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第伍拾壱話 「全ては…」

この物語はフィクションです。

実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

ウェルギリウスの意識が戻る。機械であるはずの自分が気を失っていた事に気が付く。

微かにノイズが走るレンズが目先の光景を映す。

そこには二人…メビウスとブラットが立っていた。しかし、ゼウス…否、ユダの姿は見当たらない。

時空竜と一体化したままのメビウスが一息つく。

メビウス「結果オーライだね、ブラット」

ユダの野望を討ち滅ぼしたと呟いた事で、失われていた記憶が蘇る。

それはいつも通りに業務をこなしている中、見知らぬ人物に声をかけられた途端、意識を失った事だった。

ウェルギリウス (そうか、私は…)

微かにレンズが黄色く光り出す…自分が何者かを思い出したのだ。

ブラット「何が結果オーライだ、幾らなんでもリスキーだったぞ」

溜息混じりに文句…いや、正論を言う。もう少し何とかなれたはずだと諭す。

しかし、メビウスはウェルギリウスに近付き、その場でしゃがむ。

ブラット「聞いているのか?」

彼の態度に不信感を募らせ、顔を顰める。

メビウス「聞いてるよ。それに、こうでもしないと救い出せなかったからさ」

地に転がるウェルギリウスに触れた。

ウェルギリウス「え?」

突然の行動に戸惑う。

装甲の上に浮かんだ時計の刻印…その針が遡る。すると、黄色い光は粒子が現れ、外へと流れていく。

一箇所へ集う粒子は人の姿を象り、その風貌が顕となる。

白い全身…その顔に浮かぶ眼は黄色く光っていた。腰に靡くマントなど、明らかに異形だが、何処か神々しい。

ウェルギリウス「私は…?」

戸惑いながら顔に触れる。確かな感触…機械のように硬くも、冷たくもない。

ブラット「巻き戻したのか」

メビウスの目論見がわかった。

時空竜と一体化していた姿が元のものへと戻る。

メビウス「うん、機械にしては人間っぽかったからね」

これまでの話し方、雰囲気や信念などから勘づいていた。しかし、時空竜については奇跡…それはブラットの中では変わっていない。

ブラット「もし、時空竜とやらの力に目覚めなかった場合、どうするつもりだったんだ?」

頭の中にあった不満と疑問を投げかける。

メビウス「それは俺も思ってたんだけどね…」

なんとも聞くに絶えない言葉だが、何やら含みがある言い方にブラットは違和感を覚えた。

ブラット「どういう事だ?」

まるでメビウスでさえ信じ難い様子だ。

ゼウス「言い争っている中、水を差すようで恐縮ですが、よろしいですか?」

そんな二人の間に割り込むゼウス、彼の言葉を聞いたメビウスとブラットの顔を向ける。

メビウス「どうしたの?」

首を傾げながら用件を訊ねた。

ゼウス「今回の一件について感謝を述べたくて」

端的に答える。二人に向ける眼差しは感謝の念が込められており、なんとも真摯な姿勢だ。

メビウス「なんも、戦士として当然の事をしたまでだからね。未来隊長から引き受けた指令だし」

頭を下げなくていいと明るい声色で促す。

ブラット「隊長から?」

メビウスの発言に引っかかった。

メビウス「ん?」

その呟きを耳にして、ブラットへと顔を向ける。

ブラット「俺も隊長から命令を受けた、“時空ノ華を目覚めさせるな、その為にメビウスを連れ戻してこい”と…」

唖然としながら事実を述べていく。

この場面で嘘をつく訳が無い…ブラットの人物像からメビウスは読み取る。仮に嘘だとしても反応からして違う。

メビウス「未来隊長、そんな事言ってたんだ…」

意外と思い、呟く。ブラットから告げられた事実は、いつもの未来隊長からは考えられないものだった。

ブラット「…やはり、その様子からして何か知っているようだな」

赤い瞳が静かにメビウスを見据える。彼の反応からそう判断した。

メビウス「んー…説明が難しいけれど……」

顎に手を添える。ブラット達に伝わるように、言葉を整理していく…


時は遡って、クロノス社

マスターダークの討滅として全ての戦士が準備に取り掛かる頃、メビウスは未来隊長から話を聞いていた。

メビウス「明白世界?」

椅子に腰掛ける彼を前にして、訝しむ。

未来隊長「これも内緒でね」

念を押してお願いする。いつも通り明るく親しい雰囲気だが、大きな責任感のようなものを抱えているようで、それをメビウスは感じ取った。

未来隊長「ネオヘリオスの刺客が明白世界…つまりは、あの世にいるんだ」

話すはユダについて、既に明白世界について知っていたのだ。

メビウス「そいつを叩き潰す…って事でいいの?」

その問いに未来隊長は頭を縦に振る。

ネオヘリオスとは何か?…気になる事は多々あるが、今やるべき事と未来隊長の事情は把握していた。

全て覚悟の上だ…ただ一つを除いて

メビウス「…え?俺、死ぬの?嫌過ぎるんだけど」

当然の反応だ。誰だって躊躇うだろう

しかし、疑問と不安を晴らそうと未来隊長は次にこう言った。

未来隊長「大丈夫、君は戻ってこれる」

意味ありげな言葉、メビウスは眉を顰める。

未来隊長「いずれわかるよ」

嘘でも冗談でも無い。また新たな謎が残るが、今は決戦に向けて準備する事にした。

あれはメビウスが電子生命体というのを知っての発言だったのだ。


現在に戻る。メビウスの説明を聞いたブラットが理解した。

ブラット「見越していた、と言わんばかりだな…」

だが、未来隊長については謎が深まる一方…

何故、メビウスを単独で行動させたのか?そもそも何者なのか?

メビウス「きっと説明が難しいんだよね。昔から事情あって、使命を背負っているっていうか…」

難しい顔で唸りながら顎に手を添える。なんとも言語化しづらいものだった。

ブラット「使命だと?」

メビウス「うん、それも宇宙を揺るがす程の規模で…」

言葉を交わす中、メビウスが思い出した様子でゼウスへと顔を向ける。

メビウス「ねぇ、ゼウスさん」

ゼウス「はい?」

訊ねられた事でゼウスは首を傾げる。

メビウス「感謝代わりに頼みたい事があるんだ」

優しいが、何処か真剣な声色だ。ゼウスに近付いて、耳打ちした。告げられた要求に見開いた目をメビウスへと遣る。

ゼウス「…わかりました」

それを聞いたメビウスは安堵して微笑む。そのままゼウスから離れた。

メビウス「さーて、ブラット!一緒に行こうか!」

前に伸ばした両腕を交差して、手に握る時空竜の石を打ち合わせた。

すると、目の前に緑に光る時計の刻印が浮かんだ。それは各世界を巡ってきた青い亀裂と同じワープゲートである。

ゼウス「メビウスさん、ブラットさん」

メビウスが一歩前に出る前に声をかけた。足を止めたメビウスと突っ立っていたブラットがゼウスへと振り向く。

ゼウス「ご武運を…」

告げるは祈り…向ける瞳には心配と信頼が宿っていた。それを聞いたメビウスは微笑む。

メビウス「あんがとう!!」

ゼウスに感謝すると、片手でブラットを押す。

ブラット「なっ…!?」

まさかの行動に目を見開きながら時計の刻印に入り、この世界から飛び立つ。すかさずメビウスも通り抜けて、時空を飛び越える。

時計の刻印は一瞬にして閉じた…その事象を含めて、ゼウスは二人を見送った。


場面は変わって、薄暗い玉座の間…

黒い内装に白く光る線が照明として機能している。広々とした空間に置かれた玉座には神皇ヘリオスが腰掛けていた。そんな彼の背後には巨大なリングのオブジェが聳え立つ。

ヘイラ「申し訳ありません、神皇様。私の部下がとんだ失態を…」

ヘリオスの前で跪きながら申し上げる。

ユダが死んだ事、それによる計画の失敗…全ての責任を負っていた。申し訳なく思っていた。

ヘリオス「気に病む事は無い、ヘイラ」

仮面のモノアイがヘイラを見据える。

ヘリオス「暗黒世界も含めて、全て余興でしかない」

赤く光る…無機質のように冷たいが、何処か優しさや温もりが込められていた。

ヘリオス「我らの計画は未だ、終わらない」

慈悲深く、ヘイラを赦す。

ヘイラ「有り難きお言葉、感謝致します…」

崇めるべき者の声を聞いて、頭を垂れる。

地面と向き合う顔は微笑む。瞼を閉じながら、嬉しさを噛み締めていた。

「相変わらずお優しいんだねぇ、神皇様は」

二人に近付く異形の影、嘲笑う声が空間に木霊する。

横へ向いた先には黒い肉体に三本の角、双頭の龍がマフラーとして首に巻かれていた。

「感謝しなきゃだね?ヘイラ」

顔には鋭利な牙が並び、紫色の大きな口が不気味なまでに笑う。

嘲笑う少年の声…それがヘイラの逆鱗に触れ、彼女の手が前に突き出される。

刹那、黄色く光る数多の矢が異形の影を包囲するように突きつけられた。全ての鏃に確実な殺意が込められている。

ヘイラ「貴様とて言えた口では無いはずだ!ヴェノム!」

整った美しい顔は鬼の形相を浮かべ、異形の怪物 ヴェノムを睨みつけた。

ヴェノム「あー、あの暗黒の創造主のことね」

だが、未だ嗤う。肩を竦めて、腰に手を置く。

すると、口の中から紫色の眼球が覗いた。瞳はヘイラを捉えている。

ヴェノム「アイツは良い道化だったよ、本当に」

変わらずの声色…反省は無い、全て上手くやってくれたという表れか

二つの龍の口から黒い瘴気が溢れ、足元の大地を蝕む。だが、矢の光はまだ途絶えていない。

火花散らす二人を見据えるヘリオスが溜息をつく。

ヘリオス「そこまでにしておけ ヘイラ、ヴェノム…」

威厳を崩さずに命ずる。全身から赤い光が帯びた黒いオーラが立ち上り、モノアイの光が強まった。

直後、二人に身の毛のよだつ恐怖が走る。

底無しの闇に押し潰される…身の危険を感じた二人がすかさず能力を解く。

ヘイラ「申し訳ありません!神皇様…!」

急いでヘリオスに跪き、無礼を詫びた。

一方のヴェノムは悪びれずに、いけしゃあしゃあと振る舞う。ヘリオスのオーラに触れて、敵わないと思い知るが、策を弄する。

ヘリオスが玉座から起き上がると、二人の間を通り過ぎるようにして、向こうへと歩き出す。

ヘイラ「神皇様?何処へ?」

心配そうな声で訊く、まだ機嫌が悪いと思ったからだ。

平然とするヴェノムもヘリオスを見ていた。

ヘリオス「裁きをくだす」

全身から立ち上るオーラが包み込み、姿を消す。

たった一言…それだけで為す事を理解した。


王都が聳える世界に、先程の悍ましいオーラが出現する。開くと、ヘリオスが現れて、この地に降り立った。

直後、周囲にいた者達が戦慄して、振り向く。

「だ、誰だ!?」

「なんとも不気味な…!!」

誰もがトーガという服を身に纏っていた。宿る能力を発現させて、身構える。

ヘリオスのオーラは底知れず、彼らの精神を確実にすり減らす。だが、決して目を逸らさない。

ヘリオス「人は未知を恐れ、嫌悪する」

平然としたまま、片手を前に翳す。オーラは掌に集束して、一つの球となる。

それを掴んだ刹那、光弾は鍔の無い、出刃包丁のような大剣へと成す。黒い刃が赤く光る。

ヘリオス「旧世界よ」

握り締めた柄を下ろした事で刃が地に傾く。

モノアイが正面を見据えた、まるで睨むように

ヘリオス「我らが築く新世界の礎となれ…!」

地面を蹴り上げて突き進む。

次の刹那、この場にいる者達の殺戮を始めた。容易く振るう刃は確実に彼らの命脈を断ち斬る。


同時刻、メビウスとブラットも同じ世界へと到着した。人気の無い草原にそよ風が吹く。

ブラット「事情はわかったが、これからどうするつもりだ?」

隣のメビウスに顔を向ける。

ここに来るまでの間、未来隊長について聞いた。その上でどう動くかを訊く。

メビウス「ま、調べものだよ」

リラックスした様子で一歩前へと踏み出す。正面を向く目が鋭くなる。

ブラットもそこを見た途端、大きく目を見開いた。王都から煙が立ち上っていたのだ。その上空には巨大な主砲が聳える機械と一体化した島が浮かんでいた。

ブラッド「あれが…」

一瞬、幻覚を疑うが、現実だと認識を改める。

メビウス「んじゃ、行こうか」

立ち止まず、突き進んだ。この目で確かめる為に

ブラッド「あぁ」

それは彼も同じ、すかさずメビウスの後に続いた。

明白世界篇 完

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