第弐拾漆話 「紫の孤月」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
闇夜に覆われた歓楽街、照らす街灯が存在感を主張していた。
スーツや私服と服装は異なるが、行き交う人々が賑わいを起こしていた。
酒を飲み交わした後の者、客引きを受けた事で困りながらも満更でも無さそうな様子の者、ただ街中を歩き進む者など一括りには出来ない程に
そんな街中で、明らかに異様な出来事が起こっていた。
「た、頼むよ!ナイトさん!後もう少しなんだ…!もう少しで返せれるんだ!」
暗い闇に包まれた路地裏にて、一人の男性がナイトと呼ばれる人物に追い詰められていた。
壁に背を向ける中年男性は弱々しく身体を震わせながら絶望と言わんばかりに恐怖が顔に浮かんでいた。
ナイト「そんなの知らねぇよ、とっくに期限も約束も破ってるからな」
そんな男性の前には灰色の髪に紫眼、左眼と右頬に負った傷の男 ナイトがおり、紫シャツの黒スーツを身に纏っていた。
更にナイトの手には彼を象徴する大鎌が握られていた。
命を刈り取る形をしたそれは現代には似つかわしくない程に幻想的で不気味な闇を放っていた。
「お、お願いします!死にたくないんです!!」
借金をしていた中年の男性はナイトと、彼が握る大鎌に怯えながら醜い命乞いをした。
まるで想像を絶する程に嫌な何かを拒むようにして
ナイト「知ーらん ぺったんゴーリー…!」
だが、そんな望みも儚く散ろうとしていた。
大鎌を掲げて、力を込めるようにして構える。次の刹那、弧状の刃が中年男性の胸部をすり抜けた。
ナイト「ランドセル!」
その一撃は絶大で、男性の命脈を断つのに造作もなかった。
斬られた男性は白目を剥いたまま力尽きた。だが、奇妙な事に胸部に傷跡は無かった。
直後、大鎌が持つ刃から揺れる白い魂が現れた。魂は我に返り、急いで斬られた中年男性の元へと寄ろうとした。
だが、それはナイトが片手で捕まえた事で阻止された。
ナイト「さて、テメェは永劫死ねないままこき使ってやるからな!楽しみにしてやれ!」
顔の前に魂を上げると、脅す様な剣幕でそれを睨む。いつの間にか握っていた大鎌は消えていた。
そしてそのまま、この場から去ろうとした。
だが、上から落ちてきた水色に光る何かを目にした事で足が止まった。顔の前を通り過ぎると、それは冷たい地面の上に置かれる。
ナイト「あ?なんだ?」
突然の事に顔を訝しみながら瞳を下に向ける。
映るはアスファルトの上に激龍の欠片、未だに光を発していた。男は自然と、導かれるがままにしゃがんで欠片を持った。
ナイト「…随分と綺麗だな、なんて宝石だ?」
立ち上がって、欠片に興味を抱きながらもズボンのポケットに入れた。
空を見上げるが、闇夜が広がっているだけで何も無かった。
ナイト「…これどうするか、後で考えよ」
何故空から降ってきたのか?何の種類の宝石か?色々と疑問に思うが、後回しにする事にした。同時にとんでもない事を考えたまま再びこの場を去った。
その頃、ウルフ達チームベータはこの歓楽街改め混沌とした世界に到着していた。
ウルフ「これが別の世界…確かに創造世界とは明らかに違うな」
鋭い青い瞳が目の前に広がる歓楽街を映しており、驚いたと言わんばかりの言葉とは裏腹に声や様子は落ち着いていた。
フレア「今度は歓楽街かよ」
街灯に彩られた空間に心を奪われたまま辺りを見渡す。
ブラック「…これは、大変な事になりそうだな……」
深紅の瞳を持った黒白目が伏せ、行き交う大勢の人を理由に面倒な予感を口にする。
ウルフ「…一刻も早く欠片を回収しに行こう」
感動から気持ちを切り替えて、二人に身体を向けたながらこちらに意識させようと促した。
ウルフ「俺は北側全てに向かう、ブラックは南西方面、フレアは南東方面を頼む。見つけ次第、報告してくれ」
手馴れたような様子で正確に且つ効率よく指示を出した。
フレア「了解!」
ブラック「了解…!」
共にする仲間だが、同時にウルフの方が立場的に上であった。尚且つ彼から伝わってくる威厳や迫力に二人は心強く思った。
フレア「…てか、北側全てって言うけど、いけるのか?出来れば、俺もそっちを…」
だが、フレアは”ウルフの役割がやけに大変では無いのか?”と思い、手伝うかと提案するように訊ねる。
その問いを聞いたウルフは待てと、片手で合図した。
ウルフ「俺の専門だ、問題無い。欠片を探す事に造作もない」
静かに自信満々に告げると、彼は高く跳んで何処かへと行ってしまった。もし指示通りなら北側に向かった事になる。
フレア「…信じて、良さそうだな」
未だウルフの言葉に理解できないが、無理にでも納得させて、自身もすぐさま指示通りに探索し始めた。
ブラック「そうだな…」
それは彼も例外では無く、南西方向へと走っていった。
ウルフはアスファルトの一本道を走っていた。青い瞳は辺りを見渡し、聴覚や嗅覚といった五感は全て研ぎ澄まされていた。
ウルフ(言い難いが、欠片は神々しい感じの匂いだ。更に美しく響く音色に水色に光り輝いている…変わった類い故に苦難は強いられなさそうだ)
別世界に行く直前、回収した欠片の匂いを嗅いで情報を得た。彼はウルフという名の通り、狼の性質を兼ね備えている。嗅覚の他の五感も非常に優れており、速力なども狼の遺伝から来ていた。
そう、あの指示でウルフが北側全体をやる理由は先述した性質があるからだ。
ウルフ(しかし、体臭や香水の匂いを嗅ぎ分けなければならないのは少し問題だな)
それでも彼は諦めなかった。しばらく進めていると、何かを捉えたウルフの目が見開き、駆け抜ける足が止まった。
ウルフ「…なんだ、今の?死人か?」
突然、鼻に纏わり付く腐敗臭に気付いたのだ。それが路地裏から漂っているとすぐにわかる。
ウルフ「…いや、違うな。抜け殻?」
慎重になりながら双剣を引き抜き、逆手に構えたまま路地裏へと歩み寄った。徐々に暗い闇の中へと入っていき、その身が微かに黒く染まっていく。
周囲を警戒しながら目前にある臭いの元に目を凝らした。
その頃、ブラックはカオスを使って目にも止まらぬ速さで人混みを通り抜けていた。
ブラック(かなり大変だな…この世界にあるのは確かだが……)
黒白目に浮かぶ赤い瞳が迅速に見渡すが、何処にも激龍の欠片は見当たらなかった。気配を研ぎ澄ましたとしても、それらしきもの感じれなかった。
「お兄さん暇?良かったら…」
フレア「悪い、今無理」
フレアも行き交う人達に聞き込みをするが、有力な情報は何も無かった。たまに客引きを受けたが、迷いなく断った。
フレア「規模デカいから無理難題なんだよなぁ…」
人混みの多さに加えて闇夜で周囲が黒く閉ざされている為、微かながらに苛立ちが募り、愚痴を零した。
それでもめげずに周囲を見渡しながら無理難題を切り抜けようと足掻いていた。
だが…
フレア「…は?」
偶然、あるものを目に捉えた事で唖然とした。
警戒しながら暗い路地裏を進んでいると、僅かに奥の闇から衣服を纏い、靴を履いた人の足が見えた。
ウルフ(人だと…?)
一目瞭然であった。だが、何故倒れているのか疑念を抱きながらもっと歩み寄る。
壁にもたれて座る理由、その人に起こった事に気付きそうになった次の瞬間、ウルフの腕時計から着信音が鳴り響いた。
ウルフ「!…どうした?フレア」
瞬時に耳にして目を見開くとらすぐに応答した。
無意識か将又本能か、ウルフは振り返ってゆっくり歩き始め、この場から離れていった。すぐに迎えるようにする為だ
フレア「欠片を見つけた!一際異質なスーツの男が持っていやがる!」
人混みを掻き分けながら突き進み、声を張りながら報告した。フレアの目には欠片を持ち歩く男がおり、確実に近付いていた。
男はナイトであり、中年男性の魂を刈り取った後に欠片を手にした者だ。
フレア「おい!待て!待ってくれ!」
怒鳴るようにして声を張り、男の足を止めようと語りかける。だが、賑わう声のせいか、男の耳には届かず、進む足が止まらなかった。
フレア「クッソ…!聞こえねぇのかよ!めんどくさいな…!!」
苛立ちながらも諦めず、強行突破と言わんばかりに全力で突き進んだ。押される人々は何かと驚き、フレアに顔を向けた。そこで抱くのは不快感と嫌悪感、無知ゆえの疑問であった。
そうして、男に近付いたフレアの手がナイトの肩を掴んだ。
フレア「おい!止まってくれ!!」
懸命に訴えるようにして声をかけた。すると、ナイトは反応して振り返った。
ナイト「なんだ?」
賑やかで楽しそうな歓楽街とは真逆な雰囲気をナイトは身に纏っていた。問い返す言葉も低く恐ろしいものだ。まるでこの街の影そのものであった。
「おいおい…!」
「正気なの…!?」
「死んだわ、アイツ…」
周囲の人はフレアの非常識な行動に愕然とし、正気では無いと言わんばかりに騒然とする。
フレア「その欠片、大事なもんなんだ!渡してくれないか!?」
当然、他所から来たフレアはそれを知らない。必死に真剣な表情を浮かべながらナイトに頼み込む。
ナイト「…この欠片か?空から落ちてきたのが本当に大事なものなのか?」
欠片を見ながらフレアへと目を遣り、先の事を思い浮かべながら訊ねる。
フレア「空から?…兎にも角にも、大事なんだよ!」
知らない事を告げられ疑問に思う。すぐに切り替えてフレアは全く返してくれる予感がしないので、無理にでも奪おうと手を伸ばした。
だが、男は回って躱しながら欠片を眺めていた。
ナイト「今のはサンクド・マノに喧嘩を売るって事になるな…小僧」
フレアを睨みながら脅すように警告する。
フレア「そっちが渡さねぇからだろ!?それがねぇと大変な事になるんだ!」
ナイトが激龍の欠片の重要性、今も尚起きている出来事の危険性を知らないと思い、怯む事なく訴えた。
ナイト「具体的にはどう大変な事になるんだ?」
冷たく鋭い瞳がフレアを捉える。
フレア「世界が滅ぶ!そいつらを一気に倒せるのが激龍の欠片なんだよ!」
真剣に告げた言葉にナイトは唖然とした直後、高らかに笑った。
ナイト「おいおい、何処の陰謀論だよ?フィクションの見すぎだぜ?」
明らかにフレアを下に見ていた。それもそうだ、まだこの世界で起こってない事を言ったとしても、誰も信じるはずが無い。夢物語だのと笑われる…それも現実である事さえも知らずに
ナイト「兎にも角にも、こいつはやれないな。珍しく綺麗だからな、売ればかなりの金になるだろうし、なんならコレクションにしたって良いだろうしな」
水色に発光する激龍の欠片に夢中となっていたのか、掲げるそれを眺めていた。
ふと、フレアが疑問を口にした。
フレア「なぁ?テメェ、能力者じゃねぇのか?」
それを聞いたナイトは驚きのあまり静かに目を見開き、顔を向けた。
ナイト「貴様、よく俺が異能を持っているってわかったな?何処で耳にした?」
何故、能力…ここでは異能と呼ばれるものをなんで何処の馬の骨かも知らない人が知っているのか?、内心そう思いながら訊き返した。
フレア「わかんねぇけど、その欠片は能力とか攻撃を無に還すやつなんだ。能力は使えねぇはずだ」
彼の説明にナイトは自身の異能を発現させようとした。だが、奇妙な事に大鎌は難無く具現化した。気になって大鎌を欠片に近付けると、粒子が弾け飛ぶようにして消滅した。
ナイト「…なぁ、なんて呼ぶんだ?」
確信へと変わって、フレアに名前を訊ねた。
フレア「?…フレアだ」
ナイト「よし、フレア…俺についてこい」
名を聞いて興味深いと微笑みを浮かべて、フレアを案内した。
フレア「わかった。ならよ、俺様の仲間も連れていきたいんだけど、良いか?」
ブラックとウルフをここに呼び、同行を考えていた。その趣旨をナイトに伝えた。
ナイト「構わねぇ、好きにしな」
返ってきたのは了承であった。ナイトが先に行くと、フレアも後について行った。
その頃、何処かの事務所にて
「ふぁぁぁ…眠っ」
欠伸をする気だるそうな青年は高価な机の上に腰掛けていた。彼は黒髪に青い瞳の白い肌を兼ね備え、青シャツの上にロングコートを羽織っている。
「ムラサメは何処か行ったし、良い闇を探しに気ままに赴いてみたけど…」
淡々と語る中で退屈と言わんばかりに欠伸をした。死体が転がるこの場所で…
足元に広がる血溜まりに、関係者らしきスーツの人達に呼吸はしていなかった。そう、暗黒世界もここに訪れていたのだ。
「何にも無さそう…」
彼らを殺した事に一切の罪悪感も後悔は無かった。
「ぎゃああああ!!」
突然、何も無いところから悲鳴が聞こえてくる。
反応して顔が横に向く。青い瞳が黒い渦を捉え、そこからチャッキーが飛んで現れた。そのまま床の上でうつ伏せとなっていた。
青年「あ、チャッキー…ムラサメは無事に辿り着いたのか」
驚く事無く、机の上で横向きになる。高さがあるので怠そうな眼差しが必然と見下ろしていた。
チャッキー「その声、アークだなァ?」
気怠げな青年 アークの言葉を耳にし、瞬間的に身体を起き上がらせた。赤い単眼が睨みつける。
チャッキー「テメェのせいでここに来ちまったんだ。よくまぁ、許可したなァ?」
一歩、また一歩と距離を縮めていく。背中にある細く鋭い刃をアークに突きつけ、長い舌が伸びていた。
アーク「あれ、僕じゃないよ。ムラサメが『ここにヤツはいない』って、勝手に行かせたって感じ」
身体を起こして胡座をかく、その顔は依然とチャッキーに向けたままであった。
それを聞いたチャッキーは鼻で笑った。だが、何処か苛立っているようにも見えた。
チャッキー「そう言うがな…ヤツの都合で俺ちゃんと入れ替わった事には変わりはねぇんだよ!」
アークの言い訳を一蹴し、正論を述べる。当然ながらムラサメとアークのやり方が全て気に入らない。静かに怒るその表情が何よりの証拠だ。
(や、野郎…!急に入ってきた上にめちゃくちゃにしやがって…!)
横たわる亡骸の中にはまだ息があるものがいた。彼はアークとチャッキーに気付かれないように黒い拳銃を手にしながら照準を合わせた。
(親父と兄貴…組の誇りの為に!この命に懸けても!殺してやる!!)
殺意を抱きながら引き金を引こうとした。
チャッキー「おらよっと!」
だが次の刹那、男の両腕が一瞬にして両断された。
「は…?」
あまりの速さに気付くのが遅れた。
「あ、あぁ…!ああああああああぁぁぁ!!!」
漸く経って理解した男は叫びながら切断面から血飛沫を舞わせながらのたうち回る。
チャッキー「バレバレなんだよ、何もかもよォ」
呆れた様子で男に近付き、その場でしゃがむ。愚かと嘲笑いながら男を見下ろした。
チャッキー「…おい、アーク」
指示を飛ばし、男を逃がさないように背中から伸びた脚が持つ刃で肉を突き刺した。
「あ”ぁ”っ”!」
鋭い音と共に血が広がる。その痛みはとてつもなく、修羅場を潜った者でも耐えきれない程だ。
アーク「わかったよ」
チャッキーの要望に答えるようにして、暗黒玉を投げ渡した。だが、黒い球体はチャッキーの横を通り過ぎていき、男の中へと入っていった。
男「な、なんじゃああ!?」
全身から漂い、自身を覆う黒い闇に困惑と愕然が襲いかかる。これは悪い夢なのではないかと錯覚を起こすが、迸る痛みが現実だと嫌でも理解させられる。
チャッキー「おいおい、アーク…どういうつもりだ?」
鋭い刃を引き抜き、別の二本の脚をアークに向けた。今の出来事が仕組まれたもの、意図したものだと見抜き、当の本人に説明を求めた。
アーク「どうも何も、いちいち唱えるのも眠いだろ?なら、いっその事簡略化してやっていきゃ良いじゃん」
面倒くさそうに低い声で淡々と説明をする。彼の青い輪郭を持つ黒い瞳が静かに光り出した。
男「や、やべっ…意識…が………」
身体に付き纏う闇は激しくなり、彼の意識を奪った。すると、闇は男を蝕み、姿形を変える。
アーク「それに、死にかけそうなヤツに長々とやる理由は無いからね…」
黒い瞳が男を捉える。横たわる闇は真っ直ぐに起き上がり、溶けながら新たな姿を現した。
アークとチャッキーの目前には靡く腰マントと馬を模した造形が特徴の黒騎士が直立していた。
人型のそれは215cmと、かなりの巨体であった。
アーク「ただ、少し遅かったか…中の人が死んじゃったから闇もとんでもないものに…」
青く輝く黒の瞳を凝らすようにして、その瞼が伏せられた。
アークが捉えたのは目の前の黒騎士 スレイプニルの闇であり、彼が司るそれがとんでもないものだと瞬時に理解した。
アーク「ま、どちらにしても問題は無さそうだね」
そう言いながら机から降りて、立ち尽くすスレイプニルに近付く。
間合いに入ったアークは奇妙な事に先に躱した。次の刹那、騎槍に変形した片腕がアークの頭部に目掛けて突き出した。
チャッキー「アーク!?」
アーク「大丈夫…」
突然の事態に愕然とし、スレイプニルを始末しようと鋭い脚を構える。
だが、アークが言葉で制止し、十分に距離を取った。
アーク「…てか、見た目とは裏腹にかなり凶暴そうだね。乖離し過ぎじゃない?」
黒い瞳はスレイプニルを捉えており、スリット状の隙間から赤く光るのを確かに感じた。
アーク「チャッキー、これは面白くなりそうだよ」
黒い瞳とその青い輪郭が青く光り出した後、チャッキーに伝えた。
当然訝しむが、アークの顔を見た事で疑問が消えた。
アーク「ここに激龍に選ばれた戦士がいなかった事は悔やまれるし、他の激龍の使いがいたらどうしようも無いけど…絶対に、創造主様を喜ばせれる素晴らしい催し物にはなるよ…!」
先程の気怠げな様子とは乖離して、歪んだ笑みを浮かべていた。まるで、想像以上に面白い事が起こると言わんばかりに、最高のショーになると確信していた。
場面は戻り、フレアはウルフとブラックと合流して、ナイトが率いるマフィア サンクド・マノのアジトへと辿り着いていた。
そこではスーツ姿の男達がパソコンと向き合って事務作業をしたり、資料に目を通していたりと忙しそうに見えた。だが、彼らは無表情のまま難無くこなしていた。
フレア(スゲェな…)
廊下を進む中、一切として辛い表情を浮かべない彼らを目にしながら関心していた。
ナイトの足が扉の前で止まり、片手が伸びる。
ナイト「おい、入るぞ」
三度ノックする。
「問題ございません」
扉の向こうから穏やかな声が聞こえた。それを耳にしたナイトが扉を開けた。
先に広がる一室は少し低い木製の机を柔らかそうな椅子が囲っていた。さながら談話室といったところか
「ナイト様、この部屋の清掃と客人のおもてなしの準備は完了致しました」
ナイトの隣に銀髪にサングラスが特徴のスーツの男が現れた。扉から聞こえた声は彼であった。
ナイト「おう、御苦労だ、ユグオン」
彼の側近であるユグオンに対して当然と言わんばかりに感謝を述べた。
そのままナイトは入口近くの席に腰掛けた。その隣にユグオンが立ち尽くす。
フレアとブラック、ウルフが対面する席に座った。
暫しの沈黙が広がり、微かながら緊迫していた。
ナイト「まーずーは、ここまでのご同行、心より感謝する。さて…」
口を開いたのはナイトであり、話を聞こうと前のめりとなる。紫の瞳がフレア達を捉えていた。
ナイト「その激龍の欠片とやらについて、詳しく説明してもらおうか」
彼は好奇心のあまり、嬉々とした様子でいた。心が踊っていたとでも言うべきか
フレア(完全に気に入ってんだな…)
わかりやすく態度に出ているので、すぐさまナイトの心境を読み取っていた。そう簡単に渡してはくれないのだと
ウルフ「フレアが述べた通りだ。暗黒世界という侵略者に対抗し得る神の力…それが激龍だ」
口を開いて、ナイトに向けてフレアがした説明を端的に教えた。
ナイト「そんな神様が、ちっちゃな欠片になったとは随分と哀れなもんだな…」
激龍神 アストが宿る欠片を聞いて、飄々と軽い口調で感想を語る。だが、哀れみとは裏腹にナイトは心の何処かで嘲笑していた。
フレア「おい、あんまり言うんじゃ…」
ナイト「だが、それでも俺の力を打ち消したんだ。無神論者だが、感心するぜ」
如何せん不謹慎に思ったフレアが指摘するが、ナイトが紡いで話した事で彼の言葉を遮った。そこに馬鹿にするという意図も気も無く、ただ賞賛を送っていた。
ナイト「こりゃ、暴れてるチンピラ共を尽く潰すには楽だな」
何処か嘗めていると言わんばかりの声色で、我欲にまみれた発言をした。
それを聞いたフレアが一瞬、頭に血が上りそうになった。だが、ウルフが堪えるよう静かな動作だけで合図した。
ブラック「…異能のチンピラとは?」
すると、ナイトの言葉が気になったのか目的と経緯について訊ねた。
ナイト「あぁ、俺達のナワバリ ベギーリヒで暴れているやつがわんさかいんだよ」
ブラックの問いで思い出したかのような様子でベギーリヒの治安について述べ始めた。
曰く、異能という力を手にする無法者が独自の集団を設立しては違法薬物の売買や金品の強奪など島荒らしを行っており、それをナイトが黙っていないというものだ。
ナイト「圧倒的な数に加え、異能の中には手に負えないものもある。だが、この欠片を手にした今なら、そう時間はかからねぇだろうよ」
対処・解決までにいかなかった理由を述べた後、欠片に宿る力を過信していた。
ウルフ「つまり、その問題を解決すれば欠片を私達に返してくれる…という事でよろしいのでしょうか?」
ナイト含めたサンクド・マノの目的、その方法を聞いて無理難題だと不服と呆れという心情を抱く。大勢の無法者を一気に鎮静化するのは激龍の状態からして厳しく、独裁的で横暴だと思っていた。
だが、これを言ってしまえば交渉は不可…やむを得ず、その気持ちを堪えて真剣な表情で確認した。
ナイト「おいおい、こんな神にも等しい絶大な力を手にしたんだ。誰にも、持ち主である貴様らにもやらねぇよ」
依然とした態度で、なんと激龍の欠片をサンクド・マノの為に使うのでフレア達に返さないと断言した。
フレア「テメェ…」
静かな怒りが言葉として静かに零れる。許し難く、一発ぶん殴ってやろうかと考えが過ぎる。
ナイト「おっと、勝手な事抜かすなよ?こっちはマフィアだ、テメェらみたいに夢物語を見て浸ってる連中とは違ぇんだよ」
ニヤけた表情で煽るように語る様子とは一変して、真剣なものへと変わった。ナイトの言葉は恐ろしく、明らかな重みがあった。
より真実味を持たせようとナイトとユグオンが三人に向けて静かに威圧した。それは中々のものであり、素人なら臆して身体が震えるだろう。
だが、ブラックにフレア、ウルフは正義組織の戦士…慄く事など無く、依然としていた。
ナイト(こいつら、只者じゃねぇな…大体の奴は恐れるってのによ)
その様子を見て、違和感に気付いていた。それは実力か、将又経験か…ナイトにはまだわからなかった。
すると、フレアが口を開いた。
フレア「…剣とは違ぇんだな」
彼から出たのは怒りでは無く、呆れや失望であった。鬼のような形相を浮かべておらず、ただナイトを見据えながら真剣な表情をしていた。
ナイト「剣?誰だそいつ」
フレアの発言に対して怪訝そうな表情を浮かべる。当然の反応だ、剣なんて人物など知らない。それはユグオンも同じであった。
少々意外に思うウルフとブラックは静かにフレアに顔を向けていた。ナイトの疑問に答える。
フレア「俺様の仲間だ。激龍を世のために使わずに、自分達の力で護る事、救う事を選んだ。正直、俺はスゲェなって思ったよ…」
彼の脳裏に剣の姿を思い浮かべ、当の本人を賞賛した。だが、ナイトは鼻で笑い、一蹴した。
ナイト「そいつは、だろ?そいつが決めたもんであって、俺達には関係ねぇよ」
彼の瞳は激龍の欠片を映し、ただ見つめていた。無関心に反論した時、フレアの言葉がナイトを意識させた。
フレア「意志の他に、戦士としての使命もあると思うんだ…テメェらは、サンクド・マノとしての矜恃より神様の力に寄り縋っているだろ」
確信を突いた言葉にナイトのニヤケ面は消える。表には出していないが、確かに驚いていた。
ナイト「俺がサンクド・マノより、神に縋っているだと?」
フレア「あぁ、俺様からすればな」
我に返って、放心状態のナイトが問うと、フレアは謙虚ながらも堂々と答えた。
直後、部屋の扉が勢いよく開いた。そこには青の長髪と細くて長い身体に黒のスーツを身に纏い、サングラスを掛けた男がいた。
「ボス…!緊急事態です…!」
落ち着いていた声とは裏腹に急いで走ってきたのか肩で息をしていた。顔に大量の汗が流れ、必死そうにこちらを見ていた。
ナイト「なんだ?アルタイル、緊急事態か?」
青い長髪に細長い身体の特徴を持つ黒スーツの男 アルタイルの様子を見て、瞬時に察する。そして、見事に当ててみせた。
アルタイル「はい…!馬のような騎士が暴れてます…!」
ナイト「なんだと?」
要件を話すと、ナイトは静かに驚いていた。フレア達も耳にしており、椅子から立ち上がった。
次回 第弐拾捌話 「黒馬ノ騎士」
お楽しみに




