外伝 ヘリオス 「未知なる恐怖」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
王都に聳え立つ王宮、その頂上に一人の男が胡座をかいていた。
「おうおう!なんと圧倒的な大気…!底知れないのう!」
漢服の上に襟付きの黒いマント、色とりどりのメッシュを持つ白髪が風に靡く。
頬杖をつきながら、男の黒白目が持つ金色の瞳が王都の惨劇を映す。
その先ではヘリオスがトーガを纏う人々 王民を尽く葬っていた。赤い光を帯びた黒い大剣が幾度と敵の命脈を断つ。
王民A「ぐわぁっ!!」
王民B「ぎゃぁっ!!」
為す術なく斬られ、血飛沫が舞う。
かなりの重量を誇るはずの刃をヘリオスは軽々と振り回す。だが、その一撃はどれも重く、絶命する程だ。
王民C「なんだ!?アイツは…!!」
恐怖のあまり子鹿のように震え、後退る。
王民C「あんなデカイ剣を軽々と振り回すなんて…!!」
圧倒的な実力の差と、異常なまでの強さ…“只者ではない”と本能が叫ぶ。
すると、彼の横を一人の王民が通り過ぎ、前へと出た。
王民D「この野郎!!」
後ろに引く拳が肥大化し、岩石のような一撃を突き出す。
だが、ヘリオスはモノアイを正面へと見据えたまま片手で受け止めた。
王民D「何ぃっ!?」
出来るはずがない、ありえない…だが、目の前の出来事に愕然とする。
ヘリオス「その程度か…」
手に力を込めて、指が捕らえた拳に突き刺す。逃げられなくする為だ。
刹那、握り締めた大剣を振り上げた。
赤く光る黒い刃が巨体を貫通し、心の臓を深く斬り裂く。
真っ二つとなった王民が地に転がる。
ヘリオス「なんの足しにもならない」
赤く光るモノアイが亡骸を見下ろす。
王民C「こ、このぉぉぉっ!化け物が…!!」
生まれた隙を見逃さない。手を前に突き出し、念動力でヘリオスの身動きを封じる。
ヘリオス「念動力か…」
しかし、それだけでどうにかなる訳が無かった。
大剣が光弾と変形し、片手で操られた事で素早く飛び回る。
赤い光は拘束する王民の顔を削り取った。彼は一言も発さずに倒れてしまう。
それにより念動力は解除され、自由に動けるようになった。
ヘリオスの後ろで三人の王民が距離を取りながら、手を前に突き出す。
火、雷、光が掌に現れ、照準を合わせる。
だが、放たれるより先に黒い光弾が飛行して、並ぶ王民の頭を削り取っていく。首無し死体となった三人は膝をついて、地に伏す。
ヘリオス「くだらん…それが貴様らの正義か?」
気が付けば、大勢の王民に包囲されていた。身構える彼らは既に能力を発動できる。
ヘリオス「…愚かな、そこまでして死に急ぐか」
空と向かい合う掌に黒い光弾が現れた。光弾が辞書に変わると、独りでに開き、幾度となく頁を捲る。
止まった白紙…そこに写る文章が妖しく光り出す。
ヘリオス「目覚めよ、エリス」
唱える言葉は不気味に聞こえ、この世のものではない。
次の刹那、ヘリオスの背後に巨大な天使が顕現した。
三つ並ぶ女性の顔と頭上に浮かぶ巨大な天使の輪、四つの足を持った白い異形…全身は鋼鉄で出来ている。
あまりの大きさに王民は戸惑い、畏怖した。溢れ出していたオーラが一瞬にして消える。無意識な恐怖が能力を解いてしまったのだ。
異形の天使 エリスは両手を組みながら口を開く。
無機物な顔は何一つとて表情を変えない。
ヘリオス「φ(サーガ)」
続けて唱えた。刹那、周囲に光の柱が立ち上る。それは周囲にいた王民を吹き飛ばし、灰燼と化していった。
その光景を胡座をかく男が見届けていた。思わず口角が上がる。
「カッハハハハハ!こいつは凄いのう!血が滾るわい!!」
嬉々としながら高笑いを上げた。
「さて!どれ程のものか、試させてもらおうかのう!」
光が鎮まる中、身体を勢いよく起き上がらせた。
地面を蹴った刹那、男は空高く舞う。流れるように飛び降り、空気抵抗で靡くマントが上がる。降下する速度が増していく。
間もなく、ヘリオスのいるところへ着地した。
衝撃が迸り、辺りに粉塵が舞う。
ヘリオス「ほう…貴様、何者だ?」
赤いモノアイが目の前で漂い、覆う粉塵を見据える。そこに立つ黒い影が手刀で切り裂き、一瞬にして払った。
千空「俺は千空!」
男 千空が声を張り上げ、腕を組む。金色の瞳が対峙するヘリオスを映す。
千空「聖帝と呼ばれる男じゃ!!」
堂々と名乗る様にヘリオスは只者では無いと見抜く。それは威厳ある態度か、或いは放つオーラか…
ヘリオス「聖帝か…」
手にしていた辞書は再び出刃包丁のような大剣へと変わる。
ヘリオス「その力、実に欲しいな…」
柄を握り締め、静かに構えた。
モノアイを通して、千空に宿る力が膨大である事を見抜く。それは聖帝という肩書きに相応しい程だ。
千空「御主とて、なかなかのものじゃのう!」
手を前に突き出すと、掌に棒状の武器 龍髄が現れた。身の丈程の棒を掴んで、激しく振り回す。
石突きが地面を叩き、金属音が空に響く。
直後、晴れていた空を黒雲が覆う。
ヘリオス「曇り、天候を操るか…」
たった一瞬の事象で、能力を読み取った。
千空「やはり只者では無いのう!」
次の刹那、地面を蹴り上げてヘリオスへと接近していく。懐には入らないが、間合いは詰める…龍髄を瞬時に振るう。
目掛けるは腹部で、派手に吹き飛ばした。
建築物の壁に身体を打ち付ける前に体勢を立て直して、壁の上に立つ。
ヘリオス「なかなかだ…」
顔を上げて、再び千空を見据える。
容赦なく千空が近付く。幾度と龍髄を振るうが、全て見切って躱す。
ヘリオス「速いな」
確かな痛みが走るが、平然としていた。
後ろへと下がる中、光弾が手足に纏う。それはガントレットとして形を成し、握り締めたまま龍髄の一撃を防ぐ。
瞬時に後ろへ跳んで、距離を取る。
千空「ほう、変幻自在か…面白いのう」
片手に握る龍髄を後ろに回す。突き出したもう片方の手を翳して、腰を低く構えた。
互いに睨み合う。常人では耐えられない程、空気が重い。
千空が突き出した手を動かした事で強風が吹き荒れた。
直後、ヘリオスの横から数多の亡骸が襲いかかる。
モノアイが捉えたと同時に片手を突き出す。一つの遺体が胸部に打ち込まれた事で、空間に衝撃波が迸る。それは広がり、連なっていき、全ての死体さえも止めてみせた。
目の前から千空が走り出し、龍髄を突き出す。
ヘリオスはもう片方の手で受け止めようと伸ばした。
次の刹那、黒雲から出た雷がヘリオスに落ちる。
ヘリオス「ほう、これは…」
絶大な一撃は全身を痺れさせ、焼き尽くそうとする。驚き故か指一つさえ動かせれない。
龍髄が已の所で止まり、後ろへ跳んで、距離を取った。どうやらフェイントのつもりだったのだ。
千空「生憎、ここは戦じゃ。卑怯とは言わせんぞ」
その声色は、先程までの高らかなものとは異なり、落ち着いたものとなった。
ヘリオス「無論だ」
しかし、片手が開く。
刹那、光弾が大きくなり、ヘリオスの全身を包み込んだ。
雷光が闇に遮られ、全てを喰らう。黒いオーラから再びヘリオスが姿を現す。
ヘリオス「戦いなどそんなものだ」
片手を前に突き出した。それに呼応して、巨大な光弾から何かが出てくる。
ヘリオス「正義など無い」
それは龍…厳つく鋭い鱗に覆われた長大な身体がヘリオスの周りを飛び回り、頭が千空を向く。
千空「ほう!竜か!随分と術が多いのう!」
龍髄を振り回して、再び構える。
次の刹那、龍が千空に突っ込む。素早く飛行する巨体は既に彼の間合いへと侵入していた。
しかし、千空は地面を蹴って、空高く舞う。
千空「俺を楽しませてみよ!仮面の男!!」
龍の頭上を飛び越えると、龍髄を勢いよく振り下ろした。
巨体はクレーターを作る程に埋まる。直後、ドラゴンに落雷が降り注ぐ。鱗を貫いて肉を焼く。
同時に二度目の雷がヘリオスへと襲いかかる。だが、横に跳んだ事で躱された。
ヘリオス「既に読んでいる…!」
開く掌から黒い光弾が生成し、リング状に形を成す。高速回転するそれを投擲して、着地した千空の間合いに入る。
だが、彼の前に黒雲が現れた。その中に入った光弾が跡形も無く消える。
ヘリオス「雷雲か…」
黒雲に迸る雷を目にして、確信を抱く。
直後、雷雲が龍の如く舞い、ヘリオスに襲いかかる。
巻き込まれたら終わりだと見据え、亜光速で駆け抜けた。だが、雷雲は執拗く追跡する。
ヘリオス「鬱陶しい」
後ろへと手を突き出す。掌から赤い光が帯びる黒い光弾を放ち、雷雲の中へと沈む。
その手を握り締めた刹那、黒い雲が内側から弾け飛ぶ。目を凝らせば、四方八方に散らばる雲の中に光の粒子が紛れ込んでいた。
千空「成程!爆ぜたか!」
光弾が爆ぜる事に特化させた、つまりは…
千空「性質を変えれるとは面白いのう!カッハハハハハ!」
高らかに笑い、確かに見抜いた。
龍髄を掲げ、両手で激しく円を描く。幾度と回る度に加速し、千空の周りに風が舞う。
揺れるマントと髪、やがて竜巻を創り出す。それは伸びて、ヘリオスに襲いかかる。
ヘリオス「荒技を!」
両手を広げて、黒い光が全身を纏う。
前方に手を突き出した直後、そこから巨大な光弾が放たれた。素早く動く光は竜巻に近付く。
間合いを詰めていく中、ヘリオスが竜巻に突っ込む。手には黒い大剣が握られていた。
光弾と竜巻がぶつかり合った次の刹那、光弾が渦巻く。それは一瞬にして竜巻を吸い込み、消滅させた。
千空「呑む事もできるのか!」
降りる身体、ヘリオスが間合いに踏み込んできた。
振るわれる巨大な刃…だが、千空は余裕を含みながら龍髄を突き出す。
互いの武器が衝突した刹那、凄まじい衝撃が大気に迸る。
千空「読み通りじゃ!貴様と殺り合って、心の底から楽しいわい!カッハハハハハ!!」
掌底を繰り出すようにヘリオスに片手を突き出す。
刹那、吹き荒れる突風によりローブ纏う身体が吹き飛ばされた。
だが、ヘリオスは回転して体勢を立て直す。そのまま着地する。
ヘリオス「そうか」
瞬時に大剣を振るい、幾度と斬撃を飛ばす。
千空は迫る攻撃を捉え、容易く躱していく。そのままヘリオスに近付いてきた。
千空「そろそろ本気を出すかのう!」
歯を見せるように笑みを浮かべ、高らかに声を上げる。
直後、黒雲覆う空が暴風雨を起こす。千空のマントとヘリオスのローブが持つ振袖と丈が激しく靡く。
ヘリオス「ほう、こいつは面白い…!!」
雨風が当たり、そこから千空の真髄が骨身に伝わってきた。期待に胸を膨らませてか、纏うオーラが激しく揺れ、焔のように空高く昇る。
膝をついて、地面に触れた。すると、赤い光が大地に走った。
千空は感じた、底知れぬ未知なる恐怖を…だが、臆さない。
直後、地面が隆起した。突き破ろうと針状に伸びて、確実に千空へと近付く。
千空「これまた奇っ怪な技じゃのう!」
何処からともなく雲を出し、その上に乗る。まるで觔斗雲の如く
千空の思うがままに空高く浮かぶ。結果、針に貫かれなかった。
ヘリオス「猿の真似事を…」
だが、モノアイは千空を追う。
両手を広げて、纏うオーラが空間を侵食し始める。それは触手のように伸びて、千空に攻撃を仕掛けていく。
千空「それで、俺に届くか?」
吹き荒れる暴風雨、オーラがブレる…かと思っていた。なんと攻撃は真っ直ぐに突き進む。
間合いに入った途端、瞬時に躱す。だが、千空の頬を掠めてしまう…思わず目を見開く。
千空 (概念…?いや、ありゃあ…)
想定が外れた出来事を前に思考を張り巡らせ、瞬時に理解に至る。
千空「書き換えておるのか」
ヘリオスの片鱗、彼が兼ね備える力の一つを知った。
あのオーラは変幻自在で、武器に成る他に数多の能力を有しており、また改変を加える事が可能。
千空 (して…それ程の力があって尚、酷使しないのは何かしらの制約があってのものか)
龍髄を振るう。それが合図となってか、上空の黒雲から稲妻が降り注ぐ。無論、狙うはヘリオスだ。
ヘリオス「既に読んでいるな」
伸びるオーラが盾として立ち塞がり、雷光を飲み込む。追撃の雷も幾度と掻き消す。
千空「なんじゃ、心が読めるのか…じゃあ!堂々と喋るとするか!」
ヘリオスに読心術のようなものがあると察し、声を張り上げた。浮かべる笑みは自信の表れか…彼のみぞ知る。
雲に乗る千空は一気に空を翔け抜け、ヘリオスに特攻していく。迎え撃とうと瞬時にオーラが伸びるが、軌道を変えたりして躱す。
ヘリオス「勝手にしろ」
モノアイが捉える中、片手を開く。黒い闇から大剣が現れ、その柄を掴む。引き抜けば包丁のような刃が赤い光を帯びていた。
千空が加速していく。乗る雲が黒く染まり、雷が迸る。
千空「そうさせてもらうわい!」
その稲妻は光となりて、ヘリオスの間合いに入った。
一方で当の本人は大剣を天に掲げる。刃に立ち上るオーラ…炎のように燃え盛り、闇より深い。
刹那、互いの一撃が繰り出された。
とてつもない衝撃音…吹き荒れる烈風が周囲の建物を一瞬にして無へと帰す。
着地する千空と、未だ浮かぶ身体を降り立たせたヘリオス…覆っていた黒雲が消え、太陽が再び照らし始める。
直後、千空の身体から血飛沫が噴き出す。
振り下ろされた大剣の一撃は心の臓さえをも断っていたのだ。
ヘリオスも蹌踉めくが、踏み止まる。
ヘリオス「流石は聖帝、天を統べる絶大な力…」
振り向かず、千空を賞賛した。
本気を出さなければ勝てない相手…あの英雄を手にかけた者でさえも断言できる程の実力
千空「見事じゃ…」
倒れ始める…手にしていた龍髄を手放す。
そのまま仰向けとなり、身体から血溜まりが広がっていく。
ヘリオスは重い身体で千空に歩み寄る。
千空「して…御主、名は?」
金色の瞳がヘリオスを映す。その声は最早、風前の灯火であった。
ヘリオス「神皇 ヘリオス…」
敬意を表して、名乗る。
手にする大剣が光弾となり、横に浮かぶ。赤いモノアイが千空を見下ろす。
千空「ヘリオス…実に、楽しかったぞ……満足、じゃ………」
ゆっくりと瞼を閉じて、安らかな眠りにつく。最後まで笑みを浮かべていた。
ヘリオス「…貴様の力、俺に捧げよ」
大きくなった光弾が千空の亡骸を飲み込む。
天候を操る能力を奪い、彼は闇へと消える。
等身大にまで膨れ上がった光弾は蠢き、圧縮するように元のサイズへ戻った。
ヘリオス「死んでも尚、尽くすがいい…」
赤い光を帯びた黒い光弾とそのオーラを解き、風と共に消えた。
ヘリオス「完全な正義が存在する、新世界の為に…」
前触れもなく、片手をあげる。
すると、空から巨大な柱が降りてきた。雲を突き破った鉄塊は無機質な恐怖が張り詰めている。
それは主砲…先端に赤い光を帯びた黒いエネルギーが集束して、稲妻迸る光弾として溜まっていく。
ヘリオス「ラドレオン、発射…」
掲げた手を振り下ろした刹那、光弾からエネルギー波が極太い光線として放たれた。傍から見れば巨大な柱が聳え立っているようにも見える。
地面を削ると同時にヘリオスの姿が消えた。音も無く…
極太い光線は地中をも削り、あっという間に核へと到達した。直後、大地に走る亀裂から光が入り、王都のあった世界は崩壊を迎える。
これが、メビウスとブラットが見届けた世界の最後だった。




