蒲瀬物語2
犬山田が彼のチームに持ってきたのは、次なる大会の話であった。全国高校eスポーツ大会にて破れた彼らは目標を失ってしまった格好だ。と言ってこのままだらだらと過ごすわけにはいかない。何かしなければ、あいつらはゲームで遊んでいるだけという見方をされかねないのだ。それでは大恩のある顧問の犬岡に対し申し訳ない。
「BoCクリスマスカップ?クリスマスまでゲーム大会かよ」犬佐藤は正直に不満を口にした。
「まぁまぁ、どうせみんな予定はないんだろ?」犬鈴木は部長をフォローすべく笑顔で言った。
「オイオイ。確かにそうだけど、そんなハッキリ言うんじゃないよ」犬田中は苦笑する。
「知ってた?ストローって藁っていう意味なんだって。昔は本当に藁を使ってたらしいよ」犬高橋はパックのジュースを飲んでいた。
犬山田は皆の顔を一度見回してから言った。
「予定があるものは正直に言ってくれてかまわない。まだエントリーしたわけではないのでな。別に止めても良い。だけど、初大会とは言え一回戦負け。それで、お前たち悔しくないか?俺たちは確かに運動もそこそこ、勉強もそれなりだ。だけどゲームなら誰にも負けないってそういう気持ちじゃなかったか?少なくとも、俺はそうだ。このままじゃ終われねぇんだよ」
いつも間にか彼の拳は固く握られ、肩は小刻みに震えていた。昂ぶる気持ちを抑えきれない、そんな姿だった。
「オイオイ、早とちりすんなよ?出ないとは言ってないだろ」
犬佐藤が犬山田の肩にポンと手を乗せ言った。彼らとて、思いは同じだったのだ。だが、クリスマスという時期に暇を持て余しているというのは対外的にイメージが良くない。ただそれだけのことでちょっと抵抗してみせただけなのだ。だが、犬山田の思いを聞いて、そんなちっぽけなプライドなど犬に食わせろとばかりに彼らは反省したのだった
「大会でもなけりゃ、練習にも身が入らねぇしな」
そんな彼の言葉に、犬山田の目頭には熱いものが滲んできたが、慌ててそれを拭って言った。
「よし!じゃ、みんな良いんだな?そうと決まれば登録にチーム名が必要なんだが、何か案はないか?」
「そういえば、俺たちチーム名が無かったなぁ」犬鈴木が顎に手を当て、思い出すように言う。
「そうなんだ。学校名でも良いんだけど、何か味気ないだろ?」
「確かにな」犬山田の言うことに犬鈴木も同意する。
「それなら、俺にアイデアがあるぞ」
そう発した犬田中に全員の視線が集まった。
「何だ?聞かせてくれ」犬山田が問いかける。
「ズバリ!Pitbullってどうよ?」犬田中は自信があるのか、目を輝かせている。
「ぴっとぶる?そりゃどういう意味だ?」犬佐藤は意味が分からなかったからか怪訝な表情だ。
「犬種なんだけどな、獰猛で有名な犬なんだ」
「へぇ?何でそれなんだ?」ひとまず意味は分かったが理由がまだ不明だ。続けて犬佐藤が聞いた。
「まず、俺たちの特徴って、攻撃的なスタイルなことだろ?」
「ああ、確かにな」犬鈴木は頷く。
「それはまぁ分かるが、それならもっと獰猛な動物は居るだろ?虎でもライオンでもさ。何故犬なんだ?」聞いていた犬山田も疑問を呈する。
「いや、たまたま気が付いたんだけどさ、俺たちってみんな、名字に『犬』ってついてるだろ?それで思いついたんだ」
「犬…」
犬山田達はお互いに顔を見合わせた。少しの沈黙が流れる。そして一斉に堰を切ったように大きな声を発した。
「「本当だっ!!」」
自分たちの意外な共通点に驚きと喜びを隠せない彼らたち。何故か飛び跳ねたり、お互いの肩を叩きあったりする。
「犬田中お前、よくこんなことに気が付いたな?」犬佐藤は犬田中の功績を讃えた。
「全く。犬田中の観察眼には恐れ入るよ。誰よりも周りをよく見ているよな」犬鈴木も彼の力を認め、賛美する。
「確かに。試合中でも敵の動きにいち早く気がつくのが犬田中だものな」犬山田は首肯する。
「オイオイ、そんな言うほどの事じゃないって。俺もたまたま気が付いただけなんだから」犬田中はあまりにも褒められたので照れ隠しに言った。
「知ってた?4月4日ってあんぱんの日なんだって。何でかって言うと、明治8年の4月4日にあんぱんを明治天皇へ献上したかららしいよ」犬高橋はそう言うとパックジュースの反対の手に持っていたあんぱんを口に入れた。
こうして彼らはBoCクリスマスカップへ出場することになったのだった。初戦の相手はSecret Gardenという聞いたことのないチームだった。調査によればランクはこちらが上。勝てる相手と踏み、それ以上の調査は打ち切って練習に励んだ。
試合が始まると予想通り優位な展開になる。あとは試合を決めるだけだ。
「よし勝てるぞ!」犬山田は勝利を確信していた。
「へへ。俺、この試合勝ったら、告白するんだ」犬佐藤も同様な思いだった。その感情の高ぶりからか、思わず心に秘めていたことを吐露する。
「何?お前、抜け駆けはずるいぞ!?」犬鈴木は冷やかして言うが、どこか焦っているようだ。
「まだ終わってないぞ!集中しろ!」
犬山田は部長然として言う。どれほど有利であっても勝利が確定するまで気を緩めることは許すべきでは無い。逆襲、逆転、どんでん返しが無い訳ではないのだ。それらが可能である、ということがこのゲームの優れているところであり、世界中にファンがいる人気作である一因だ。だが、現状を見ればそれは奇跡に近い。すでにこちらは王手をかけている。もはや逆転されることはないだろう。それゆえ彼らが浮かれるのも理解できるのだ。ならばあとは部長としての最後の仕事をやり遂げるのみだ。総力を上げて一点突破し、キャッスルを落とす。そのために集合をかける。
「準備はいいな?よし。では決めるぞ!」
だが、その後彼らは見事なバックドアを決められ、あっさり敗戦したのだった。




