第弐拾肆話 「活発な風騎士と金色の伊達男」
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
吹き飛ぶ中、互いに押した事で弾かれ、流れるように距離をとった。
剣「誰だ?随分と俺…いや、邪光家を恨んでいるようだな」
距離を取って瞬時に刃を構え、ムラサメを睨む。
平然を装っているものの、一瞬ながらにしてムラサメの強さを前にした剣は下手すれば死ぬと心の中で微かに焦っていた。
ムラサメ「知らないか…まぁ、良かろう」
剣の問いに口を開く。出た言葉は何処か嘲笑っているようにも聞こえた。
ムラサメ「俺はムラサメ、暗黒の騎士だ。そして、俺が抱く闇は怨みだ」
名乗った直後、太刀を持たない方の掌を真っ直ぐ伸ばしながら剣に見せる。すると、そこから怨念のような黒い炎が発現した。
剣「黒い炎…!?」
燃え盛るそれを目にした瞬間、嫌な予感が脳裏に過ぎる。構えた刃に焔のような激龍を纏わせた。
ムラサメ「怒嗚獄!」
次の刹那、ムラサメの掌から黒い炎が放たれた。
黒い炎は不気味な叫び声を上げながら宙を翔ていく。まるで怨嗟のようだ。
剣「ハァッ!!」
前方から迫る黒炎を見据えたまま刃を振り下ろし、激龍で黒い炎を打ち消した。
剣(危なかった…!あの黒炎、尋常ではない…!)
未だ落ち着いているが、内心は黒い炎を恐れていた。それが顕になってか冷や汗をかき、微かに手が震えていた。
「おい!ここエドワード魔法学校の風紀を乱すとは!許さんぞ!!」
すると、逃げるのを拒んで立ち向かう一人の生徒が杖の先をムラサメに向けた。
生徒A「水よ!溺れ…」
ムラサメ「遅いぞ、虫けら…!」
そのまま唱えようとした時、ムラサメが生徒の懐に入った。
生徒A「なっ!?」
ムラサメを視認するやいなやあまりの速さに生徒の目が大きく見開く。
ムラサメ「邪魔をするならば、ここで散れ!青い小僧が!」
次の刹那、凶刃が振り上げられた。それは生徒の心臓と頭を通るようにして切り裂かれた。当然、一人の生徒は声も出せないまま亡骸となって倒れた。
「ストム!!」
すると、今度は斬られた生徒 ストムの友達が急いで駆け寄った。緊迫した様子でストムに呼びかけるも、何も返ってこなかった。
ストムの友達「す、ストム…?」
心では拒んでいるが、彼が死んだという事実は侵食するようにして徐々に理解していった。
ムラサメ「御主も邪魔だ、小僧…!」
早く剣と戦いたい…否、この手で殺めたい想いを阻んでくる生徒達に苛立ちを募らせた。それを晴らそうと言わんばかりにムラサメは再び刃を振るった。
咄嗟の出来事に友達は動けず、迫る刃を見届ける事しか出来なかった。
だが、刃が命脈を断つ事は無かった。
剣「早く逃げろ」
友達の前に剣が現れ、太刀が刃を防いでいたからだ。
精一杯防ぎながら友達に促した。その指示に友達は言葉を発する事無く、ストムを連れてこの場から離れた。
ムラサメ「虫唾が走るな、邪光家…!どいつもこいつも正義気取る…!」
憎むべき敵である剣の行動に癪だったのか、太刀を強く握りしめた。
剣「ムラサメ、何故そこまでして俺達邪光家を憎む?何が怨みを突き動かしている?」
問いかけながら太刀を手に、霞の構えに入る。
ムラサメ「黙れ…!正義を語る程の地位も器も無いというのに…!」
再び憎悪の目を向けながら切っ先を剣に向けた。
剣「なんだと?」
怨み言のように唱えた言葉に顔を顰めた。
その理由を述べようとムラサメが続けて話した。
ムラサメ「御主の父 邪光 斬希が何をしたのかわかるだろう?知らないとは言わせんぞ」
彼の言葉は言い逃れできないと言わんばかりに問い詰めていた。
剣「…81年前の戦争か?」
心当たりがあり、真相を確かめるべくムラサメに訊ねた。
ムラサメ「如何にも、俺達は61年の戦争に送り込まれた兵士にして心を失いし兵器…」
剣「まさか…」
徐々に理解していった剣を他所にムラサメは太刀を掲げ、刃に黒炎を纏わせた。
ムラサメ「もうここまで来れば、御主ならわかるだろう…」
憎悪や怨念に呼応して、黒炎が激しく燃え盛る。
ムラサメ「さぁ!此処で華々しく散れ!忌々しき邪光家の末裔よ!!」
次の刹那、勢いよく刃が振り下ろして、黒炎の斬撃を飛ばした。地を削る程の尋常ならざる威力が目にも止まらぬ速さで迫ってきた。
剣「激龍!!」
黒炎の斬撃、ムラサメの怨念に気圧されそうになるが、何とか堪える。激龍が風の如く渦巻き、刃に纏われる。
剣「風牙!!」
瞬時に薙ぎ払い、風を模した激龍が無数の斬撃として放たれた。
当然ながら黒炎の斬撃は激龍に当たって消えたが、その隙にムラサメが無数の斬撃を掻い潜り、剣の間合いに入った。
ムラサメ「かかったな!!」
剣「なっ…!?」
あまりの速さに目を見開くが、容赦なくムラサメの刃が振り上げられる。瞬時に剣は後退して致命傷を避けたが、微かながらも胸に浅い傷を刻んだ。
ムラサメ「激龍…俺達、暗黒世界からすれば天敵であり、触れただけで攻撃と能力は封じられる。一時的にだがな…」
淡々と語りながら躊躇いなく、容赦なく刃を振るい続ける。剣は太刀で防ぐものの、圧倒的な戦力差により押されていた。
ムラサメ「だが、逆に言えば!」
均衡が崩れ始めた。ムラサメの刃が剣の太刀を弾き飛ばした。
ムラサメ「ただの肉弾戦であればその効力は発生しない!」
瞬時に黒炎の刃が振るわれる。だが、陽炎と唱えた事で剣は焔と共に包まれて消えた。再現した時にはムラサメから距離を取っていた。
ムラサメ「そして!」
だが、既に予測していたと言わんばかりに剣の背後をとっていた。
ムラサメ「当たらなければどうということはない!」
静かに目を見開く剣を他所にムラサメの凶刃は彼の背中を斬り裂いた。
剣「ぐあああああああああっ!!」
貰った傷はあまりにも深く、痛みのあまり普段の彼からは想像できない程の叫びを上げていた。
倒れそうになるが、なんとか踏ん張り、振り向きながら激龍の光を帯びた刃を振るった。
当然そんな攻撃が当たる事などなく、ムラサメは後ろに跳んで距離を取った。その隙に剣は転送した回復薬をすぐさま口に含んだ。
緑色の液体が喉を伝って瓶の中身を飲み干すと、背中の傷が見る見るうちに治癒していった。
ムラサメ「珍しい技術だな、一度も目にした事が無い」
そんな剣を虚ろで冷たい目で見つめ、興味深いと物珍しく思っていた。
剣「お前の方こそ、それが戦の中で鍛えられた力か?それとも怨みか?」
傷が完治し、空となった瓶をムラサメに投げつけた。
ムラサメ「否、双方だ」
動じる事も、迷いもなく迫る空き瓶を片手で掴んだ。
剣「激龍 烽煌斬!」
次の刹那、焔を模した激龍の斬撃が飛んできた。
ムラサメ「わかりきった攻撃を…」
瞬時にムラサメは真横に飛んで、回避する。その際、彼の表情は退屈と言わんばかりに呆れていた。
だが、気が付けば剣はムラサメの間合いに入っていた。
ムラサメ(布石か…!)
想定はしていたものの、あまりの速さに驚いた事で動けなかった。
剣「ハァァァァッ!!」
次の刹那、落雷のような薙ぎ払いが放たれた。激龍の光が帯びた刃はムラサメの胴体を斬った。
ムラサメ「こいつは…!」
その一撃はかなりのものであり、確実に命脈を断つ程であった。
急がねばとムラサメは太刀を逆手に持ち、剣に対して勢いよく振り下ろした。
剣「陽炎…!」
再び静かに唱え、焔に包まれて消えた。一秒もせずにムラサメから離れ、そこに焔と共に現れた。
再度太刀を構え、正面へと目を遣る。
剣「なっ…!?」
そこで予想外な出来事を目の当たりにした。
確かに受けたはずのムラサメだったが、おかしな事に塵となって消滅するどころか受けた傷が再生していくではないか
剣「…確かに一太刀浴びせたはずだ、どういう事だ?」
想定外の事実に脳が理解を拒む。
ムラサメ「これは…不思議だな……」
それは当の本人も同様であり、未だに理解が追いつかなかった。次の刹那、頭にとてつもない電撃が迸る。
ムラサメ「くっ…!?な、なんの、記憶……?」
片手で頭を抑えながら苦痛で顔が歪む。
剣「記憶…?」
ムラサメの不自然な行動に困惑するも、抱く警戒心も戦闘態勢も解く事は無かった。
そうこうしていると、ムラサメは力が抜けたかのように両手をぶら下げた。だが、右手の太刀は握られたままであった。
ムラサメ「いや、どうやら紛れだったな…」
俯いていた表情を上げながら刃先を剣に向ける。その瞳孔には赤い輪郭が現れ、光を帯びていた。
剣「あれは!あの時の…?!」
今のムラサメの目に既視感があり、黒影が消滅する寸前での出来事が脳裏に過ぎった。
ムラサメ「邪光 剣、俺の怨み…」
刃先を向けたまま刃を後ろに引き、平突きの構えに入った。
ムラサメ「その身に刻んで!思い知れ!!」
そして、声を張り上げて宣告した。まさに怨念であった。
一方でメビウスはフレッドの剛拳を避けていた。
フレッド「ドーン!!」
メビウス「うおっ!あっぶねぇ!!」
振りかざした一撃はとてつもない威力であり、打ち付けた校舎の壁に大きなクレーターが出来ていた。
フレッド「あはは!待て待てー!」
先程までの落ち着いた雰囲気とは異なり、交戦する現在では無邪気な子供のように暴れていた。フレッドは距離をとるメビウスを追いかけながら剛拳を何度も突き出した。
メビウス「アンタ、キャラ変わりすぎだろ!?」
あまりの変貌っぷりに困惑するも、瞬時に剛拳の軌道を見極め、音速で回避し続けた。少ししてメビウスがフレッドの背後に回り、顔面目掛けて蹴りを入れた。
フレッド「んー?どうしたのー?」
確かに命中はした。だが、ビクともしなかった。
メビウス「やっぱ、思った通り硬ぇっ…!」
マズいと焦りながら苦笑いを浮かべる。
次の刹那、フレッドの片手がメビウスの足を掴んだ。
フレッド「ブーーーーーン!!!」
そのまま流れるように勢いよく振り回した。
メビウス「うおおあああああ!!」
あまりの怪力に169cmの身体は容易く持ち上げられ、ハンマー投げのように回転する。
そうしてフレッドが手放すとメビウスは目視不可な速さで吹き飛ばされ、背中が壁に叩きつけられた。
フレッド「くらえー!!」
間髪入れずにメビウスへと接近し、あの剛拳をまた突き出した。
メビウス「当たらねぇよ!!」
既に見切っていたので岩石のような打撃を音速で避け、フレッドから距離をとった。そのまま拳は壁に突き刺さった。
横に並ぶ柱と壁に挟まれた廊下に二人はいた。
フレッド「待ってー、僕のおもちゃー」
深く埋め込んだ拳を引きずりながらメビウスにゆっくり近付く。壁が削られ、中身が顕となる。
メビウス「なんつー破壊力だよ!ゴリラも慄くぞ…」
膝を地につけたまま緑の瞳がこちらに迫るフレッドを映しながら思考を張り巡らせる中で視線は自身の足へと移った。未だに青く染まったそれは発光し、オーラが上っていた。
メビウス(ゼノ戦(あの時)で発現した青黒になれば良いんだろうけど、反動がデカい。それに…)
青黒の身姿 ビヨンドソニックの使用を躊躇う。メビウスの目には片壁に手を引きずって走ってくるフレッドを捉えていた。
メビウス(あの”見た目は大人、中身は子供”とかいう馬鹿げたやつに使ったらデメリット以上に馬鹿にならねぇ…)
そう判断すると、意を決してゆっくりと立ち上がった。
メビウス「なぁ、フレッドだっけ?」
問いかけながら屈伸したり、足首を回したり、跳んだりして準備運動を始めた。
フレッド「なーにー?」
不思議そうに子供のような口調で反応した。もうメビウスに猶予がないというのに
メビウス「俺はアンタのおもちゃって解釈で良いんだっけ?」
腕をストレッチしながら何処か余裕のある落ち着いた口調で続けて語りかけた。
フレッド「そうだねー!君は僕のおもちゃだねー!間違いないねー!」
その問いに対して嬉しそうに答えた。フレッドはもう既にメビウスの間合いに入った。
すると、ストレッチを終えたメビウスも微笑みを浮かべた。
メビウス「んじゃあ、相手しないとね」
何か作戦があると言わんばかりにクラウチングスタートの体勢に入った。
メビウス「アンタに魅せてやるよ!俺の速度!」
宣言したと同時に前へと踏み出した次の刹那、メビウスの姿が消えた。
フレッド「えー!?」
突然の事にフレッドは愕然とする。走り抜ける足は止まり、拳を引き抜いて周囲を見渡した。
だが、間もなくして彼の顔面に重い一撃を受けた。
フレッド「痛いよー!」
少し苛立ち募りながらも剛拳を振るう。だが、それは空を切った。続けてフレッドの背後からあの一撃が飛んできた。
フレッド「あああ!腹立つううう!!」
見事に直撃し、前に押される。目視もできない速さで攻撃されている事実な更に怒りが募る。
気配を感じては瞬時に振り返るが、誰もいなかった。
フレッド「どこだよ!どこにいるんだよ!!」
声を荒らげながら辺りを見渡していた次の瞬間、また顔面に重い攻撃が当たった。あまりの速さで増した威力により顔面は歪み、黒い塵が血飛沫のように吹き出た。
メビウス「ここだよ!」
ようやく姿を現し、フレッドの顔面に回し蹴りを食らわせた。
フレッド「いた!死ねーー!!」
漸く見つけたと喜ばしく思い、捕らえようと両手を伸ばす。しかし、またメビウスが消えた事でそれも空を切った。
フレッド「あー!もーう!!またー!?」
思い通りにならないせいで機嫌をを悪くし、再びストレスが溜まっていく。フレッドが受ける攻撃の正体は拳と足による打撃であった。
現在進行形でメビウスはフレッドの周りを光速で駆け抜けていた。
メビウス「俺のスピードに付いて来れるかな!!」
続けて容赦なく拳で殴ったり、蹴りを繰り出したりしてフレッドに攻撃を浴びせ続ける。当然ながら避ける事も出来ないし、反撃したとて全て躱される。
フレッド「あああ!!もうめんどくさいいい!!」
あまりの苛立ちに駄々をこね、地団駄を踏む。その威力は擬似的な地震を起こす程のものであった。
メビウス「うおっ!?やばっ!!」
あまりの揺れに驚くも、揺れる地面を強く蹴り上げた。
メビウス(これでトドメだ!)
空高く舞う身体が宙返りをし、そのまま蹴りの構えで落下し始めた。目標はフレッドの頭部であり、そのまま加速していく。直撃すれば間違いなく貫かれるであろう。
だが、想定外の事が起こった。
フレッド「そこかあああああ!!!」
鬼のような形相を浮かべながら空を見上げたのだ。
メビウス「はぁっ!?」
光速で動いているはずなのにフレッドの目は確かに捉えていた。
巨体は後ろに下がって、降下するメビウスの蹴りを避けた。
メビウス「どういう脳みそしてんだ…!」
目の前で起こった事実に愕然とするが、フレッドの剛拳が容赦なくに迫る。だが、メビウスは光速で姿を消して躱した後にフレッドから距離をとった。
メビウス「あっぶねぇぇぇ…!」
肩で息をしながらフレッドを睨みつけ、再び戦闘態勢に入った。
フレッド「よくも僕を滅茶苦茶に痛めつけたなぁ!殺してやる!殺してやるぞ!!このクソガキがァァァ!!!」
腰を低くして互いの拳を突き合わせ、ドスの効いた声を張り上げた。
メビウス「おいおい、どんだけキャラ変すりゃ気が済むのさ」
目の前のフレッドに苦笑いを浮かべるが、内心は苦戦を強いられている事に頭を悩ませていた。
急激な人格変化によって戦い方や雰囲気などが変わり、他にもあるのでは無いかと錯覚又は予測していた。
その頃、フォースとジョレッド、そして楓弥はエドワード魔法学校の生徒全員を連れて安全な場所へと避難させていた。
「全員集まりましたね!?」
全員が大広間に集まり、先生の一人 リンクが人数の確認を行っていた。
ジョレッド「あぁ…じゃが、ストムが…」
それを終えて豪語するが、一人の生徒の命が奪われた事に心を痛めていた。
アイドニ「待って!アズルがいない!」
すると、焦るような声が上がり、必死に訴えた。
ジョレッド「なんじゃと?」
事実を耳にして愕然としながら見開く目が周囲を見渡す。生徒が無事なのか不安になり、他の先生がどうするかと必死に思考を回す。
楓弥「俺、行ってくる!」
その状況下で決意し、率先する事を決意表明した。確かに不安だが、何とかしなければならないと大広間を出ようと駆け出した。
「フーヤ!」
楓弥の独断行動を危険と判断してか、先生の一人 ロトが止めようと声をかけた。だが、当の本人に聞く耳は持たず、そのまま大広間を出た。
ジョレッド「私も行こう」
ロト「ジョレッド校長まで!?」
だが、ジョレッドもこの場を去った。楓弥を一人の生徒として心配していたのだ。彼の言葉にロトは驚き、困惑する。
楓弥の両足から風が巻き起こり、目にも止まらぬ速さで校内を駆け抜けていた。
楓弥「何処だ!」(頼むから、無事でいてくれよ!)
だが、いくら見渡しても、現状アズルは見当たらない。抱いてた焦燥は徐々に増していく一方だ。
大広間にてジョレッドを除いた先生達は打開策を練っていた。
「ジョレッド校長先生にフーヤ、二人とも無事に戻ってきて欲しいわね…」
その中で女性教師のジェロニモは不安な眼差しで顎に手を添えていた。一人は無茶するような子で、もう一人はいくら強いとは言え、ご老体である事に変わりはなかった。
フォース「ま、あんまり思い詰める事は無いんじゃないの?」
周囲に漂う重い空気を感じ取ってか、その一言で打ち破った。
フランソワ「何を根拠に?」
無表情のまま問いかける。この状況は勿論、初対面のフォースに対しても安心など出来ていなかった。信用も信頼も無いからだ
だが、「安心しなよ」と呟くとフォースの口角は上がり、白い歯を見せた。
フォース「なんたって…!」
急に変わった行動をし始めた。その場でしゃがみながら片方の掌を床に添えた。
次の瞬間、誰もいない床から黄金の塊が触手のように突き出てきた。
「キシィィィィィィ!!!」
伸びる黄金が捕らえた先にはワームがおり、身動きを封じていた。突然の事に周りの者達は目を見開いた。
ジェロニモ「な!?何処から!?」
フォース「地中にいたんだよ、だからこうして捕らえたって訳」
驚愕し、困惑するジェロニモに既に読んでいたフォースが淡々と説明を述べた。
フォース「しっかし、アンタが暗黒世界ってやつか…」
金色の瞳がワームを捉えたまま一歩ずつ近付く。
フォース「マジで気味悪い見た目してるねー」
あまり表には出していないが、ドン引いた様子で右手に黄金を纏う。生成されたのは巨大なガントレット、正に巨人の拳であった。
フォース「黄金の(ゴルド)…!!」
金色のガントレットを後ろに引き、突き出す段階に入った。
次の瞬間、ワームに巻き付く黄金が砕けた。それは自身の怪力によるものであった。
すぐさま着地し、重い音が鳴り響いた。目前のフォースを視認すると、巨大な口を開けて喰らおうと襲いかかる。
だが、それはガントレットは突き出された事により阻止され、重い一撃がワームの顔面に直撃した。
フォース「一撃!!」
やはりそれはとてつもなく、ワームは後ろへと吹き飛ばされ、誰もいない壁に打ち付けられた。
リンク「今のは…?魔法陣も無しにどうやって?」
フォースの能力を目の当たりにした先生 リンクが魔法では無いと理解したと同時に不思議に思う。その問いに対する答えは沈黙、当の本人は壁にめり込み、舞い上がる粉塵の向こうにいるワームを見据えるままであった。
彼の行動に疑問を抱いたリンクもそちらに顔を向け、その理由を知るやいなやすぐさま目を見開いた。
ワーム「キシィィィィィィ…!!」
手の無い身体を起こして、壁から離れる。
地盤に足を着けた時、あまりの重さに辺りが揺れた。
周囲にいた生徒達は騒然とし、ワームに畏怖する。
そんな彼らを先生達は護る為に前に出て、身構えた。
フォース「よーし、教職員の皆さんは生徒の皆さんを護ってあげてやりな!奴さんの相手は任せておけ」
背後にいる先生達に声をかけながら黄金に輝く両腕のガントレットを構えた。
ワーム「キシャァァァァァァァァ!!」
そんなフォースを前にし、性懲りも無く大きな口を開けたまま突進してきた。
フォース「黄金の(ゴルド)!」
分かりきった行動に油断する事無く、双方の拳を後ろに引く。ワームがフォースの間合いに入った次の刹那、ガントレットによる打撃が連続で繰り出された。
フォース「連打!!」
金色に輝くそれは正に流星のように軌道を創り、一発一発がワームの身体に沈んでは離れていく。確実に幾度となく打ち込むが、ワームはビクともしなかった。
フォース「成程な、余っ程のタフネスをお持ちなのね…ッ!」
ワームの特性を瞬時に見切り、拳を合わせて金属音を鳴らすと、ガントレットは形を変えて直剣になった。
フォース「叩いてダメなら斬る!」
両刃がワームを捉え、柄を握り締める。そのまま勢いよく逆袈裟斬りを繰り出した。
金色の刃はワームの胴体に深い傷を負わせ、見事に後退らせた。
ワーム「キシィィィィィィ…!」
傷から黒い塵が浮かぶ、だが瞬時に再生した。
気のせいか、ワームの並ぶ牙を持つ口が笑って見えた。余裕の笑み又は嘲笑か
フォース「随分と余裕そうだな。安心しろ、そんなニヤケ面すぐに黙らせてやるからよォッ!!」
不気味な笑みを目にし、勝手に解釈の後に意気込むと、跪きながら両手で地面を叩いた。
すると、先程と同様に地面から黄金の塊が触手の如く伸びてきた。
迫り来るそれらにワームは為す術もなく、再び巻き付かれ、されど異なり、包まれるように捕えられた。
フォース「黄金の繭!」
包まれた黄金に掌を向けて、閉ざすようにして握り締めた。それに応じて黄金の塊は圧縮し始め、確実にワームを圧殺しようとする。
だが、そう簡単に物事は運んではくれなかった。
フォース「…硬ぇのか強ぇのか曖昧だが、どんだけだよ…!」
締めようにもワームの強固な肉体或いはそこに宿した怪力により阻まれ、停滞していた。だが、数秒も経たずに黄金はなんとか中の空間を閉ざした。
フォース「手応えが無い、って事は…」
得も言われぬ違和感を感じ取り、討っていないと確信すると地面へと目を遣った。何かを見抜いたフォースが何の迷いも無く高く跳んだ。
次の瞬間、床から突き破るようにしてワームが現れた。
ワーム「キシャァァァァァァァァ!!」
正に水中から出たワニのように口を大きく開けて、フォースを食らおうとしていた。
フォース「潜ったって事か!」
ワームの特性を理解すると、右手に黄金のチェーンアレイを生成した。
鎖を掴んで、瞬時に繋がれていた金色の鉄球を振り回した。
ワーム「黄金の星弾!」
そのまま流れるようにして勢いよく鉄球をワームに向けて投げた。ワームとの距離が確実に縮まる。
次の刹那、目掛けた先の顔面がひしゃげた。鉄球の一撃はかなりのものであり、そのまま吹き飛ばした。
だが、壁に背中を打ち付ける事はなく、地面に突き刺すようにして足が地面を踏むと、後ろに行く身体が止まった。
フォース「逃がさねぇよ!」
念じながら鎖を握る手に力を込めると、鉄球は網のようにして広がっていく。
金色の網がワームを捕らえようとするも、先に地中へと潜られた事で避けられてしまった。
フォース「モグラがァァ!!」
すぐさま鎖を引っ張りあげると、金色は巨大なハンマーへと迅速に変形した。
フォース「黄金の雷!!」
次の刹那、素早くハンマーを振り下ろし、その面がワームの潜った箇所を力強く叩きつけた。あまりの衝撃によりワームは地中から吹き飛びながら姿を現した。
フォース「そこだ!!」
一瞬の隙を見逃さず、黄金のハンマーを振りかぶった。だが、ワームの強靭な肉体により手にしていたそれは見事に砕けた。
次の瞬間、ワームの開いた口が持つ舌がフォースに向かって伸びて来た。
フォース「うぉっ!?」
生理的な嫌悪と危機感から鋭い舌を躱して、ワームから距離を取った。
ワーム「キシィィィィィィ…!!」
昆虫のような奇声を発しながら伸びている舌を構えた。
フォース「気持ち悪いなぁ…つか、アンタ奥手かよ」
苦笑いを浮かべながらこの状況をどう切り抜けるか、必死に策を練っていた。
場面は変わり、楓弥は校内を回っていた。
楓弥「マジで広いな…!魔力が持つかどうか…!」
あまりにもアズルが見つからず、楓弥は焦っていた。もしも彼女の身に何かがあったら最悪な想像はするものの、考えたくないとなんとか払拭する。
そんな楓弥の前には数体のダークアイが地面から現れ、立ち塞がる。
楓弥「何処の誰かは知らねぇけど…!」
目の前の敵を視認すると、片脚に渦巻く風をより強くさせた。
楓弥「邪魔だー!!」
次の刹那、突風を発生させながら回し蹴りを繰り出した。それを食らったダークアイ達は何一つ言葉を発さずに、赤く染った白目を剥きながら散体していった。
だが、まだ生き残っていたダークアイが鋭く長い赤い爪を振り下ろした。瞬時に危機を感じた楓弥は片腕を翳し、ダークアイの爪は装備されたガントレットを弾くだけであった。
楓弥「あっぶねぇえぇぇ!!」
闇より黒い手を押し退けると、もう片方の拳を瞬時に突き出した。その一撃は鳩尾に入り、ダークアイの命脈を絶った。
他三体のダークアイが楓弥の背後から襲いかかる。
楓弥「吹き飛べ!!」
三つの殺意に気付くと、振り返りながら突き出していた腕を薙ぎ払った。
同時に放たれた強風は三体のダークアイを押し飛ばして、壁に打ち付けた。
楓弥「執拗いんだよ!お前ら!」
このままでは埒が明かないと思ったのか両脚に渦巻く風をより加速させて、瞬時に包囲網から抜け出した。
当然ながらダークアイは楓弥を追跡してきた。だが、それはゾンビ映画のゾンビのように遅く歩いていた。
楓弥「なんとか撒けるみたいだな…!よし!このまま…」
いけると確信し、速くアズルを探さなければと更に加速して突っ切ろうとした…その時だった。
楓弥「なっ…!?」
唐突に現れた瘴気の如く漂う黒い魔力が襲いかかるようにして遮ってきた。命の危機を感じた楓弥はすぐにブレーキをかけて急停止した。
楓弥「お、お前は…!」
目前にいる者を瞳に映すと、その目は大きく見開いた。
「………」
その人物はローブのような黒装束に唾の広い三角帽子といった衣装を、しかし、それらは全てボロボロであった。肌の色は死人のように青白く、唇は黒く彩られ、見据えた目はどす黒く虚ろなものであった。
楓弥「レヴィム…!」
魔女である彼女 レヴィムと呼ばれる者の異様な雰囲気と風貌を本能的に恐れていた。
次回 第弐拾伍話 「黒ノ魔女と真ノ闇」
お楽しみに




