第肆拾捌話 「時空ノ華」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
宣戦布告のようなメビウスの言葉をゼウスは静かに聞いていた。
ゼウス「流石はクロノスの戦士…いや、見抜いたのはあのブラットの方か」
椅子に腰掛けながら机の上で頬杖をつく。モニターを見る目は如何にも見下すように見える。
ゼウス「しかし、まだ気付いていないようで何よりですね」
腰掛けていた椅子から起き上がり、机の横へと立つ。
ゼウス「それに……」
横に身体を向けると、下から生えてくるように扉が出現する。
ゼウス「試練を受けなければ、永遠に出られませんからね」
余裕且つ落ち着いているのはこれが理由だ。もう少しで大願が成されると確信してか、思わず口角が上がる。
扉が開いて、その中へと足を踏み入れる。光の向こうへと進んだ事で扉は自然と閉じて、音もなく消えた。
一方その頃、メビウス達は第肆ノ試練を終えて、最後の試練へと向かっていた。
メビウス「あー…なんだったんだ、あいつ」
溜息をつきながら階段を登る。明らかに落ち込んでおり、苛立ちすら垣間見えていた。
ブラット「願いの書を手にする事が目的である以上、そこはどうでも良かったのだろう…」
同情はするが、切り替えさせようと理屈で促す。
メビウス「わかってる…けど、わかってるけどさ……」
前屈みになりながら頭を掻きむしった直後、勢いよくブラットを見ながら後ろ通路へと指をさす。
メビウス「『貴方は人か?』って問いすら意味わかんねぇのに!答えたらすんなり通してくれるってなんなんだ!なんだったんだ!あの時間!!無駄以外言いようがねぇじゃねぇか!!」
その向こうには巨大な銀色の梟が瞼を閉じており、先程から不満を抱いていたのは第肆ノ試練そのものだった。
ブラット「文句言うな、通れたなら結果オーライだろ」
「俺に言うな」と不満を抱く。メビウスの気持ちを理解しつつも、切り替えさせようと促す。
メビウス「そーだけど!ただまぁ!『無駄だったな!』って話!!」
怒り心頭故かテンションがおかしく、兎にも角にも先を急いだ。
そんなこんなで二人は最後の試練…第伍ノ試練へと辿り着く。
果てしなく続く白い階段を駆け上がった先には更地で広い島が浮かんでいた。目の前には真っ白な樹木が聳え、その中心には歪な穴が空いている。
メビウス「ここが最後の…」
ここをクリアすれば願いの書を手にできるが、問題はその後の事…いずれにせよ、気を引き締めた。
すると、ブラットが引き返して、辿ってきた階段へと向かう。
メビウス「ブラット?」
気になって振り返る。だが、ブラットは階段の手前で足を止めた。
ブラット「奴が来るのを見張っておく。だから、お前は試練に集中しろ」
両手に血が渦巻き、拳銃を象る。
握り締めて、正面を見据えた。
ブラット「ウェルギリウス、俺の背後を見張れ」
メビウスの近くにいたウェルギリウスが指示を受けて、ブラットの背後へと移動する。
メビウス「…了解、ありがとう」
お気遣いに感謝して、微笑む。切り替えながら両手足が青く染まり、握り締めた拳を構えた。
樹木の穴から白い泡沫が浮かんで出てくる。メビウスの前で止まると、大きくなるように変形していく。
メビウス「…成程ね」
目の当たりにして、自身が成すべき事を理解した。浮かぶ泡沫は人と成り、その風貌はメビウスと酷似している。だが、異なるは瞳が黄色である事、そして全身が白い事だ。
もう一人のメビウス「あぁ、俺は第伍ノ試練 ソウル…そして、アンタだ」
メビウスと同じ声が二重になって聞こえる。もう一人のメビウス改めソウルは不気味な笑みを浮かべながら指をさす。
メビウス「俺?…他人の空似じゃなくて?」
ソウルの発言に訝しむ。気さくに訊ねるが、拳は構えたままで、目は逸らさない。
ソウル「あぁ…俺はアンタでアンタは俺、闇のメビウスだ」
メビウスの真似をして拳を構える。だが、もう片方の手は下ろしていた。
メビウス「んな、真っ白に光る闇があるかよ」
鼻で笑い、言い返す。可笑しいと思ったが故に少し気が緩んだ。
それが仇となり、既にメビウスの間合いに踏み込んだソウル…次の刹那、拳を突き出された。
メビウス「っ…!」
油断していた…反応が遅れるも腕をクロスして身を守る。振りかざした一撃は絶大で、メビウスを勢いよく吹き飛ばした。だが、なんとかして踏ん張って立ち止まる。
ソウル「一つ訊くけど、蘇ってどうするんだ?」
問いかけを耳にしたメビウスは腕からソウルを覗く。
メビウス「再び剣達に会う。そして、戦士として…」
質問の意図はわからないが、真っ直ぐな意志で答えた。それを遮ろうとソウルが口を開く。
ソウル「家族には会いたくないの?」
メビウス「何?」
見た目は異なれど、自分であるのには間違いない。闇…負の自分の言葉に引っかかる。
再びソウルがメビウスの間合いに入ってきた。
ソウル「小学五年生の頃、独りになったアンタは家族が欲しかったんじゃないの?死んだみんなに会いたかったんじゃないの?」
幾度となく拳を振るい続ける。メビウスはクロスする両腕で防ぐ一方だ。
メビウス「そうだけど、今は…!」
ソウル「剣達がいるって?じゃあ!なんで自分と同じ想いして欲しくないなんて思うのかなぁ!?」
反論しようとするが、心を読んだようなソウルの発言でメビウスは苦い顔を浮かべて、言葉を詰まらせた。
メビウス「アンタに、何がわかって…!」
反撃としてソウルに拳を突き出す。
ソウル「言ったろ?俺だからだ」
対抗しようとメビウスの動きを真似する。
互いの拳は衝突した。拮抗した直後、幾度と拳を突き出し、殴り続ける。拳同士を打ち付けながら身体にも打ち込んでいく。
そんな激闘をウェルギリウスは見届けていた。
ウェルギリウス「メビウスさん…」
これはメビウスとブラットの試練、自分はその案内人…何も出来る事は無い。
一方でブラットはここまで進んできた道を静かに見据え、耳を澄ますようにして警戒していた。何処からゼウスが現れるかは未だわからないまま
殴り合っている…未だ拮抗状態の中、メビウスはソウルの言葉に歯を食いしばる。
メビウス「それでも、俺は…!!」
向ける眼差しに宿る光がまだ諦めないと増していく。
直後、全身を黒く包んでビヨンドソニックと成る。
繰り出す拳の連撃は亜光速となり、その一発がソウルの鳩尾に入った。
ソウル「ぐっ…!!」
苦痛で顔が歪む。あまりの威力にソウルは怯み、後退るように押し飛ばされた。
メビウス「生き返らなきゃならないんだ…!」
続けてメビウスの拳が振るう。一発一発が打ち込まれ、押していく。
メビウス「戦士の、使命として…!俺の意志として…!」
トドメの一撃として拳を突き出した。その身に受けたソウルは見事に吹き飛ばされ、大樹に背中を打ち付ける。
ソウル「アンタの、意志ね…」
だが、しぶとい。蹌踉めく身体が立ち上がる。
最後の試練だからだとメビウスは読み取った。
両手を下ろしたまま、ソウルの瞳がメビウスを映す。
ソウル「自分と、同じ想いをして欲しくないのね…アンタは」
浮かべる笑み…だが、そこには似て異なる自分を誇らしく、嬉しく思う気持ちがあった。
メビウス「…あぁ」
再び拳を握り締め、静かに構える。まだソウルは倒せていない。
ソウルも諦めておらず、手を銃の形となる。向ける人差し指はメビウスに照準が合う。
ソウル「ん?」
違和感に気付いたのかメビウスの後ろを凝視する。その先には白い扉があり、既に開いていた。
次の刹那、銃声と共にメビウスの胴体が穴が空く。
メビウス「え…?」
激痛が迸り、緑の目が大きく見開いた。ブラットとソウルも驚いている。
ブラット「ウェルギリウス…!!」
瞬時に顔を向けた先にはウェルギリウスが地面に転がっており、レンズに宿る光が無い…ゼウスに全ての機能を停止させられたのだと理解した。
ゆっくりとメビウスが俯くと、心臓に弾痕が刻まれているのが瞳に収めた。
メビウス「あ…?どういう…?」
理解が追いつかない。そんな中、声が空間に響く。
ゼウス「ご苦労だった、ヒカリノ メビウス…」
メビウスが振り向き、ブラットとソウルが正面を見る。全員の意識が向いた先にはゼウスがおり、手にする拳銃から煙が上がっていた。
存在に気付いた直後、メビウスの身体が膝から崩れながらうつ伏せに倒れた。
ブラット「ゼウス…!!」
まさか別の場所から現れるなど想定外だ。最悪な事態の中、今為すべき事としてゼウスに銃を向ける。引き金を引いた刹那、血の弾丸が放たれた。
ゼウス「ゼウス?違うな…」
落ち着いた様子で手を正面に伸ばす。奇妙な事に弾丸は掌に当たるも、弾かれてしまい、地面に転がる。
ブラット「なっ…!?」
目を疑うが、ゼウスの腕を見て理解した。ただの皮膚は鋼鉄となっており、これで身を守ったのだ。
ソウル「どう、なっているの…?」
ゼウスの能力に戸惑いながら訊く。
ユダ「自己紹介とでもいこうか、私はユダ…」
待っていたと言わんばかりに声を上げて、ブラットとソウルに手を見せた。
ユダ「私の能力は変身…正確には細胞の分裂配分を組み替えれると言うべきか」
鋼鉄だった手は粘土を弄るように蠢き、変化していく。刃や蝶など有機物・無機物問わずして
ユダ「これで私は神に成り代わった…そして、元に戻れる…」
手が元に戻る。横たわるメビウスを抱え、横へ向くと、崖の方へと歩き出した。
ブラット「ならば、本物のゼウスはどうした!?」
深紅の拳銃…その照準をユダに定めるが、撃てない。無闇に動けばメビウスに当ててしまうからだ。
ユダ「本物?あぁ…」
崖の一歩手前で足を止め、奈落の底を見下ろす。
ユダ「今そこで転がる鉄屑のことか」
直後、迷いなくメビウスを放り投げた。
降下する身体から青い粒子を流し、数秒もせずに暗闇の中へと消えた。
鉄屑…それが今動かぬウェルギリウスの事を指しているのだとブラットは察する。
ソウル「なっ…!?」
メビウスを助けなければと走り出す。モデルとなった本人だからか、或いは自分は彼そのものか…放っておけなかった。
しかし、ユダが立ち塞がろうと振り向いた事で思わずソウルが足を止める。ユダに纏う異様な雰囲気を感じ取ったからだ。
ユダ「さて、願いの書よ…!私の元へ…!!」
ゆっくりとユダへ歩み寄りながら手を差し伸べる。願いの書がソウルの中にあるとブラットは理解した。
ブラット「させるか…!!」
すかさずユダに向けて連射しながら確実に接近する。だが、紅い弾丸を視認した事で後ろへ跳ぶ。放たれたそれらは全て躱された。
ユダ「邪魔をするか…!クロノスの戦士ィッ…!!」
邪魔された事実に苛立ちが募る。そんなユダの間合いに入ったブラットがもう片方の拳銃を太刀に変えて、勢いよく振り上げた。
だが、刃と成ったユダの前腕で防がれる。奇妙な事に重い金属音が鳴り響き、拮抗状態に入った。
ブラット「おい!ソウル!手を貸せ!」
声を張って、ソウルに協力するよう指示を飛ばす。
ソウル「わかったよ!」
人差し指の先端が光り出し、ユダに照準を合わせた。
刹那、光は弾丸として放たれ、一気にユダとの距離が縮める。だが、翳すもう片方の掌が鋼鉄となった事で攻撃が弾かれてしまった。
その隙にブラットの蹴りがユダの胴体に入り、勢いよく吹き飛ばす。すぐさまブラットの隣にソウルが並び、戦闘態勢に入る。
ユダ「面倒な…!」
時間の無駄だと愚痴を零すと、全身が蠢くように変形していく。
ブラット「…よりによってそれか、悪趣味だろ」
その姿を見て、嫌気がさす。二度と目にしたくないと心の底から思う。
ユダ「貴方の、なりえた姿だからか?」
身に包む装束の上に甲冑を纏い、西洋の兜で素顔を隠す。全体的に赤く、まさに騎士の風貌…
長い丈が靡き、手にする騎槍をブラットに翳した。仕込まれていた銃が火を吹くと、銃声が鳴る。
ブラット「だったらなんだ!!」
恐れず、瞬時に血の太刀を振り下ろす。高速で飛翔する弾丸は刃により斬り伏せられた。
次の刹那、ブラットの横をユダが通過する。気付いた時には、もう背後に立っていた。
ユダ「何も、ただ…」
いつの間にか立ち上っていた赤いオーラが風に散って消える。直後、切り刻まれたブラットから血飛沫が舞う。
ユダ「『その方が都合が良かったのに…』っと、思っただけですよ」
微動だにせず、正面を向く。
ブラットが膝をつくも、両手が地面に触れた事で倒れずに済んだ。とはいえ、すぐには動けない。
仕留めようとユダが騎槍を構えた。
ソウル「させるかぁぁっ!!」
注意を逸らそうと声を張り上げながら光弾を連射する。だが、ユダは襲いかかる攻撃を尽く躱しながら近付く。
ユダ「ダメじゃないですか、身の程を弁えないと…」
手にする騎槍を突き出し、ソウルの心臓を貫いた。
絶大な一撃を受けた事で目を大きく見開く。
能力で血を固めて止血する中、音を耳にして面を上げる。
ブラット「くっ…!最悪…!!」
惨劇を目の当たりにした事で絶望しかけるが、なんとか持ち堪えて、打開策を練っていく。
まだ完全には完治していない…荒い呼吸を繰り返すのが何よりの証拠だ。
そんなブラットを他所にユダは声高らかに笑う。
ユダ「遂に、遂に果たせるぞ…!」
手に力込めると、ソウルは一枚の紙となる。それは願いの書…メビウスが得るはずたったものだ。
ブラット「何を…する気だ?」
微かに弱っているが、平然を装って訊ねた。
ユダ「かつて各世界に隕石が降り注ぎ、青い粒子 コズミック・コアが広がった…その発端となったのは突如として現れた時空の裂け目だ」
紙の中に手を突っ込む。すると、表面に波紋が広がり、その手が沈んだ。
奇妙な現象にブラットが目を見開く。引っ張るように取り出したのは胡桃に似た白い種であった。
ブラット「そいつは…!?」
見慣れないものに戸惑う。すぐさま破壊しようと血で武器を生成するが、万全じゃない状態なのですぐに溶け出す。
ユダ「時空の種…私は、ヘイラ様に誓ったのだ…」
瞼を閉じて、胸の中心に手が添えられる。興奮するがあまり呼吸が震えるが、落ち着かせていく。顔が白い空を見上げた。
ユダ「永遠の忠誠…!そして、愛…!!」
目を開いて、浮かべるは恍惚とした表情…
手が突っ込むようにして心の臓に種を埋め込んだ。直後、ユダの全身から放つ真っ白な光が包み込み、伸びてきた白い植物の根が身体中に巻きつき・めり込んでいく。
ブラット「させるか…!!」
やっと体力が万全となった、急いでユダに向かって駆け出す。
握り締めた両手に血のガントレットとして纏われる。血を噴射させながら加速して間合いに入ると同時に拳を突き出す。
種を取り出し、吹き飛ばすつもりだったが、根が鞭のように振るわれた事で逆にブラットがぶっ飛ばされた。
ブラッド「ぐっ…!!」
重い一撃が身体に残る。宙に舞う身体をなんとか着地させて、体勢を立て直す。
ふと、違和感を覚えてか足場へと目を遣った。
ブラット (足場?そこまで広くないはず…)
空間把握能力にも長けている彼に間違いは無い。不意に顔と瞳が正面へと向く。
ブラット「…成程な」
瞬時に理解した。吹き飛ばされた一瞬の内に地面は崩壊し、四方八方に分裂していたのだ。つまり、今ブラットが立っているのはその一部
ユダ「私は成ったのだ…!!」
空間の中心に聳え立つは真っ白で巨大な華、まさに塔のように高い。上には天使のような輪があり、花弁の下からは先程の根が伸びていた。
ユダ「時空ノ華へと…!!!」
言葉通り、ユダは時空ノ華となったのだ。
放つ異様なオーラが周囲の空間と重力を歪ませ、足場となる地面を浮かせていた。
ブラット「ユダ…!!!」
危機的状況に陥ったと嫌でも理解し、苦戦を強いられるのだと直感が働く。
真っ暗な闇の中、メビウスは仰向けで大の字となって倒れていた。
意識が戻った事で緑の目が見開き、息を吹き返す。
空気は先程より重く・冷たかった。
メビウス「…ここは?」
身体を起こして、辺りを見渡す。そこに建物は一切無い。心地良いが、何処か不気味だ。
俯いて胴体の傷跡を確かめるが、無かった。
メビウス「死んだのか?俺…いやまぁ、死んでるけどさ」
状況が掴めない中、疑問を呟く。
「いや、死んでねぇよ」
だが、落ち着きのある声が否定した。
耳にしたメビウスが声の主に振り向く。
そこには金砕棒を握り締める異形の男が石でできた玉座に腰掛ける。黒い肉体に首周りに毛皮、顔にたる大きな赤い単眼がメビウスを映していた。
異形の男「お前は死んでねぇ…難しいが、死んじゃいねぇ」
落ち着いた雰囲気と声色…何処か気怠げであった。
メビウス「…アンタは?」
ダークアイと瓜二つな事に警戒してか、拳を構える。
メビウスの態度に男は瞳を閉じて、溜息をつく。意を決したのか再び瞼を上げた。
サタン「我はサタン、暗黒世界を統括する者…閻魔とでも言うべきか」
そして、名乗る。自身の素性を…
次回 第肆拾捌話 「死因の真実」




