美鈴湖(冬) ~スケートとワカサギ~
信州の冬の楽しみはウインタースポーツが身近なこと。
大阪からだと宿泊が必須なスキーも、信州では日帰りで楽しむことができる。
大町以北の白馬地域や飯山地域だとスキーは体育の授業に組み込まれ、諏訪地域では校庭でスケートができたという。
大阪にも繁華街の一角に屋内スケート場があった。
小学生の頃、子供会の行事でスケートに行ったことがあるが、その都度、手袋はどこに仕舞っただの、ズボンが濡れるから着替えがいるだの、非日常のイベントに大わらわで準備をしてもらった覚えがある。
松本市は国際的なスケートのメッカだったらしい。
夏にはさわやかな緑と風を楽しんだ美鈴湖。
その美鈴湖に隣接した“浅間温泉国際スケートセンター”は、国際大会も開催され、若き日の聖子さんも日本記録を出した由緒あるリンクだったそうだ。高地のため気圧が低く空気抵抗が少なくなるらしい。さらに氷の質が良いので摩擦も小さく、世界屈指の高速コースだったとか。
しかし、2010年頃に閉鎖され、跡地は自転車競技場に生まれ変わっている。
スケートに行こうと誘われ、駅前のバスターミナルから松電バスに乗って美鈴湖に向かった。
浅間温泉から美鈴湖に至る林道が冬季には通行止めになっていたため、バスの路線は三才山方面に迂回するルートに変わっていた。
バスを降りて向かうのは件の国際スケートセンターではなく、美鈴湖。
当時は凍結した美鈴湖上でスケートやワカサギ釣りができた。
夏に貸ボートの受付をしていた湖畔のお店が受付をしていた。レジャー運営の二毛作だ。
400円ほどを支払ってスケート靴を借りたのだが、諏訪・岡谷方面出身の友人は、男女ともマイシューズを持っていた。男子はスピード、女子はフィギュアが定番だそうだ。貸靴はスピードとホッケーとフィギュアの3種類があったが、靴のサイズが比較的大きくなるとスピードかホッケーしか選択肢がなかった。このとき初めてスピードスケートを履くことになった。
湖岸の階段を降りてベンチで靴を履き替えて湖面へ。ボート乗り場だった桟橋を進んでいよいよ氷上に降り立った。
「――細っ!」
これが第一印象。スケートの刃が大阪のスケートリンクで借りていたフィギュア用の刃に比べて明らかに細く、ぐらぐらしてまともにまっすぐ立つこともできなかった。
まず一歩、と思った矢先、前に長く伸びたスピードスケートの刃先が氷面に当たって躓き、さっそく転倒。子どもの頃の経験からそこそこ滑れるはずだったが、出鼻をくじかれへっぴり腰の初心者と化してしまった。
しばらくガクガクした後、ようやく滑り始めると新たな障害に気付いた。氷の表面のコンディションだ。屋内スケートリンクでは、定期的にトラクターのような機械で氷の表面を均してくれていて、凸凹のない鏡のようなリンクだった。一方、湖が寒さで凍っただけの天然リンクは、風が湖面をなでたときにできたであろう波の痕跡のような凸凹が一面に広がっていて、舗装道路とオフロードくらいの違いがあった。
ただでさえ危なっかしい足元なのに、凸凹がさらに追い打ちをかけ、楽しむどころか体裁を保つのに必死だった。
全面結氷した美鈴湖では、スケートエリアからはずれたところでワカサギ釣りに興じる人が点在していた。穴釣りはテレビでしか見たことがなかった。
近寄って見ていると、直径15cmほどの穴に降ろした釣り糸が引き上げられると、毎回2~3匹のワカサギがついていて大漁のようだった。釣り上げられたワカサギは氷上に放置されると瞬間冷凍のようすぐに動きを停めた。
この時期の美鈴湖の氷の厚みはゆうに20cmを超えていた上に緻密で硬く、専用のドリルをもってしても穴を貫通させるのは簡単ではなかったらしい。
最近では美鈴湖が凍結しないシーズンもあるようで、結氷しても氷は薄く、氷上に乗るのは禁止されているそうだ。
県内の池や湖は真冬には凍結するのが当たり前と思っていたが、やはり温暖化の影響なのだろうか。




