第参拾陸話 「激龍の使徒」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
高く聳え立つ光の柱は暗雲を貫き、晴らすように照らしていた。それは遠くにいるライトとゲイツ、リディアも気付いていた。
ライト「あれは…!?」
突然の事象に目を見開き、戸惑う。空気を伝ってその身に当たる光が激龍であると本能的に理解した。
ゲイツ「な、なんだ…?」(牙禅の波動と似てる…?)
疲弊しながらも面を上げる。既視感のある感覚に不思議な気持ちになった。
リディア「あら、まさか来るとはね」
この事態は彼女にとっても想定外であり、両手を叩いて暗雲に包まれた龍を呼び出した。近くに来たそれにリディアは掴まる。
リディア「ここは退きましょう…」
そして、自身の支配下にある暗黒の怪物も含めて全員この場から姿を消した。
ライト「逃げた…!!」
追いかけようとするも、間に合わなかった。
悔しかったが、過ぎた今となってはどうしようも無かった。
ゲイツ「…悪ぃ、先行ってくれ」
そんなライトに促す。まだ回復しきれていなかった、疲弊した顔を浮かべながら肩で息をして、異様なまでに汗が流れていた。こんな自分では足手まといになると思っての配慮だった。
ライト「…いえ、待ちます」
だが、ゲイツの指示を受け入れなかった。疲弊しているゲイツを置いていく訳にはいかなかったのだ。
ゲイツ「命令、しているんだけどな…」
まさかの反発に理解し難かった。ライトの真っ直ぐな眼差しがゲイツに向けられ、宿る意志が心にまで伝わってくる。
ゲイツ「…わかったよ、好きにしな」
気圧されてかこれ以上、強いる事は無かった。
場面はグリン達のところへと戻る。
この場にいる者達、全員が激龍の光を発する柱を見つめていた。だが、それは静まっていき、中にいたであろう人物の姿が顕となった。
誰もがその事実に気が付く。
グリン「人…?」
光の柱から現れた異形の人物に呆然としていた。
ツンツン頭にキトンと和服を掛け合わせたフードと長い丈を持つ装束を身に纏っており、その全身は激龍の光に包まれていた。シアンの瞳を持つ目だけが顕となっていた。
マスターダーク「激龍の使徒…くだらぬ使命の為に我々を消しに来た…のですか?」
激龍の使徒…確かにそう呼んだ。マスターダークは明らかに彼の事を知っており、そして何が目的なのかのも見当がついていた。
彼の言葉を耳にした使徒は何一つ喋らないまま顔を向けた。ただじっと見つめ、敵として睨みつける。
マスターダーク「お黙りですか…ポラリス」
何も答えず、無反応だったのでつまらないと呆れていた。
牙禅 (激龍の使徒?確か暗黒世界との激闘で敗れ、散ったはずなのに、何故?)
ポラリスが激龍の使徒とした場合、何故生きているのか?何故、ここに駆けつけてきたのか?全ての謎に矛盾が生じる。
しかし、推察や違和感など全てを消すようにしてポラリスがマスターダークに向けて手を翳した。
指を曲げて、握り締めていく。
マスターダーク「マズイ…!!」
嫌な予感がしてか、咄嗟に後退する。
刹那、放たれた光がマスターダークの肉体を射抜き、跡形もなく消滅させた。
牙禅「グリン!」
危機を察してかグリンを片手で抱えた。
グリン「えっ!?」
驚いて間もなくして、瞬間移動で一度姿を消す。そこにも激龍の光が発現し、空間を削り取った。
遠く離れたところに二人は再び姿を現した。牙禅はあの攻撃を予見して動いていたのだ。
牙禅「危なかった…なんだあれは、剣のとは違うぞ」
グリン「…あれが、激龍の……?」
安全と思ってか全身に疲労が襲いかかる。だが、油断は出来なかった。グリンと牙禅はポラリスの激龍に戦慄していた。
発する光が止んだ時にはもう、マスターダークはいなかった。否、消滅したのだ。
だが、ポラリスは周囲を見渡していた。マスターダークはまだ死んでいないとわかっていたから
暗雲から無数の闇が降り、分身…マスターダークのものへと象られた。
マスターダーク「隙だらけですよ!」
全ての個体がポラリスに銃口を向けて、引き金を引いた。直後、火花が散って鉛玉が放たれる。
まさに弾丸の雨が降り注ぐが、僅かな時間の中でポラリスは掌を地に翳す。
刹那、周囲に粒子状の激龍が現れ、重力に逆らうようにして空高く昇る。数多の光は弾丸を容易く打ち消し、分身達も直撃して消滅した。
マスターダーク「これは…!」
マスターダーク「マズイ…!」
流石に焦ってか分身達は連携して、粒子の合間を掻い潜っていく。何体かが生き残る中、分身も同じ数で消滅する。
マスターダーク (これは増援の必要がありますねぇ!)
そんな考えに応じてか暗雲からまた分身が降ってくる。この場に現れたマスターダークの全員がピストルを構えた。
刹那、数多ものの銃声が重なった。空間の四方八方から銃弾が飛び回り、粒子に近付く。
マスターダーク「貴様の粒子よりも!」
マスターダーク「圧倒的な物量で!」
マスターダーク「仕留めて差し上げましょう!」
複数の銃弾が粒子に入ると、それは爆発して消滅させた。だが、全てが思い通りになるはずが無く、宙に舞う分身は容赦無く消された。
ポラリスの前に三体の分身が降り立ち、立ちはだかる。それらは迷い無く走り出した。
分身達を視認し、警戒しながら両手を前に伸ばす。動きに反応してか激龍の粒子がポラリスの周りにも現れた。
マスターダーク「守りますか!無意味ですよ!!」
距離を詰めていく中、三人が手を繋いだ。すると、両端の分身が巨大にして異形な銃火器へと変形・両腕と一体化した。
砲口から黒い塊が連射し、扇状に広がる。蕾のような塊は展開して鳥として滑空した。それらは激龍の粒子に直撃して共に消滅していった。
マスターダーク「さーて!!」
砲口と真逆にある噴射口から衝撃波が発生し、勢いよく飛行した。目にも止まらぬ速さで掻い潜り、ポラリスの間合いに入った。
またもや両腕が変化する。それは翼…或いは巨大な口であり、ハエトリグサの葉に近かった。
マスターダーク「喰われなさい!!」
それを内側に振るい、閉ざした。だが、ポラリスは既にそこにはいなかった。
マスターダーク「おや?」
空を切った…そう、躱されたのだ。
マスターダークの背後に激龍の粒子が集い、再び肉体を形成した。
マスターダーク「厄介ですねぇ、広範囲に激龍を張り巡らせたりと…」
見据えた様子で次の策を練りながら両腕を再び変化させた。巨大な顎は本格的な翼となり、大きく広げた。勢いよく羽ばたかせるとそこから数多の羽が弾丸のように放たれる。
迫るそれらを見据えたポラリスは手を振って、粒子を発した。空間に舞う光は羽と直撃し、見事に爆ぜた。水色に煌めく爆炎は他の羽をも焼き尽くし、無に還していく。
マスターダーク「隙ありです!!」
両サイドから二体の分身が接近してきた。手にはサーベルとピストルが握り締められており、容赦無く刃を振り上げられた。
だが、それらはポラリスの身体をすり抜けていき、粒子を撒き散らすだけであった。空中に舞うそれらは黒い闇に染まった肉体に当たって、一瞬にして消滅させた。
マスターダーク「まだですよ!!」
両腕を元に戻した個体が片手でサーベルを握り締め、演奏中の指揮者のように振り回した。
直後、ポラリスを包囲するように数多のマスターダークが現れ、一斉に彼の周りを走り出した。その中で分身達は中心に銃口を向け、引き金を引く。
だが、ポラリスも瞬時に両手を真横に伸ばして身体を旋回する。掌から放たれる激龍の粒子が再び空間に散布された。
直後、銃声が鳴る。飛行する鉛玉はポラリスとの間合いを詰めるものの、粒子に当たってしまいすぐさま消滅した。
マスターダーク「もっと差し上げますよ!!」
腕を組むようにして自身を抱え、流れるように勢いよく両腕を広げる。すると、両腕から多種多様な砲身が現れる。照準は全てポラリスに向けられており、無数の重火器から赤く光る光線が放たれた。
それは空間を切り裂くように飛び交い、容赦無く迫る。だが、ポラリスは相変わらず落ち着いた様子で手を前に翳した。すると、掌から激龍の粒子が広がり、何層も重ねたバリアとして張った。
光線はバリアで打ち消され、全て弾かれる。
そんな二人の激闘を牙禅とグリンは呆然としながら見届けていた。光が瞬くそれは暗雲を確かに照らし、烈風が吹き荒れる。
牙禅「…とんでもないな」
肌に当たる迫力は鍛え上げ、ここまで乗り越えた者でさえも戦慄するものであった。
牙禅 (ヤツが味方でいて欲しいが、断言できないな…)
赤い瞳が戦況を見極めていた。
ポラリスが激龍の使徒であるなら、敵対する暗黒世界と共闘できるだろう…だが、こちらに敵意が無いとは限らないし、身の安全を保証してくれるかわからない。
ふと、グリンの方に目を遣る。
彼も戦場を目にしていたが、何処か暗かった。帽子の鍔で目元に影が覆っていたのだ。自分は無力であった事、大切な友達であるレオが死んでこの場に置いていく事、そして、自分の手で安らぎを与えれなかった事…あらゆる後悔が自責の念に変換していた。
牙禅「………」(無念だな)
そんなグリンの心境を察して、何も言わなかった。
迷いなく片手で担ぎ、静かに瞳を閉じた。心眼でライトとゲイツの位置を特定し、瞬間移動で二人のもとへと飛んでいった。
場面は戻り、閃光が止んだ。
マスターダークとポラリスは互いに見合っており、警戒を解かなかった。あれだけいた分身も数秒もせずにまた葬られていた。
マスターダーク「まだ、諦めませんか…」
溜息混じりに口を開く。その目付き、瞳は何処か退屈であり、気怠げに思っていた。一方でポラリスは沈黙のまま目前のマスターダークを見据える。
マスターダーク「もう嫌なんですよねー、君の事…」
片手で持つサーベルを振り回しながら、ボンヤリとした様子で明後日の方向を見つめていた。
マスターダーク「何もかもつまらないですし、何をやっても面白味に欠けるんです…」
ポラリスの周りを歩きながら愚痴を零す。最早それは今の戦いに対する不満であり、彼に対する悪口でもあった。
しかし、当の本人は沈黙を貫く。何も感じないのか、それとも言い返す必要が無いという俯瞰的なもの…或いは冷徹さか
歩を止めて、横向く身体を再びポラリスに向けた。
マスターダーク「もう決着をつけましょう…こんな茶番、長く続けても望んでいませんので」
両手を広げた。再びポラリスの周りを無数の分身が囲った。
マスターダーク「そうそう…私の分身は際限無く生み出せますので、諦めてくださいませ」
直後、ポラリスの周りを走り出した。それは素早く、巨大な竜巻を生み出す。あまりの威力に195cmはあるポラリスの身体を宙に浮かばせた。
マスターダークは見抜いていたのだ。ポラリスが放つ激龍の粒子は気流又は風の流れに沿って動いていた。ならば、こうしていけば流れは不規則となると考えていた。
そして、何体かの分身がサーベルを手にしながらポラリスに突っ込んでいく。また他数体の分身は照準を定めて、連射した。
ポラリスの身体に弾痕と切創が刻まれていく。激しく吹き荒れる暴風の中で肉体の操作は上手くいかない。そう、身動きが取れないのだ。
容赦無く傷痕が増える…その度に力の根源である激龍は失われていき、確かに疲弊していく。
マスターダーク「さぁ!これで終幕!!」
宙に舞って竜巻の中で見届ける分身が声高らかに両手を広げた。
刹那、斬り付けていた分身が一斉に迫り、サーベルの刃でポラリスの肉体を突き刺した。
マスターダーク「おさらば…」
胸に手を当てながら律儀に頭を下げた。確実に殺したと思ってか走り回っていた無数の分身は足を止めた。
すると、ポラリスの手が一つの刃に手をかけた。まだ、諦めていなかったのだ。
マスターダーク「おや?」
気になってか、赤い目を遣る。
全身から放たれる激龍の光が強くなっていく。
マスターダーク「まさか…自爆ですか!!」
ポラリスの目論見を見抜いた。動く前に光は更に増し、空間を侵食していく…それは周囲の分身を消していった。
ライト「何の光です…!?」
それはまだ遠くにいる彼らにも見えていた。確実にこちらへと迫ってくるのがわかる。
ゲイツ「兄貴…!」
ライトより先に、牙禅とグリンの気配を察知した。それは予想通り、ゲイツ達の前に現れた。
牙禅「急ぐぞ!」
間髪入れずに腕をかざし、腕時計から青い光線を放つ。目の前の空間に青い亀裂が現れた。
明らかに急げと催促しているのが伝わってきた。
ライト「わかりました!」
伝染してか急いで亀裂に向かって走り出した。ゲイツも後について行き、牙禅もグリンを連れて行く。
裂け目に入った彼らはこの世界を去った。すぐさま激龍の光もここまで来て、それさえも消し飛ばした。世界を覆う光は地上、海中にある全ての万象や生物を消滅させた。
世界は青空で広がっていた。暗雲一つもない地上には何も無く、ただ砂漠は静寂な空間に包まれていた。
「使徒を葬ったか…」
静かな世界に人影が降り立つ。黒いローブに身を包み、振袖と長い丈が風で靡く。
達観したような声色、それは確かに籠っていた。
「暗黒をも消し去る光…流石と言うべきか……」
全てを知っているであろう男は激龍を賞賛していた。
屈んで、砂の中に埋もれたものを掴んだ。それは激龍の欠片…視認した男はゆっくりと立ち上がる。
差し込んだ太陽光が屈折して、光を放つ。眺めるのは赤い光…それは目であり、機械のように無機質であった。
「全て…順調だ」
男は、鋼鉄で創られた黒い仮面で顔を覆っていた。
次回 第参拾漆話 「交錯する意志の在処」




