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クロノワールド -再創-(Re:Creation)  作者: ゼロザム=ルーゴ
第壱章 戦士ノ活動録篇
6/23

第陸章 「水と熱」

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

土砂降りの真夜中の街中、仕事帰りの一人の会社員はブリーフケースの傘代わりにして人気の無い道を走っていた。

会社員A「おいおい!ふざけんじゃねぇ!今日は快晴って言ってたじゃねぇか!なんで土砂降りなんだよ!」

会社員は天気予報に対して文句を垂れていた。

その会社員はまだ若く、仕事歴はそんなに経っていなかった。一人暮らしで自身の生活の為に、育ててくれた家族の為に彼は夜遅くまで働いていた。

すると、会社員の耳にこんな言葉が聞こえてきた。

「あめあめふれふれかあさんが…」

それは童謡の『あめふり』にある歌詞であった。

しかもその声は幼子のものでは無く、渋い男性のものだった。

会社員A「なんだ?気味悪いな」

すぐにその声の主であろう姿が見えた。

紫の着物の上に黒の羽織を着込んでいて、頭に被った大きな笠帽子と片手に持った異常な程長い大太刀が特徴の黒の長髪の人であった。

会社員A(なんだアイツ?いいや、無視しよ。ああいうのは関わらないのが一番だ)

会社員はそう思いながら、笠帽子の男の横を通り過ぎようとした。

そして通り過ぎた次の瞬間、笠帽子の男は大太刀を引き抜き、即座に会社員の人を斬った。

会社員A「…え」

気付かぬまま会社員の身体は上半身と下半身が離れるように一刀両断され、そのまま地面に崩れ落ちた。

笠帽子の男は大太刀に付着した血を払い、鞘に収めた。

「…ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン」

そして、再びあめふりを歌い出したと同時に歩き出した。

その会社員の遺体が第三者に発見され、大事になるのはその笠帽子の男が居なくなった後の事であった。


時は過ぎて、場面は変わり、クロノス社の中庭にて朱色の頭髪をした青年 フレアは青空を見ていた。

「フレア、ここにいたか」

そんなフレアに呼びかける声が現れた。

その声の主は水色の髪と眼の容姿をした頑なで生真面目そうな雰囲気の男 アクアであった。

アクアの声にフレアは反応し、目を彼に向けた。

フレア「んだよ、兄貴か…」

呼ばれただけかと思ったのかフレアは面倒くさそうな様子で起き上がった。

アクア「なんだとはなんだ、隊長が呼んでいたぞ」

アクアはフレアにそう言う。

フレア「て事は依頼か…」

フレアはゆっくりと起き上がり、身体を伸ばした。

そして、フレアが隊長室へと向かう為に歩き始めた。

アクアはそのままフレアについて行った。

その移動の最中、フレアはアクアにこんな事を言い出した。

フレア「兄貴、今日、嫌な夢見てた。」

フレアは真剣な表情を浮かべていた。

アクア「…そうか」

アクアは何も動じず、正面を向いたままそう返す。

一見すると無関心そうに思うが、フレアの気持ちを汲み取っていた。ただ、それを表に出していなかったのだ。

アクア「また過去の事か?」

アクアはフレアにふとそう訊いた。

フレア「あぁ、そうだよ」

フレアは嫌な表情を浮かべながら片手で後頭部を掻いた。

フレア「真っ白な母さんに消えるクソ親父、んで馬鹿にしてくるアイツら…マジで嫌になる」

フレアは怒り心頭に思いながら夢の内容を話す。

それを聞いたアクアは黙り込んだ。

二人の間に沈黙が流れる。


アクアとフレアは双子であった。

そして、その二人の両親はかつての正義組織 シリウス社の戦士であった。

父親の名はバーニング、母親はスイレン。

組織内で二人は仲の良いカップルと言われていた。

やがて二人は結婚し、アクアとフレアという髪と眼の色、性格以外は瓜二つの二人の子供を授かった。

二人が産まれてからは楽しく賑やかな、ごく一般的な幸せな生活を送っていた。

勿論、戦士としての使命を果たし、それを全うした後でも

食卓を囲って一緒に食べたり、家でも外でも遊んだり、共に寝たり、何処かへと出かけたりと家族のように何気ない幸せな生活を送っていた。

そう、あの日までは…

突如として母親のスイレンが狂った。

昨日まで優しくて穏やかで、アクアとフレアにとって大好きな母親が獰猛となり、理性が無いと言わんばかりに雄叫びをあげていた。

家具や食器などを倒したり、投げたりとスイレンは暴れていた。

バーニング「おい!やめろ!」

スイレン「うああああああ!!あああああああ!!」

そんなスイレンをバーニングは取り押さえていた。

最初に襲われたのは彼であり、自室でスイレンと共に寝ていたところを両手で首を絞め始めた。

なんとかスイレンを払い除け、一階にあるリビングに移動して、スイレンの身柄を拘束していた。

バーニング「一体どうしちまったんだ!?しっかりしろ!スイレン!」

何故、スイレンがこんな風になったのかバーニングでさえも理解できなかった。

スイレン「あああああああ!!」

バーニング「マジかよ!?何処からそんな力…まさか!」

だが、取り押さえているのにそれが無意味と言わんばかりにスイレンは拘束を解いた。

その中でバーニングは何処か既視感があり、それがなんなのかを理解した。

スイレンは近くにあった包丁を手にし、それをバーニングに向けた。

アクア「か、母さん…?」

バーニング「アクア!フレア!」

その時、アクアとフレアがバーニングとスイレンがいるリビングに姿を現した。

スイレン「うがああああああ!!!」

スイレンはアクアとフレアを見つけると、躊躇無く一直線に襲いかかってきた。

アクア「母さんやめて!!」

フレア「兄ちゃんっ…!」

幼くなんの力も無い二人はその場で怯えるしかなかった。

バーニング「くっ…!」

バーニングはなんとか間に割って入り、包丁を片手で止めた。

バーニング「目ェ覚ませよ!!スイレン!!」

そして、もう片方の手を握り、その拳でスイレンを殴り飛ばした。

スイレンを止める為、息子のアクアとフレアを護る為に

バーニングはすぐさま病院に連絡を取り、スイレンはそのまま搬送されていった。

スイレンは死ぬ事無く、気絶していた為、命になんの別状も無かった。

それを聞いて安心するバーニングとアクアとフレア。

少しして、スイレンは目を覚ました。

アクア「母さん!」

フレア「母ちゃん!」

だが、その安心はすぐに消えた。

スイレンはバーニング達を見て、こんな事を言い出した。

スイレン「貴方達は誰?」

そう、スイレンは殴り飛ばした事により記憶障害を起こし、バーニング、アクア、フレアと家族に関する記憶を失ってしまったのだ。

バーニング「…おい、マジで……あぁ…なんてことを……」

バーニングは己自身がした行為を悔い、それによって招いた結果に絶望した。

アクアとフレアはあまりのショックな出来事に大泣した。

その後、バーニングは己の罪に耐えきれなかったことでアクアとフレアの前から行方をくらませた。

アクアとフレアはバーニングやスイレンと面識があった一人の戦士によって育てられた。


話は戻り、アクアとフレアは隊長室にたどり着き、その室内に入っていた。

未来「今回の依頼は雨の中で行う人斬りについて調査して欲しい。」

未来隊長はアクアとフレアに向けて依頼についての内容を話していた。

アクアとフレアは未来隊長から手渡された資料を見通していた。

アクア「昨日の夜にも起きていたのか」

フレア「あ?その時って普通に晴れてなかったっけ?」

ふと、ここでフレアが疑問に思った事を口にした。

そう、昨日は晴れていた。

アクア「場所によって天気は違う。それに天気予報はあくまで“予報”だ。確実に当たる訳では無い。」

だが、アクアは理由を提示しながらこれを否定した。

未来「何はともあれ、これは早急に解決した方がいい。今も尚、犠牲者は増えていく一方、なんとしてでも阻止しなければならない」

未来隊長はやけに真剣な表情でアクアとフレアに対して、迅速に依頼を終わらせる事に促した。

未来「頼んでくれるかい?」

未来隊長はアクアとフレアにそう訊いた。

アクア「了解しました!」

フレア「わかりました」

二人はそう返した。


それからアクアとフレアは昨夜に起きた殺人現場に訪れていた。そこはC市街地区。

遺体はCSFに回収されていて、あったところの地面にはチョークで人型の形をなぞられていた。

上半身と下半身に分かれるように真っ二つに斬られたからか、それは分断されていた。

そこを囲うようにバリケードテープで張り巡らされていたり、CSF隊員が周囲を警戒していたり、野次馬の侵入を阻止していた。

アクア「被害者は会社員の佐中(サナカ) (トオル)。死亡推定時刻は23:30で死因は斬殺が妥当。その他の人斬りも同じとして、犯人は同一のものだろう。」

アクアが事件に関する内容を述べていた。

それを聞きつつ、フレアの視線は写真へと向けた。

そこに映っていたのは雨で濡れ、暗くなった地面であった。

フレア「ビックリだ…本当に雨が降ってたんだ。しかも、土砂降りか」

フレアはここに来るまで半信半疑であったが、今この場で事実だと判明し、それを信じた。

アクア「土砂降り?何故それがわかる?」

アクアはフレアにそう訊いた。

フレア「これ、俺様の考察だけどよ…」

フレアは自身の考えを述べると、チョーク・アウトラインに近づき、しゃがんだままそれを見つめた。

フレア「“もし仮に”だが、俺様が犯人だとして、そんで雨が能力のもんだとしたら、獲物を逃さない為、凄い雨を降らせるな」

フレアは“もし仮に”という事を強調し、自分が犯人ならとしてそう話した。

アクア「そうか。なら、それは参考程度に留めておこう。まだ確証がないからな」

アクアはフレアの考えを聞いて納得していた。

その次の瞬間だった。

アクアの身体に冷たい何かが当たった。

それは空から降ってきたものであるとわかり、アクアは上空を見上げた。

アクア「なんだ?」

突如として雨が降り出した。

アクアとフレアは嫌な予感がしたのか、背中を合わせて辺りを見渡すように警戒しながら身構えていた。

フレア「なぁ、もしかしてだけどよ、兄貴」

アクア「あぁ、間違いない。雨降らしの人斬りが来るか!」

アクアとフレアは能力を発現させる。

アクアは全身に水を身に纏い、フレアは全身から高熱を発した。

アクアの能力は水、生成した水を操る事が可能な能力。

一方でフレアは熱、全身から熱を発する事が可能な能力である。

人斬りが現れ、攻撃が来るとそう思っていた。

だが、いきなり雨は止んだ。

フレア「なんだ?普通の雨か?」

フレアが気のせいかと思った時だった。

突如として悲鳴が街中を響かせた。

アクアとフレアは急いで悲鳴がした場所へと走り出した。

嫌な予感がする二人。しかし、それでもその足を止める事は無かった。

そうしてたどり着いたところ、二人はある光景を目にした。

アクア「遅かったか!」

なんとそれは胴体を深く斬られた一般市民であった。

アクア「もう少し早く動いていれば…!」

フレア「あの人斬り野郎は何処でも雨を降らせれるのか!?」

アクアは助けれなかったと悔しく思い、フレアは人斬りに関して驚いていた。

アクア「探すぞ!フレア!雨が能力だと想定するなら、そう遠くにいないはずだ!」

これまでの殺害にて現れた雨が能力のものであると理解したアクアはフレアにそう声をかけた。

まだ人斬りがいるという可能性を信じて

能力の使用範囲に限りがあるという事を考慮するなら

アクアは両手両足から水を放ち、飛行する。

フレアはそのまま一直線に走り、路地裏など細かいところを探し始めた。

アクア(何処だ?何処にいる!)

アクアは辺りを見わたす。

フレア(そう遠くにはいねぇはずだ…)

一方でフレアも人斬りを探していた。

フレア「…ん?」

すると、フレアの目に異様な姿の人を見つけた。

それは笠帽子の大男であった。

笠帽子の大男「かけましょ鞄を 母さんの…」

笠帽子の大男は童謡のあめふりを歌っていた。

フレア「テメェかァ!人斬りィィィ!」

フレアは笠帽子の大男を人斬りであると判断すると、そのまま接近し、拳を振るった。

笠帽子の大男「後からゆこゆこ鐘が鳴る…」

だが、笠帽子の大男は振り返り、鞘に納めたままの大太刀でフレアの攻撃を防いだ。

笠帽子の大男「…なんですか?一般人に攻撃するなんて酷いじゃないですか」

笠帽子の大男は殴りかかるフレアに対し、そう言った。

フレア「一般人だァ?そんな怪しい風貌に加えて、血の匂いなんざして何処が一般人だって言えるんだァ!?」

フレアは笠帽子の大男に対して理由や根拠を提示して、そう反論した。

笠帽子の大男はフレアを押し返した。

笠帽子の大男「なんだ、鼻が利くのか」

すると、笠帽子の大男は大太刀を引き抜いた。

フレア「あぁ、嘘だよ!」

突然、フレアはそんな事を言い出した。

笠帽子の大男「なんだと?」

フレア「けど、まんまと引っかかってくれてどーも!」

歯を見せるような笑みを浮かべたフレアは続けてそう言った。

そう、フレアは敢えて嘘をつき、笠帽子の大男を騙したのだ。

そして、フレアは全身に熱を纏ったまま笠帽子の大男に向かって一直線、そのまま走り出した。

笠帽子の大男「…あめあめふれふれかあさんが……」

笠帽子の大男 天闇笠(アマクラガサ)が童謡のあめふりを最初から歌い出した次の瞬間、勢いよく雨が降り出した。

フレア「やっぱテメェが雨降りの原因か!」

フレアは高熱を拳に収束させ、そのまま拳を天闇笠に振るった。

だが、天闇笠はその拳を難無く回避した。

それに続くように天闇笠は大太刀をフレアに目掛けて振り下ろした。

フレア「危ねぇ!」

フレアは大太刀から逃れるように下に伏せ、回し蹴りを繰り出す。

それにより天闇笠は体勢を崩した。

そのままフレアは大太刀を手にする。

フレア「げッ!?重ッッッ!!!」

だが、天闇笠の大太刀が尋常じゃない程の重さ故かフレアは動かす事すら出来なかった。

刃を下に向け、地面に着いた状態のままフレアは動けなかった。

そんなフレアに天闇笠が手と肩を掴んだ。

天闇笠「貴様、常闇眼(トコヤミノマナコ)を返せェッ!!!」

天闇笠は正気では無い眼でフレアを睨みながら大太刀の名前である 常闇眼を返すよう強く言い放った。

フレア「うるせぇ!シンプルに怖ぇんだよ!テメェ!」

フレアはそのまま天闇笠を振り払おうとする。

だが、体格差のせいかそれは無意味に終わる。

天闇笠「良いかラァッ!離せェ!!」

天闇笠はそのままフレアを投げ飛ばした。

そのまま路地裏に出てしまったフレアはなんとか無事に着地した。

フレア「クッソ!離れちまった!待て!」

フレアは天闇笠がいる方へと走り出した。

天闇笠「あめあめふれふれかあさんが…」

再び天闇笠が童謡を口ずさむと、それに呼応するかのように土砂降りの雨が降り出した。

フレア「クッソ!動けねェ!」

滝のように異常な雨勢からか、一気にずぶ濡れたフレアは動く事すら出来なかった。

天闇笠「かけましょ鞄を 母さんの…」(これ以上、面倒にならないよう、この場から退かねば…)

童謡を歌いながらこの場を去ろうとしていた。

「逃がすものか!」

だが、誰かがそうはさせんと言わんばかりの言葉を天闇笠にかけた。

天闇笠「何奴だ」

天闇笠は辺りを見渡す。

すると、天闇笠に勢いよく噴き出る水圧が襲いかかる。

天闇笠「くっ…!」

天闇笠はそのままフレアとは真反対の方へと吹き飛ばされ、路地裏から出てきてしまった。

水圧が迫ってきた路地裏からアクアが現れた。

そう、先程の声の主は彼であった。

天闇笠「貴様、あの朱いヤツと似ているな」

天闇笠は大太刀を構える。

アクア「双子でフレアの兄だからな」

アクアは右手に水を纏い、そこから水の刃を生成した。

天闇笠「貴様、名はなんと言う?」

すると、天闇笠はアクアに名を訊いた。

アクア「アクア、アクア・バーニング・ロットだ」

アクアはその質問に対してはっきりと答えた。

天闇笠「成程、アクアか…」

天闇笠はアクアの名を聞いて、何かを思った。

アクア「用は済んだか?行くぞ!」

すると、アクアは足にも水を纏い、そこからジェット機のように噴水し、天闇笠に急接近した。

そのままアクアは水の刃を天闇笠に対して振るった。

天闇笠は後ろに退きながら大太刀で水の刃を防ごうとした。

だが、水だからか大太刀の刃はすり抜け、天闇笠の笠帽子に斬られた後の傷跡が現れてしまった。

天闇笠「バーニング・ロット、まさか貴様ら、シリウス社の戦士のヤツか」

天闇笠は後退しながら大太刀で水の刃を防いでいた。

アクア「ッ…!だとしたらなんだ!」

アクアはその事について触れて欲しくないと言わんばかりに嫌な顔をし、続けて水の刃を振るった。

天闇笠「…嫌だったろうなぁ、嫌だったろうなぁ……アイツらの子として産まれて、嫌だったろうなぁ…」

天闇笠はアクアに嫌味を言った。

それは敢えての挑発であり、アクアを怒らさせ、攻撃を単調にし、相手を劣勢に立たせようとしていた。

だが、アクアは片足から水を勢いよく噴き出し、天闇笠の顔面に蹴りを入れた。

天闇笠の笠帽子は勢いよく地面に向かって飛んだ。

蹴られた箇所を抑えるように、その素顔を隠す為に、天闇笠はそこに手を添えた。

天闇笠「どうしてだ?…どうして?」

天闇笠はアクアの行動に予測が出来なかった。

アクア「…俺が、そんな安い挑発に乗ると思っていたか?」

アクアは怒りに満ちた表情で天闇笠を睨んでいた。

アクア「母さんが記憶喪失となって、父さんが罪悪感のあまり行方をくらました。」

すると、アクアはそんな事を言い出した。

一方で天闇笠はアクアの言葉を静かに聞いていた。

アクアの話は続いた。

アクア「その後の俺達は大変だった。フレアは父親の行方を探し、俺は今も尚母さんのお見舞いに行っている。勿論、学校にも行きながらだ。」

アクアは水の刃をしまい、拳に水を纏った。

アクア「そんなお前が父さんを…母さんをォ…!」

言われた悔しさから、その怒りから、アクアは瞬間的に水纏う足から噴水により動き出し、天闇笠に接近した。

アクア「うちの親を語るんじゃねェ!!」

そしてそのままアクアは巨大な水の拳を天闇笠に向けて放った。

天闇笠はそのまま吹き飛ばされる。

だが、なんとか体勢を立て直し、大太刀を地面に突き刺し、着地した。

その顔は片手で隠されたままであった。

天闇笠「親を語るなか…親……母さん…」

天闇笠は大太刀から手を離し、何かを思いながら頭を抱えた。

彼の脳裏に過ぎったのは幼き頃の記憶。

天闇笠の容姿は醜いそのものであった。

彼の脳裏に過ぎったのは幼き頃の記憶。

天闇笠の容姿は黒くて長い髪にどす黒く濁った紫色のジト眼が特徴の陰鬱なものであった。

その容姿を当時の人達は醜いという言葉を吐き捨て、彼を忌み嫌っていた。

それだけにとどまらず、天闇笠は暴力などを振るわれていた。

だが、そんな天闇笠を支えてくれる存在がいた。

それは彼の母親であった。

母は唯一、天闇笠を愛してくれる人であった。

母だけは天闇笠を嫌う事は無かった。

だが、そんな母は車による交通事故にあって死んだ。

それが引き金となり、天闇笠は精神が崩壊し、今のような人斬りとなった。

天闇笠「アクア、貴様は私と同じだ…」

すると、天闇笠はそんな事を言い出した。

アクア「何を言うか!」

当然、アクアはどういう事かとその意味を訊いた。

その時のアクアは警戒しており、身構えていた。

天闇笠「私と同じで貴様もこの世界の被害者だ…」

そう言うと、天闇笠は地面に突き刺さった大太刀を片手で引き抜いた。そして、忌み嫌われていたその醜悪な顔が顕となった。

天闇笠「理不尽という名の厄災に巻き込まれた。だから、楽に逝かせてやろう」

天闇笠はアクアに向けて大太刀を構えた。

アクア「それは出来ない」

しかし、アクアは天闇笠の発言を否定した。

アクア「何故なら…」

そのままの状態で話を続けるアクアの後ろから異常な程の熱を放ったフレアが姿を現した。

アクア「俺には大切な人がいる。」

アクアはそう答えた。

天闇笠は心の中で疑問に思う。

“何処にそれほどの熱を秘めていたのか?”と、

しかし、それはすぐに理解した。

天闇笠(雨か…将又それによる低気圧。こいつ…正気か?)

天闇笠はフレアの行動をあまりにも異常だと思い、困惑している。

フレア「テメェ、俺様が怖いのか?」

猫背のまま両腕をぶら下げたフレアが天闇笠に訊いた。

天闇笠「…だとしたらなんだ?」

天闇笠はフレアの質問を質問で返した。

すると、フレアは黒い笑いを出す。

フレア「いやぁ?訊いただけだ。今はただテメェを殺すッ!」

フレアがそう言った次の瞬間、素早く天闇笠に接近し、拳を振るった。

熱を帯びた拳は天闇笠の顔面に直撃し、勢いよく吹き飛ばされる。

殴られた箇所には火傷があり、醜いと言われていたその顔はより醜悪なものとなった。

天闇笠はその箇所を抑えるも、その手を少し離し、フレア達を睨んだ。

それは素顔を隠す事についての諦めたようにも火傷の痛みより憤りが勝ったようにも見えた。

天闇笠「小僧ッ!!」

天闇笠はフレアに接近し、大太刀を振るおうとした。

だが、アクアは拳から水の弾丸を放ち、天闇笠の攻撃を妨害した。

アクア「やらせはしない!」

アクアは天闇笠に向けて続けて水の弾丸を撃ちまくった。

天闇笠は大太刀で水の弾丸を打ち払った。

その隙を伺って、フレアは天闇笠の懐に入り、拳を振るって殴った。

防ごうとするも、時すでに遅く、天闇笠は攻撃を受けた。

それだけにとどまらず、迫り来る水の弾丸がフレアがいる方とは真反対に直撃した。

フレア「これで終わりだァッ!!」

フレアがもう片方の熱を帯びた拳を天闇笠の顎下に目掛けて放たれる。

天闇笠「クソッ!防ぎようが無いッ!」

このままではマズいと思うも、天闇笠には為す術など無かった。

そしてフレアの拳は下から来て、そのまま天闇笠の顎に直撃、そのまま突き上げた。

そのまま天闇笠は天高く吹き飛び、激しく地面に打ち付けられた。

天闇笠「…僕なら良いんだ…母さんの……大きな蛇の眼に…入ってく ピッチピッチチャップチャップ…ラン…ラン…ラン……」

天闇笠は雨降る曇り空に手を差し伸べながら童謡を歌う。

歌い終えた後、力尽きるかのように手が落ち、そのまま気を失った。

天闇笠を倒した事による影響だろう、空は晴れ、夕日が街並みを照らしていた。

雨に濡れたアクアとフレアは倒れる天闇笠を見つめていた。


それ以降、雨中に発生する人斬りは止んだ。

天闇笠は連行され、多くの罪無き人の命を奪った事で死刑となった。


アクア「フレア、大丈夫か?」

場面は変わり、クロノス社の医療室にて、アクアは雨によって風邪をひいたフレアの看病とお見舞いを行っていた。

アクアが歩み寄った先にはベットの上で安静にしているマスクをつけたフレアであった。

フレア「前よりは良くなってるけど、まだ気持ちわりぃ…」

フレアは少し弱々しい声で返した。

アクア「無理に雨に当たって、熱を高めるから」

アクアは呆れた様子でビニール袋からスポーツドリンクを出し、フレアに渡した。

フレア「あんがと…」

フレアはスポーツドリンクを手にすると、蓋を開けてそのまま飲んだ。

アクア「フレア、人斬りの件について訊いておきたい」

ふと、アクアがフレアにこう言った。

フレア「んだよ、いきなり」

フレアはなんだと思わんばかりの様子を見せ、上体を起こした。

アクア「あの時、人斬りは俺と同じだと言っていた。」

アクアは最初にこう言った。

フレアは何かを言う事無く、黙ったままであった。

アクア「犯罪者は荒んだ環境や周りに恵まれなかった事、つまりは環境的要因、外的要因のせいでなる事が多い。下手すりゃ、俺達でもそうなっていたかもしれない」

アクアの発言を聞いて、フレアは過去の記憶が過ぎる。

フレアが父親の行方を街の人達に訊いていく中、ゴロツキ共に絡まれた事があった。

ゴロツキは両親を、特に父親を侮辱したりしていた。

それに耐えきれなかったフレアは路地裏に連れられ、彼らをぶちのめした。

トドメをさそうとしたところ、仲間になる一人 牙禅に止められた。

あの時のフレアは彼らを許さず、殺してやろうかと思っていた。

しかし、今思うのはもし牙禅が止めてくれなければ取り返しのつかない事になっていたのだろうというものであった。

アクア「こうは言ってもどうしようも無いだろうが、彼も被害者だ。死刑になるべきなのだろうか?」

アクアは自身の迷いをフレアに明かした。

天闇笠をアクア自身に照らし合わせ、その姿を重ねていた。

多少の罪悪感をアクアは感じていた。

すると、フレアの口が開いた。

フレア「んじゃあさ、殺した人達はどーすんのさ?」

フレアのその言葉にアクアは我に返る。

フレアはそのまま話を続けた。

フレア「それが正しけりゃよ、人斬りのヤツと言い、犯罪者の人達は可哀想だ。けどよ、だからって人殺しとか犯罪行為を許していいかって言ったらそうじゃねぇと思うけどな」

フレアはアクアから天井へと視線を向けた。

フレア「気持ちとしてはわからなくもねぇけどさ…」

そして、そう呟いた。

アクア「…そうだったな、俺達は戦士だ」

アクアは窓に歩み寄り、それを開けた。

網戸を張り終えると、フレアの方へと向き直る。

アクア「人々を護るのが使命、そして、父さんと母さんが歩んだ道。」

迷いが晴れたからか微笑みを浮かべていたアクアはそう言った。

アクア「じゃあ、俺は母さんの見舞いに行く。早く治しておけよ」

アクアはフレアにそう告げると、医療室から去っていった。

フレア「…なぁ、親父。今何処にいんだよ」

アクアを見送ったフレアはふとそう呟いた。


人気の多い街中。

それを高層ビルの屋上から見下ろすように眺める男がいた。

ラグナ「随分といるなァ、んじゃ…」

ラグナは片手で赤いエネルギー弾を生成し、それを人混みに向ける。

ラグナ「おっぱじめるか!」

ラグナはそのままエネルギー弾を放った。

エネルギー弾は人混みに直撃し、それは大きく膨らむとすぐさまに、勢いよく爆破した。

エネルギー弾に直撃した人達、その爆破に巻き込まれた人達は屍となり、道に横たわった。

ラグナは高層ビルから飛び降りる。

死体の山のおかげか、死ぬ以前に骨折といった負傷をする事無く、無事に着地した。

ラグナ「さぁ!来いよ!!クロノスの戦士ィッ!!」

ラグナは大声で戦士達の事を叫んだ後、仮面越しに大笑いした。

次回 第漆話 「爆撃斬り裂く刃」

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