第弐拾参話 「魔法世界と黒炎の剣士」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
中世の洋風のような街並みには多くの人々が行き交っていた。歩く者や車で運転する者もいれば、中には箒のような形で縦長いバイクに乗って飛行する者もいた。そんな一風変わった光景を二人の男が建物の上から眺めていた。
「随分とメルヘンでファンタジーなところに来ちまったなァ」
興味深いと面白がる一人はしゃがみながら、笑う口が出すギザ歯から舌を出していた。
背の低い真っ黒な体と顔には巨大な赤い単眼と大きな口を持った人型の容姿に黒のシルクハットを被り、背中には鋭い機械の脚が数多もある。まさに蜘蛛のようであった。
「そうみたいだな、チャッキー」
もう一人は無表情のまま腕を組んで立ち尽くしていた。
黒い身体は共通しているが、先述の男 チャッキーとは対照的に背は高く、赤い眼を持っていた。黒のシルクハットと黒のタキシードといった衣装に身を包んでいた。
チャッキー「極上な闇の持ち主を探さねぇとなァ…フレッド、テメェも手伝えよ?」
すぐさま切り替えり、巨躯の男 フレッドの肩に乗ると、首を回しながら辺りを見渡していた。
フレッド「チャッキー、お前の脚、刺さりそうで怖い」
無感情に淡々としかし、子供のようにぎこちない感じで訴えなからも目前の光景に目を凝らす。
チャッキー「うっせぇなぁ、無理言うなよ」
フレッドの文句に苦言を呈する。すると、何かを感じ取り、該当する者へと目を遣る。
チャッキー「……おいおい…!良いのがあんじゃねぇかァ…!」
凝視した瞳に映る闇が上物だと判断し、嬉々とした様子でフレッドから飛び降りた。
床に着地すると同時、足元の影に沈むようにして捉えた闇の元へと向かった。
フレッド「…チャッキーに、任せるか」
自身もこの場から離れる為、方向転換して路地裏へと飛び降りた。だが、地面に落下する事なく、フレッドの姿も消えていた。
その頃、剣達もチャッキー達がいる魔法の世界に辿り着いていた。
駅のホーム内、人気の無い場所から青い亀裂が発生し、そこから剣とメビウス、フォースの三人が姿を現した。
剣「着いたみたいだな」
フォース「一目でわかるもんなんだねぇ、随分と洒落たところだし」
二人が周囲に目を遣る。慣れた剣は落ち着いており、初めてなはずのフォースは静かに感心していた。
この場は煉瓦が積まれた壁を鉄骨が支えており、空はガラスようなもので覆われていた。また線路の至る所には汽車がいた。
剣「…魔法の世界にしては、街並みがらしくないですね」
目の前に広がる光景に対して、微かに違和感を覚えていた。
剣がイメージする魔法の世界は俗に言うRPGのようなものであり、列車など文明が栄えている事に意外と思っていた。
フォース「まぁまぁ、ここだけじゃあわかんないだろうよ。外に出てみればわかるんじゃない?」
そんな剣に肩を組みながら提案するように促した。
フォース「って、あれ?メビウスくんは?」
ふと一人足りない事に気付き、不思議そうに且つ困惑しながらメビウスを探そうと辺りを見渡した。
剣「あー…あの人、トイレに行きましたよ」
思い当たる節があったと言わんばかりに呆れた表情で答えた。
フォース「え?漏れそうだったの?」
剣「いや、吐きそうだったらしくて」
フォース「吐きそう!?俺、何ともなかったよ!?というか、君もそうだったよね?」
まさかの事実を聞いて、愕然とするフォース。にわかには信じ難いが、それでも内心はメビウスを心配していた。
すると、その当の本人が姿を現した。光速で走っていたのだろうと剣とフォースは見抜いていた。
メビウス「マジ、気持ち悪かった…1つになりそうな感じで、呑まれそうで…」
顔面蒼白で低いテンションのまま独り言を呟いた。
フォース「何その感覚…」
そんなメビウスを見て、苦笑いを浮かべていた。フォースには理解し難いもので、当然剣も同じであった。
剣「…兎に角、メビウスも切り替えて欠片回収しに行くぞ」
メビウスとフォースにそう呼びかけ、この駅から離れようと歩み出した。
メビウス「ね、ねぇ…剣」
剣「なんだ?」
だが、メビウスの呼びかけにより剣は足を止め、振り返りながら訊ねた。
メビウス「ここ、駅のホームだよね?どうやって出るの?」
その発言に剣は一瞬、唖然とする。
剣「言われてみれば、そうだな…」
我に返ると剣は顎に手を添えながら静かに思考を張り巡らせた。
フォース「なら、逆に考えてみたらどう?」
それを遮るようにして、気軽に話しかける感じで提案した。
顔を訝しめる二人を他所にフォースは歯を見せるように笑顔を浮かべながら斜め後ろに親指をさす。
指先の向こうには汽車があった。フォースの考えを剣とメビウスは読み取った。
そうしてアルファチームは線路の上を走る汽車の中にいた。
メビウス「んで、乗ったのは良いんだけど…何処で降りるの?駅は何個もあるからさ」
窓側の椅子に腰掛けるメビウス、その隣には剣がおり、フォースと向き合っていた。
フォース「いや、何個もある感じじゃなさそうなんだよね。ここ」
メビウス「ん?どういう事?」
平然としながら含みのある言い方をするフォースにメビウスは疑問に思い、首を傾げた。
剣「そもそもの話だが、チケットとかは大丈夫なのか?無賃乗車と疑われる訳には」
二人の話に入り、深刻そうな表情で訊ねた。
メビウス「そこんところは安心してくれたまえよ、じゃーん!」
すると、メビウスは自信満々な笑みで懐から三つの切符を取り出した。
剣「いつの間に…?」
てっきりトイレに行っただけかと思っていたので、想定外の事に目を見開く。
メビウス「さっきトイレ行ってて、ついでといった感じで目にも止まらぬ速さで入手したのさ!」
得意げに微笑みながら説明を語った。
剣「な、成程な…」(解決、したのか…?)
困惑のあまり何とも言えないが、メビウスがなんとかしてくれた事はわかり、とりあえず安堵した。
メビウス「どーよ!」
フォース「さっすがー!メビウスくん!」
対して二人は嬉々とした掛け合いをしていた。
汽車は走り続け、森の中へと入っていった。
その頃、路地裏ではチャッキーとフレッドが大勢の人間を殺していた。
チャッキー「先に仕掛けてきた癖には、大した事ねぇヤツらだったなァ!」
背中にある蜘蛛のような機械の脚が蠢く。よく見ると先端には血液が溜まっており、滴っていた。
フレッド「おもちゃ…」
地に転がる亡骸を見下ろしながら名残惜しそうに言葉を零した。
それを見たチャッキーは歯を剥き出しながら口角を吊り上げた。
チャッキー「おいおい、そう落ち込むなよ。もっと良いのがあるからよ」
フレッドに親しく告げる。彼の脳裏には邪光 剣を思い浮かべていた。彼なら相手になると確信していたからだ。
フレッド「それって、こいつの事?」
理解出来てない様子で不思議そうに首を傾げながら、ある方に指をさした。
「助けてくれ助けてくれ助けてくれ助けてくれ…!」
そこには腰を抜かして、壁の隅で怯えている男がいた。どうやら転がる亡骸達の仲間だったのだろう。
チャッキー「違ぇよ、馬鹿…」
フレッドの考えを否定しながら男に近付く。そもそも話が違うので、噛み合う訳がない。そうしながらチャッキーは何処からともなく開く掌の上に暗黒玉を顕現させた。
黒い闇を瞳に映すと、男の震えが止まった。大きく見開いた目はただそれを見つめるままであった。まるで魅入られていたかのように
チャッキー「闇に魅入られし者よ、我らの眷属として同胞として、内に秘めた闇を解き放て」
呪文のようにして詠唱すると、暗黒玉から現れた黒い霧が男を包み込んだ。
チャッキー「暗黒に堕ちた汝、ただ自由気ままに破壊と殺戮を繰り返せ、我らが創造主に貢献し、世界と命抱く器を献上せよ」
命令のような念仏を唱え終えると、男の断末魔が空に鳴り響いた。一切の苦痛と心の闇に呼応するように身体から流れ出る闇が塔のように高く昇り、確かに天まで届く。
闇は空を覆って暗雲へと形成し、世界全てを暗黒に包んだ。
チャッキー「お早う、生まれ変わった心地はどうだ?」
先程まで落ち着いた様子から相手を舐め腐ったようなものへと変わり、調子を伺う。
闇に覆われた男は立ち上がった。彼の見た目は闇より黒い体に至る所ある赤い目が生え、手は無いものの竜のような身体と太く長い尻尾を兼ね備えたものへとなっていた。また、その顔にあるは並ぶ牙が剥き出す大きな口だけであり、それ以外の部位は存在しなかった。
「キシィィィィィィ…!」
男だった怪物 ワームの閉じていた口が微かに開き、そこから蛇若しくは虫のような鳴き声でチャッキーの問いかけに答えた。
チャッキー「御機嫌が良さそうみたいだな」
人語を解していないが、ワームの意志は確かに読み取った。
「此処に居たか、御主ら…」
唐突に三人に近寄る人影が現れ、語りかけてきた。
チャッキー「アァ?なんでテメェがここにいやがるんだ?」
見覚えがある人影を睨み、訳を訊ねた。
人影は黒髪に反転した赤眼の容姿に顔の右半分が焼き傷があり、その目は閉ざされていた。その上に黒の上着に白の袴を着ており、刀が腰に差していた。
チャッキー「ムラサメェ!」
侍のような人物 ムラサメに対して声を荒らげた。余程気に入らない相手という事が見て取れる。
ムラサメ「なんで、か…御主らは俺の闇がわかるであろう?」
チャッキーの発言に特段と反応は示さず、落ち着いた素振りで近付いた。身長差のせいかムラサメは見下ろすようにして赤い瞳を向けた。
チャッキー「敵討ちか?生憎だが、もうここは満員だぜ?さっさと引き返しな!」
挑発を含んだ言葉にムラサメは微笑みを浮かべながら口を開いた。
ムラサメ「実の話、同行していたアークから許可を頂いてな…」
チャッキー「なんだと?」
まさかの言葉にチャッキーは顔を訝しめた。次の瞬間、ムラサメが彼の頭を片手で掴み、容易く持ち上げた。
ムラサメ「御主が退き、俺に譲れば話は済むだろう?」
貴様の戯言に応じる気は無いと間接的に伝えた直後、勢いよくチャッキーをぶん投げた。
チャッキー「野郎!覚悟しておけよ!!次会った時はギッタギタに切り裂いて…」
吹き飛ばされた先には闇のゲートがあり、その中に放り投げられるとゲートは圧縮するようにして閉ざされた。そのせいでチャッキーのムラサメに対する文句は遮られてしまった。
フレッド「行っちゃった…」
急な展開を目の当たりにした事で唖然としていた。だが、呟く言葉はやけに軽く、心から心配している訳では無かった。
ムラサメ「行くぞ、御主ら」
だが、平然とした態度で二人の間を通り過ぎた。彼には罪悪感も後悔も何も無かった。
ワームはムラサメについて行き、フレッドも困惑しながらも彼の後を追った。
ムラサメ「待っていろ、邪光家の末裔…!」
小声で呟くその言葉は二人には届いていなかった。
ムラサメ「恨み、晴らさせてくれる…!」
赤い瞳には黒い復讐の念が渦巻いており、とてつもなく濁っていた。今彼にあるのは邪光という家系に対する怨嗟であった。
場面は戻り、剣達は城下町のような場所へとたどり着いていた。そこを行き交う人達全員が魔法使いを想起させる服装をしていた。
道上を歩く者もいれば箒を模したバイクに跨いで、飛行する者もいた。他にも幻獣をペットのように使役している者や、人外の生物もおり、正にファンタジーそのものであった。
メビウス「なぁ、メビウス…こんなんだっけ?別の世界って」
御伽噺にありそうな光景を目の当たりにした事で唖然としながら立ち尽くしていた。
というのも、彼が巡ってきた世界はどれも代わり映えのしない…正確には創造世界において身近なものばかりであった。しかし、ここは違う。
剣「こんなんだったぞ。まぁ、驚くのも無理はないが…」
メビウスの問いにそう返した。
一方でフォースはあまりの素晴らしさに感動し、口笛を吹いていた。
フォース「なーにー?皆はこんなのを先に味わってたのー?ロマンあって良いねぇー」
ニヤケながら羨ましいと剣に肘でつつきながらちょっかいをかけた。
剣「そんなんじゃないですよ、暗黒世界が手強くて大変でしたから」
いつも通り落ち着きながら、フォースの肘を片手で受け止めた。
メビウス「なぁ、フォースさん」
フォース「ん?どーした?」
ふとメビウスが訊ねたてきたのでフォースは振り向き、不思議そうな表情を浮かべたまま首を傾げる。
メビウス「シロノス社の戦艦って、一回でも誤情報でしたって事ある?」
その質問にフォースは剣の手から肘を離し、腕を組んで記憶を振り返った。少し唸った後に口が開く。
フォース「いや、一回も無いな。うちの戦艦は高性能だから、んな事はただの一度も無い」
剣「メビウス、なんでそんな質問を?」
フォースが答えると、剣はメビウスに訊ねた。
メビウス「いやよ?今までの傾向からして欠片があったら暗黒世界もいるってなってたじゃん?でも、今回は欠片があるのに暗黒世界もいないってなってるからなんでかなって」
この世界に来てから抱いていた疑問に剣は考え込む。だが、フォースからすれば身をもって経験していないので、何が何だかさっぱりであった。
剣「そうだな…今までは暗黒世界のヤツを倒せば欠片は落としていたが、今回は一から探さないといけないのか…」
思考を張り巡らせる中、別の問題にぶつかった事で困難を強いられていた。
フォース「ん?激龍って暗黒世界において天敵なのになんで体内にあるの?」
メビウス「そう!それが謎なんですよね、マジで…」
困惑するフォースにメビウスも理解し難く、何とも言い難い様子でいた。当然、剣も同様であり、抱える謎であった。
アスト『成程、困難を極めるか…』
ふと、剣の頭の中から平然とした声が流れた。
剣「わかるのか?アスト」
その言葉に含まれていたものを察知し、アスト本人に問いかける。
アスト『何、容易い事だ。私が探知して欠片の在処を探し出せばいいだけの事だ。俗に言うレーダーとしての役割を果たそう』
淡々と余裕を含んだかのようにして理由を述べると、首にかけていた激龍の宝石が光出した。
メビウス「え?光った?」
悩みながらも打開策を編み出そうと唸りながら思考を回していた。唐突に現れた光を視認したメビウスが困惑する。
フォース「これが、激龍ってやつか…」
水色の光に宿る神々しさとそれに見合った威厳さが身に染み、理解してきた。
アスト『どうやらあの城…いや、校内にあるみたいだな』
探知した末に特定した欠片の位置を教えられた。剣はアストが指し示す言葉に応じ、目の前に聳え立つ城へと目を遣る。
剣「そこに行けば良いのか…」
あまりにも大きい建物に内心感銘を受けながら自身達のすべき事を理解し、それを呟く。
メビウス「おいおい?潜入なんかでいけるの?あれみたいに魔法とか使えないのにさ」
剣の言葉を聞いて無理があると思い、待ったをかける。通行人の魔法使いに指をさし、例えながら疑問を投げる。
剣「魔法は能力で誤魔化せるが、服装がな…」
顎に手を当てながら策を練る。だが、こればかりはなかなか思いつかなかった。
「見かけない格好だな、お前達」
すると、三人の背後から年老いた声が語りかけてきた。声は勿論、その人物から溢れ出るオーラを感じ取り、振り返った。
声の主は銀色の瞳に白髪と長い白髭を携えた年老いた男性であり、その手には宝玉に木の根が巻き付くようにして作られた長杖が握りしめられていた。
剣「貴方は?」
「ワシはジョレッド、ここエドワード魔法学校の校長じゃ」
剣が神妙な面持ちで名を尋ねると、老いた男性 ジョレッドが確かに名乗った。
「ジョレッド先生だ!」
「マジかよ!?」
「ってか、誰だアイツら?」
ジョレッドの存在と放たれるオーラはとてつもなく、周りにいた魔法使いが男女問わずして視認し、ざわめき出した。
ジョレッド「さて、何しにこの世界へ来た?」
長く生きた経験と知恵によるものか、彼の洞察力はかなりのものであった。剣達が別世界の者、そして目的があって来た事を察知していた。
メビウス「んーと、俺達は…」
焦りを見せずに、この状況をどう切り抜けるか思考を回す。だが、剣がそれを止めた。
剣「ジョレッドさん、校内にあるこんな感じの欠片を見ませんでしたか?」
隠してもどうしようも無いし、絶好のチャンスだと思い、激龍の欠片の在処について訊ねた。
その際、首にかけた繋紐を持ち上げるようにして宝石を見せた。
ジョレッド「これは…」
太陽の光に照らされて光る宝石を瞳に映した。ジョレッドは見た事があると言わんばかりに声を零した。
ジョレッド「ついてきなさい、私が案内をしよう」
すると、剣達に指示を促し、エドワード魔法学校の校舎へと歩き出した。
剣「御協力、感謝致します」
その御恩に感謝し、すかさずジョレッドの後について行った。
少しして四人は中庭に面した廊下を歩いていた。
校内の生徒達に勘づかれないよう、戦士はエドワード魔法学校の制服へと着替えていた。
フォース「剣くんやメビウスくんはわかるけど、30の俺が生徒って無理があるくない?」
平然としている剣とメビウスとは対照的に苦笑いを浮かべながら訴えかける。
ジョレッド「すまない、もう少し辛抱してくれ。後で要望を聞く」
フォースの意見に謝罪を述べる。年老いているからか将又この学校の校長からなのか、声色はかなり落ち着いていた。
メビウス「フォースさん、生徒が嫌なら何がいいのさ?」
歩を進めながら振り向き、フォースに問いかけた。
フォース「そりゃあ勿論!願わくば保健室の先生として!生徒との禁断の恋ってやつをだな!…」
高らかに、明るく砕けた様子で秘めた欲望をさらけ出した。女性をナンパするフォースにとって憧れの一つでもあった。
メビウス「ジョレッド校長、彼の意見は流して良いと思います」
ジョレッド「そうみたいだな…」
しかし、メビウスは呆れた様子でフォースを無視しながらジョレッドにそう促した。彼も同様の反応であった。
「おーい!ジョレッド校長せんせー!」
突如として呼びかけてきた大声にジョレッドを除いた面々が反応し、目の前から来る少年を見る。
その人は緑髪に黄緑の瞳をした明るく活発な風貌にエドワード魔法学校の制服を着ていた。だが、彼の手足には緑色の甲冑を纏っており、手の甲と踝には小さい魔法陣が刻まれていた。
ジョレッド「フーヤ」
元気に振る舞う少年を視認し、彼の名前を呼んだ。
剣「ふーや?」
ジョレッドの違和感のある喋り方に怪訝な表情を浮かべながら、首を傾げる。
楓弥「お!初めましてだな!俺は武内 楓弥!日本初の魔法使いだ!」
少年 楓弥は自信満々に名乗った。剣達とは初対面なのに気楽に話せていた。
剣「にほん?」
聞き慣れない言葉に頭がハテナで埋め尽くされる。
メビウス「ジョレッドさん、この人が楓弥なのはわかったけど、ニホンって何?」
彼も同じ反応で、フォースも口にしていないだけで、日本という言葉がわからなかった。創造世界は当然ながら現実世界とは異なっており、日本といった実在する国名が無かった。同じ言語でも違う名前を冠していた。
ジョレッド「まぁ、安直に言うと国の名前だ。アメリカとかイギリスといったな」
メビウスの問いに、彼らの常識との違いに動揺する事も否定する事無く、端的に教えた。
メビウス「あめりか…?いぎりす…?……ま、まぁ…勉強します……」
国の名前というのは理解したものの、聞き慣れないせいかぎこちない感覚に襲われる。自身の未熟さを自覚し、精進する事を決意した。
楓弥「え!?知らないのか!?日本とかアメリカとか!?」
当然ながら剣達の反応に愕然とし、有り得ないと心のどこかで拒んでいた。
ジョレッド「フーヤ」
楓弥の心情を読み取りながら近付き、両手を肩に置きながら優しく唱えた。
ジョレッド「無理もない。正直に言って、ワシでも彼らについて色々と驚いている。じゃが…目に見えるものが全てでは無いぞ」
唱える言葉には楓弥に気持ちに同情し、その心境に寄り添いながらも色んな人もいると諭した。
楓弥「…わかった」
ジョレッドの言葉と、目に宿る想いを感じ取り、剣達の前に立った。
楓弥「ごめん、酷い言い方した」
砕けた口調ながらも申し訳なく思っていた。それは態度にも現れており、しっかり頭を下げていた。
剣「こちらこそ勉強不足だった、申し訳ない」
謝罪に対する答えは寛恕であり、これから学んでいく事を確かに伝えた。
それを聞いた楓弥は安堵したが故に微笑みを浮かべ、剣も静かに微笑み返した。
フォース「そんじゃ!互いに打ち解ける関係になったので、欠片の場所へと案内してくれます?ジョレッド先生」
この状況を良かったと思いながら、改めてと言わんばかりにジョレッドに頼み込んだ。
ジョレッド「そうだな」
フォースの意見に賛同し、急いで欠片の在処に向かって一歩進めた。
楓弥「案内するよ!着いてこい!」
初めて学校に訪れてきたと思ってか、明るい笑みを浮かべながら友達となった剣とメビウスの手を取り、引っ張り始めた。
剣「なっ!?」
メビウス「うおっ!ちょっ!?楓弥さーん!?」
突然の事に二人は目を見開きながら、楓弥に連れて行かれた。
フォース「あはは!行ってらっしゃーい!」
三人の背を見送り、笑みを浮かべながら手を振っていた。仲良さそうな様子を前に感心していた。
ジョレッド「良いのか?君も表面上は生徒な訳だし、楓弥達と学校生活を過ごすのも…」
後ろにいるフォースに顔を向けながら君はどうするのかと訊ねる。
フォース「生憎だけど、この歳で学生はキツいんでね。だから、不良として好き勝手にやらせてもらいますよ」
朗らかな様子で返答すると、足取り速くこの場から去っていった。何やら目的があるように見えた。
剣とメビウスが楓弥に連れてこられ、まず辿り着いたのは大広間であった。内装は奥行のあるもので、縦長い机が四台も、その両サイドに各二つずつ椅子が並べられていた。
メビウス「デッケェ…!」
あまりの広さに開いた口が塞がらなかった。
表には出していないものの剣も驚いており、息を呑んだまま辺りを見渡していた。
楓弥「あっはは!やっぱな!皆ここに来ると、そういう反応しちまうんだよ」
二人の反応を見て、同じ反応をしていると可笑しそうに笑っていた。勿論、楓弥も最初に来た時も驚いていたのだが
「おーい!フーヤー!」
すると、剣達に声をかけながら駆け寄る三人の生徒が現れた。
楓弥「べレッド!アイドニ!アズル!」
彼らの存在に気付き、元気よく振る舞う。
剣とメビウスも三人に目を遣り、落ち着きながらも誰なのだと疑問に思っていた。
メビウス「もしかして、楓弥の友達?」
楓弥「おうよ!」
メビウスの問いに楓弥は答える。状況ややり取りなどから読み取ったそれは見事に当たっていた。
赤髪の男がべレッドであり、鶯色の瞳を持った男がアイドニ、そして金髪の女がアズルだと楓弥は端から順番通りに紹介した。
べレッド「初めまして!見かけない顔だし、時期も時期だから転校生っていう解釈で間違ってなさそうだ!」
人より大きな声で、明朗快活な振る舞いをしながら剣とメビウスに対する解釈の整合性を図る。
アイドニ「それで、三人は今何を?」
べレッドとは対照的に暗く落ち着いた雰囲気で状況を伺う。
楓弥「おう!べレッドが言う通りに剣とメビウスと共にこの校内を回って、案内してる感じなんだ!」
べレッドの問いに堂々と答えた。その際、さりげなく剣とメビウスの名を教えた。
アズル「ツルギ?にメビウスですのね。私達もご同行してよろしくて?」
お嬢様のような口調と振る舞いで楓弥に提案した。
楓弥「勿論だ!良いよな?」
彼女の提案に了承し、剣とメビウスに顔を向けながら良いかどうかを確認した。
剣「問題無い」
メビウス「あたぼうよ!」
当然と言わんばかりに快く頷いた。
大広間について説明を終えると、廊下を歩いていた。
べレッド「ツルギ?だったか!楓弥同様、聞き慣れない名だな!」
剣「…もしかしてだが、ニホンの魔法使いはあまりいないのか?」
皆が賑やかな会話をしていた。その中で剣がジョレッドや今のべレッドの言動から推察した上で訊ねた。
アズル「そうね、極めて稀な事だわ」
剣の問いに答えた。
アイドニ「剣も、日本出身の魔法使いなの?」
楓弥「俺が答えてごめんだけどよ、なんか日本じゃないらしいんだよな。言って大丈夫だったか?」
アイドニが二人について訊ね、楓弥が代わって答えた。自身の失言の後に傷ついていないかどうかも含めて申し訳なさそうにしながら確認した。
剣「俺は問題無い」
楓弥「あっはは!そうか!」
平然ながらも優しさを含んだ答えを聞いた楓弥は安堵した。同時に剣の事を優しいと思えた。
会話を繰り広げる中で数人の生徒が跨った箒を模したバイクが飛行し、剣達の横を通り過ぎた。
メビウス「…前々から気になってたんだけど、あの空飛ぶバイクもどきはなんなの?」
城下町に来てから思っていた事を訊ねた。
アイドニ「あれはブルースカイム、つまりは魔法使いが乗る箒です」
メビウスの問いに対して静かに且つ何処か熱意が籠った声色で答えた。
メビウス「箒か…世界って広い…」
アイドニの答えを聞いて、確かに感心する。
ブルースカイムの存在はメビウスの想像を遥かに超えるものであり、また世界の広さを実感させられるものでもあった。
べレッド「アイドニはブルースカイムのレースに出て、チャンピオンになるのが夢だからな!」
アイドニ「べレッドさん、あまりデカイ声で言わないでください…」
堂々と公の場で大声をあげるべレッドにアイドニは少し恥ずかしそうにしていた。
メビウス「へぇー…良いじゃん」
アイドニが抱く将来の夢を知って微笑みを浮かべる。それは純粋に応援の意味合いであった。
アズル「ところで皆様、もう少し時間なのはご存知でしょうか?」
問いかけるようにして口を開いた。それを聞いた剣とメビウスは何かわからず首を傾げる。
楓弥「あ!もうそろ授業か!」
だが、アズルを除いた三人の生徒はご存知であった。
アイドニ「あっという間でしたね…」
べレッド「うむ!どうやら楽しいとそうなるな!毎回そうだがな!」
アズル「急ぎますわよ!フランソワ先生に見られるの、結構怖いんですから!」
二人が反応を見せる中、アズルは皆に促しながら先を急いで走り出した。
楓弥「そうだな!なぁ!」
再び剣とメビウスの手を掴んだ。突然の事に二人は目をまん丸にして、それを楓弥に向けた。
楓弥「一緒に行こーぜ!」
歯を見せるように笑みを浮かべ、二人を引っ張った。
メビウス「うおっと!?」
剣「…了解した」
驚くメビウスに対して、剣は静かに微笑んだ。
そうして楓弥達は教室へと向かった。
場面は変わり、廊下にてフォースが一人、左側に沿って歩いていた。
フォース「保健室的なのはねぇかなー?衣装変えて先生やりたいんだよねー」
自身だけ抜け出せれたお陰かご機嫌そうな様子であり、目的のものを探そうと辺りを見渡していた。
フォース「ん?」
ふと言葉には表せない何かを感じ取った。唐突に来たそれが気になって顔を向けると、視界にはただの扉が映った。
フォース「そこが保健室とかかな?」
淡い夢と期待を抱きながら歩み寄り、ドアノブに手をかけた。そして、扉を開けた。
フォース「え?」
その先に通ずる一室を前にした事で唖然とした。
なんと、その部屋は図書館であった。しかし、先程の扉からは想像できない程に内装は広く、並べられた本棚は尋常ではない程に果てしなかった。
フォース「なーにこれー…俺でも反応困っちゃうんですけどー…」
あまりにも想像以上のものを前にした事で立ち尽くしたまま目を大きく開け、開いた口が塞がらなかった。
「あら、これは珍しいわね…」
突如として、大人しい声がフォースに触れた。それを耳にした事で我に返る。
目前には金色の長髪に緑眼を持った凛々しい容姿の女性がおり、椅子に腰かけながら机の上にある書物に目を通していた。
「客人…といったところかしら?」
無表情のまま彼女は頁に記された文章をゆっくりと視読していた。
フォースは彼女を見て少し間を開けると、微笑みを浮かべながら女性に歩み寄った。
フォース「そうだねぇー…お嬢ちゃん目的、といったところかな」
机に近付くと、椅子を引いてその上に座る。そして、頬杖をついて彼女を見つめた。完全に興味があるようだ。
フォース「俺はフォース、君はなんて言うの?」
ただ一点、金色の瞳は凛とした女性を映していた。
イワン「イワン…」
だが、彼女 イワンは名乗るだけで、フォースの事など意に介さずに黙々と本を読み続けていた。
フォース「へぇー、良い名前だね。実に可愛らしくて美しい…」
穏やかな声色で、優しい口調で視線を本に向けた。文の構成などからして小説である事を見据えた。
フォース「その本、どんな物語なの?」
すると、話題をイワンが好きであろう本へと移行した。
イワン「………」
だが、返ってきたのは沈黙。ただ本を読んでいた。
フォース「俺も本を読む事はあるぜ」
自分も好きだと伝えるも、何一つ喋らなかった。それどころか瞳をフォースに遣る事も無かった。
フォース「…わかったよ、図書館は私語厳禁ね」
機転を利かせて椅子から立ち上がり、近くにある本棚に立ち寄った。一冊一冊並ぶ本、その側面に記されたタイトルに目を通していく。
あるものを目にした瞬間、止まった。
フォース「これって…」
目の前にある本に誘われるようにして手が伸びる。自分の意志では無く、それに宿る魔性なる何かに…
その時、フォースの手が何かに弾かれた。
フォース「はっ…!」
あまりの衝撃に我に返って、息をする。どうやら先程まで呼吸が止まっていたようだ。
ふと隣に顔を向けると、そこにはイワンがいた。
イワン「…場所くらい伝えておけば良かったわね」
不甲斐ないと思いながらも淡々とした様子で別の本棚に近付き、代わりとして一冊取り出した。
イワン「そこは呪われているから、これにした方が良いわよ」
ゆっくりと振り返り、その本をフォースに渡した。
フォース「あ、あぁ…ありがとう、な」
状況が飲み込めず混乱と唖然が渦巻きながらも差し出された本を素直に受け取った。
すると、イワンは何事も無かったかのようにして再び椅子に座り、開いた本を黙読し始めた。
そんな彼女をフォースは見ており、すぐさま切り替えようと彼も椅子に腰掛けた。二人は対面するような構図となっている。
イワン「あの様子からして、魔女について知らないみたいね」
その時、彼女の口が開いた。
フォース「魔女…?」
唐突で、あまりにも意外だったのか静かに目を見開く。
イワン「えぇ、彼女は闇の瘴気という悪魔にも等しい禁術を手にした。その影響は凄まじく、一つの大国とそこに住まう数多の人を一つの動作もなく滅ぼしたわ」
淡々と語り終えると、今開いている頁をフォースに見せた。
何かと思いながら顔を近付けて目を凝らす、そこには記されたものに愕然とする。
頁には所謂、西洋絵画のようなものが描かれており、黒いローブにとんがり帽子の人物を中心に周囲にある人は屍の如く這いずり、救ってくれと手を差し伸べていた。建物も荒廃したかのように損壊し、辺りには黒い霧のようなものが覆われていた。
そして、なんと言ってもフォースが不気味に感じたのは中心の人物 魔女についてだ。
魔女は全体的に黒く、三日月のように吊り上がった白い口であり、気のせいかこちらを見ているようにも見えた。それが執筆者の意図しての演出か、将又偶然なのかは定かではないが、どちらにせよ背筋が凍りそうであった。
フォース「…そんなヤバい魔女、まだ生きてんのか?」
最悪な考えが過ぎってか緊迫した表情でイワンに問いかけた。
こんなのが現実にいれば、間違いなく正気を保てないどころか出逢えば即死だと本能的に理解したからだ。
イワン「かつてジョレッド校長先生が退治したから大丈夫でしょうけど、少なくとも死んではいないわ…」
平然とする彼女から出たのはフォースの想像通りのものであった。
場面は戻って教室内、席に着いていた剣達は先生であるフランソワから魔法について教わっていた。
フランソワ「簡単なおさらいとして、魔法は今より三億年前に発生した流星群により発現したとされ、最初の魔法使い ジョレッドをキッカケに広まったとされる…」
無表情で淡々と語る中、剣には思うところがあった。
剣(俺達の能力と似ている?やはり、コズミック・コアは他の世界にもあったという事か…)
創造世界にある能力の事を考えていると、フランソワの冷たい眼差しが剣に向けられた。
剣(ん?なんだ?)
すぐに気付き、僅かながら警戒心を抱く。疑問を抱く中、フランソワの口が開いた。
フランソワ「そこの人、授業の後で話を聞かせてくれ…」
心が読めるのか、事前にジョレッド校長先生から話を聞いているのか、いずれにせよ剣は少し驚いた。
剣「り、了解…」
悪意や敵意は無いのは確かだが、何を考えているのかわからないが故に素で返答してしまった。
授業の後、剣はフランソワに話をする為、職員室へと向かった。彼を除いた面々は次の授業を受けていた。
それからしばらくして、剣とメビウス達は合流した頃には昼休みとなっていた。
二人の戦士は横に並びながら廊下を歩いていた。
メビウス「すんげぇ大変だったわー…依頼とか任務とは違うベクトルで……」
背伸びなどをした事で身体から骨が鳴る。
剣「そうだったな。だが、悪くはなかった」
疲れたと言わんばかりのメビウスとは真逆に疲れた様子など無く、寧ろ楽しそうに微笑んでいた。
(そりゃ、暫くフランソワと話していたからな)とメビウスは心の中で思うも、敢えて言わなかった。
すると、剣が呟いた。
剣「もしかしたら、俺達もこういう日常を送っていたのかもな…」
それは有り得たのかもしれないと、感傷に浸っているものであった。
剣の言葉にメビウスは共感し、緑色の瞳は優しいながらも切なくなった。
メビウス「…そうだね」
今浮かべている表情を見せないようにしようと剣にそっぽ向いた。
メビウス「そーだ、さっきあのフランソワって人に何を話されたの?」
ふと思い出したかのようにして訊ねた。
剣「どうやら俺達がいる世界について知りたかったみたいだ」
メビウス「やっぱりかー、結構長くかかってたみたいだからね」
二人は切り替え、何気ない会話を繰り広げ始めた。
すると、二人の前に誰かが姿を現した。
ジョレッド「どうじゃったか?学校生活は、学校の中もフーヤのおかげでわかったであろう?」
それはジョレッドであり、優しい眼差しを剣とメビウスに向けていた。
剣「はい、とても楽しめました」
曇りなき瞳を真っ直ぐ向けて、少し微笑みながら答えた。
ジョレッドの読みは当たっており、二人が充実できた事に心の奥底から嬉しく思っていた。
メビウス「俺もです。あの楓弥って子、結構なムードメーカーで最高でした」
剣と同じ気持ちであり、楓弥について褒めていた。
フォース「そっちも充実出来たっぽいね」
語りかけてくる声に剣とメビウスは振り返り、ジョレッドはその先へと顔を向けた。
剣「え…?」
メビウス「それって…?」
ジョレッド「おやおや…」
目に映るフォースに三人は唖然としていた。なんと彼は学生服から白衣へと着替えていたのだ。
フォース「どーも、生徒から保健室の先生になりましたー」
明るい笑顔を向けながら敬礼のポーズをとった。それは大満足したと言わんばかりの様子であった。
実はフォースが図書館を去る際にイワンに頼んでみたところ可能だったので、是非…という事であった。
メビウス「ふ、フォースさん…願い叶って良かったねー…アハハ」(マジでなるんだ…)
剣「…なんとも言えないな」(潜入だったが、もう今更か…)
苦笑いを浮かべるメビウスに、呆れている剣。
ジョレッドも何とも言い難いものであったのか、未だに唖然としていた。
楓弥「剣ー!メビウスー!」
何とも言い難い状況下だが、相変わらずと言わんばかりに元気な様子で駆け寄ってくる。彼一人だけで
メビウス「あれ?他のみんなは?」
不思議に思いながらべレッドとアイドニ、アズルについて訊ねた。
楓弥「あぁ!俺だけで来た!欠片の場所を案内してなかったからさ!」
どうやら交わした約束、剣達がやる事について覚えており、一人で来たらしい
ジョレッド「そうだな。では、改めて案内しよう。着いてきなさい…」
四人に着いてくるようにと促しながら杖をついて歩を進めた、その時だった。
メビウス「危ねぇっ!」
何か焦る様な表情でメビウスはジョレッドを後ろに引っ張った。
ジョレッド「おおっと!?」
突然の出来事に目を見開き、後ろへと下がられた。
次の刹那、突き出してくる巨大な拳が先程までジョレッドがいた壁を叩きつけた。
その威力は絶大で、瓦礫が飛んで大きなクレーターが出来ていた。
楓弥「ジョレッド先生!?」
剣「敵か…!!」
愕然と目を見開く楓弥を他所に剣は抜刀し、フォースは両手を構えた。
フレッド「外したか…」
拳を突き出して、壁を壊した者の正体はフレッドであった。
メビウス「誰だよ?!アンタ!!」
顔を顰めながら声を張り上げて何者かを訊ねた。
フレッド「俺は、フレッド…」
名乗りながらメビウス達の方へと目を遣ると、ゆっくり身体を向けた。
流れるように拳は壁から離れ、瓦礫や砂が音を鳴らして落ちていく。
フレッド「暗黒の、巨人……」
彼らを睨む目が赤く光り、そこに宿る明確な殺意が向けられた。
メビウス「ジョレッドさんと楓弥さん、直ぐに他の生徒を避難させてくれる?」
三人の戦士がフレッドを睨みつける中でメビウスがジョレッドと楓弥に指示を促した。
ジョレッド「わかった!楓弥!」
その言葉に応じて、生徒達を避難させる為にすぐさま動き出した。剣達を心配する楓弥もこの場から離れた。
剣「フォースさんもよろしく頼んでいいですか?」
フォース「任せてよ!」
剣も問いかけながら指示を飛ばし、それを受けたフォースは承諾して彼らの元へと駆けつけて行った。
フレッド「おもちゃが、一個、二個……」
そうして自身も含めて三人だけになった。周囲が騒ぎ立てる中、フレッドが戦士をおもちゃと称し、一人一人指をさしながら数え始めた。
剣「気を付けろ。こいつ、只者じゃない」
冷たい眼差しと刃の先端をフレッドに突きつけ、全身から激龍を発する。
メビウス「わかってるよ!さっきからなんか乖離してるみたいな不気味な感覚が胸の中で渦巻いてるからさ!」
力を込めた両手足が青く染まり、光り出す。
その時、剣達に近付く影がもう一つ現れた。
「やはりいたか…」
影の声を聞き、その殺気を感じ取った戦士達が戦慄した。その中でも剣は殺気が自身に向けられていると察知し、すぐさま振り向いた。
剣「お前は…?」
影の正体はムラサメであり、瞳には黒い憎悪が渦巻いていた。目前の敵に剣は驚き、困惑した表情を浮かべていた。
ムラサメ「久しいな、邪光家…とはいえ、御主だと初めましてになるがな」
飄々とした口調とは裏腹に迷いなく抜刀した。
次の刹那、ムラサメは太刀を握りしめたまま一直線へと剣に急接近した。
剣「くっ…!」
瞬時に見抜いた剣が急いで太刀でムラサメの刃を防いだ。込められた力はかなりのものであった。
ムラサメ「どうしたァ?…御主の力、その程度ではなかろう!!」
怒りと恨みを顕にしながら勢いよく太刀を振り下ろす。あまりの威力に剣が後退り、ムラサメと共に遠く離れていく。
メビウス「剣!!」
突然の乱入に驚きながらも助けに行こうと走り出す。
フレッド「僕と遊ぼう…!」
だが、メビウスの前に巨体が立ち塞がる。あまりの迫力に気圧される。
メビウス「邪魔…!!」
面倒だと思いながらも、やるしかない…やむを得ずフレッドと戦う事にした。
【クロノワールド ミニストーリー】
剣「にほん?」
メビウス「ニホンって何?」
楓弥「日本語喋ってんのになんで日本とか知らないんだ?」
未来隊長「僕が説明するよ」
剣&メビウス「「未来隊長!?」」
未来隊長「創造世界では日本語に酷似したヒノ語という名前なんだ。だから、通じるはするけど、日本とかそういう国が無いからね」
ジョレッド「その場合、クロノス社とかクロノスの街とかあるからクロノス語ではないのか?」
未来隊長「んまぁ…訳ありね」
未来隊長以外の面々「?」
次回 第弐拾肆話 「活発な風騎士と金色の伊達男」




