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UNDEAD HUNTER  作者: Navajo
第一章 招かれた世界
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第五話 乾杯





 真夜中の車道をジムニーが走る。車を奪った男は道路沿いの大型ドラッグストアを目指した。

 

 自分の怪我を治しながら療養し、ドラッグストアを拠点にしてしばらく過ごすという作戦だった。

 

 750発近くの弾。そして銃。さらに備蓄食料。

 

 これに医療物資や栄養補助食品なども揃えばしばらくは生きていられる。

 

 最近のドラッグストアには日用品から食料や水まで何でもあるので補給に事欠かない。

 

 早速、近隣のドラッグストアの看板を見つけると、そこの駐車場の敷地の中へと車を進めた。

 

 大型のドラッグストアの店内の電気は当然消えていた。

 大きな自動扉の出入り口はガラス張りで、駐車場に面した部分は日光を取り入れるために全面ガラス張りになっている。見晴らしのいい店舗づくりのおかげで月明かりだけでも駐車場からも店内からも、内外がある程度うかがい知ることができた。

 

 駐車場には数台の車が止まっており、男は車をすぐには駐車させずに徐行しながら一台一台車の中を観察した。

 

 どの車にもドライバーはいないが、一台だけ女性らしきドライバーが運転席で突っ伏しているのを確認した。

 

 運転席で発症し、意識を失ってしまったのだろう。彼女が死んでいるのか、狂ってしまったのかは外観だけでは分からない。

 

 男は外からドラッグストアの店内を観察し続け、人の動く気配が無いことを確認すると行動を起こした。

 

 盗んだバックパックの中に大きな箱の弾を四箱と、盗んだキーホルダーと牛刀を入れて背負う。

 

 大きな箱の弾は一箱に25発。重量は一箱で1kg近く。四箱もバックパックに入れると4kgの重量を背負うこととなってしまう。一度に全ての弾を持ち運ぶことは不可能だ。

 

 男は更に残ったバラ弾を四発ポケットに押し込み、自動散弾銃のコッキングレバーを操作して薬室に弾を一発だけ装填し、ラッチボタンを押した。

 

 シャカン! と遊底が勢いよく閉まる音が真夜中の駐車場に鳴り響く。

 

 男は銃を腰だめに構え、銃口を自分の正面に向けて歩き出す。

 

 通電していないので、もちろんドラッグストアの自動ドアは稼働していない。男は銃を壁に立て掛け、自動ドアを両手で引いてこじ開ける。

 

 鍵のかけられていない自動ドアはゆっくりと開き、自分が通れるだけの幅を確保すると、立て掛けた銃を再び手にして男はドラッグストアの中に足を踏み入れた。

 

 店内は広い。そのうえ真っ暗だ。スマホのライトだけでは照らせる範囲はかなり限られてしまうので、男は懐中電灯を探すところから始めた。

 

 入店すると真っ先に季節商品のコーナーに出迎えられ、カイロやマスク、栄養ドリンクなどが並べられていた。他にも様々な健康食品やプロテインなども陳列されている。

 

 店員がいないので懐中電灯がどこにあるのか探すところから始めなければならない。男はスマホのライトを点灯させ、左手にスマホ、右手に散弾銃を構えたポーズで店内を歩いて探す。

 

 最近のドラッグストアはまるでホームセンターのように広い。棚と棚の間を縫うように歩く。陳列棚をスマホのライトで照らしても陳列棚の奥まではライトの光が届かず、店の奥を見通すことはできない。そこに見えるのは薄暗い闇だけ。

 

 ウロウロとゆっくり歩いていると女性の化粧品コーナーに差しかかった。その時、どこかでズルリという音が聞こえた。

 

 男が銃口を右へ、左へと動かして周囲を警戒する。視界に入るものは陳列棚の商品だけだが、引きずる音だけは聞こえた。

 

 しかし音は反響していてどこから発せられているのか分からない。男は恐怖を感じながら動きを止め、ジッと待ち構えた。

 

 ズルズルとした音は次第に近づきつつある。こちらが分からなくても、相手にはこちらの位置が分かるのだろう。

 

 音が近づくにつれて相手の位置の特定も容易になる。


 男は引きずる音が自分のいる商品通路の角に差し掛かったことを感じ取る。

 

 薄暗い闇の奥からそれは現れた。

 

 白衣を着た男性。このドラッグストアの薬剤師だろう。

 

 

 「ち、近づいたら撃つぞ!?」

 

 

 男は警告した。

 

 だが白衣の襲撃者は止まろうとしない。迷うこと無く、しかしおぼつかない足取りで距離を詰めてくる。

 

 そいつに目がけて男は銃口を向けたまま引き金を引いた。

 

 

_ダガァァッン!!

 

 

 男は撃った。

 

 左手はスマホを手にしていたため、腰だめに右腕で片手で構え、銃口を相手の胴体に向けて引き金を引いた。

 

 

 「いってぇ、え!!」

 

 

 男は突然の痛みに顔を歪めた。

 

 散弾銃を撃った衝撃で銃口が右上に跳ね上がり、銃床を通した反動が腕と肩にダメージを与えた。

 

 銃声とともに排出された空薬莢が床に落下したのだが、空薬莢が床に落ちた音はやまびこのように鳴り響く轟音でかき消された。

 

 男は左手に持ったスマホをかろうじて落とさず手にしていた。その頼りないライトは撃った対象を照らし出す。

 

 男の撃った散弾は、胴体をグチャグチャにする致命的なダメージを与えていた。撃たれた反動で白衣の襲撃者は後ろに吹き飛ぶようにして倒れ、腹部の衣類は穴だらけになり、白衣の襲撃者が倒れた床は血溜まりになっている。

 

 男は腕と肩の痛みに驚きながらも確かな実績に心を踊らせた。

 

 すげぇ! こいつがあればゾンビに襲われるのも怖くねぇ!!

 

 男は白衣の襲撃者に銃口を向け、おぼつかない手付きでコッキングレバーを操作して弾を一発装填した。

 

 その間にも撃った襲撃者が動かないことを確認し、弾の装填が完了するとともに場所を移動しようとした。

 

 すると店内のあちこちから足音が聞こえ始めた。

 

 奴らが覚醒した。銃声で気づかれたのだろう。

 

 男は後ずさり、わずかな明かりを求めて店の出入り口まで逆走した。

 

 光度の低いライトで照らしながら、もと来た通路を引き返したその途端、新たな襲撃者が現れた。

 

 暗くて服装や性別は判別できないが、立ち振る舞いから常人でないことは分かる。


 男はスマホが手放せないため、歯を食いしばって銃口を襲撃者に向け、スマホを持つ左腕の上に散弾銃の先台を乗せて発砲した。

 

 轟音ととも衝撃。

 

 相手は胸を撃ち抜かれて後ろに大きく吹き飛ぶように倒れ、同時に男にも肩をもぎ取るかのような衝撃が襲う。

 

 片手では撃てない。二回の発砲で男は悟った。

 

 痛みに堪えながら横たわる襲撃者の脇を走り抜け、動かない自動ドアまで急ぐ。

 

 急ぐ中、次弾の装填もできておらず、どこから現れたとも知れない襲撃者を避けながら月明かりの見えるガラスまで走った。

 

 痛む足を引きずるように走ると、大きなドラッグストアがまるで巨大な迷路のように広く感じた。それでもなお光を目指して走り、人影が映ると避けるために通路を曲がって別の商品コーナーに侵入する。その行動が外の月明かりに近づいてはいるが、出入り口からは遠ざかっていることを実感させる。

 

 唸るような声とともにさらなる人影が登場すると、男は銃身を振り回し、通路に陳列された商品をなぎ倒して相手を威嚇した。けれども相手はまるで怯まない。気づいてすらいないかのように、にじり寄ってくる。

 

 襲撃者は月明かりを背にし、逆光が影となって相手の顔も表情も隠している。そいつが最後の障害だ。

 

 男はスマホを床に落とし、左手で手近な商品の中でも大きく、重いものを掴み取って相手に投げつけた。

 

 それはペットフードだった。消費者に購買意欲をそそらせるための大容量の商品が詰まったパッケージの袋が襲撃者の体にぶつかる。その衝撃に襲撃者はバランスを崩し、わずかな隙が生まれた。

 

 男はその瞬間に弾を装填した。今度は左手を存分に使って。先台を支え、コッキングレバーを引いて遊底を操作して薬室を開放させ、散弾を一発装填する。

 

 今度は両手で構える。頭を狙う余裕は無い。相手の胴体に銃口が向いていることだけを確認して、弓を引くような姿勢で銃を構え、引き金を引いた。

 

 その距離は二メートルもない。

 

 

 _ダッアァァァン!!

 

 

 撃たれた相手は左に回転するように吹っ飛び、倒れた。血が吹き飛び、男の顔にも血しぶきが飛び散り、生ぬるく気色の悪い感覚を男に植え付ける。

 

 ぞっとするような背徳感と恐怖、そして興奮を覚えた男は撃ち倒した亡骸を踏み越えてとうとう月明かりの下に到達した。

 

 そこは園芸用品売り場だった。動かない自動ドアの出入り口があるキャッシャーからは離れ、大きな窓ガラスの外には駐車場が見えるだけ。

 

 けれども男には十分だった。月明かりとはいえ相手を照らし出す明かりがあり、相手を視認して攻撃する。それだけが目的だからだ。

 

 アドレナリンが噴出しているためか、男は右足の痛みも意に介さず園芸用品売り場の棚を引き倒し、バリケードを作り始めた。けたたましい物音とともに商品が散乱し、スチールでできた店舗什器が横倒しになり通路を塞ぎ、障害物となって襲撃者たちの進行を阻む。

 

 男はドラッグストアのガラス窓を背にした。左手にキャッシャーと正面出入口への通路、真正面と右手側を襲撃者たちの登場口としてエリアを陣取る。背中のバックパックを床に下ろすと中から弾を取り出して右手でいくつも掴み、ポケットの中に押し込む。

 

 男は構え、弾を装填した。真っ暗闇の中で遊底が勢いよく閉まる音が妙にやかましく鳴り響く。それはまるで恐怖が近づく合図のようであり、それでいて男を鼓舞する音色でもあるかのような金属音。

 

 そして満を持して登場した襲撃者たち。一人はダラダラと、そしてもう一人は軽快そうな小走りで近寄ってくる。

 

 男は胸を開いたような弓を射る姿勢で銃を構え、銃床を斜めに右肩に押し付けながら銃口を奴らに向ける。

 

 正面には小走りで迫る襲撃者。男はためらうこと無く引き金を引き、轟音とともに発砲した。おぞましい火薬の炸裂音とともに散弾は標的に飛び散り、走り寄る勢いと散弾のパワーがぶつかり合い、体がくの字に折れて襲撃者が吹き飛ぶ。

 

 男は即座に装填した。レバーを引いて遊底を開放し、ポケットから取り出した弾を一発薬室におぼつかない手付きで送り込むとラッチボタンを押してやかましい金属音を立てながら遊底を閉じて装填する。

 

 そして発砲。店舗の什器と天井、床、そして壁に発砲音が反響して轟音が男の耳の中でこだまのように響き渡る。それと同時に地にひれ伏すように倒れる襲撃者。血に染まる床。

 

 それらは男が今まで生きてきた中で感じたことのない光景であり体験だった。得も言われる快感。耐え難いほどの恍惚。

 

 今までの道徳観、社会論理では理解できず、味わうことのできない達成感だった。

 

 次だ。早く来い!!

 

 男は右足、そして右肩の痛みに気づくこと無くそう念じながら弾を装填した。

 

 悦に入った男には痛みは感じない。

 

 


 

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