第参拾壱話 「同志」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
場面は変わり、フレアの熱湯纏う拳とアークの青黒の雷光を帯びる拳が衝突し合っていた。轟音は鳴り響き、空と大地が揺れる。
均衡は崩れた。沸騰する熱湯が弾け、アークの拳がフレアの顔面に向かって伸びていく。だが、首を傾けて躱した。青黒の電流が微かに肌を刺激した。
アーク「避けたか…」
フレア「そりゃそうだろっ!」
仏頂面で咄嗟に出た言葉に食いつくように反論するフレアが熱湯を纏った拳を下から突き上げた。
だが、バックステップで躱された。
アーク「予測済み…」
すかさずフレアから距離を取った。
フレア「やっぱ…ただの雷じゃねぇな」(なんだ?エネルギー?)
一撃をぶつけ合ったおかげで理解した。だが、アークが放つ電気については謎が深まった。
アーク「…なんか、全部読まれて癪だな」
頭を掻きながら溜息をつく。直後、黒い瞳が青く光り出した。予測したのはナイト、ウルフ、ブラックがこの場に駆け付けてくるというもの…
すると、アークが欠伸をする。
アーク「…眠い」
フレア「は?」
唐突に出た言葉にフレアは理解し難かった。
アークは自身が不利な状況に陥られると思い、誤魔化したのだ。
アーク「…じゃあね……」
フレアは問い詰めようとするが、この場を去ろうと暗雲に向かって空高く飛んだ。
フレア「なっ!?逃がすわけねぇだろ!!」
右手で熱湯の手裏剣を生成し、すかさず斬撃として飛ばす。だが、軌道が逸れてアークに届く事は無かった。結果、逃がしてしまった。
フレア「最悪…」
仕留め切れなかった事に悔いながらも能力を解いた。疲労が一気に身体に伸し掛る。かなりの激闘だったのだと瞬時に理解した。
ウルフ「無事か!?フレア!!」
アークの予測通り三人がフレアの元へと駆けつけてきた。
フレア「あぁ、全くもってな」
戦闘をやめてまでアークが逃げた理由を察した。ふと、空を見上げると覆われていた暗雲は無く、星々が煌めいていた。
その後、負傷者やまだ逃げ遅れた人々を救助…もとい、サンクド・マノと協力する事にし、各々分かれていった。
その頃、サーカステントと教会を掛け合わせた内装が特徴の玉座の間にて
マスターダーク「酷いショーでしたよ?チャッキー…」
玉座に居座るマスターダークの前にはチャッキーが跪いており、身体からは塵が浮上していた。
マスターダーク「アークは尽力してくれたのに貴方と来たら…」
呆れてか悪態をつき、不満を垂れていた。
余程、チャッキーが気に入らないのだろう。その目は失望していた。
チャッキー「も、申し訳ありません!我が創造主…!しかし…」
明らかに瀕死であった。ちょっとした事で命に関わるくらいには脆く、崩れそうであった。
マスターダーク「しかし?」
言い回しが気に入らないと嫌悪するが、言い訳を聞く事にした。
マスターダークの重圧に押しつぶされそうになるも、意を決した。
チャッキー「彼らは侮れません…!我らが思うより強力で!脅威になりえ…!」
弁明すれば助かるかもしれない…そんな淡い期待を抱きながら荒い呼吸で述べる。明らかに焦っており、身体も恐怖のあまり震えていた。
マスターダーク「我らが思うより…?」
だが、地雷を踏んでしまった。声色が低いものへと変わった。玉座から立ち上がり、チャッキーに歩み寄る。
マスターダーク「僕の想像では足らないって事…?」
間合いに入り、その場でしゃがむ。チャッキーの恐怖と絶望に染まった表情を覗く。
その際、マスターダークは能面のような顔を浮かべており、明らかに不機嫌であった。
マスターダーク「そうなの?」
目に光がなく、問い詰めた。完全な至近距離、チャッキーは逃げようにもできなかった。
チャッキー「い、いえ…!!」
怒らせてしまった。自分は助からないと恐怖し、先程の発言を撤回した。絞り出せる言葉がこれしか無かった。
静寂が辺りを包む。そのせいでチャッキーは更に恐怖が増すに加え、緊張もしていた。マスターダークを前に心臓の鼓動は早く鳴り響いていた。
マスターダーク「…まぁ、いいでしょう」
静寂を切り裂いたのはマスターダークの言葉であり、静かに立ち上がると踵を返した。そうして歩を進めていると、玉座に通じる祭壇の階段に腰掛けた。
マスターダーク「なんでもいいので、私を楽しませてください」
脚の上に肘をつき、頬杖しながら冷たく吐き捨てるようにしてチャッキーに要望する。チャンスを与えたのだ。
チャッキー「は、はい…!!」
まさかの事態に目を見開きながらもすぐに応じた。汚名返上という訳では無いが、何とかしようと思考を張り巡らせた。
恐怖で狭められた脳で思い付いたのは、まず背中から伸びた鋼鉄の脚を孔雀の如く広げた事だった。
チャッキー「こ、こちら!全てを切り裂く銀色の脚!そして!!」
フィンガースナップ、空間に鳴り響く音でダークアイを呼ぼうとしたが、一体も現れなかった。
チャッキー「しょ、少々お待ちくださいませ…!」
必死に代替案を出そうと思考する。心のどこかで理解していた、誰も自分の事など期待していないと
チャッキー「失礼しました!それでは…!!」
急いで準備に取り掛かった。
直後、自身の片腕を切断した。苦痛で顔が歪みはせず、地に落ちた肉片を拾い上げた。
チャッキー「ご覧下さい!こちらを…!」
生にしがみつこうと異常な行動を受け入れながら片腕を上空に投げ飛ばした。
刹那、銀色の脚が突き出され、鋭い刃が腕を切り刻む。削られる肉片は彫刻の如く象っていく。
チャッキー「完成です!」
やがてそれは落下して、片手で掴み取った。片腕だったそれはマスターダークと瓜二つの姿をしていた。
だが、当の本人は何のリアクションもせずにただ退屈そうに冷たい眼差しでチャッキーを見つめていた。
不安が過ぎるせいか冷や汗をかき始め、唾を飲んだ。
マスターダーク「フフッ…」
吊り上がった口角、その口から不気味な笑い声が静かに流れる。
きっと気に入ってくれた、自身を認めてくれたと思い、チャッキーは安堵した。
次の刹那、赤い閃光がチャッキーの首を通り過ぎた。
チャッキー「…え?」
突然の事態に理解が追いつかなかった。目の前には不気味に嗤うマスターダークがおり、手にはカットラス型のサーベルが握り締められていた。
すると、チャッキーの首はズレて胴体から斬り落とされた。地に転がると、全てが塵と化して消えていった。
マスターダーク「僕は楽しませてくださいと言ったのです…」
一人っきりとなった空間で口を開く。握り締めていたそれも少し緩めた事で消滅した。否、自らの意志で解除したのだ。
マスターダーク「赦すなどと、ただの一言も言っていないのさ」
口調が変わり、首を斬り落とした訳を述べる。端からチャッキーにチャンスなど無かったのだ。振り返って玉座へと登り始めた。
マスターダーク「しっかし、随分と都合がいいものですねぇ…」
口調が戻り、嘲笑いながら未だに登る。一歩ごと踏みしていく度、確実に玉座へと近付いていた。
マスターダーク「相手の事など読める訳が無いのに、それをさも自分事のように得意げになり、ふんぞり返る」
辿り着いた玉座に腰掛け、虚空に独り言を呟く。
マスターダーク「この世は混沌、数多のモノが入り交じってこそ成り立つ。なのに人は正義だ悪だと分別を付けたがる…くだらない、実に(ジィツゥニィ)くだらない…」
演技をするかのように大きく手振りをし、愚かと嘲笑いながらも呆れていた。
マスターダーク「故に、全ての世界を暗黒に支配し、我が楽園を築くのだ…」
天に向けて手を伸ばし、笑みを浮かべたまま目的を語った。直後、赤色のホログラムで構築された目の形をしたパネルがマスターダークの前で開く。
そこに映し出されるは一つの世界、リディアが向かったところであった。当然、戦士もそこにいるであろうとマスターダークは読んでいた。
マスターダーク「さてと、是非とも私を楽しませてくれ。心が躍り、魅入らせてくれるような感動を創造主である私に見せてくれ」
足を組んで、映像に集中しようと前屈みになる。
嬉々としながら、期待を胸に願望を吐露する。
場面は戻って、サンクド・マノの拠点前にて
扉の前にいるナイトの正面にはフレア、ブラック、ウルフの三人が並んでいた。
ナイト「これ、返しておくぜ」
平然としながら激龍の欠片をフレアに手渡した。それを前にしてか三人は静かに驚いた。
フレア「い、良いのか?ベギーリヒの為とかなんとかって…」
ナイト「素直に受け取りな」
困惑するフレアだが、問いには答えないと言わんばかりに強調して再度言い放つ。
戸惑いながらもウルフの合図を受けてか、とりあえずそれをしかと手にした。
ブラック「…どういう風の吹き回しだ?」
真顔のまま問いかけた。何か罠があるんじゃないか?と心の何処かで疑念を抱くが、ナイトが呟いた。
ナイト「なんも、それよりも面白いもん手にした…ってだけだ」
鼻で笑いながら三人に背中を向けた。すると、嬉々としていた瞳が素直な…真剣な目付きに変わった。
ナイト「…感化されたからな、テメェら戦士に」
静かに独り言を呟く。いつもと違う穏やかな笑み、感謝と言わんばかりに満更でもない様子であった。当然、三人はナイトの心境も今がどんな顔かもわからないままだ。
ナイト「それに、サンクド・マノの意地もあるからな」
すると、また振り返って彼らに身体を向けた。
ナイト「だから、そいつはくれてやるよ。色々とありがとうな」
いつもの笑みへと戻り、フレア達に感謝を伝えた。
ウルフ「御協力、感謝致します」
すかさず、フレアもブラックも感謝の言葉で返した。
ここでやる事は済ませてか、振り返ったブラックが手を突き出して何も無い空間に青い亀裂を生成した。そう、ワームホールだ。
最初にウルフが入り、続いてフレアも歩き出した。だが、亀裂の前で足が止まった。その事にブラックは疑問に思ったが、その意志を汲み取った。
フレアが振り返り、ナイトに顔を向けた。
フレア「また会おうな!」
清々しい笑みを浮かべながら拳を突き出し、亀裂の中へと入っていった。
短時間で、尚且つ初対面が最悪だったのにも関わらず、フレアはナイトの事を友達だと思っていたのだ。
彼に続いてブラックも入った事で、青い亀裂は閉ざされて消えていった。そうしてこの場にはナイトと彼が愛するベギーリヒに建つサンクド・マノの拠点であった。
ナイト「また、か…」
元気よく投げかけてくれた言葉、それが確かにここらに響いた。一人っきりの空間で静かに、歯を見せるようにして微笑んだ。
ナイト「さーて!今日も見回りに行くか!!」
今の気持ちを声高らかに叫んだ。そのまま走り出し、自身のやるべき事を果たそうとした。
戦士とは境遇や立ち位置は異なれど、志は何処か似ている…いや、もしかすれば同じものなのかもしれない。
その頃、レオ達 チームガンマは一本道で青色に染まった電脳空間を道なりに飛行していた。
レオ「なぁなぁ!グリン!今度はどんな世界なんだろうな?!」
楽しそうに騒ぎながらグリンに話しかける。目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。
グリン「そうだね」
任務というのに相変わらずのレオを見て、苦笑いを浮かべる。だが、そのおかげか永い時間を退屈にする事は無かった。
グリン「僕のベルデゾロが壊されたから武器の製造ができる場所があるなら良いかな…」
話に乗ってか顎に手を添え、思考を凝らしていた。
落ち着いた様子でレオと会話を交える。
ゲイツ「アイドルがいる世界はどうなの?」
無表情で会話に割り込み、グリンにボケをかます。
グリン「あーそれいいねー!ライブでペンライト持って推しを…って、何言わせてんの!?」
ノリツッコミで返し、愕然とした。
ゲイツ「いや、ドルオタだからどうなのかな?って」
グリン「え、何処でそれを…?」
ゲイツの発言通りグリンはドルオタであった。何個かのアイドルグループのライブにおり、そのおかげか迷惑行為が起こる事は無くなっていったのもあって、ネットでは有名であった。
まさか見抜かれているとは思わず、グリンは顔を赤くして恥ずかしそうにした。
ゲイツ「後、お化けが苦手なのも知ってる」
グリン「だから!何処情報なの!?」
続けてグリンにとって恥ずかしい情報をこの場で暴露していく。何故その事を知っているのか理解し難く、問いかけた。
ゲイツ「ネットだよ、案外僕達の事を見てるからね」
淡々と答えた。どうやら戦士の活動がネットに記載されており、その中で各戦士の人物像などが明るみになっているようだった。
レオ「俺達の事、書いてあんのか!なぁなぁ?俺はなんて書いてあるんだ?」
興味津々に目を輝かせながらゲイツに訊ねる。
ゲイツ「んー…」
少し考えながらポケットからスマホを取り出そうとした。だが、牙禅の手がゲイツの肩に置かれた。
牙禅「そこまでにしておけ、ゲイツ」
真剣な表情で制止の声をかけた。
牙禅「今は任務だ。それにこういう配慮の欠けたものは利用すべきでは無い」
切り替えろ、相手の事を考えろと叱る。だが、怒鳴ったりはせず、落ち着いた様子でいた。
ゲイツ「えー?そう?」
だが、響いていないのか無表情で言い返した。
ライト「牙禅さんに同意します」
ゲイツの言い訳が気に入らなかったのか、牙禅の肩を持った。
ライト「隠しておきたい事をグリンさんに許可を取らずにやるのは良くないと思います。」
青い瞳が真剣な目付きで彼を見据えていた。内心、ゲイツに対して嫌悪感を抱いていた。
突然、出しゃばってきたライトを黒い目に映す。
ゲイツ「…兄貴の弟子だっけ?かなり真面目なんだね」
呆れた様子で溜息をつく。ご覧の通り、反省の態度は見せなかった。癪に思ってかライトの目付きが睨むものへと変わった。
だが、ゲイツが口を開いた。
ゲイツ「ただまぁ、勝手にやったのは確かに悪かったね。僕に非があるわ」
『それとは別に』と言わんばかりにグリンに近付いて、耳打ちで謝罪の言葉を伝えた。
するべき事をした…その事実で納得しつつも、態度のせいか怒りと不満が残っていた。だが、牙禅が隣に並んできた事で少し収まった。
牙禅「申し訳ない、弟が迷惑をかけた」
ライト「牙禅さんは悪くありません。ただ…」
目を伏せて謝罪する牙禅にそう返し、ライトの顔はゲイツを向いたままであった。
ライト「…え?」
ふと、ある発言に引っかかってか鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべた。
ライト「弟?」
違和感を抱く想定外の言葉で湧いていた怒りが完全に鎮まった。
レオ「えっ!?お前ら、兄弟だったのか!?」
続けて気付いたのはレオであり、牙禅とゲイツを交互に顔を向けながら大声で愕然としていた。
ゲイツ「いや、見たらわかる…」
レオとライトにツッコむが、過去の事を思えば無理も無いかと言葉が止まった。
それはゲイツにとって思い返したくもなかった。
突如として現れた氷山が現れた直後、炎に包まれ、同胞が殺されていった…そんな地獄が脳裏に過ぎっていたのだ。
ゲイツ「…訳ないか」
すかさず言葉を訂正し、大人しくなった。
ゲイツの様子にレオは訝しむ顔で首を傾げた。グリンとライトは事の内容を理解し、静かにその心情を汲み取った。
牙禅「…俺とゲイツは兄弟だ、異論は無い」
取り乱した空気をなんとかまとめようと即決に答えた。
レオ「び、ビックリだな…!!」
未だに実感が湧かなかった。全員の過去については知っており、牙禅に弟がいた事など想定していなかったからだ。
牙禅もゲイツが生きていたのは最近で、まだ知ったばかりであった。
静かに目を見開きながら戸惑うグリンだったが、目前の白い光を目にした事で目的地に辿り着く事がわかった。
グリン「もう少ししたら着くよ!」
この場にいる戦士に声をかけた。そろそろ準備するようにという合図も込めて
レオ「よーし!どんな世界が待ってるか楽しみだな!」
相変わらず元気な大声を上げて、期待でいっぱいだった。グリンと牙禅、ライトは微笑むも、初体験のゲイツには実感が湧かなかった。
そのまま五人は白い光の中へと入っていった。眩く煌めくそれは周囲の空間を包んでおり、時間と共に収まっていった。
グリン「…え?」
ハッキリとした光景に衝撃を覚えた。
大地は砂漠で覆われ、荒廃した建物は沈んでいた。一方で空は暗雲に覆われており、一切の光も差し込まれなかった。静寂に包まれたそこは正に終末を迎えた世界であった。
次回 第参拾弐話 「紅蓮の獣」




