第肆拾参話 「再燃する意志」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
剣「メビウス!!!」
死にかけたメビウスを前に衝撃と絶望が顔に浮かぶ。遅かったと悔いながらも急いでメビウスの元へと駆け寄る。
近付いている事に気付いた分身は後ろに跳んでここから離れ、拘束していた触手も潔く手放した。
城前にて、紅蓮獣となったゲイツは赤い稲妻と共に駆け回り、鋭い爪と脚を振り回した。それは分身の頭を吹き飛ばし、確実に数体を滅していった。
動きが止まった隙をついて、別の分身が銃で撃つ。照準はゲイツの脳天であり、確実に貫こうと迫る。
だが、地面から黄金の壁が聳え立った事で防がれた。
互いに背中を合わせて、周囲を見渡しながら警戒を張り巡らせる。
フォース「大丈夫?ゲイツくん」
ゲイツ「問題無いけど…」
赤い分身が完全に包囲し、手にはサーベルとピストルが握り締められていた。
ゲイツ「厳しいな…」
フォース「…そうだね」
ゲイツの愚痴にフォースが賛同する。倒したとしても新たに現れ、更に増えていく。流石に限界が来ていたのか互いに息が切れていた。
それは牙禅とライトも同じであった。
能力で具現化した武器を駆使しても分身が全滅する事は無く、未だに量産が続いていた。
ライト「っ…!!」
光の拳銃で目の前から迫る複数の分身を正確に撃ち続ける。頭や心臓を射抜かれた分身は消滅するも、まだ無傷の個体の腕が触手へと変形した。それらを伸ばして、ライトの腕に巻き付く。
ライト「しまっ…!」
焦るが、牙禅の振り回す波動の槍が触手を斬り落とした。それらが地に転がり、塵となって消滅する。
ライト「あ、ありがとうございます!牙禅さん!」
阻止してくれた牙禅に感謝を伝える。異常なまでに汗をかき、必死にも呼吸を繰り返していた。
牙禅「問題無い」
彼も肩で息をしながら顔が汗で濡れていた。赤い瞳が映す先は覆う程に立ち塞がる赤い分身の群れであり、どれも嘲笑うよう口角が上がっていた。
牙禅 (流石にキリがないな)
現状に危機を覚えながら剣とメビウスの無事を祈っていた、そうするしかなかったのだ。現実に起こった絶望など知らずに
また彼らも例外ではなかった。ブラックの放つ赤い弓矢が衝撃波と共にマスターダークの分身を葬っていく、二度、三度と…
ブラック「散れ…!」
引っ張った弦を離す度に矢が飛んでいく。しかし、何発もやるのは流石に厳しかった。
フレアも両手から熱湯を噴射させ、刃として数多の分身を斬り裂いていく。
しかし、消滅する度に現れ、先程より増え続けている。
フレア「ああ!畜生!!多いんだよ!!」
あまりの多さに苛立ちを覚え、怒声として文句を吐き捨てた。
ブラック「全くだ…まだやれるか?」
フレアに同意し、彼の意志を問う。落ち着いた様子だとしても内心は面倒だと思っていた。
顔の亀裂が少し広がっていく、カオスの影響だろう
ブラックの問いを聞いたフレアが互いの拳を打ち付ける。
フレア「当たり前だ!やってやるよ!」
無論、こう答えた。まだ彼は諦めていなかった。それはブラックと同じだ。
太刀が地に落ち、落下するメビウスを剣が抱える。苦痛から解放された彼の顔は何処か眠そうであった。
剣「メビウス!しっかりしろ!メビウス!!」
必死に呼びかけるが、返事は来ないままだ。
腕時計から回復薬を召喚させ、その液体を全身にかけた。だが、血が洗い流されるだけで、傷が塞ぐ事も、死から逃れられなかった。
剣「すまない!俺が!!俺が…!!!」
普段の彼からは想像できない程に大声を上げた。無念さと自責が心を押し潰し、歯を強く食いしばる。俯く顔、目元が影で覆い、そこから涙が流れた。
一粒、メビウスの頬に落ちる。
メビウス「アンタの、せいじゃねぇよ……」
息を吹き返し、絞り出した声で励ました。
耳にした剣が気付き、メビウスに顔を向ける。
剣「メビウス…!」
メビウスは微笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。そう長くないと悟っていた。
メビウス「アンタはスゲェんだよ…一人で何でもしようとして、何でも出来るからさ…」
瀕死故に弱々しい声だが、自分の気持ちを伝えようとする意志は消えていなかった。
剣「これ以上は喋るな!それに俺は…!」
まだ助かる可能性を信じて、激龍でどうにかしようとする。だが、メビウスの手が剣の胸ぐらを掴む。
メビウス「俺は…!アンタを信じてんだよ…!!」
真っ直ぐに向ける緑の瞳、それを見た剣がメビウスの意志を察して、黙った。
メビウス「剣、アイツの野望を断ち斬れ…!世界を…!護って、救って……」
最後の願いを伝えてか握り締めてた手から力が抜け、降りていく。すぐに掴んだ剣は握り締めて、瞳を強く閉じた。
剣「メビウス…」
整理して覚悟を決めてか目を開け、メビウスの亡骸をゆっくり且つ優しく降ろした。
剣「お前の意志…」
太刀を手に取り、立ち上がると前に出る。赤い瞳は本体である心臓…マスターダークを映し、静かに見据えた。
剣「俺が受け継ぐ…!!」
歩き出して、確かに近付く。
確固たる意志が全身から激龍を発現させ、オーラが焔のように燃え盛る。
剣の言葉を聞いてかメビウスは青く光る粒子となって消えた。
マスターダーク「無駄ですよ…!いくら激龍とはいえ未完全!それに対して私は完璧!貴様に勝利など有り得ないのです…!!」
剣とメビウスを嘲笑い、勝利を確信してか声を高らかに上げる。だが、口にする言葉は瞬時に放たれた激龍纏う斬撃が横切った事で止まった。
外れてはいない、心臓に繋がれていた一本のパイプが切断された。
マスターダーク「これは…!?」
ガスが吹き出し、赤い液体が零れていく中、剣に宿る激龍に戦慄する。
剣「マスターダーク…」
マスターダークの事など気にも留めず、歩みながら今度は彼が口を開いた。
赤い瞳が剣へと向けられる。
剣「お前は多くの世界を侵攻し、殺戮と破壊の限りを尽くしてきた…」
これまで暗黒世界率いる創造主の悪行を淡々と述べていく。マスターダークは命の危険を感じてかサーベルを持たせた分身を差し向けた。
剣「それは到底許されないものだ」
しかし、迫り来る敵を目にしても落ち着いていた。握り締めた太刀を瞬時に振るい、一体の分身を斬って、激龍で焼き尽くす。
続けて他の分身を斬り捨て、同様に消滅させていく。
剣「無慈悲に、理不尽に奪われた者の為にも」
縦に振り下ろして、迫り来る分身…その最後の一体を一刀両断した。赤い肉体が激龍に包まれて葬る。
剣「マスターダーク!」
手にした刃をマスターダーク本体に翳す。
剣「お前の野望、ここで断ち斬る!!」
力強く宣言しながら太刀を後ろに引き、霞の構えに入る。赤い瞳は確かにマスターダークを睨みつけていた。
マスターダーク「断ち斬りますか!無限の闇にして暗黒の創造主であるこの私を!」
剣の意志を聞いた上で愚かと吐き捨てる。応えようと数多の分身を生成し、立ちはだからせた。
マスターダーク「勝てるなどと思い上がるとは、なんとも滑稽ですねェ!!」
到底無駄だと思うマスターダークに剣は臆さず、構えを崩さなかった。
マスターダーク「良いでしょう!惨殺処刑でアイツに合わせてあげましょう!!」
剣の態度をそう解釈し、思い上がるなと微かに苛立ちを募らせた。直後、一斉に分身が襲いかかる。
迫り来る敵を睨みつけ、柄を握り締める。前に出た次の刹那、激龍纏う刃が振るわれた。
瞬く間もなく斬り捨て、焔を模した激龍が分身を焼き払う。二体目、三体目と留まる事無く、そして確実に本体へと接近していた。
「シマツ!シマツ!」
「シアルノミ!!」
五体の分身が飛びかかる。手にはサーベルが握り締められており、振るわれようとした。
剣「激龍…!!」
肩越し構えに入り、刃を振り下ろす。それに纏う激龍が前方に三日月を描く。
剣「繊月!!」
五体の分身が一刀両断され、塵と化した。
マスターダーク (読み通り!)
思い通りになって思わず危機とした。斬り捨てた個体とは別の者達が待ち構えており、片腕と一体化した巨大な拳銃の照準を合わせる。
剣「応月翔!」
燕返しを繰り出して、激龍の斬撃を飛ばした。煌めくそれは目にも止まらぬ早さで飛翔し、隊列を組む分身全てを両断した。
マスターダーク「まだですよ!」
続けて数多の赤い触手を繰り出す。先程より鋭利で強固なものが瞬時に剣の方へと伸びてきた。
だが、赤い瞳が軌道を見極めて、迅速に躱して動き回る。
マスターダーク「貴方は蜃気楼を使った!もう二度目は使えない!!」
事実を述べ、勝利を確信した。
激龍は一度使用した技は二度以降は使えなくなる。一度解いて、再使用するにしても許される訳もなく、大きな隙となるのは確実だ。
避けられた触手は地面に突き刺さり、逃げ場を無くしていく。完全に包囲されてしまい、空いた真ん中も触手は容赦無く迫り来る。
目と鼻の先まで近付いてきた直後、剣は高く跳んでまた回避し、触手の上に乗って走り出した。向かう先はマスターダークの本体であり、太刀を握り締める。
剣「激龍…!」
力強い言葉に激龍が応じ、刃に纏うそれが激しく燃えた。これはメビウスの分であり、全てを終わらせる為の一撃が込められている。
マスターダーク「そう上手く、行くわけが無いでしょう?!」
目論んでいたと言わんばかりに地面に突き刺さっていた触手が溶け出す。落下する最中、複数の分身が生成され、殺そうと迫り来る。その数は13体で、手にはサーベル又はピストルが握り締められていた。
状況を読んでか纏っていた激龍が風のように吹き荒れる。性質が変化したのだ。
剣「乱風!」
分身が攻撃するより前に刃を振り回し、竜巻のような鎌鼬を放つ。周囲にいたヤツらは瞬時に葬られ、跡形もなく消えていった。
マスターダーク「これでは終わりませんよ!!」
倒したとはいえ、まだ分身を生み出す。先程よりも多く、四方八方塞がれてしまった。
剣は落ち着きながら瞼を閉じる。だが、諦めてはいない。
剣「激龍…」
静かに唱える。全身に纏う激龍が心臓の鼓動と共に光が増した。
剣「咆哮!!」
力強く目を見開き、声を張り上げた。
刹那、周囲に烈風が巻き起こり、包囲していたマスターダークの分身を消滅させた。広がる光の波紋は心臓である本体にも届き、直撃する。
マスターダーク「しまった…!力が…!!」
微かではあるものの怯んでしまい、苦痛に襲われる。
その影響か、戦士を包囲していた分身が崩壊した。
「コ、コレハ…!?」
身体から浮き出る塵が何よりの証拠だ。
ライト「牙禅さん!これって!」
牙禅「…あぁ」
形勢逆転したと察して、剣の活躍だと確信した。
「ク、クルシィ…!!」
「ワタシガァ!ワタシソノモノガァァァ!!」
至る所で断末魔が鳴り響く。
フォース「流石は剣ちゃん!ここまでのものとはねぇ!」
どれだけやっても倒せなかった相手をここまで追い込めれた剣に感心した。
フレア「こっちが有利になったって訳だな!」
それは自信となり、まだ戦えると再認識できた。
確実に弱まっていくマスターダークが無事に着地した剣を睨みつける。痺れているせいで上手く力が出ず、思い通りに動かせなかった。
マスターダーク「おのれぇ…!」
忌々しく思う激龍を恨み、剣に怒りの矛先を向けた。
剣「終わりだ!マスターダーク!!」
そんな気持ちを意に返さずに太刀を構え、高く跳んでマスターダークに接近する。
マスターダーク「邪光 剣ィィィィィィ!!!」
激しく怒りながら分身の元となる赤い液体と暗黒世界の黒い塵を融合させて、巨大なエネルギー玉を生成した。
だが、完成するより前に剣がマスターダークの間合いに入った。
剣「激龍…!」
太刀を掲げ、力強く握り締めたと同時に激龍が焔の如く噴く。刹那、刃が振り下ろされた。
剣「神紅鎚!!」
激龍と共に白刃が本体である心臓を両断した。降下する身体は無傷で着地し、背を向ける。血振りをして激龍を解き、静かに納刀した。
直後、心臓から焔を模した激龍が燃え盛る。中心に裂け目が現れ、両断された本体の消滅が始まった。
マスターダーク「ま、さか…たかが人間如きに、敗れるとは…!」
過ぎるは剣に敗北した悔しさと絶望であった。
終わりを迎えるからか暗黒城が崩壊しようと揺れ始める。
剣「…道連れか」
その目論見を読んでか激龍が風を模して、足に纏わせるとすぐさま玉座の間から離れた。
マスターダーク「見て下さりましたか、皆様…!いえ、神皇様!!」
一人きりの空間で高らかに語りかけた。だが、それは神皇ヘリオスに向けてものであった。
マスターダーク「間もなく、エンドロールに入ります!ここまで応援してくださり、誠に…ありがとうございました…!!」
玉座の間の飾りが落ちていき、支えていた柱も倒壊する。
マスターダーク「お別れです!さようなら!またお会いいたしま…!」
狂った怪演で別れの言葉を繰り返す。崩れた瓦礫がマスターダークに落ちてきて、下敷きとなって潰れた。
剣含めた戦士全員が暗黒城から抜け出し、青い亀裂を通って創造世界へと避難した。誰一人とて逃げ遅れなかった事に安堵する。
剣「終わったか…」
激龍の酷使か、将又マスターダークとの激闘か、いずれにせよ蓄積した疲労が今になって現れ、肩で息し始めた。当然ながらそれは他の戦士も例外ではない。
ふと、ゲイツが辺りを見渡した。
ゲイツ「…なぁ、グリンとウルフは?」
この場にいる戦士に問いかけた。だが、誰も知らないので答えは来ない。まさか死んでしまったのかという不安が過ぎる。
「随分と、辛気臭いな…」
だが、異議を唱えるよう声をかけた。明らかにウルフのだと気付いた戦士が振り向く。その先にはグリンの肩を貸すウルフがおり、雷郷 雄助とラージ、未来隊長が同行していた。
ウルフ「だが、よく戻ってきた」
微笑みを浮かべながら帰ってきた戦士に優しく告げる。
フォース「無事だったんだ!いやー、安心した!」
すぐさまシロノスの面々であるフォースとゲイツ、同じチームであったフレアとブラックが駆け寄る。
ウルフ「あぁ、メビウスが助けてくれたからな」
感謝と言わんばかりに微笑む中、メビウスの名を口にした事で剣の顔が曇った。
牙禅「剣…」
それを見て、メビウスの死を察した。問いかけようとするグリンだったが、気付いてすぐに自責の念に駆られる。
フレア「悪い、剣…メビウスは?」
非常に言い難く、申し訳なく思いながらも、真偽を確かめたいので代表して訊いた。
微かに包まれた静寂、間を置いて剣が口を開く。
剣「メビウスは、死んだ…」
言いづらく、あまり長々と語りたくなかったが故に端的に伝える。だが、それは充分に伝わり、他の戦士も表情が暗くなった。
誰も何も言えなかった。特にウルフとグリンは己の不甲斐なさに負い目を感じ、メビウスに対して悔恨の念に苛まれていた。
未来隊長「みんな、ご苦労様…」
重い空気が漂う中、戦士の勇姿に敬意を評しようと労いの言葉をかける。これしか今は言えなかったのだ。
それからしばらくして、快晴な青空が広がる墓場に剣は一人で立ち尽くしていた。
目の前には墓石があり、メビウスの名が刻まれている。花束が添えられ、火が灯る二本の蝋燭の間にある線香が先端から煙が昇っていた。
剣「メビウス、また来たぞ…」
刃の如く冷たい眼差し…だが、赤い瞳には寂しさが秘められている。メビウスを失ってから心に穴が空いた気がした。
あれから二週間後、暗黒世界の侵攻は無くなった。戦士の功績が認められてか各世界の行き来と介入が認められた。承認済みの世界限定だが、いずれは増やしていく方針だ。
そんな事実を剣はいつもと変わらない様子で伝えた。だが、喪失感が残っているのは見て取れるものだった。
静寂に包まれた一人の空間で話すが、返事は何も無い。悲しくなるが、なんとか払拭させようと立ち上がり、切り替えようと深く呼吸した。
剣「また来る」
穏やかな笑みを浮かべた後、この場を後にしようと踵を返す。数歩進んだ後、腕時計から着信音が鳴り響いた。
剣「こちら邪光 剣…」
それを顔の前に持っていき、応答する。送信元は未来隊長からであり、依頼の内容が告げられた。
剣「…了解」
メビウスの分まで戦う事を、全てを護る事を決めて、その意志と共に現場へ向かおうと駆け出す。
暗黒世界 暗黒城の跡地にて…
一人の男が訪れていた。彼の前には確かに暗黒城があったにも関わらず、瓦礫はなく、荒れた大地と暗雲覆う灰色の空が広がっていた。
ヘリオス「見ていたぞ、マスターダーク」
男の正体は神皇ヘリオスであり、何か目的があって来ていたのだ。跡地に歩み寄り、辿り着いたので足を止めた。
ヘリオス「悪くはなかったが、二度はいらないな」
片手を前に伸ばした時、跡地があった荒地から黒い液体が浮上してきたのだ。液体はヘリオスの思い通りに操られ、黒い泡沫として掌に収まった。
ヘリオス「ホムンクルス…人には到底扱えないが、使えるな」
禁忌とされた化学兵器の名を呼ぶ。
仮面の目が赤く光り出し、黒い液体を見下ろしていた。
ヘリオス「さぁ、続けようか…」
用が済んだので跡地に背を向けて、歩き出す。
ヘリオス「新世界の為に…」
そして、ヘリオスの目論見を口にして、ここから姿を消した。いや、何処かへと移ったのだ。
第肆章 暗黒創造主篇 完
次回 第伍章 明白世界篇…




