第弐拾弐話 「三度目ノ闇」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
三日月が照らす真夜中、クロノスの街にて邪光 剣は任務の為に常人の域を超えた速さで駆け抜けていた。
「クッソ!なんだアイツ!?」
「速ぇ!時速100kmだぞ!?化け物かよ!?」
運転席に一人、後部座席に二人とオープンカーに乗った連中は追跡してくる剣に対して戦慄していた。
現在、彼らは銀行などを襲撃して金品を盗み、最高速度で逃亡していた。それに追いつく剣を前にすれば、当然の反応だ。
そんな強盗団を捕らえようとする剣が腰に納めた太刀に手をかける。
「クッソ!こんなところで捕まってたまるかよォォォ!!」
後部座席に乗っていた一人が必死そうな様子でロケットランチャーを手に取り、剣に照準を合わせた。
「ヴェスパ!殺る気か!?」
隣に座るもう一人の男がヴェスパという名の男に対して正気かと疑った。
ヴェスパ「うっせぇ!捕まってたまるかよォォォ!!」
冷静さを欠いた彼は意に介さず、引き金を引いた。
瞬間、装填していたロケット弾が放たれた。
剣「焔技 陽炎!」
冷静に見極め、技名を唱えた。すると、全身から焔が発現し、包むようにして自身を纏った。
毒針が焔を貫くようにすり抜け、剣は焔と共に姿を消した。
ヴェスパ「なっ!?消えやがった!!」
目の前で起こった出来事を前にして、混乱と同時に驚愕が迫った。
剣「閃火繚乱!」
次の刹那、高速で駆け抜ける車に無数の斬撃が襲いかかる。外装は深く斬られ、タイヤから空気が抜けた事で制御が効かなくなった。
「クッソ!余計な事すんじゃねぇよ!!」
ヴェスパ「あぁ!?俺のせいとでも言いてぇのかァン?!スタン!!」
運転手であるスタンがヴェスパに文句を言うが、当の本人はみっともないと言わんばかりの反論を口にした。
「そうとしか言えないだろ!この馬鹿めが!!」
続けてヴェスパに文句を垂れたのは後部座席にいた人 ネイバンであり、見事にキレ散らかしていた。
剣「言い合っている場合か?」
強盗団のやり取りに問いかける。冷たい声に反応する。直後、ボンネットの上に乗るようにして剣が姿を現した。
スタン「なっ!?テメェ邪魔だ!前が…!」
剣の脚に加え、靡くロングコートが視界を遮っていた。
それも含めてスタンは焦ってしまい、車の制御が効かなくなる。
剣「安心しろ、死なせはしない」
そう言うと、片手に握られた太刀を空に掲げた。
剣「しばらく牢の中で反省しろ」
剣は太刀を勢いよく尚且つ素早く振るった。
その後、気を失わせた強盗犯三人をCSFに突き出し、完全に修復したヘルズケージへと連行された。
翌日、剣は墓場に立ち入り、黙祷していた。
斬希の名が刻まれた墓石には花束が置かれ、蝋燭には火が灯していた。
剣「それじゃあ、行ってくる」
微かな寂しさを含む微笑みを浮かべながら剣はそう告げて、この場を後にした。
メビウス「よっす、剣」
墓場を出たところでメビウスが気楽な様子で剣に声をかけた。
剣「あぁ、メビウスか」
メビウスを視認した剣は手を挙げるようにして挨拶をした。特にこれといった反応はなく、平然としていた。
特に気にも留めなかったメビウスは剣の隣に並び、共に歩き続けた。
メビウス「調子はどう?」
剣「調子は良いが、気分はあまり良くないな」
メビウスの問いに剣は少し暗くなる。
ガロンに続いてアクアも死んでしまった。
その事実に剣はまた無力な自分を恨み、アクアの死を悔いた。
メビウス「あー…だよな。大切な戦友が死んで、平然といれる訳ないもん」
そんな剣の心境を察してか、メビウスはフレアの事を思いながら同情した。彼も同じ気持ちだったのだ。
その頃、フレアはクロノスの街中にある病室に足を踏み入れていた。
フレア「来たよ、母ちゃん」
優しく声をかける彼の目にはベッドで安静にしている母親 スイレンがいた。
上半身を起こしたまま、足を真っ直ぐに伸ばすような体勢でいた。
フレアに気付いてか彼女は微笑み浮かべた。その目は慈愛に満ちているが、虚ろとなっていた。
スイレン「フレア…?アクア?」
先の戦いで変わったフレアを前に魂が二つあるように思えたのか、子供のように首を傾げた。
フレア「え…?」
そんな彼女の行動に少し驚く。もう自分の中から消えたはずのアクアを感じ取っていたから
その理由にスイレンは確かに言った。死んだ兄の名を
フレア「…フレアで良いよ」
アクアが亡くなり、この場にいない事を悔やむが、それでもスイレンの前では明るく振る舞った。
暗く辛い思いをさせたくはなかったから
場面は変わり、クロノス社内の体育館にて牙禅は鍛えていた。
クラーケンの攻撃により損傷した片腕は回復薬でもくっつける事も出来なかった。
しかし、このまま立ち止まっていてもどうしようも無いと思い、今の状態でも慣れようとレオと組み手をしていた。
レオ「おいおい!本当に良いのかよ!?俺怖ぇよ!?」
現状としてはレオが押されており、傷付けたくないが故に恐れていた。脚や片手、波動など繰り出される攻撃を必死に躱していた。
牙禅「俺の事は気にするな!本気を出せ!容赦なく、殺す気でだ!」
だが、牙禅は一喝するようにしてレオに答えた。
彼の心は完全に慣らさなければという焦りと故郷を滅ぼした男に対する復讐の怒りが入り交じり、表情に現れていた。
レオ「ふざけんな!お前、アルドラスなんかよりもキツイぞ!」
レオも腹立ちながらも牙禅に訴えかけた。
そんな様子をグリンとライトは見届けていた。
グリン「マズイね…いくら完治したとはいえ、あれじゃあ傷が開いて…」
牙禅の状態を見てグリンは内心焦りながらもどう止めるか思考していた。
ライト「牙禅さん…」
ライトも牙禅を心配しており、不安になっていた。
止めようとしたが、牙禅本人に呼び止められたが為に恐怖し、動こうにも動けなかった。
牙禅「黙れ!そうでもしなければヤツを討つ事はできない!」
先が見えていない、そんな状態で発勁を繰り出そうと片手を突き出す。
レオ「いい加減にしろよ!」
だが、レオは攻撃を避けてその手を掴む。
そのまま牙禅を引っ張り上げ、牙禅の鳩尾に拳を入れた。
牙禅「ぐっ…!」
レオ「悪ぃな、こうでもしねぇと落ち着かねぇから…」
苦痛で顔が歪む牙禅にレオは辛そうな目を向けた。
レオ自身、仲間を傷付けたくない性格だ。それ故に今の行いを許せず、心の中で自分を責めた。
すると、レオの肩に牙禅の片手が置かれる。
牙禅「そうだな…すまなかった」
肩で息をしながらそう返す牙禅、冷静さを欠いていた事に反省した。
だが、心の中では未だに復讐の炎が燃えていた。それは確かにあった。
剣とメビウスはクロノス社の中庭にあるベンチの上に腰掛けていた。
メビウス「なんか寂しくなるよな…」
前屈みの体勢で溜息をついた。ヘリアデスに暗黒世界と何かしらの出来事が起こる度に敵が強くなり、更には規模が壮大になっていく。それ故に仲間が一人また一人と消えていく。その事実はメビウスも辛く思い、喪失感が大きくなっていく。
剣「戦い、だからな…」
メビウスの言葉に剣は同情し、拳を強く握った。
平等ながらも不規則で理不尽な死…残酷ながらも逃れられない。否、戦士としては逃げてはいけない。
ここで背けてしまっては護りたいものも護れず、多くの命が散ってしまい、そんな理不尽も許してしまう事になるからだ
メビウス「なぁ、剣…」
語りかける言葉に剣は反応し、メビウスに顔を向けた。
メビウス「アンタは死なないでくれよ、俺も死んでも死にきれないからさ」
言葉に込められたのは喪失感故の悲しみと死に対する多少の恐怖、そして微かな希望の祈りであった。
剣「そうだな、俺も死ぬ訳にはいかない」
返答した直後、立ち上がって前へと歩き出した。
メビウス「ん?何処へ?」
突然の行動に抱いた疑問を投げかけた。
剣「約束だ、幼馴染に会いに行く」
歩きながら問に答え、この場を後にした。
メビウス「そう!行ってら!」
剣の後ろ姿を見届けようと声を張り上げ、手を振った。応援として、彼の意志を尊重して
一人になったメビウスが一息ついて、その手を下ろした。
ふと明後日の方向へと目を遣ると、新たな疑問が生まれた。
その先には白髪に狼の耳を生やしたバンダナを被った青眼の凛々しい男が廊下を歩いていた。
彼の両サイドには4と記された黒バンダナを被った金の髪と瞳を持った男と牙禅と瓜二つなバンダナを被ったジト目の男がいた。
メビウス「あれって、シロノス…?」
見覚えのある人物だった。だが、何故クロノス社内にいるのか、今はまだわからないままであった。
一方で邪光 剣はクロノスの街中を走っていた。幼馴染のサヤと出会う為に
サヤ「あ!剣さん!」
剣「サヤ、相変わらず元気そうだな」
クロノス社から出て数十分くらいして、広場の噴水で待っていたサヤと会い、近付いたと同時にその足を止めた。
彼女の何気ない笑顔を前に剣は安堵の笑みを浮かべた。
サヤ「はい!昨日、みんなとカラオケに行ったので」
喋る中で彼女ははにかむ様な笑みを浮かべた。
剣「カラオケか、楽しそうでなりよりだ」
サヤ「もし良かったら剣さんも誘いましょうか?みんな、喜ぶと思います」
そんなやり取りをしている最中、サヤの青い瞳が剣の首にかけている激龍の欠片へと移る。
サヤ「神様も歌とか好きですか?」
激龍については既に世間から取り上げられており、力を使って平和を築くか否か議論されていた。
しかし、剣が自身達の手で築き上げると反対した事にで議論は終えた。当然、サヤもこの事を知っていた。
彼女は剣に宿る…正確には首飾りの宝石にいる激龍神 アストにも誘った。
アスト『勿論、歌は好きだ。心が躍り、時に気持ちを落ち着かせてくれるからな』
サヤの問いにアストは心底嬉しそうに、声高らかに答えた。
剣「有難う、その時はよろしく頼む」
微笑みを浮かべながらサヤに感謝し、お誘いに乗る事にした。
直後、何処からか轟音が鳴り響いた。
剣がその音を耳にした瞬間、辺りの空気が一変する。楽しそうに賑わっていた街が恐れを抱きながら騒然としていた。
サヤ「今のって…」
彼女も例外ではなかった。サヤが胸の前で祈るようにして両手を握っていた。
対照的に剣は太刀に手をかけていた。それは戦士としての使命でもあれば、彼自身の意志でもあった。
突如として、轟音の発生箇所から巨大な木の根が伸びていき、剣達に襲いかかった。
剣「焔技 灰燼紅蓮!」
瞬時に抜刀し、横に一閃する。直後、刃の軌道にそって焔の壁が発生した。幹は焔に触れると燃え上がり、跡形もなく消し炭となった。
目の前の出来事に一般市民は愕然とする。中には剣を視認して安堵と歓喜の声が聞こえてきた。だが、同時に不信な目を向ける者もいた。
剣「皆さん!ここは危険です!すぐに避難してください!」
振り返りながら声を張り上げて指示を促す。それに応じて、一般市民はすぐさま逃げ出した。
サヤ「剣さん…」
剣の背をサヤは心配の眼差しで見つめていた。
剣「サヤ、また後でな」
優しい声で告げた後、大地を蹴り上げてこの場を後にした。
サヤ「無事でいて…」
剣を心配してか、立ち止まっていた。
何処か遠くへと行ってしまうのではないかと、死んで二度と会えなくなるのではないかと
しかし、それでも剣を信じて、すぐさま避難した。
轟音が鳴り響いた場所 ベルズケージに剣が駆けつけた。周囲の建物や道路などには木の根が張り巡らせれており、至る所にCSFの隊員だった亡骸が転がっていた。また、極太い木の根が車道のアスファルトを貫いていた。
そんな地獄のような惨状の中で一つの人影が立ち尽くしていた。
剣「お前の仕業か?」
目の前にいる者に対して赤い瞳を睨みつけ、刃先を向けた。その人物は樹皮の模様をした能面に緑髪、樵のような服装をしていた。
「んん?どうやら戦士様が来たみたいじゃのう…」
俯いていた顔を上げ、ゆっくりと剣に能面を向けた。
「それもかなりの実力者、強者と言うべきか…」
流れるように身体も向けると、その服装と老人口調に見合わない紳士のようなお辞儀をした。
剣「質問に答えろ、暗黒世界の者だろ?」
不可解な行動、異様な雰囲気を前に剣は敵意を向けた。今は目の前の敵に集中するしかなかった。
トレント「左様じゃ。儂はトレント、暗黒の樹…」
潔く答えると、下げていた上半身を起こし、その顔を再び剣に向けた。
アスト『見事な程にセンスが無いぞ、その悪趣味なお面含めてな…』
トレントに若干引いており、容赦のない意見を口にする。
トレント「そう言うな、激龍神よ。これでも気に入る程に傑作じゃからのう」
だが、トレントは感情に呑まれる事無く、自信満々と返していた。
剣「…何が目的だ?」
あまりの過信と過大評価に呆れる剣だが、本題に戻して、続けて訊いた。
トレント「目的?既にご存知なはずじゃろ?」
首を傾げると、流れるように真横に顔を向けた。
その先にはCSFの隊員がうつ伏せとなっており、トレントに気付かれないよう匍匐前進でこの場を離れようとしていた。
トレント「破壊と殺戮の限りを尽くし、更地となった世界を創造主様に献上する事じゃ」
剣の方へと顔を向き直した次の刹那、右手を瞬時に振るうようにして小さい何かを投げた。
その正体は種であり、数秒もせずに隊員の体内へと入っていった。
隊員「ぐっ…!うぁっ!ああああああああぁぁぁ!!!」
突如として全身に苦痛が襲いかかり、呻き声を上げながら身体から木の根や枝などが生えてきた。
種の成長速度は尋常ではなく、隊員は体内にある水分や養分を吸い取られていき、立派な木そのものへと成り果ててしまった。
アスト『剣、危ういと判断したなら私の力を使え…』
剣「了解した」
剣とアストはトレントの能力を目の当たりにした事により警戒心を高め、絶対に斬るという決断をした。
トレント「人とは環境破壊をする傲慢で滑稽な存在じゃからのう、邪光 剣と彼を選んだ激龍の神よ…」
二人の意志を目の当たりにしながら、木にさせられた隊員に近付いて触れた。
トレント「自然を前に慄きながら死に逝け!!」
先程までの雰囲気や声色が一変し、怒りを露わにする。それに呼応して、木は四方八方に伸びる根を虫の足のように蠢きながら前進した。
アスト『ヤツの言う事、全てが矛盾しているな』
剣「今はヤツを斬る!」
失笑するように話すアストを他所に集中していた剣は大地を蹴って突き進んだ。
歩く木は近付いてくる剣の命脈を断とうと瞬時に枝を伸ばした。鋭利な先端が肉体を突き刺そうと迫り来る。
だが、それよりも速く剣は走って回避し、その木の横を通り過ぎた。剣の狙いはトレントであった。
剣「焔技…!」
脇構えのまま太刀を握り締め、刃先を地に向ける。
次の刹那、剣が燃える刃を振り上げた。
剣「灯火の太刀!」
鋭いそれは空を切り、トレントの胴体に傷を負わせる事は無かった。
トレント「案外鈍いのう!」
何故ならば、振り上げるよりも先に後ろに飛んでいたからだ。だが、剣はまだ諦めておらず、詰めるようにして接近した。そのまま焔纏う太刀を幾度も振るい続ける。
トレント「無駄じゃ!」
刃と焔を躱しながら手にしていた種を親指を弾いた。
剣がほんの少しの首を動かした事で種は通り過ぎる。避けられた種が地面に入っていった。
剣「焔技!」
トレントの間合いに入り、焔放つ刃を振るおうとしたその時だった。
アスファルトを砕きながら木の根が現れ、剣の両足に巻き付いてきた。
剣「何!?」
想定外の事に目を見開くが、続けて木の根は両手首を捕らえる。それにより剣の手から太刀が離れてしまい、刃が地面に突き刺さってしまった。
剣「根か…」(あの種は俺を拘束する為の…)
藻掻くも解けず、身動きが取れなかった。
トレント「愚かだなぁ…しかし、儂と邪光 剣では相性悪く、こちらが不利…」
哀れに思いながらも容赦はしないといった様子で、剣に歩み寄る。
能面のせいでその心情は読めないものの、赤い瞳は静かに睨みつけた。
トレント「芽は摘まねばな、許せ若いの」
迫る中、懐にあった種を摘むようにして取り出した。
トレント「これが歴戦の差じゃ」
それを剣に向けて伸ばす。体内に埋め込んで養分と水分を奪うつもりだ。
剣「焔技 怨…」
ふと、静かに唱える。
何かを予感したトレントか地面を蹴って後ろに飛んだ。
次の刹那、剣の全身から発現した焔が纏わりつく。
焼き尽くさんとする焔は巻きつく根を塵に返し、四肢の拘束を解いた。
トレント「おのれ、まだ足掻くか…最近の人類というのは、実に面倒なものじゃのう!」
弱点である焔と剣の抵抗に嫌気がさし、能面で隠れた目で目前の敵を睨んでいた。
剣「歴戦の差か…生憎だが、俺は伊達に修羅場をくぐってきていないからな」
目の前にいるトレントを視認しながら地に突き刺さる刃を引き抜いた。
剣「人間を、ナメるな!」
焔を纏ったまま、腕を伸ばして、目前に刃先を向けた。
トレント「ほざけい!」
嘲笑するように声を張り上げ、足元から木の根が触手の如く伸びてくる。
剣「焔技…!」
腰を落として、太刀を斜に構える。
力強く大地を踏み締めた直後、目にも止まらぬ速さで姿を消した。
剣「閃華繚乱!」
高速で駆け抜けた直後、幾つものの焔の斬撃が伸びてきた根を尽く斬り裂いていく。
トレント「無駄じゃ!無駄じゃ!クソッタレな人如き、儂ら暗黒世界の前では蟻も同然じゃ!」
懐にしまった種を鷲掴むよう手にし、隊員だった生きた木に向けて投げた。
数多の種が埋め込まれたところから枝が広がっていき、生きた木の肉体を新たに形成していく。
人型のそれは正に巨人そのものであった。
トレント「捻り潰せ!ジャック!!」
トレントの指示に木の巨人 ジャックは大木のような腕を振り下ろし、剣を叩き潰そうとした。
剣「焔技 火閃!」
迫るそれを目にした瞬間、両脚が焔に包まれ、超加速で躱してすぐさま突っ切った。
巨大な手に潰されなかった剣はトレントの間合いに入った。
剣「ハァッ!!」
刹那、太刀を振り下ろす。だが、トレントが後ろに退いた事で刃は届かず空を切った。それでも剣は間合いを詰めながら振るい続けた。
二度、三度と避けられ、トレントは後ろに跳ぶようにして剣から距離を取る。
トレント「ジャック!!邪光 剣を絞め殺せ!!」
声を上げて指示すると、ジャックは両腕を真っ直ぐにして剣に翳す。直後、それを形成していた根が伸びてきた。
瞬時に剣は高く跳んで、根の上に乗るとすぐに走り出した。ジャックは命の危険を感じて、頭部の髪を形成する樹冠から数多の果実が落ちてきた。その大きさはまさに岩石
剣「焔技 閃華繚乱!」
刃先を構え、あまりの速さにまた姿を消した。
刹那、伸ばしていたジャックの腕に焔が通った跡が現れ、無数の斬撃により斬り落とされた。
剣「激龍!」
力強く唱えた直後、再び姿を現した。その時には既にジャックの顔に埋め込まれていた隊員の間合いに入っていた。
剣の身体に纏う焔は水色の光 激龍へと変化していた。光放つ剣の手が伸び、隊員を掴んだ。
剣「癒焔!」
力強く引っ張ると、隊員は一体化していた木から引き剥がされた。抱えたまま降下していくと、激龍に燃え盛る木は朽ちていき、それが形成していた巨体が崩壊していく。
トレント「あれが激龍か…!相変わらず憎ったらしい光じゃのう!」
忌々しいと言わんばかりに静かに腹立て、しゃがむようにして掌で地面を叩く。
すると、アスファルトを砕きながら木の根が生え、伸びていくようにして剣に襲いかかってくる。
剣「激龍 烽煌斬!」
それを前にしても落ち着いており、刃を薙ぎ払って激龍の斬撃を飛ばした。根が斬撃に当たる度に斬り裂かれ、焼き尽くすように跡形もなく消滅していく。
トレント「危ういのう!」
死を察してか逃れようと後ろに跳んで、斬撃を避けた。その隙に剣は地に足をつけて、切先をトレントに突き出す。
剣「暗黒の樹 トレント!お前の闇、ここで断ち斬る!」
宣告した直後、超高速で地を駆けてトレントの懐に入った。
トレント「有り得ぬ速さ!」
剣「激龍!」
瞬間的な出来事であったが故に愕然とするトレントを他所に剣は焔の如く燃え盛る激龍を纏う刃を振り上げた。
それは見事な一撃であり、トレントの胴体に深い傷を負わせた。
剣「龍焔刃!」
トレント「ぎぃやああああああ!!!」
冷たい刃に痛みが迸り、焔のような激龍が通った箇所を焼き尽くす。トレントの肉体は力が抜けたようにして倒れていく。素顔を隠す能面が真っ二つに分かれ、地に落ちていく。
顕になったのは闇より黒い素顔に浮かぶ血の如く真っ赤な目といった醜悪なるものであった。それはさながらダークアイのようであった。
トレント「ば、馬鹿な…このワシが、こんな…青二才に……」
剣に目を遣りながら大の字となって倒れると、身体から黒い塵が浮上して現れた。最後の力を振り絞ろうと、手を空へと伸ばした。
トレント「創造主に、栄光…あ…れ……」
その言葉を最後に腕が降りて地に着くと、全身が水色の炎に包まれた。
剣「倒した、か…」
安堵故に一息つき、静かに白刃を鞘に納めた。トレントを倒した影響か、アスファルトから突き出た木の根などが朽ちていった。
アスト『そうだな、ヤツに囚われた男も無事だ』
静かな瞳がトレントから燃え盛る水色の焔を見据えていた。言葉通り炎が消えると、昨夜捕らえた者の一人 ネイバンが出てきた。
彼の身体は無傷であり、炎に包まれていたはずなのに心地よい眠りから覚めていた。トレントとなっていた時の記憶が無いのか理解出来ずにいた。
剣「だが、妙だな」
それを目の当たりにして、先程から抱いていた疑問を口にした。
アスト『やはり気付いていたか』
彼も同意見だった。
剣「あぁ、何故、この空でアイツが動けれたのか…」
顔を上げて、赤い瞳に快晴の空が映る。
剣「暗黒世界は陽の光に弱い、それを避ける為に空を暗雲で覆っていた。なのに、トレントは動けれていた」
考えれば考える程に謎は深まっていく。
アスト『考えられる事は二つ…一つはトレントといったヤツが特殊な事。もう一つは…』
考えうる可能性を提示していく中、突如として腕時計から鳴り響く通知音により遮られた。
剣「はい、こちら邪光 剣」
申し訳なく思いながらも腕時計を顔に近付けて、すぐさま応答した。アストも仕方がないと寛容になった。
未来「すぐに帰還してきて、他の戦士達も集っているから」
腕時計から声が流れ、剣に対して指示を促した。
剣「了解、直ぐに戻る」
承ったと伝えると、通信を切った。
剣「行こう、アスト」
アスト『あぁ、承知した』
すぐさま剣は地を駆けて、クロノス社の本拠点へと向かっていった。
「おや?あれが激龍神に選ばれた者ですか…」
そんな彼の背を一人の男が口角を上げながら興味深そうに見届けていた。
闇の如く黒い身体に赤い目を持った容姿にマフラーとコート、ブーツと手袋、そして頭に被ったシルクハットが特徴の服装をしており、全てが黒で染まっていた。
「暗黒の破壊者 黒影を討った我々の天敵 激龍の神に選ばれた戦士…これからが楽しみですねぇ!」
マフラーが風になびきながら踵を返す。すると、男の目の前に黒いゲートが現れた。
ご機嫌そうに鼻歌を口ずさみながら渦巻く闇の向こうへと消えていった。
少しして、剣は隊長室の扉を開けて入ってきた。
剣「すみません、遅れました」
落ち着いた口調と態度ながらも、駆け足気味に並んだ。
未来「大丈夫、問題ないよ」
剣が少し焦っていたように思え、優しく声をかけた。事実、剣の顔に汗が見えたのだ。走ったからというのもあるが、それだけで疲れる程に体力が無い訳がない。
未来「さて、皆揃ったみたいだね」
改めてと言わんばかりに口を開き、青い瞳が前方を見渡した。本題に入ろうとしたが、メビウスが挙手した。
メビウス「その前になんだけどさ…」
未来「どうしたの?メビウス」
投げられた質問に反応し、不思議そうな様子で首を傾げながら言及を求めた。
メビウス「なんでシロノスの人達が此処に来てるの?」
怪訝そうな表情で先程、中庭で見かけた事について訊ねた。
牙禅「それは本当か?」
牙禅を含めた戦士全員が驚き、どういう事かと疑問を抱く。
メビウス「本当だよ、ここで嘘つく訳ないじゃん」
だが、その中でメビウスは平然としており、淡々と答えた。
未来「あはは…仕方ない、じゃあまずはそこから話していこうかな」
想定外だった仕方が無いと笑みを浮かべると、いつもの穏やかな様子へと切り替えた。
未来「今回、シロノスの者達と手を組む事になったんだ。欠片の回収の効率化という目的でね」
そのままシロノスの件について話し出す。
メビウス「効率化…つまり、シロノスの人達は遠隔で情報伝達をして、その中で俺達戦士は欠片の回収兼怪物の討伐をするって事?」
メビウスは作戦の概要を簡潔にまとめ、真偽を問う。
未来「正確にはトップの三人は剣達と同行して、他の隊員達が戦艦からの情報提供をしていくって感じだね」
ところどころ訂正し、より正確にした上でより簡潔に述べた。
言い終えた直後、隊長室の扉からノック音が鳴り響いた。
未来「おっと、どうやら噂をすれば来たみたいだね」
扉の向こうにいる人物を見据え、室内に入るよう歓迎した。それが開かれると、メビウスが見た三人の姿が現れた。
未来「ご協力感謝します、シロノス社の皆様」
三人の中心にいる男 ウルフに対して軽く会釈をした。
ウルフ「問題ございません。こちらこそ力になれる事に光栄です」
改めて感謝を伝えた未来隊長に微笑みを浮かべながら返した。
ウルフは白髪に青い瞳、狼の耳と頭に巻いたバンダナに白のロングコート、腰に納められた双剣が特徴の凛々しい風貌をしていた。
「あー、もしかして君が邪光 剣くん?」
隣にいた男がウルフの前に出て、剣に近付いた。
剣「そうですが、貴方は?」
当然、剣は男に対して誰かと問いかける。
「おーっと、そうだったな。俺はフォース!この白狼の相棒さ」
金色の髪と瞳に白シャツと黒ズボンの上に黒いジャケットを羽織り、頭には数字の4が刻まれたバンダナが特徴の男 フォースが明るく振舞った。
フォース「お前さんの事は耳にしてるぜ!激龍とやらに選ばれたのは勿論、英雄である親父さん含めた先代戦士には世話になったからな!」
剣の肩に手を置きながら満面な笑みを浮かべた。
剣「親父にですか」
フォース「そうそう!」
落ち着いていながらも内心馴れ馴れしいと困惑する剣とは真逆に煩い程に盛り上がり、仲良くなろうと積極的なフォース。
そんな二人を他所に牙禅は後の一人へと目を遣っていた。
白髪と青い尻尾と長い耳、頭に巻かれたバンダナは牙禅と共通しているが、黒のジト目と袖無しのクロノス社の制服を着ているという点は異なっていた。
男…というより、少年は自身の端末を弄りながら、その液晶画面と睨み合っこしていた。
ウルフ「…ゲイツ、お前も名乗れ」
少年 ゲイツにウルフが呆れた様子で静かに端的に叱責する。
ゲイツ「ん?あぁ…」
すると、我に返った様子で端末を下ろした。
ゲイツ「えーっと、どーも。シロノス社の人です」
頭を掻きながら開いた口から出たのは気怠げな声で、自己紹介はいい加減であった。
まさかの態度に皆が呆然とする。
先程まで剣に絡みに行き、楽しそうに話していたフォースもまたかと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。
ウルフ「…ゲイツ、名前は言わないのか?」
瞳を閉じた様子で呆れながらウルフがため息を吐く、嫌な予感しかしなかった。
ゲイツ「だって、ウルフさんがゲイツゲイツって何度も言ってるじゃないですか。だったら良いでしょ?本題に移るべきです」
名前を言わない理由を淡々と述べると、再び液晶画面と睨めっこした。
メビウス「面白いね、アンタ」
口角を上げて、ゲイツに対して煽るような口調で語りかけた。皮肉とも聞き取れるそれを耳にしたゲイツの指が止まる。
ゲイツ「何?嫌味?それとも皮肉?」
怠そうな目がメビウスを見据える。態度などが気に入らないと思ったのか、続けて話し出す。
メビウス「いやー?ただこういう人もいるんだなーって、世界は広いなーって思っただけだよ?」
嘲笑うかのような態度でメビウスはゲイツに近付くと、ニヤケていた表情が一気に静まった。
メビウス「兎にも角にもよろしくねー、名無しの権兵衛さん?」
自然と流れるようにメビウスはゲイツにそう言った。
ゲイツ「あ?ふざけるな、僕はゲイツだ」
煽る言葉が逆鱗に触れたのだろう、気怠げな目がメビウスを睨んだ。
メビウス「へぇー、名乗れるんなら最初から言っときなよ」
前のめりとなってゲイツに強く言う。明らかに喧嘩腰となっていた。彼の事を快く思っていなかったのだ。
ゲイツ「うるさいよ、斧頭」
メビウスの髪型を見て、その特徴的な頭部からあだ名で呼ぶ。明らかに喧嘩を売られていると考えて堂々と言い返す。
メビウス「誰が斧頭だァァァ?」
だが、その言葉が逆鱗に触れ、更に激昂させた。
互いに睨み合い、彼らの間には火花が散っていた。
ウルフ「ゲイツ!」
怒号と言わんばかりの叱責が飛んだ直後、ゲイツの頭に拳骨が降ってきた。
ゲイツ「痛っ…!」
あまりの威力に顔が歪み、流れるようにしゃがんだまま殴られた箇所を両手で抑えた。
メビウス「え?」
突然の事に唖然とするが、彼の頭にもチョップが飛んできた。
メビウス「痛ててててて!!」
普通に痛かったのかで、両手で抑えながら振り返った。そこには呆れた様子の剣がおり、手刀を構えていた。
剣「お前、これから共にする人達となんで初っ端から揉めるんだ…」
メビウス「なんでって、いくら何でもあの態度はないでしょ?」
剣「お前も人の事言えないぞ」
だが、メビウスは間違ってないでしょ?と言わんばかりに訝しめる。
ゲイツ「何すんだよ!?ウルフさん?!」
ウルフ「口答えするな!これから共にする仲間に無礼だろ!!」
一方でゲイツはウルフと口論していた。
未来「あー…もう大丈夫?話進めるけど」
賑やかな光景を目の当たりにしながらも、困った言わんばかりの苦笑いを浮かべながら確認をした。
ウルフ「失礼しました!問題ありません!」
その言葉で我に返ったので、未来隊長に対して頭を下げた。勿論、彼以外の面々も静まり、申し訳なく思った。
少し間を置いて、剣含めた戦士とシロノス社の三人も未来隊長を前に並列した。
未来「では、改めて…既にシロノス社の戦艦が激龍の欠片がある世界を特定した。これより三つにチームを分けて各世界に向かって欲しい」
そうして未来隊長は淡々と剣達に指示を下した。
未来「チームアルファは剣、メビウス、フォースの三人。チームベータはウルフ、ブラック、フレアの三人。そして、チームガンマはレオ、グリン、牙禅、ライト、ゲイツの五人で、よろしく頼みたい」
戦士達はその指示に応じると言わんばかりに「了解」と返し、すぐさま各々準備に取り掛かった。
その中でメビウスはゲイツと一緒で無かった事に喜んでいた。
メビウス「よっしゃ!」
ガッツポーズをとっていた、これが何よりもの証拠だ。
フォース「よろしくねぇ!メビウスくん!」
メビウス「はい!フォースさん!」
フォースは明るい笑みを浮かべながらメビウスと肩を組んだ。
二人のやり取りをゲイツは遠目で見ていた。
ゲイツ「こっちの方が清々してるっての…」
機嫌悪そうに、眉間に皺を寄せていた。
牙禅「気にするな、今は任務に集中しろ」
そんなゲイツに牙禅が隣に立ち、淡々と伝えた。
ゲイツ「…わかってるよ」
未だメビウスに対して苛立つものの、何とかしてその気持ちを抑え、すぐさま切り替えた。
フレア「随分と、賑やかになったな…」
ライト「あはは、そうですね…」
今の状況を前に唖然とするフレアに対し、ライトは何とも言えない笑みを浮かべながら賛同した。
未来「配置に着いたね」
そうして三チームは青い亀裂を生成する為、壁の前に立った。
未来「…では、健闘を祈る」
そう言葉をかけた直後、全戦士は創り出した青い亀裂を通して、目的の世界へと飛び立った。
少し時は遡り、何処かにある城内にて先程のシルクハットの男が鼻歌を口ずさみ、人差し指で指揮を振るようにして楽しそうに舞っていた。
歩く廊下は先が見えない程に奥深く、両サイドにはステンドグラスが並べられていた。しかし、外が真っ暗闇なのでこの廊下も闇に閉ざされていた。
「世〜界は〜♪闇(や〜み)に覆われ〜♪人(ひ〜と)は陽と共に眠る〜♪」
歌いながら廊下を一歩、また一歩と踏み出す。男の顔から赤い目が消えていき、代わりに口角が上がった大きな赤い口が現れた。
「あら、帰ってきてたのね。ダーク」
そんなシルクハットの男に一人の女性が気付き、語りかけてきた。
女性は赤いメッシュのある黒の長髪に赤い輪郭を持つ瞳が特徴の美貌な容姿に丈の長いゴスロリっぽい修道服を着ていた。
「えぇ、帰ってきましたよォ。しかし、リディアさん…私の事は”マスターダーク”、と呼んでくれませんかねぇ?マ・ス・タ・ー・ダ・ー・ク、と」
女性 リディアにシルクハットの男 マスターダークは少し残念そうな様子でいた。ダークという呼び名がお気に召さなかったからだ
大きな口は目へと変わり、呆れながら彼女を見た。
リディア「何も、貴方がどう呼ばれようとも、暗黒の創造主であるという事は変わりないじゃない…」
そんなマスターダークに対して無表情で、無関心そうに返した。だが、その言葉は突き放すような冷たいものでは無く、ただ何気なく出たものであった。
マスターダーク「うーーーーんーーー……」
リディアの言葉を聞いてか、顎に手を添えたまま唸るようにしてオーバーな程に考えていた。
マスターダーク「んーーー…そういう事ではありますが、そういう事じゃないんですよ。マスターダーク、これが私の名前…創造主故のマスターなのですよ、おわかりですか?リディアさん」
しかし、納得が出来ず、やかましい動きでリディアに説得した。
リディア「…えぇ、わかったわ。兎にも角にも、貴方はマスターダーク…そういう事ね?」
逆に落ち着いた様子で母のように納得した。だが、リディアの話し方や声色からして興味が無い事が窺える。
マスターダーク「えぇ、そういう事ですとも…さて、はてさて」
リディアの答えをはっきりと聞いたので、平然とした態度でリディアの横を通り過ぎた。彼女はそんなマスターダークの後についていく。
マスターダーク「破壊者は死に、四天王は骸となった…こんな状況にはー…我々が動くべきだァ!そうは思わないかい?リディア?」
廊下を突き進みながら賑やかで楽しそうな様子で訊ねた。舞うように動くそれはまさにコメディアン、そして紳士のようであった。
リディア「そうね、仰る通りだわ」
ユニークに振る舞うマスターダークとは真反対に無表情且つ落ち着いた様子でいた。彼の意見に賛同していた。
マスターダーク「感謝…」
そんなやり取りを交わしている内に二人は巨大な扉を前に辿り着き、歩を止めた。
マスターダーク「さぁ!」
浮かべた大きなニヤケ口から高らかに声を上げ、両腕を広げた。
マスターダーク「開けェ!ゴマァッ!」
奇声のような叫びを上げると、扉が自動に、まるで仕組まれたかのようにして開き出した。
扉の先にはサーカステントのように賑やかで色とりどりな装飾が施された教会のような内装が広がっていた。
奥には階段があり、その上には緞帳を背にしたソファのような玉座が不自然に且つ寂しげに置かれていた。まるで祭壇のようだ。
マスターダーク「諸君!よく集ってくれた!私の眷属達よ!」
ご機嫌な様子で軽やかなステップを踏みながら身廊を突き進み、玉座へと向かう。
両サイドにある席には眷属を指すであろう者達が腰掛けていた。
マスターダーク「貴方々(アナタガタ)には私の手となり足となり!目として耳として頭脳にして、五体全て!」
一段ずつ登っていき、玉座の前に立つ。すると、マスターダークは振り返りながらそれに腰掛けた。
流れるように仰け反り、呼吸をした。すると、雰囲気が一変、シルクハットから覗く目つきが静かなものへとなった。
マスターダーク「私に役立て…その為に全ての世界を征服し!蹂躙し!破壊してー!強奪するのだー!全ては私の思うがままに!我が欲望のままに!」
冷酷な軍人から無邪気な子供、野心を抱く強欲なる王と喋り方が転々としていき、眷属達に演説を聞かせる。
高らかに自由気ままに語っている間、リディアは一番前の席に静かに座った。
「目先の敵はァ?どーすんだァァ?」
野望を述べた後で、マスターダークに訊ねる眷属の声が流れてきた。その問いにマスターダークは答える。
マスターダーク「殺せ!手段は問わない!」
「人形と楽しく遊んでいて、壊れたら?」
先程の甲高く耳障りなものとは別にゆっくりで低い声が続けて問いかけた。
マスターダーク「構わない!まだまだ玩具はあるからなぁ!好きに遊べ!」
「改造モ…?」
マスターダーク「勿論!」
「怠いけど?」
マスターダーク「それも良き!」
「忌々しき因縁を断ちたい…」
マスターダーク「ならば抱け!果たして、より闇を増幅させていくがいい!」
連続で来る問い全てにマスターダークは楽しそうに答え、玉座から立ち上がる。
マスターダーク「僕達は心に闇を宿りし者!そして、光に追いやられた哀れな被害者…」
ミュージカルの登場人物のように振る舞い、高らかに明るく声を響かせたかと思いきや、急に暗く落ち込んだようなものになった。
マスターダーク「怒り、妬み、恨み、憎しみ、悲しみ…我々は理不尽にも世界から拒まれていった…!」
憎しみなど負の感情が恨みのようなものが言葉として流れてくる。
マスターダーク「だからこそ!そんな私達には自由にあるべきだ!そう生きて良い!全て許されるのだ!!」
またもや人格が変わり、明るく楽しそうなものとなる。広げていた両手を天に掲げた。
マスターダーク「さて、暗黒の創造主に仕えし皆様!僕、俺、余、朕、某、小生、我、儂、あーし、アタイ、アタシ、私、ワタクシの為に…」
この場にいる眷属に声をかけた後、一人称を狂ったように途切れる事なく口にしながら掲げた両手を降ろし、開いた掌を見せるように神のようなポーズをとった。
マスターダーク「全ての世界を支配せよ!!」
眷属達にそう指示を下すと、彼らは闇に身を包まれるようにして姿を消した。
今、この場にはマスターダークとリディアの二人しかいなかった。
マスターダーク「では、私達もいくとしましょうか」
階段を降りて、リディアに近付く。落ち着いた声色で、一緒に踊らないかと言わんばかりに手を差し伸べた。
リディア「はい、喜んで」
すんなりと了承し、手を掴んだと同時に二人も闇に包まれてこの場から去った。
辺りは静寂に包まれた。否、何処からか心音が鳴り響いていた。
次回 第弐拾参話 「魔法世界の風騎士と金色の伊達男」
お楽しみに




