初詣にいく
「ちっ…」
思わず『小さい』と言いかけた華湖は、慌てて口を閉じた。さすがに失礼かと思ったのだ。
雑木林にボカッと空いた広場。広さは半径30メートルほどだろうか。その中央にある拝殿は大きめ目の物置程度のものだった。
ここにくるまでにはなかなか大きなな鳥居があって、それをくぐって30メートルほどの参道を歩いた。回りはすべて木で覆われていたため中が見えなかったのだが、入ってみると先に見えたものがそれだったので、ちょっと驚いてしまったのだ。
「こっ、ここか」愛も少し驚いているようだ。
「なんか…ここってちゃんと管理してる人、いるのかな?」
里美がそう言うのも無理からぬ話だった。拝殿は色もくすみ、傷みもところどころに見え、お世辞にも綺麗とは言えなかったし、敷地のいたるところに雑草が生えている。なにより、正月だというのに人がいない。他の参拝客だけでなく、神主や巫女さんという存在すら見当たらなかった。
「お守りとかー売ってないのかなー?」
「アタシ、おみくじやりたかったんだけど…」里美はちょっと残念そうに言った。
「と、とりあえず、お祈りしよっか」華湖は拝殿を指差した。
拝殿には賽銭箱が設置してあったので、みなそれぞれ小銭を投げ入れると鈴を鳴らした。
「ここって、何拍何礼かな?」
里美が聞き慣れないことを言う。華湖は意味が分からなかったので素直に聞いた。
「それってなに?」
「手をたたく回数とお辞儀をする回数よ。二礼二拍手一礼とかさ、聞いたこと無い?」
「うん。神社なんて初めてきたから…」
「そっか…」
「普通はどっかに書いてあんだけどね、じゃあその二礼二拍手一礼で良いんじゃない?」
愛がそう言うので、二回のお辞儀、二回手を叩き最後にお辞儀した一同は手を合わせ目をとじ祈りを捧げる。
「そんで、何をお願いしたわけ?」顔を上げた愛が聞いた。
「そりゃ決まってんでしょ!全国高校eスポーツ大会優勝よ!」里美は力強く答える。
「あははー。それはー私もー」
「二人とも出ないのに、それで良いの?」華湖は少し申し訳ない気持ちで聞いた。
「ま、そうだけどさ、ウチら全員の願いなんだからイイじゃん!」
「あーあれ見てー」
玲流が指差すほうをみると、巨大な杉の木があった。幹周は6メートルはあろうかという太さ。高さもざっと20メートルはありそうだ。幹には注連縄があり、『御神木』と書かれた札がついていた。
「おー!これはすっげー!」里美は見上げて驚きの声を発した。
「これってー樹齢何年だろうねー?」
「そういうのも、普通どっかに書いてあるもんだけどね。つくづく不親切な神社だね…」愛はあきれ顔で言う。
「すごい…」
華湖はその幹に手を触れてみた。これほどの巨木は初めて見た。
(こんな大きな木…これ、生きてるんだ…)
神社という場所柄からか、彼女は何か生命の力とでも言うような、不思議なものを感じていた。
「あーあれ見てー」
またしても玲流が指差すので見ると、先程から視界には入っていた屋根だけの運動会で使うようなテントがあった。よく見ればそこには、テーブルが設置されており、その上に何かが置かれていた。
近寄ってみると、箱が二つ。片方はお守りが並べて置いてあった。緑の袋に『御守り』と金の糸で刺繍がしてあるシンプルなもの。もう片方には『お守り一つ千円。お代はこちらにお願いします』と書かれた紙がついていた。中は空っぽだった。
「お守りか。せっかくだから買っとく?」愛がみなに尋ねる。
「買お買お!ご利益はともかく、今日の思い出になるよ」里美が言った。
「そだねー」玲流もうなずく。
(うっ、千円か…でも、確かに思い出になるか…)
華湖にとって千円は痛い出費だったが、里美の言うことも一理あったし、みなが買っているのに一人だけ買わないと言うことで、また妙な空気になってしまうのも避けたかった。
「あとは見るところ無さそうだね」
「じゃー帰ろうっか?」
「そだねー」
「このまま解散もなんだから、どっかに行こっか?」
「さんせー!」
そんなことを言いながら来た道を戻ると、向こうから歩いてくる女の子三人組が目に入った。大中小と背の順に綺麗に並んでいる。
(こんなとこ、私たち以外にもくるんだ)
華湖は意外だったので、その子達をちょっとの間見ていた。中学生くらいだろうか?こんな何もない神社だというのに、なんだかキャッキャとはしゃいで楽しそうだった。
(いいなー楽しそう。今の私たちもあんな風に仲のいい友達どうしに見えてるのかなぁ?)
そんなことを考えながら、すれ違った彼女たちから目を離した。
「うわーなにここ。小ちゃいんだよ!」
「そうなんだけどねぇ。ここが良いのよぉ!」
「勝負の神さまなんだっけ?」
「うん。知る人ぞ知る神社なんだからぁ」
「佳叶、アタイたち合格祈願したいんだよ?ここで良いのだよ?」
「受験だって勝負事でしょぉ?」
「まあ、確かにある意味ではそうですの。ま、アタクシの成績なら神頼みなど必要ないですの」
「まーボクも余裕かなぁ」
「うう…アタイはギリギリラインなんだよ」
「胡仁依はアタクシが勉強を教えますの」
「アンジー!ありがとうなんだよ」
「合格したらみんなeスポーツ部入るんでしょぉ?」
「もちろんなんだよ!…合格したらだけど…」
「アタクシも当然。それでなければ今女よりもっとハイレベルな高校に行きますわよ」
「よーし!高校いってもボクたちは一緒だよぉ!」
「「「おおー!」」」
1年2学期編、ここまでです




