第伍拾話 「∞、時空(トキ)を超えて」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
あまりの眩しさに目を瞑るメビウス…ゆっくりと目を開くと、灰色に染まった街並みが広がっていた。
人や鳥、車が不自然に止まり、空間の所々に黄色と緑で彩られた時計の刻印が浮かんでいる。
メビウス「ここは?一体…」
車道の真ん中で立ち尽くしたまま辺りを見渡す。数多の世界を巡ってきた彼でさえも戸惑いを隠せない。
時空竜「オレの世界だ」
空間内に声が木霊し、メビウスが正面を向く。
遠くにある一段と大きい時計の刻印が光り出すと、空間を突き破って、時空竜が姿を現した。
緑と黄色のオッドアイ、灰色の鱗に覆う巨大な竜。
激龍神 アストが東洋の龍ならば、時空竜は西洋の竜…宙に浮かぶ四足と、広げる両翼に刻まれた時計の刻印が緑と黄色に光っている。
時空竜「よう、見てたぜ…」
大地に立つメビウスを見下ろす。
メビウス「何時から?」
問いを耳にした時空竜は四つの足で大気を踏み締めながら、階段を下りるようにしてメビウスの前まで来た。
時空竜「ずっと…遥か昔からだ。貴様の生き様には興味があった」
どうやら、人ならざる者…メビウスの意志に興味と感心を抱いていたようだ。
メビウス「成程ね…」
にわかには信じ難いが、嘘では無いと読み取る。声色や落ち着いた振る舞いからそう判断した。
時空竜「今度はこちらから問おう…」
巨体が伏せて、長い首を下ろす。その瞳がメビウスを映す。
時空竜「貴様はオレと契りを交わす…今一度、その意志を訊きたい」
要約すると、激龍を扱う剣のようにメビウスも時空竜の力を使うが、何の為に行使するか?というもの
改めて、当の本人に訊ねたのだ。
時空竜の言葉を聞いたメビウスが口を開く。
その時、赤子だった自分をエメラが助け出してくれた記憶が脳裏に過ぎる。
メビウス「あの時、父さんは兄さんに何かを伝えていた…」
小声なので聞こえなかったが、確かに見た。時空竜は何も言わずに話を聞く。
メビウス「俺は俺だから、相手がどう思っているのかなんてわからない…」
自分の拳を見つめながら、それを強く握り締める。
メビウス「でも、生きて欲しかったんだと思う。何がなんでも…それが父さんと母さん、兄さんに姉さんの意志だって言うなら…」
真剣な目付きとなって、正面を向く。緑の瞳には時空竜が映っていた。
メビウス「俺は生きる、生きて戦う。戦士として、俺として!」
真っ直ぐな意志が表れる。それを聞いた時空竜が静かに微笑む。
時空竜「ならば、オレと契りを交わせ!」
翼を羽ばたかせて、空高く舞う。
メビウスから離れたかと思いきや、引き返す。目にも止まらぬ速さで巨体が突っ込んできた。
メビウス「えっ!?ちょっ!?」
想定外の事態に戸惑うが、目の前に時計の刻印が現れる。
刹那、それに時空竜が入った。消えた…否、メビウスの中に宿ったのだ。
走る衝撃と共にこれまでに無い感覚が襲う。数多の時が異常な速さでメビウスの中へと流れ込んでくる。
長く感じた一瞬が終わり、奇妙な感覚から解放された。
現実へと戻り、暗黒世界
光が鎮まり、そこからメビウスが現れる。
サタン (選ばれた、か…)
光の中で起こった事を既に察知していた。よく見ると、メビウスの両手には丸い石が握っていた。
メビウス「サタンさん…」
決意の籠った声で呼び、サタンの方へと顔を向ける。
メビウス「行ってきます…!!」
見届けてくれと静かに微笑んだ直後、真剣な表情へと変わった。
両腕を前に突き出し、交差しながら両手の石を打ち付ける。
綺麗な音と共に時計の音が鳴り響き、メビウスの周りに時計の刻印が囲うようにして現れた。
姿が変わる…白の装飾を持つ銀の甲冑を纏い、腰のマントが靡く。
両翼が生えて、大きく広げる。背中から竜の尾が伸びたなどその姿は時空竜と酷似していた。また髪は灰色に染まり、目は黄色と緑のオッドアイとなった。
時空竜と一体化したメビウスをサタンに見せた直後、翼を羽ばたかせながら空高く飛ぶ。
サタン「今の彼なら、出来るか……」
小さくなっていくメビウスを見届ける。落ち着きのある声色とは裏腹に驚きが隠せなかった。
何故、メビウスが時空竜の石を持っていたのか?
それは恐らく骸の中にムゲンなどの身内がいたのだとサタンは考える。だが、立てた推察は紛れもない事実だった。
サタン「此処に留まらなければならない、俺の代わりに…」
含みのある言葉…それは自分が暗黒世界の閻魔だからというもの、明白世界へと行く事はできない意味であった。
明白世界へと向かうメビウス…上昇する肉体が通過する度に、周囲の黒い空間は白へと変わっていく。
その速さは光をも超えていた。
メビウス「待ってな!ブラット!今、助けに行く…!!」
そんな意志によるものか、一気に加速して姿を消す。否、目にも止まらぬ速さで飛び立ったのだ。
その頃、ブラットは…
ブラット「ぐっ…!!」
時空ノ華の根に薙ぎ払われた事で、瓦礫に背中を打ち付けた。
気付けば重傷を負っており、指一本すら動かせない。コートの中にあった輸血パックも空だ。体内の血液も使えるが、今のままでは貧血などで命を落とす可能性がある。
ブラット「クッソ…!」
荒い呼吸を繰り返して、時空ノ華を睨みつける。
力すら入らない…抗う術が無かった。
ユダ「全てが無駄に終わったな!カテドラル直属の戦士!!」
赤い瞳に映す華から声が木霊する。発言からしてブラット知っているようだ。
ブラット「知っているのか?俺の事を…」
まだ意志は折れていない…苦しそうな声で訊く。
ユダ「冥土の土産に教えてやってもいいだろう…」
失言に気付くが、どの道ブラットを仕留めるので問題無いと判断して、告げる事にした。
ユダ「我らは新世界を築き上げる為、旧世界を滅ぼす。全ては神皇の意志のままに」
その内容は一切理解を拒むものだ。
ブラット「何を、言っている…?」
当然の反応、言葉の意図について訊ねる。
ユダ「貴様らの中に我らが同胞がいるという事だ」
まさかの発言、正義組織の中に裏切り者がいると告げた。ユダの言葉にブラットは目を見開き、嘘では無いと読み取る。
ユダ「茶番もここまでだ…永劫、時の中を彷徨うがいい!!」
全ての白い根をブラットに突き出す。
死を悟ってか諦めかけた…根の先端が目前にまで迫った…その時だった。
伸びる根を黄色と緑の閃光がすり抜けるように走った。奇妙な事に一瞬にして根が已の所で止まる。
次の刹那、長大な根が斬り落とされ、奈落の底へと消えていった。
ユダ「なっ!?」
まさかの事態に驚愕する。それはブラットも同じだ。
ブラッド「今のは…?」
見た事のない能力…誰の仕業だと疑問を抱くが、赤い瞳に映った人物で確信した。
メビウス「待たせたな…」
ブラットの前に降り立つ。両翼を羽ばたかせて、手にする薙刀を肩に置く。
メビウス「ヒーローのご帰還だ!」
歯を見せる様な笑み…姿や雰囲気は異なれど、目の前にいる人物がメビウスだとブラットは確信する。
ブラット「主役は遅れてくる、か…馬鹿らしい」
くだらないと突っ撥ねるように呟く。だが、満更でも無い…それどころか安堵ゆえに微笑んだ。
振り向きながらブラットを見つめるメビウスが微笑み返す。すると、再び正面を向いて、真剣な表情へと切り替えた。
ユダ「時空竜、だと…!?」
時空竜の力に目覚めてしまった事が信じられず…焦りと仕留めきれなかったという悔しさが渦巻く。
ユダ「馬鹿な…!貴様如きに…!確かにこの手で始末したはず…!!」
だが、今は再び息の根を止めなければ…と決断する。
メビウス「誤算だったね、完全に」
時空ノ華を見据える目には確固たる意志が宿っていた。
ユダ「なんだと?」
自身の計画に狂いは無い…全て完璧だ。それを何も知らないメビウスに口出しされて、少し苛立つ。
メビウス「アンタの計画は凄かった…けど、俺を人間として見たのが間違いだったね」
自分が人でなければ、野望は果たされていただろう…
メビウス「それに、親父がくれたんだ…」
言葉を紡ぐ、ユダの計画が瓦解した理由を述べていく。
メビウス「前へと進む、希望を…!!」
確固たる意志を表そうと声を張り上げた。今を拒むユダとは対照的だ。過去と向き合っている。
ユダ「ほざけ!人間風情が!!」
斬り落とされた根を再生させて、一斉にメビウスへと突き出した。
手にする薙刀…灰色の柄を握り締め、金色の刃で薙ぎ払う。それは全ての根を斬り裂く。
メビウス「行くよ!時空竜!!」
両翼を強く羽ばたかせた刹那、光より速く飛翔しながら時空ノ華の周りを回り出す。
ユダ「おのれちょこまかと!!!!」
全方位に根を突き出して、周囲に張り巡らせていく。確実に仕留めようとするが、全て空を切る。
それどころか根が斬られていく。メビウスは再びブラットの近くに降り立つ。
ブラット (メビウス?)
メビウスの意図が読めない…彼の顔を見ようと面を上げる。
メビウス「さーて…!!」
薙刀の石突が地面を突くと、緑と黄色の光が波紋として空間に広がった。
次の刹那、時空ノ華が呼び寄せた物全てが同じ色の光に包まれ、浮かんでいく。
ユダとブラットが目の前の事象に驚愕する。
メビウス「在るべき時空へと帰れ!!」
声を張り上げて、命じた。すると、全ての万象が光と共に消える。元の時代・世界へと帰ったのだ。
同時に光の波は明白世界に開く裂け目を全て閉ざした。
ブラット「これが、時空竜の…!」
次元が違う…驚きを通り越して唖然とする。
ユダ「神にでもなったつもりかぁ!ヒカリノ メビウスゥゥゥゥゥ!!」
二度斬られた根を再生させて、再び空間に裂け目を生む。
そこから数多のミサイルが現れ、一直線にメビウスへと近付く。
メビウス「神?違うね…!」
両翼を羽ばたかせた刹那、かつてない速さで飛翔した。ミサイルの合間を掻い潜りながら薙刀で斬り付ける。
気が付けば、メビウスは時空ノ華の間合いに入っていた。
直後、遠く離れたミサイルが爆発を起こす。それらは誘爆を起こして、全てのミサイルが灰燼に帰す。メビウスは爆発するまでの時間を遅らせたのだ。
メビウス「俺は俺、時空竜は時空竜だ!」
ユダに決意の眼差しを向ける。
ユダ「思い上がるなぁぁ!」
怒りに駆られ、時空ノ華の根を鞭の如く振り下ろす。しかし、空気を切る…目掛けた先にメビウスはいなかった。
次の刹那、時空ノ華の周りを数多の時計の刻印が囲う。そこから時空竜と一体化したメビウスが召喚され、閉じていた目を開ける。
ユダ「なんだこれは!?」
目の前の事象に理解が追いつかない。
メビウス「今度はこっちの番だ!いくぞ!!」
数多の時空から呼び寄せたメビウス達が薙刀を握り締めて、時空ノ華を翻弄しようと飛び回る。
ユダ「数で押し切ろうなどと!」
花弁の上にある白い光弾から光線を放つ。
数多のメビウスを焼き払うつもりだったが、光をも超える速さにより全て避けられた。
メビウス「遅い!!」
軌道を変えて、時空ノ華へと突っ込む。
飛行するメビウスは緑と黄色に重なる閃光となり、薙刀の穂先を翳す。
刹那、数多の光は時空ノ華を幾度となく貫いた。
ユダ「クソッ!!コイツらっ!!」
ちょこまかと飛び回るメビウス達を鬱陶しく思うも、為す術も無い。
聳え立つ時空ノ華が斬られていく中、本物のメビウスがヤツの上空に現れる。薙刀を突き立てながら中心にあるドーム状の結界へと降下する。
すると、メビウスの身体は水中に沈むようにして侵入した。
無事に着地する。片膝で立つ身体を起こすと、突き刺さった薙刀を引き抜いた。
正面にいるユダを見据える。時空ノ華と一体化した彼の下半身は木のように根を張り、地面と繋がっている。
ユダ「何故、貴様は私の邪魔をする…!ヒカリノ メビウス!」
俯いていた顔が正面を向く。
かつてゼウスに化けていた時の美しさなどなく、醜悪な顔がそこにあった。
ユダ「元より貴様は死んだ存在!人ならざるもの!そして、孤独なるもの!護る意義などある訳が…!!」
何の為に戦い、何の為に生きるのか?…ユダにとってメビウスの意志など知る由もない。
メビウス「アンタを倒して、明白世界を救う。例えそれが人じゃなくても、誰だろうと変わらない!」
ユダと問いに答える。それは戦士としての使命であり、彼の意志でもあった。
ユダ「愚かな…!貴様を殺し、今度は時空の狭間へと追放してやろう!!」
殺意と憎悪が沸き立つ。それが彼の周りに植物を咲かせる。白く美しいが、確実な死が込められていた。
メビウス「ケリをつける!」
両翼を羽ばたかせた刹那、素早く滑空して、ユダとの間合いを詰めていく。
危険を察知した白い蔦がメビウスに伸びる。しかし、左右に揺らめきながら近付くので、躱されてしまう。
ユダの醜悪な顔…片目に満開の華が咲き、光が集い…すぐに光弾が放たれた。
先を読んでか、メビウスの前に飛んでくる。だが、光は薙刀で斬り払われた。
直後、避けられた蔦が軌道を変えて、背後から襲いかかる。
しかし、それすらもメビウスは薙刀を振るう。斬られただけで、蔦は埃となって消えた。
ふと、メビウスは気が付く。周りに旋回する葉と花弁で囲まれている事に
ユダ「無駄だ!いずれ死ぬ!護ったところで何も変わりはしない!!」
強く念じた。それにより葉と花弁が距離を狭め、一点に集った事で爆発した。
ユダ「知れ!これが、現実だ!!」
漂う爆煙…確かな手応えを感じてか、仕留めたと喜びを噛み締める。
しかし、時計の音が鳴り響いた。煙の前に時計の刻印が現れると、光り輝く…その針が逆らって回り出す。
すると、煙は逆再生しながら空間へ帰した。
ユダ「なっ…!?馬鹿な…!?」
目前の事象を拒絶する。瞳に映るメビウスは時空竜と一体化したままで、無傷でいた。
メビウス「現実?なら、覆すまでだ!」
両翼を羽ばたかせる。
次の刹那、メビウスがユダの間合いに入っていた。
メビウス「ハァッ!!」
薙刀を振り上げ、金色の刃がユダの胴体を切り裂く。
ユダ「クソッ…!!」
痛みを堪え、瞬時に腕と同化した根を鞭の如く振るう。しかし、メビウスが空高く飛んだ事で躱された。
追いかけようと見上げた時、ユダの足元に時計の刻印が現れた。
ユダ「これはァ!?おのれェェッ!小癪なァァッ!!」
指一本すら動かせれない…そう、ユダを拘束したのだ。
空高く舞うメビウスが止まると、薙刀を突き出して、勢いよく降下する。
メビウス「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
声を張り上げた。
進む先に時計の刻印が並んでおり、通り抜ける度に加速する。やがてメビウスの身体は緑と黄色の閃光と成る。
メビウス「これで!終わりだ!!」
刹那、閃光はユダを貫いた。そのまま地中を突き進み、時空ノ華すらも穿つ。
ユダ「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
巨大な断末魔が鳴り響く。
ブラットから見た時空ノ華は強い光に包まれつつある。
漂う瓦礫に時計の刻印が浮かぶ…そこからメビウスが降り立った。
手にする薙刀を振り回すと、石突きが地面を突く。
ユダ「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
崩壊していく結界の中でユダは藻掻き苦しむ。
ユダ「申し訳ありません!!ヘイラ様ァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
身体から黄色い亀裂が上り、強い光を放つ。
やがてユダはその光に包まれ、跡形もなく消滅した。
時空ノ華が散った。
荒れ果てた広い空間に花びらが舞い降り、当たった途端、儚い埃となって消えていく。
ブラッド「やったの、か…?」
メビウスとユダの激闘…正確には時空竜の力を前にして、未だ理解が追いつかない。
そんなブラットの近くにメビウスが降り立つ。
メビウス「あぁ、だから…全てを巻き戻す」
薙刀の石突が再び地面を突く。すると、何処からとも無く響いた時計の音が空間に木霊した。
足元に広がる時計の刻印、その針が逆に回り出す。
散り散りとなっていた瓦礫は一つに集い、元の形へと戻っていく。ひび割れた空も閉ざされ、元のものへと修復した。
次回 第伍拾壱話 「全ては…」




