第弐拾捌話 「黒馬ノ騎士」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
ベギーリヒにて、突如として一軒のビルが倒壊し始めた。
「うわあ!?なんだあああ!!」
「いやあああああ!!」
予想だにしなかった人々は驚き、怯え、逃げ惑っていた。瓦礫が落下し、粉塵が舞って周囲を覆う。灰色の世界に飲み込まれた人達は困惑しながらもこの場から離れようと逃げ出す。
次の刹那、彼らの心臓を何かによって貫かれ、胸部に大きな穴が空いていた。断末魔も遺言も上げる間もなく、ただ地に伏せる。そこから流れる真っ赤な血がアスファルトを侵蝕していく。
灰色の空間に、亡骸が横たわる赤い地面の上に一つの歪な人影が立っていた。それはスレイプニルであり、一歩また一歩と進む度に甲冑の音が鳴り響いていた。
黒い鎧に包まれた片腕は騎槍と一体化しており、付着した血が先端から滴っていた。
スレイプニル「全て、壊す…」
籠った声で冷徹に呟く。右腕を明後日の方へと翳した騎槍の先端が赤黒く眩いた。
次の刹那、空間を引き裂くような光線が放たれた。光は幾つもののビルを貫き、夜空の向こう側へと消えていった。
スレイプニル「人間、殺す…!」
片腕を薙ぎ払うようにして振るうと、光線も釣られて、ビル群を一閃した。
間を置いて静寂に包まれた直後、ガラス張りのコンクリートの塊が崩壊を始めた。
「に、逃げろおおお!!」
「嫌だああ!死にたくないいい!!」
「きゃあああああああ!!!」
老若男女問わず、至る所で声が木霊しながら生に縋るようにして逃げていた。
スレイプニル「…殺、せ……!」
カタゴトで指示を飛ばす。すると、暗雲から黒い闇が降りてきて、晴れたところに無数のダークアイが現れた。
赤く大きな一つ目が開き、屍の如く前進し始めた。
黒く染った身体が逃げ惑う人に近付き、赤く長い爪が振り下ろされた。
鋭利なそれは衣服と共に肉体を切り裂き、血飛沫が舞った。
「ぐわああっ!」
深い傷を負った男は断末魔を上げながら地に伏せる。
男だけでなく、女も、老いも若いも…無差別に人々は襲われ、無慈悲に命を奪われていく。
そんな地獄でスレイプニルは静かに歩を進めていた。
スレイプニル「有象無象に…滅茶苦茶に…跡形もなく…滅ぼす……」
仮面の目元にある細く長い穴から赤い目が現れる。
スレイプニルの足が止まると、振り向きながら深淵から覗くそれが先を見据えた。
「お前…好き勝手にやってくれたな」
瞳に映すは赤い短髪に筋骨隆々な肉体をスーツで包んだサングラスの男であった。彼もサンクド・マノの一人 名はベガであった。
スレイプニル「…バラバラに、粉々に…破壊する……」
彼を敵と認識し、右腕と一体化した騎槍を構える。それを後ろに引いて、腰を低くして構える。
ベガ「気味わりぃな、テメェ」
常軌を逸した雰囲気を前にして微かに恐怖心を抱くが、巨大な拳を構えて決意を顕にした事でなんとか払拭した。
ベガ「戦車人間!!」
力強く唱えると、全身から赤いオーラが燃え盛ってきた。
スレイプニル「…破壊力……上がるか…」
ベガの雰囲気が、宿る力が変化したと確かな違和感を覚えた。
ベガ「そうだ!俺の異能は戦車人間!名の通り戦車と同等の破壊力に強度、速力を引き出す事が出来るものだ!」
ご名答と言わんばかりに堂々と、自信満々に自身の能力を述べた。それ程までに負けないと断言していた。
スレイプニル「壊す…!」
ベガの煽りを意に介さず、右腕の騎槍を突き出しながら前進した。それはあまりにも速く、瞬きする間もなくベガの間合いに入った。
鋭利な先端が分厚い胴体に穴は生まれず、鉄板を叩くような音が鳴り響き、見事に弾かれた。
ベガ「鈍いぞ!!」
岩のような拳を握りしめる。刹那、剛拳が勢いよく突き出された。その一撃は尋常ではなく、スレイプニルを勢いよく吹き飛ばした。まさに砲弾のよう…
鋼鉄の肉体は超高速でベガから離れ、コンクリートの壁に打ち付けられた。あまりの衝撃に轟音が鳴り響き、周囲に粉塵が舞った。
ベガ(大体の奴はこれで死ぬが…)
油断する事無く、粉塵の中を見据える。
これまでの戦いを振り返った上で予測を立てていると、粉塵から人影が起き上がってきた。
スレイプニル「…まだ、壊し……足りない…」
完全に立ち上がると、スリット状の赤い光が照らしながら顔を向けた。満たされない破壊欲を吐露しながら
ベガ「お前は違うみたいだな…」
今のままでは倒せないと本能が理解し、より気を引き締めた。
スレイプニル「オマエ、ヲ…壊す…!」
粉塵から抜け出す。砲弾のような重い一撃を食らっても尚、甲冑に一切の傷は無かった。
ベガ「…とんだ化け物だな」
平然とした態度により恐怖がのしかかる。それはあまりにも重く、凍てついていた。
ベガの間合いに入った時、重く冷たい黒鉄の姿が消えた。
ベガ「消えた!…いや、違うな!」
あまりの速さに錯覚を起こすが、瞬時に解釈を改めて、後ろを振り返った。
そこにはスレイプニルがおり、もう片方の腕も騎槍と一体化していた。二つの穂先が再び、ベガの胴体を貫こうとした。
ベガ「効かぬわ!!」
声を張り上げ、踏ん張ったまま後退する。キャタピラが引くような音が鳴る。
穂先はベガの胴体を軽く突くだけであり、致命傷には至らなかった。
スレイプニル「避けられた、か…」
ふと、地面へと目を遣る。よく見ると、アスファルトにはタイヤ痕が刻まれていた。
ベガ「生憎だが、速さにも勝ってんだよ!」
ハッタリをかましながら回し蹴りを繰り出す。だが、それは届く事無く、スレイプニルはいとも容易く避けた。
そこで目にしたのはベガの足裏であり、キャタピラが顕となっていた。それもスレイプニルの身体に当たる事は無かった。
スレイプニル「戦車人間…名の通り、だな」
ガタゴトだった言葉が徐々に、確かながらに饒舌となっていった。
ベガ「なんだ?普通に喋れるタイプか?」(急に知能が上がり出してきたな…どういう事だ?何がキッカケだ?)
突然の事に困惑しながらも目先にいるスレイプニルに警戒していた。今よりも更に…
スレイプニル「なんとか脳は食ったからな…時間をかけ過ぎた……」
両腕をぶら下げながら息を吐く。騎槍の穂先が地に向けられていた。どうやら取り込んだ人間の記憶を完全に読み取るのに苦労したようだ。
ベガ「中のヤツ?何言ってんのかはわからねぇが、本気っぽいな!」
右の剛拳を力強くスレイプニルに翳す。
ベガ「龍砲!」
声を張り上げた直後、拳から轟音と共に火花が弾けた。放たれたのは拳の形状をした炎であり、その速度と大きさは正に砲弾であった。
スレイプニル「…鈍い」
静かに呟いた刹那、黒の甲冑に包まれた姿が音も無く消えた。
ベガ「消えたか!」
先読みをし、気配を感じ取って右に振り向く。だが、そこには何も無かった。
ベガ(いない…!?)
錯覚だと気付き、目を見開いた。視界の外…ベガの顔とは真逆にスレイプニルが現れた。
ベガ「そこか…!」
判断を誤った、瞬時に動こうとした。
スレイプニル「見誤ったな」
だが、時既に遅し…騎槍の穂先がベガの肉体を貫こうと襲いかかる。
ベガ(だが、戦車人間の強度は名の通り戦車!あの化け物の攻撃、どうという事は無…)
これまでの経験から大丈夫だと確信する。だが、その思いを砕くようにして穂先がグロい音と共にベガの肉体を貫いた。
ベガ(…い……?)
想定外の事に愕然とする。直後、百回以上の鉄を叩くような音が空間に木霊した。
ベガ(なんだ…?何が起こった…?)
幾つもの疑問が脳裏に渦巻く、散らばっていた点は一つの線となるように一つの事実へと辿り着いた。
ベガ(まさか…!アイツ…!速度も…!!)
スレイプニルの能力に気付いた。だが、身体は力が抜けたかのように膝から崩れ、うつ伏せとなった。
スレイプニル「如何にも…」
足元に転がるベガの胴体を片足で踏みつけながら見下ろした。
スレイプニル「俺の力は通常の四倍の速さを誇る。そして…」
自身の特化した力について語っていると、背中の装甲が蠢き出した。鉄を砕くような音ともにそこから六本の腕が生えた。
空を掴もうと伸びる手が変化し、騎槍の穂先から護拳までの部位へとなる。
スレイプニル「八つの刃を持つ腕である」
淡々と語るそれは地獄のような現状では異常とも言えるものであった。
トドメをさそうと、無慈悲に矛先をベガに向ける。脳と心臓、首に両肩、腹部に両足と照準が定まる。
スレイプニル「これで、終わりだ…!」
鋭い先端が素早く突き出された。だが、それは誰かに阻止された。弾いた金属音が鳴り響き、スレイプニルは後退る。
「おい、よくまぁ好きにやってくれたな…?」
ドスの効いた低い声が聞こえてきた。それはナイトであり、紫の瞳がスレイプニルを睨んでいた。
ベガ「ぼ、ボス…?」
ナイト「喋んじゃねぇよ…」
彼の声を聞いたベガが瞬時に理解する。
ナイトが静かに動作だけで指示すると、承ったサンクド・マノの部下がベガの回収を急いだ。
スレイプニル「させるか…!」
逃がさんと言わんばかりにベガに突っ走る。だが、ナイトが握り締める大鎌を薙ぎ払った事で阻止された。
スレイプニル「無理か…」
ナイト「俺のファミリーに手ェ出したんだ、テメェは生きて返さねぇよ!」
ベガ達から遠ざけようと紫色に照らす弧状の刃を幾度となく振るい続ける。
応戦しようとスレイプニルが八つの騎槍を突き出す。だが、ナイトは尽く躱していき、逆に漆黒の甲冑に傷が増えていく。
ナイト「ベガはよォ!仁義に熱くて!身を呈して護ってくれるんだよォッ!」
あまりの実力差にスレイプニルが圧倒される。
スレイプニル(このままではマズイ…!)
身の危険を感じてか、四倍の速度で後退してナイトから距離をとった。
再び正面を向いた、その時だった。
ナイト「ソーシャルディスタンスか?けど、縮まっちまったな」
突然とスレイプニルの隣に姿を現し、紫色の刃を一閃…薙ぎ払った。なんとか躱したが、微かに頬を掠めた。
暗黒世界の者だから痛みを感じなかった。怯まずにナイトから再び距離をとる。
スレイプニル「いつの間に…」
理解が追いつかず、困惑していた。
ナイト「へぇー…甲冑越しでもわかるもんなんだな」
スレイプニルの耳元に顔を出し、挑発気味に囁く。
また何の前触れも無く背後に回られた事に身の毛がよだち、瞬時に振り返って距離をとった。
スレイプニル「…そういう事か」
離れた先に、自分の背後に回られていた事、ある物事を目にした事により、その理由を理解した。
なんとナイトの背後に紫色に輝き、渦巻く次元の穴…ワームホールが現れていた。スレイプニルはそれでナイトが移動していたのだと確信した。
ナイト「勘づいた様だな、そうとも…これが俺の異能 死神ノ(サタナエルズ)交奏曲だ」
それに気付いてか堂々と答えを提示する。
ナイトの異能 死神ノ交奏曲は大鎌で切り裂いた箇所にワームホールを生成、瞬間移動するというもので、手間があれど、移動先を決める事ができる。先程までスレイプニルの背後に回っていたのもこれが要因である。
ナイト「サタナエルは神の息子にして堕天前の名、レクイエムは数多の手段で奏でるという意味だ」
平然とした態度で淡々と語る。得意げに慣れた手つきで大鎌を振り回すと、刃を地面に向けながら構えた。
ナイト「…さて、刮目せよ、耳を傾けよ、その身をもって味わえ!」
微笑みを浮かべながら高らかに、楽しそうな声色で宣告する。
スレイプニル「戯言が!」
八つの腕を前に突き出し、騎槍がドリルの如く旋回する。前進する肉体は目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。
穂先がナイトの胴体を貫こうと迫る。
ナイト「まぁ、黙って聴きなよ」
歪な大鎌 紫月ノ牙を横に構え、瞬時に薙ぎ払う。
ナイト「空け(ブレイク)!」
紫色に煌めく刃が一閃し、空間に次元の穴を創り出した。
スレイプニルが突き出した八つの腕がワームホールの中へと沈む。騎槍の穂先がナイトには届かなかった。
それどころかスレイプニルの背後に別のワームホールが現れ、突き出した騎槍が襲いかかる。
スレイプニル「成程…」
仕掛けたはずの攻撃が迫る…それに気付いてか、すぐさま前に出て自身も穴の中へと入っていった。
穂先に刺さる事は無く、通り抜けた身体は背後のワームホールから再び現れる。
スレイプニル「次元の穴、か…」
突き出していた腕は既に下ろしており、裂け目の狭間に直立していた。
ナイト「正・解ッ!!」
紫月ノ牙を素早く振り上げ、スレイプニルの装甲に再び深い傷を刻もうと袈裟斬りを繰り出す。だが、あまりの速さで駆け抜けて躱した事で致命傷は負わなかった。
ナイトから遠ざかり、赤く光る眼が睨みを利かせた。死神ノ交奏曲が脅威になり得ると警戒してだ。
スレイプニル「…面倒だな」
ナイト「こうでもしないと不平等だろ?それに恨むなら己の運命にしな」
紫月ノ牙を再び構える。
ナイト「ノイズだらけだと、折角の演奏が台無しだろ?観客も俺も不満しか残らねぇからよ」
飄々と、淡々と、余裕を崩さずに語りながら紫色の刃が空間を切り裂いた。
ナイト「弾んで揺らせ(バウンス)!」
開いた裂け目から超音波が発生、前方に鳴り響いた。威力は絶大で、秒で周囲の窓ガラスを割った。それを受けたスレイプニルもあまりの衝撃に空高く吹き飛んだ。
スレイプニル「次元の穴から音…要素は一つでは無いな」
ビルの近くで宙に舞う中、押されていながらも落ち着いていた。
スレイプニルの背後にナイトが回る。
ナイト「ま、異能力ってのはそんなんだろ?」
紫月ノ牙を握りしめながら身体を軽く捻じる。
ナイト「さらに強く(フォルテッシモ)…!」
全身から紫色のオーラが溢れる。捉えたと確信した次の刹那、凶刃が力強く且つ素早く振り下ろされた。
ナイト「打て(ビート)!」
スレイプニル「鈍い…」
だが、四倍の速度で宙を駆け抜けて、容易く避けられた。
ナイト(豹と同等か…)
紫の瞳がスレイプニルを捉え、推察していた。焦る様子は無く、素早い動きにもついてこれていた。
スレイプニル「死ね…!!」
反撃を開始する。四本の騎槍がナイトに突き出す。
ナイト「腕が増えたくらいじゃ、俺を殺せねぇよ!」
紫月ノ牙で次元の穴を創り、スレイプニルの騎槍がその中に入る。当然ながらナイトには届かなかった。
だが、スレイプニルの狙いは攻撃では無かった。
スレイプニル(先ずは、ヤツから距離を取るか…)
なんともう二本の騎槍が次元の穴を避けて、コンクリートの壁に突き刺さる。その感触を確かに感じてか蜘蛛の如く屋上へと登っていく。
ナイト「逃がさねぇよ!」
余裕の笑みを浮かべながら空間を切り裂いて、次元の穴を幾度も創り出す。
ナイト「弾んで揺らせ(バウンス)!」
再び超音波を放ち、窓ガラスを割りながらコンクリートに衝撃を与えた。
スレイプニル「無意味…その攻撃は、二度と効く事は無い」
だが、ヤツは平然とした態度で、先読みをする。すばしっこい動きで超音波を軽々と避けていった。
ナイト「気持ち悪っ…」
上手くいかなかった事に腹立ちながらもスレイプニルの動きに生理的嫌悪を覚えた。そんな気持ちを抱きながらナイトは切り裂いた次元の穴に入っていった。
一分も経たずに、スレイプニルは屋上に辿り着く。着地した肉体は直立し、周囲を警戒する。
スレイプニル「…」(ヤツは必ず、俺の背後へと回る癖がある。ならば…)
これまでの行動パターンを鑑みて、予測を立てる。八本の腕が持つ騎槍を四方八方に向けられ、戦闘態勢に入っていた。
数秒間、静寂が辺りを包んだ。スレイプニルはただ黙ったまま感覚を研ぎ澄ました。
次の刹那、これまでの行動からは想定出来ない事が起こった。
ナイト「正面突破だよ!この野郎!」
正面に現れた次元の穴から狂気的な笑みを浮かべるナイトが出てきた。紫月ノ牙を握りしめていた。
なんと言葉通りにスレイプニルの正面から現れたのだ。
スレイプニル「策も無しか…!!」
呆れと一蹴し、六つの騎槍がナイトに向けると、容赦無く突き出された。
ナイト「テメェ、これを試合と勘違いしてねぇか?」
含みのある言葉がスレイプニルの認識を訴える。何かあると瞬時に気付いた。ヤツの後ろに、もう一つ次元の穴が現れた。
次の刹那、そこからフレアが姿を現した。
フレア「ヒィートォォォ…!」
片方の拳を握り締め、異常な高熱に包まれた。瞳はスレイプニルを睨みつけていた。逃がすつもりは毛頭無い。
スレイプニル「もう一人…」
フレアの見え透いた攻撃に内心嘲笑い、避ける為にバックステップをする。だが、ナイトが紫月ノ牙を振り下ろした。
ナイト「逃がす訳ねぇだろ!」
身を守る為、瞬時に騎槍で防ぐ。
スレイプニル「小癪な真似を…」
余裕の笑みを浮かべるナイトにスレイプニルの意識が向いた。これが隙となった。間合いに入ったフレアが大気が歪む高熱の拳が突き出される。
フレア「バァァァーーンンン!!!」
その一撃はスレイプニルの装甲を粉砕し、胴体を貫通した。
スレイプニル(マズイ…!)
身の危険を察してか、四倍の速度で移動して姿を消す。直後、フレアとナイトから離れた箇所に再び姿を現した。
ナイト「ナイスプレイだ、フレア」
協力し、確実に致命傷を負わせれた事に感謝を述べた。上手くいった事に清々しく思った。
フレアに歩み寄り、隣に並ぶ。
フレア「言っておくけど、欠片は貰うからな?」
つれない態度で怪訝な表情を浮かべながらナイトに目を遣る。
ナイト「わーってるよ、俺達のプライドにもかかってるからな」
安心しろと声をかけた後、紫月ノ牙を振り回しながらスレイプニルに近付く。
危機的状況に思わず後退るスレイプニル、無意識に恐怖していた。
だが、背後に別の気配を二つ感じた。刹那、それぞれ異なる二つの刃が首に突きつけられる。
ウルフ「大人しくするんだな」
後ろにいるのはウルフ、そしてブラックであった。
ナイトとフレアも近付き、完全に包囲された。圧倒的にフレア達が優勢、生殺与奪の権利は彼らに握られた。
ナイト「さーて、どう落とし前つけてもらおうか?」
凍てつく静寂を切り裂いたのはナイトの言葉、戦士達と同様に睨みつけながら脅しをかけた。
スレイプニルの劣勢な状況をアークとチャッキーが遠くで眺めていた。二人がいるのは無人のビルであり、破壊された壁にある穴は外との出入りを容易に許す程に大きく広がっていた。
チャッキー「おい、全然ダメじゃねぇか」
しゃがみながらアークに苦言を呈する。観るに堪えなかったのか、歯が食いしばっていた。
アーク「そうだね…けど、問題無いよ」
床に腰掛け、空いた穴に足を出し、ぶら下げていた。問題無い…その言葉を確立させる為に懐から赤い単眼が浮かぶ暗黒玉を取り出した。
チャッキー「それ使うのか…俺に使うのか?」
アークの思惑を察して、より詳細に訊ねる。その言葉には手を貸すという気持ちと自分に使うという躊躇いと相反したものがぶつかり合っていた。
直後、一歩前に出た。
アーク「僕さ…」
意外な事にロングコートに包まれた身体が飛び降りた。意表を突いてか唖然としながらアークの後ろ姿を見送る。
チャッキー「面白ぇな」
アークの考えに賞賛し、続いて彼もビルから飛び降りた。
冷たい風が肌に当たり、丈が激しく靡く。降下する中、手にする暗黒玉を自身の胸の中に埋め込んだ。
すると、そこから黒いモヤが溢れ出し、全身を覆う。
アーク「スレイプニル!」
声を張り上げ、手を伸ばす。掌の先にはスレイプニルがいた。
それを耳にした四人、スレイプニルがアークに顔を向けた。
フレア「誰だアイツ!?」
突然の事に驚くが、フレアが特に顕著であった。
ウルフ「こいつの味方か…」
青い瞳がアークを睨み、瞬時に敵だと察する。
全員が油断していた、スレイプニルがこれを好機と捉える。ウルフとブラックを四つの腕で叩きつけるようにして押し退けた。
ブラック「しまった…!?」
ウルフと共に後退り、フレアとナイトが我に返る。だが、既にスレイプニルが高く飛行していた。
ブラック「させるか…!」
双剣を連結させて弓を形成し、生成した赤い矢を番える。
ナイト「逃がさねぇと言っただろうがよ!」
紫月ノ牙を振り下ろし、裂け目を創り出す。
次の刹那、ブラックが引っ張った弦を離し、勢いよく赤い矢が放たれる。ナイトも裂け目が開くと超音波を放った。
どちらもスレイプニルに近付き、位置的にアークも巻き込まれる事になる。
アーク「生憎だけど、予測済みだよ」
瞳が青く光る。その事実を予見しても尚、落ち着いていた。両手を後ろに向けた時、掌から青黒の稲妻が迸る。
加速してスレイプニルに近付く。赤い矢と超音波も間合いに入った。
次回 第弐拾玖話 「尽く、斬り刻む」
お楽しみに




