第弐拾玖話 「尽く、斬り刻む」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
赤い矢と超音波、アークがスレイプニルの間合いに入った。結果、互いに衝突。それにより赤い爆煙が轟音と共に発現した。
『阻止した』と、この場の四人が願う。嫌な予感が胸の中で渦巻くせいか静かに構える。
ウルフ「…来るか」
静かに呟いた刹那、空に舞う煙から人のような黒い影が飛び出してきた。それはウルフ達の前に墜落した。
とてつもない轟音と揺れ、周囲に粉塵が舞う。それは四人の視界を遮り、影を隠す程のものであった。
ナイト「…とんでもねぇな」
ブラック「圧迫されるような感じだ…」
影から放たれる殺気に気圧される。勝手に汗が流れ、僅かながら恐怖が芽生えた。
そんな四人を他所に影が片手で薙ぎ払い、煙を晴らした。
フレア「なっ!?…んだよ、あの姿…!」
敵の姿が現れて、すぐに目を見開く。それはブラックやウルフ、ナイトも例外ではなかった。
目の前にはスレイプニルの甲冑を纏ったアークがいた。横に伸ばした手には騎槍が握りしめられており、馬を模した兜を被っていた。
アーク「暗黒融合体 武装型…といったところかな」
肩を下ろすように息を吐くと、口元を展開される仮面で隠される。
アーク「字名は、ソルダニル…暗黒語で『刈り取る素早い闇』」
直後、マスクの下から青いバイザーが目元を覆う。その姿は正に騎士そのもの…青い光が目として睨む。
直後、ウルフが何かを感じ取った。
ウルフ「何か来る…!」
瞬時に明後日の方向へと身体を向けた。青い瞳には降下するチャッキーが映り、こちらに迫ってきた。
チャッキー「切り刻んでやるぜェェ!!」
押すようにウルフを蹴ると、背中から伸びた銀の脚が持つ鋭利な刃を攻撃として突き出した。
ウルフ「やらせるかッ…!」
阻止しようと片手を順手、もう片方を逆手に双剣を握りしめながら身体を旋回させる。
放たれる風の斬撃がチャッキーの蜘蛛と酷似した脚を弾き返した。
チャッキー「スキュラ!!」
逃がさないとウルフから目線を逸らさずに声を張り上げた。すると、何処からか現れた宙を舞う黒い煙がブラックへと突っ込んでくる。
ブラック「なんだ…!?」
唐突な事に驚くが、煙はブラックを飲み込み、遠くへと連れていかれた。
チャッキーもウルフと共に高所から飛び降りて、アークとフレア達から離れていった。
フレア「ブラック!ウルフさん!」
二人を心配し、状況に戸惑う。だが、その焦りを止めようとナイトの手がフレアの肩に置かれた。
フレアが我に返る。瞬時にナイトの方へと振り向く。
ナイト「油断すんな、じゃねぇと死ぬぞ」
優先すべき事を伝え、切り替えろと指示を出した。冷たいが、フレアを思っての事…気を抜けば死ぬからだ。
フレア「…あぁ、わかったよ……!!」
不安に思うが、ブラックとウルフを信じて、今はアーク改めソルダニルを警戒した。
腰を低くして拳を構えると、全身から高熱が帯びて、幾つものの泡沫が周囲に浮かんだ。
ナイトも堂々と紫月ノ牙をソルダニルに翳した。二人の睨む目は目前の敵から逸らさなかった。
ソルダニル「…尽く、斬り刻む」
片手に握り締めた騎槍を持ち上げ、鋭い穂先がフレアとナイトに向けられた。
ビルに沿ってウルフとチャッキーは降下していた。並ぶ窓ガラスが月光を反射させ、二人の姿を映していた。
チャッキー「かなり強いみてぇだが、所詮は人間!俺ちゃん達には勝てやしねぇんだよ!」
胸ぐらを掴みながら鼻で笑う。その言葉はウルフ含めた全人類に向けられていた。
ウルフ「お前は…なんだ?」
静かに呟く。
チャッキー「あぁ?」
上手く聞き取れなかったので訝しみながら首を傾げた。
ウルフ「お前は…暗黒世界の何なんだ?」
劣勢で危機的状況にも関わらず、青い瞳は侮辱するチャッキーを映していた。表情には焦りも悔しさも感じなかった。
チャッキー「俺ちゃんは暗黒の創造主の手足となる眷属!いずれ、全ての世界は闇に飲まれるんだよ!!」
余裕そうに高らかと語る。自身は暗黒世界の者で、その中でも強いので落下死する事は無い。無論、これはハッタリなどでは無い。
ウルフ「そうか…」
それは瞬時に読んでおり、チャッキーについて分析していた。返す言葉は冷たく、非常に端的であった。
チャッキー「わかったんなら!ショー始めよーぜ!!」
話が早くて助かったと思いながら背中の脚が蠢く。直後、刃の先端がウルフに向けると勢いよく突き出された。
ウルフ「はぁっ!!」
双剣で弾き返す。だが、刃は幾度となくウルフに襲いかかる。意気揚々と無慈悲ながら…肉を切り、命を刈り取ろうと
ウルフ「切牙 風型…!」
交差した腕を前に突き出し、双剣を構える。白銀に煌めく片刃の先は左右に向けられる。直後、刀身に緑色の風が纏い、旋回する。
次の刹那、反対に両腕を広げ、双剣を振るう。
ウルフ「切斬舞!!!」
直後、風の斬撃が前方に広がり、チャッキーの攻撃を押し返そうとする。同時に鎌鼬の如く全身に数多の傷を刻んだ。
チャッキー「効かねェ!効かねェよ!んなナマクラァッ!!」
痛みなど感じないので怯む事も臆す事も無かった。心の底から楽しんでいると言わんばかりの笑みを浮かべており、戦慄しそうになる。
そのままチャッキーは刃を突き出し、振り続ける。だが、ウルフは難無く躱していた。特殊な訓練と狼の性質を兼ね備えていたからだ
ウルフ「随分と人を見下しているのだな」
斬り合いに入り、刃同士がぶつかりあう。その状況下で落ち着いたまま淡々と問いかけた。
真剣な言葉にチャッキーは“馬鹿だ”と嘲り、顔を近付けた。
チャッキー「そりゃそうだろ!人ってのはどいつもこいつも脆くて儚いもんだからなァ!」
真っ赤に染った目がウルフを映して、嗤う。チャッキーの本心か、将又暗黒世界側の価値観か…いずれにせよ、ウルフは少し嫌悪感を…いや、哀れみを覚えていた。
ウルフ「甘く見られているな…」
チャッキー「あ?」
たった一言でチャッキーが眉を顰める。ウルフが冷たい眼差しを向けながら言葉を紡ぐ。
ウルフ「人間だった俺が言うのも野暮だが…」
交える刃が徐々に加速していく。悔いなどの感情が意志を動かし、力が増しているのだ。
チャッキー(速ぇな…)
目の前の違和感に気付き、適応する。
ウルフ「人をナメるなよ」
胸に秘めた意志が瞳に現れ、チャッキーを見据えた。直後、蹴りが繰り出された。
避けれず腹部に受けて、強制的にウルフから離れる。
吹き飛ばされる肉体がアスファルトの地面に打ち付けられそうになるが、背中の脚が突き立てた事で落下死を阻止した。
チャッキー「ナメるもなんも!その高さじゃ死ぬだろうがよ!」
降下するウルフを見上げながら死に様を想像した。思わず口角が上がり、赤い目が嬉々と歪んだ。
だが、ウルフは焦らず握り締める双剣を構える。
ウルフ「切牙 風型…!」
身体を捻って、もう片方の刃を逆手に持ち替える。目線の先はアスファルト、そこに向けて振るう白刃から突風が弾けた。
ウルフ「弾唄!」
地面に直撃してか肉体を微かに飛ばし、浮かした事で落下死を阻止した。着地して跪くとゆっくり立ち上がった。
ウルフ「お前は此処で討つ、望まぬ力を持つ者として…」
もう片方の刃も逆手に持ち替える。意志の表れで握り締める両手に力が込められる。
ウルフ「今は亡き英雄にして俺の恩人である邪光 斬希との約束の為…!!」
凍てつく殺気を向けながらドスの効いた声を張り上げた。交差する腕、双剣の刃先がチャッキーに狙いを定めて構える。
チャッキー「討つ?俺ちゃんをか?威勢はいいが、下等種族がどれだけ足掻いても俺ちゃんらには意味ねぇんだよ!!」
言葉が耳に届いても、心には響かなかった。ニヤケ面を浮かべながら瞬時に背中の脚を伸ばした。
異常なまでに伸びる鋭利な刃はウルフに襲いかかり、確実に突き刺そうとする。
ウルフ「切牙 月型…」
一切表情を変えないまま容易く躱し、双剣で弾き返した。すると、ウルフは俊敏な動きで駆け抜け、チャッキーに接近する。その動きは名を冠している狼のようだ。
間合いに入って、チャッキーの頸に目掛けて刃を振るう。このまま斬り落とす…だが、現実は甘くなかった。
チャッキーは口に溜めた何かを吹き出した。
ウルフ「くッ…!」
それは黒い液体であり、顔の半分にかかってしまった。身の危険を感じてか瞬時に距離を取る。
チャッキー「人をナメるな?そっちこそ俺ちゃん達暗黒世界をナメるなよ!!」
思い通りになってかニヤケ面を浮かべ、高らかに言い返した。
ウルフ(なんだ?墨?のようなものが…)
チャッキーが何をかけてきたのか?理解が追いつかないまま付着した箇所にある黒い液体に触れた。
直後、焼けるような音が鳴った。
ウルフ「ッ…!」(熱いな…!)
同時に激痛が走り、苦痛で顔が歪む。それだけではなく、黒い液体から暗黒世界特有の赤い目が浮き出た。
ウルフ「…毒か」
どういうものなのかはわからない、暗黒世界だけが持つものかもしれない。だが、自身を蝕む有害なものだと考察し、チャッキーに真偽を問うた。
チャッキー「正解!そいつは俺ちゃん達と同じ暗黒世界の者になるんだよ!!!」
勝利を確信していた。それ故か得意げに高らかとウルフにかけた液体について説明しだした。
それに嘘など無く、顔の半分にかかっていた毒液が徐々に侵食し始めた。肌で感じる嫌な感覚が嫌でも理解させられたのだ。
ウルフ「…生憎だが、あんなゲテモノになる気は無い」
だが、当の本人は平然としており、双剣を握り締めながら一歩、また一歩と進んでチャッキーに近付く。見据える瞳には反抗するという確固たる意志が宿っていた。
チャッキー「馬鹿だなぁ!!!」
嘲笑いながら背中の脚が伸び、鋭い刃を突き刺す。更には先程の毒液を噴射しようと口を膨らませた。
だが、ウルフは迫る刃を躱す又は双剣で弾き返しながら依然と変わらずに迫る。
顔の半分をやられているのにも関わらずにだ、徐々に意識が奪われそうになっているのに、ウルフは堂々としていた。
チャッキー「大したもんだな!だが、無意味だ!!」
一瞬の隙を逃さまいと口から黒い毒を吹き出した。液体は広がり、ウルフの逃げ道を無くしていた。
ウルフ「はぁッ!!」
逆手に構えた白刃が光る。次の刹那、素早く振り上げた刀から突風が巻き起こる。
飛ぶ斬撃は毒液を両断し、ウルフの横を通り過ぎた。結果、一滴もかからなかった。
チャッキー「なんだとォ!?」
想定外の展開に焦燥感が迫る。直後、ウルフがもう片方の太刀でチャッキーの頸を掻き斬ろうとする。
既の所で躱すも、被っていたシルクハットなどの布生地を巻き込んで黒い皮膚を裂いた。
チャッキー「チィッ!」
不服に思いながらバックステップでウルフから距離を取る。吊り上がっていた口角は下がっており、歯を食いしばっていた。
チャッキー「どーゆー事だ!?俺ちゃんの毒を受けてんのに恐れねぇなんてよォ!?」
浮遊していた身体は着地し、受けた傷が瞬時に塞がった。
ウルフ「至極単純だ…」
両腕を下ろし、旋回する双剣を逆手に構える。青い瞳はチャッキーを見据えており、確実に斬るという意志が宿っていた。
ウルフ「お前の言う人だからだ」
端的に述べ、チャッキーの間合いを詰めようと一歩ずつ確実に迫る。当然、逃すつもりは無い。
チャッキー「ほざきやがれ!!」
戯言だと拒み、口から毒液を放つ。一直線に放つそれには溶解する作用が施されていた。
ウルフ「貴様は慢心していた。だから、傷を負った」
だが、それは既に読んでおり、臆さずに俊敏な動きで姿を消した。
チャッキー「よく吠えるなぁ…!」
必死に周囲を見渡す。直後、後ろから現れた白刃がチャッキーの首に突きつけられた。
ウルフ「一つ問う…」
無論、ウルフの仕業であった。
ウルフ「何故、そこまでして人を恨む?」
純粋な疑問を投げかける。そこまでして人を見下すのには何かしらの理由があるとウルフは考えていた。
すると、訊ねられたチャッキーの口角が再び吊り上がる。
チャッキー「クヒッ…ヒヒ…キシシ……」
可笑しく思ってか笑い声は堪えていた。それを見てかウルフが不審に思う。
チャッキー「アーヒャッヒャヒャヒャヒャヒャァァァッ!!!」
堪えきれずに嘲るように笑い出した。
ウルフ「何がおかしい」
気味悪く思うが、平然としたまま冷静に訊ねた。
チャッキー「…テメェ、何にも知らねぇみてぇだなぁ?」
振り返りながら赤く染った目に宿る黒い瞳がウルフを映した。質問を質問で返されて面倒だと思うが、何とか抑えた。
ウルフ「暗黒世界…数多の世界を蹂躙する異形の怪物の事だろ?」
淡々と自身の知る情報を述べ、答える。チャッキーの言いたい事、何を考えているのかがわからなかった。
チャッキー「そうだなァ…だが、違うな」
顔を訝しめるウルフを他所に嘲りながらチャッキーが言葉を紡いだ。
チャッキー「俺ちゃん含めた暗黒世界は憎悪などの闇から出でる…闇がある限り、不滅なんだよ」
意気揚々と語る。例え暗黒世界を倒したとしても負の感情がある限り絶滅はしない、つまりは不毛な争いなのだ。
ウルフ「成程な…」
納得してか口を開いて、静かに呟く。
チャッキー「そうだ!貴様らのやってる事は何一つ無駄なんだよ!!」
ウルフが後ろにいるので顔は見えないが、声からして絶望したと確信していた。畳み掛けるようにして諦めるよう促した。戦意喪失するかと思っていた。
ウルフ「それがどうした?」
だが、チャッキーの思惑は外れた。ウルフは依然として冷静のまま返事した、
チャッキー「なんだと?」
そのせいか笑みが消えた。疑問を抱きながら内心愕然とした。
ウルフ「俺達は終わりの無い戦いをしている、言い換えれば贖罪…その代行だ」
構えた太刀を瞬時に後ろへと引いた。それはチャッキーの頚を斬り、血飛沫の代わりに黒い塵が吹き出た。
チャッキー「つまり貴様は、永遠の地獄を味わうってのかァ…?」
ウルフの意志を耳にしてか、続けて問いかけた。苦痛を感じないのかその態度は平然としていた。
ウルフ「あぁ、退く理由も諦める訳も何一つとて無いからな!!」
頚を斬っても死なないと考えてか双剣を構える。刹那、旋回して竜巻のような斬撃を繰り出した。
無数の斬撃はチャッキーを取り込み、粉微塵に葬ろうとしていた。だが、ヤツの意識はまだ保っていた。
チャッキー「どーなっても知ら、ねぇぜェ………」
戯言をほざく。流石に消滅してしまうと危機感があってか逃げる為、塵と化して暗雲へと昇っていった。
チャッキー(悪りぃ、アーク…あとは頼んだぜェ…)
軽い口調とは裏腹に申し訳なさそうに思い、この場から去っていった。
竜巻のような斬撃が止み、低い姿勢であった身体が立ち上がる。
ウルフ「…逃がしたか」
血振りをすると、双剣を腰にある鞘に納めた。チャッキーを仕留め損ねた事は見越していたのだ。
ウルフ「とはいえ、二度は来ないだろう…」
空を見上げて、暗雲を青い瞳に映す。チャッキーの状況などから推察を立てると、踵を返した。
ウルフ「急ごう」
フレアの元へと向かおうとアスファルトの上を駆け抜けた。見据える青い瞳に決意が表れていた。
時は遡り、ブラックは黒煙に包まれながら遠くへと連れていかれていた。
ブラック「ぐっ…!」(苦しいが、問題は…!!)
カオスのおかげか黒煙が持つ有毒ガスで死ぬ事は無かった。双剣を握り締め、刀身が赤く閃いた。
ブラック (無いっ…!!)
迷いなく刃を振るい、互いにぶつかって金属音を鳴り響かせた。音色は空間を振動させて、黒煙が蠢かせた。耐えきれずに降下し、ビルの屋上に不時着した。
黒煙から脱したブラックが転がり、なんとか体勢を立て直すと双剣を繋げた弓に赤い矢を番える。
ブラック「物理は効かないが…」
黒煙に照準を合わせるが、不規則に動くせいで追わざるを得なかった。
ブラック「そこっ…!!」
戸惑いも苛立ちも無く、引いていた矢を手放した。次の刹那、矢が進む中で幾度となく衝撃波が発生する。
それは空間を振動させて、黒煙を貫通した。
黒煙「イッテェし、気持ち悪いなァァ!!」
黒煙が更に濃くなり、着地したと当時に正体を現した。
それは暗いガラスから覗くモノアイと口元に繋がっている剥き出しのパイプなど特殊な潜水服の人型のものであった。
黒煙「揺らしやがってよォ…!!」
籠る声と共にスキューバダイバーのような特殊な呼吸音が鳴っていた。
ブラック「それが、お前の姿か…!」
続けて赤い矢を番える。穂先は暗黒の潜伏者 スキュラに向けられていた。
スキュラ「あ?なんだお前?悪魔みてぇな臭いすんなァ…」
地に伏していた肉体を起こしながらブラックに宿るカオスに釣られ、彼の存在に気付いた。
内心、面倒だと悪態をついていた。
スキュラ「まぁ…殺せば、済むか」
速攻で片付けようと身体から溢れ出る黒煙が全身を包む。
ブラック「させるか…!」
引いていた弦を離し、赤い矢を放った。
スキュラ「二度は効かねぇよ!」
目にも止まらぬ速さで駆け抜ける赤い矢が黒煙と化した肉体を貫く。だが、通り抜けてしまった。
すぐさまブラックの間合いに入ると、執拗に付き纏った。
ブラック「…効かないぞ、早く闇に帰れ」
急いでフレア達の元へと向かわなければならない想いを阻害するスキュラに対する嫌悪感と苛立ちとして睨みつけた。
躊躇わず弦を鳴らそうと構える。
スキュラ「んなのわかってんだよ!」
平然とした態度から馬鹿にされていると思ってか、別の手段を取った。
スキュラの黒煙がブラックの口や鼻と穴という穴から侵入し始めた。
ブラック「…何をするつもりだ?」
落ち着いた雰囲気とは裏腹に静かながらも驚いていた。
スキュラはブラックの体内に入り、中にいるカオスも含めて滅するつもりだった。
すぐに思考を張り巡らせて対策を講じようとするが、既にスキュラは完全に体内へと入っていた。
スキュラ「チャッキーは約束してくれた!お前さえ殺せば創造主に仕える使徒にさせてくれると!!」
ブラックの頭の中で声が響く。既に勝利を確信してか自身の目論見と行動の意図を明かした。
ブラック「ぐっ…!!」(マズいな、これは…!!)
流石のブラックも焦っていた。放っておけばスキュラに自我を乗っ取られ、フレア達が劣勢に立たされてしまうと…
スキュラ「さぁ!ブラック!!このままお前を蝕んで、殺して…!!」
声高らかに死を宣告したが次の刹那、違和感を覚えた。
ブラックの体内から不気味な程に真っ赤な異空間へと場所が変わっていたのだ。
スキュラ「…や……る………?」
禍々しい殺風景を目の当たりにしてか言葉は減速して、やがて止まる。静寂に包む空気が不安などに押し潰されそうになるが、辺りを見渡していた。
ここにはスキュラしかおらず、誰一人とていなかった。
スキュラ「…なんだ?ここは……」
黒煙だった肉体は人の形を成しており、遅れて自身の姿に気が付いた。
不思議に思いながらもこの異空間を知ろうと・抜け出そうと一歩前に踏み出そうとした。だが…
スキュラ(動かない…?声も、出ねぇ……)
指一つさえ動かせなかった。金縛りにあったかのような感覚に襲われる。
そんなスキュラの背後から誰かが近付いてきたと言わんばかりに足音が鳴り響いていた。
スキュラ(だ、誰だ…!?なんだ!?悍ましいのが…!!)
鈍い恐怖が全身を襲い、蝕んでいく。意思とは裏腹に汗が流れ出る。
闇より黒い肉体に顔の中心にある十字の赤い目、生える角や尻尾はさながら悪魔のようであった。
カオス「………」
黒い悪魔 カオスはスキュラをただ見つめていた。彼の姿はガロンから顕現していたものとは乖離していた。
スキュラ(ま…さ……か………)
振り返ろうにも振り返れず、恐怖がより重く、増していく。カオスは一歩、また一歩と近付いてくる。
明確な殺意や憎悪などは無く、ただスキュラの後ろに立った。すると、伸びる両手が顔の前を覆った。
スキュラ(や……め…………ろ……………!!)
目の前が暗闇に閉ざされる。得体のしれない恐怖にスキュラは何も出来なかった。
現実へと場面は変わる。
ブラック「…消えた?」
身構えていたが、中にいるはずのスキュラが前触れも無くいなくなった事に気が付いた。奇妙な出来事にまだ理解が追いつかなかった。
ブラック「…兎に角、急ぐか」
考えても野暮だと思ってか、すぐに切り替え、この場から離れていった。
第参拾話 「人として」




