それだけではない。進軍中に兵の不安を潰し、疲労を読み、配置を整えた。
あの場にいた兵の中で、あの突破を指示なしで実行できた者は──
間違いなく彼ら二人しかいなかった。
結果は、私の計算を上回った。
一・三倍の速度、予想外の進撃。
そして、あろうことか、損耗率ゼロ。
数名の死傷は許容し、すでに作戦には織り込んでいたのに。
それすらなかった。
…興味が湧いた。
なぜだ?
何がこの精密な計算を狂わせた?
なぜ、突入を選び、なぜ成功させられた?
この部隊と、それまでに率いてきた兵と、何が違う?
調べる過程で、名を覚えた。
ゼイルと、ガロット。
げらげら笑って飯を食い、兵士たちと共に鍛錬し、
しかし戦場では、先陣に立って部下を生かし、勝利を持ち帰る。
理屈ではない。「信頼」という、曖昧で不確かなものに支えられた力。
ゼイルは、特に厄介だった。
計算不能の存在。
勝率六割で組んだ策に、平気で十割の結果を出してきた。
南の丘の戦い──
あの拠点を潰すには、こちらも一つ犠牲を払う覚悟が要った。
私は、最悪、ゼイルの戦士としての命か、自分の腕を引き換えにする気でいた。
それでも得られるものがあるなら、安いものだとさえ思っていた。
さらに、私はある程度の損害を与えたら引き上げる気だった。
なのに。
ゼイルは無傷だった。
即死魔法、広域爆破魔法。
あらゆる手を使って、削る算段だった。
遠慮なく全力で打った。
それを、すべて回避した。
その上で敵の大将首を持ってきた。
冗談かと思った。
こいつ、本当に人間なのか、と。
それ以降、私は策の中に彼らの能力を組み込むようになった。
他の兵士とは明らかに能力が違う。だが、個人として扱うには兵数が足りない。
悩んでいたとき、気づいた。
周囲の兵の能力まで、上昇している。
知識としてはあった。
優れた将が兵を鼓舞することによって起こる上昇効果。
だがそれは、カリスマを備えた軍司令や将軍クラスの話だ。
まさか下士官で、ここまで効果が出るとは思わなかった。
ならば、と私は考えた。
ちょうど空いていたポストに、うまく彼らをはめ込んだ。
……いや、うまくやった、つもりだった。
だが、結果は想像以上だった。
作戦成功率は向上し、損耗率は激減した。
兵の練度が上がれば、戦術の完成度も上がる。
その分、策も通りやすくなった。
そして気づけば、私はあの二人の能力を基点に、作戦を構築していた。
部隊の強さにおいて、指揮官の存在がどれほど重要か──
初めて、数値として“理解”できた気がした。
ゼイル、ガロット。
お前たちがいたから、ここまで導けた。
私は兵をコマとして扱う。
それは変わらない。信念でもある。
だが、お前たちは、“使い勝手の良いコマ”という域を超えた。
私に、計算では測れない勝利を見せた。
それは、きっと──
……想定外という名の、希望だ。




