切れる
マーキスパニッシャー、略してマーキスは中立モンスターの中でも最も手強いものの1つで、それだけに倒したときの恩恵も大きい。試合を左右する重要な存在である。
見た目はまるで巨大なムカデ。その大きさは人タイプのカリスマが一般的な人間サイズとすれば、軽トラックほどはある。
トドメを刺した者だけでなく、倒したチームには全員にゴールドと経験値、そして通常攻撃の強化がある。さらにこれはカリスマ周辺にいるソルジャーにも効果があり、それは攻撃力増加だけでなく防御力も増加、さらにフォートレスに対するダメージが2倍という強力なものだ。マーキスが重要と言われるのはそのためである。
UsagiPaisen:《あっちマーキス、狙ってるぴょん》
ROLU:《よし、警戒する。取らせるなよ!》
兎咲は独自の嗅覚と、マップの見えない部分の視界を得るスキルを駆使し、相手の動きを読んだ。
確かに、ここまでの流れからすればそろそろ狩りにくるころあいであった。フィールドライトを周辺に置き、少しずつマーキスに近寄ると、すでに松原情報高専は、攻撃を開始していた。
UsagiPaisen:《あっち、3人で攻撃してる!》
ROLU:《全員集まれ!》
KAKO:《ハイ!》
ここで樹はマーキスの後ろに回った。マーキスの周辺には壁があり、正面以外からは攻撃できないのだが、壁はスキルによって飛び越えたり、すり抜けたりすることもできる。樹はそれを使い、裏側からのスティールを狙いにいったのだった。だが、それを読んでいたかのように、松原情報高専の残る二人が樹の背後にある茂みから飛び出してきた。
Ikky:《クソッ!こっちにいやがった!》
ROLU:《樹逃げろ!》
逃げようとする樹だったが、ここで敵から行動不能にされるスキルをくらってしまう。時間にすればわずかだったが、二人がかりでトドメを刺すには十分だった。
Ikky:《クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!》
樹は自らの腿を拳で殴りつけ、悔しさをあらわにした。
これで数的不利となった今女は、結局マーキスも奪われてしまった。
松原情報高専はそのまま樹がいなくなったセンターを攻め上がり、一気にゲームを終わらせにいった。フォートレスを破壊、その奥のバラックまで破壊し、キャッスル目前にまで迫った。
だが、今女もただではやられない。
KANKO:《捕まえた!》
KAKO:《ナイスです!》
5人が集まっていた松原情報高専だったが、その内の一人を栞子のカリスマ『アルゴノート』のスキル、フックで捕まえた。これは捕まえた相手を自分の方へ引き寄せるという効果があるスキルで、それによって孤立させることに成功したのだ。
二人がかりで敵を倒すと、残る集団へ楼瑠がウルトを放ち、大ダメージを与えた。たまらず相手は退却を始める。
華湖と栞子のコンビネーションでなんとか一矢報いることに成功した今女だったが、反撃はここまでだった。
一度は退いた松原情報高専だったが、すぐさま体制を立て直すと、今度はアッパーから攻め上がった。
一度退却した時間で回復と装備の強化をした彼らは、すでにかなりの強さになっていた。今女は必死に守ったが、あっという間に倒されてしまう。
無人となった今女陣内に侵入した彼らはフォートレスもバラックも一瞬で破壊。キャッスルを取り囲んだ。こうなるともはや打つ手はなかった。
『DFEAT』
敗北。
今女メンバーの画面にその文字が写し出された。彼女たちにとって大会での初の敗北。終わってから数秒間、誰も口を開くことができない。
「クソがァァァァ!」
沈黙を破ったのは樹だった。大声で叫ぶとゴーグルを脱ぎ捨て、立ち上がったかと思うとそのまま教室の扉を勢いよく開けて走り去っていく。
「おい待て!樹!まだ終わってないぞ!」
試合は終わったものの、決勝進出を決めた彼女たちには、この後の手続きや説明も残っている。楼瑠は慌てて立ち上がり呼び止めようとしたが、樹はすでに視界に入っていなかった。
「しゃーない。あとで追いかけよう」
栞子は楼瑠の肩をポンと叩き、言った。
「ったく、アイツ…」
楼瑠も栞子も怒るというより同情するかのような表情だった。今の試合、確かに樹は活躍できなかった。敗戦の一因だったと言っても良い。気持ちは痛いほど分かるのだ。
KAKO:《松原情報高専、強かったですね》
UsagiPaisen:《うん。あれはわっちらのことだいぶ研究してたみたいだぴょん》
今女Destinationは高校レベルの大会ではもはや追われる立場であった。このように研究されることは今後も予想される。
ROLU:《樹のことは、まぁあとでいい。とりあえず、今後の説明があるからみんなは残ってくれ》
KAKO:《分かりました。…部長、こういうことを予想してプランBでいったんですか?》
ROLU:《うん?まぁな。それに練習のためでもある》
KAKO:《でも、負けたら意味がないんじゃ…》
KANKO:《んなこたぁないよ。負ける経験もしたほうがいい》
KAKO:《そういうものですかね…》
ROLU:《決勝はBO3だしな。負けることもある。そのたびにああなっちゃ、マズイだろ》
確かに、楼瑠の言うことも理解できる。しかし、卒業する先輩たちのためにも負けたくないと思っていた華湖は釈然としないものがあった。負けることは確かにあるだろう、だが全力を尽くさないのは正しいのだろうか。
華湖は、敗北など特に気にしていない様子で話している3年生2人の横顔をじっと見つめていた。




