スカウトをやれ
ここから新章です
叔父家では毎年恒例らしい親戚の挨拶回りは、申し訳ないが断った。それは叔父、叔母とも理解を示してくれた。あんなことがあって、いったいどんな顔をして会いに行けばいいのか。むこうだって迷惑だろう、という理由があったからだ。
というわけで、今は誰もいない家。やることといったらゲームしかない。いつもの友人達もお正月三が日はいろいろ忙しいらしい。一応、テレビのお正月特別番組というものも、初めて見てみた。なんにしても初めてというのは期待があるものだが、「つまらない」という評判が本当であったことを確かめただけだった。というわけで、いつも通り、なんの特別感もない過ごし方をすることになったわけだ。
「ふー」
華湖は数戦ランクを回すと、VRゴーグルをとってひと息ついた。
(さすがに、もうちょっと正月らしい事でもしたいなぁ。何かないかなぁ?)
などと考えていたときだ。パソコンからメッセージが届いた事を報せる音が聞こえた。
(玲瑠かな?里美かな?)
メッセージを送ってくると言えば大抵はそのどちらかだ。二人とも四日までは忙しいと言っていたが、どうしたのだろう?などと思いつつ確認してみた。しかし、そこには目を疑う表示があった。
Azam:今ヒマ?
(えええ笑空先輩!?)
同じチームメンバーだったので笑空とは当然フレンドではあった。だが笑空からメッセージを送ってくることなど、チーム時代ですら一度もなかったことだ。
KAKO:ハイ!ヒマです!どうしました?
若干、キーボードを打つ指が震えて打つのに時間を要した。
一体、どんな返事が返ってくるのか、待っている時間が異常なまでに長く感じる。
Azam:誰もいない
(誰もいない?どういう意味だろう?)
正月だから家族はどこかへ出かけたが、笑空だけ何かの理由で置いていかれた、ということだろうか?一瞬でそんな考えを巡らせたが、笑空は相変わらず言葉たらずでハッキリしない。
KAKO:今、お一人ですか?
Azam:うん
(ヒマ?から誰もいない、今一人…ひょっとして、一緒にゲームしたいということ?…ま、まさかそんなワケないか)
KAKO:じゃあ、一緒にランク行きますか?w
内心ありえないと思いつつも一応、そう尋ねてみた。もし違った時のため、語尾に『w』などつけて冗談めかしてみる。「そんなわけないでしょ」などと言われたら恥ずかしいからだ。
Azam:行こう
返事はそのまさかのものだった。
(えーー!本当に!?)
緊張で心臓が裂けそうだったが、こんなチャンスはまたとないことだ。断る理由はない。ではとパーティーに招待し、チャットもボイスに切り替える。
KAKO:《よろしくおねがいします!》
Azam:《…よろしく…》
(一体全体、どういう風の吹き回しなんだろう?よっぽどヒマだったのかな…?)
相変わらず何を考えているのかわからないお人だ、と華湖は思った。
Azam:《…華湖…スカウトやって…》
KAKO:《へぁ!?私がスカウトですか!?それはまたどうして?》
Azam:《…見たい…》
(私のスカウトが見たいってなんでー!?やったことないよー)
何が目的か分からないが、珍しく笑空からの要望だ。なるべく応えるべきだろう。
KAKO:《わ、わかりました!やってみます》
Azam:《…私に…指示を…出して…》
KAKO:《えーーー!わ、私がですかぁ!?無理ですぅ!!》
Azam:《…大丈夫…負けても…》
(そうか…この前のスクリムで言われたこと、それがどれだけできているのか見たいってことなんだ!)
華湖は推測ではあるが、笑空の目的が分かった気がした。ならば、ここはチャレンジしようと気持ちを切り替えた。
KAKO:《わかりました!カリスマはどうします?》
ゲームが始まると、華湖は笑空の指定するカリスマをピックした。全く使ったことの無いカリスマだ。急いでスマホを取り出し、情報をチェック。スキルや特性を瞬時に頭に叩き込む。
笑空はいつもどおりセンターをやるらしい。
Azam:《…どうする?…》
KAKO:《序盤は特に無いです!いつもどおりでお願いします!》
Azam:《…わかった…》
華湖は序盤、小型の中立モンスターを狩りつつ、状況を把握するべくミニマップなどの情報を小まめにチェックする。情報を得るためフィールドライトを設置するのも重要だ。
見れば、笑空はセンターをかなり押している。
(うーん。笑空先輩に指示って要るのかな…?)
なんだか放っておいてもそのまま勝てそうではあったが、それではせっかくのこの機会を活かせない。何かないか、目を皿にしてチャンスを伺う。
Azam:《…最初のフォートレス…落とす…》
KAKO:《ハイ!ナイスです!》
(はっや!)
華湖はスピードの早い展開に驚いた。笑空は圧倒的に押している。
だが他のルートはそうでもない。特にアッパーはこのままでは間もなくフォートレスを破壊されるだろう。そこで少し思いついたことを試すことにした。
KAKO:《一旦リコールしてから一緒にアッパー行きましょう》
Azam:《…了解…》
アイテムは自陣でないと買うことができない。フォートレスを破壊したことにより、笑空には余裕ができたため、一度戻ってアイテムを買ってもらう。まず強化を済ませてからアッパーの手助けに入ろうというわけだ。




