蒲瀬物語
市立蒲瀬高校eスポーツ部は発足して間もない新しい部活動だ。
設立するにあたって教員には反対派が多くいた。そんなもの認められん、たかがゲーム…そういった常套句は耳にタコができるほど聞かされた。だがのちに部長となる犬山田は必死の説得を続けた。「全国高校eスポーツ大会というのがあって、それに出たいんです。学校で部活として認められることが必要なんです。お願いします」そう言って教師たちに頭を下げた。
「わかった。そこまで言うなら部員を集めなさい。部として認められるには最低でも十人、期限は一週間だ。それ以上は待てないからな」
ようやくまともに話を聞いてくれたのは学年主任である犬岡だった。教師生活二十年というベテラン教師だ。これだけやる気になっている生徒の思いを無下にするのは教師としてどうなのか。そういった思いから、犬山田の説得についに折れたのだった。
だが、反対派の先生方を説得するにはもう一歩足りない。だから、条件をつける。人数はもちろんだが、期限もつけた。これをクリアすれば、あるいは…反対の先生方も思い直してくれるかもしれない。そう考えてのことだった。
犬岡の温情に感謝した犬山田はそれから一週間、学校中を走りまわった。ビラを作り、ポスターを貼り、ゲーム好きに声をかけ…思いつくことは全部やった。そして、気がつけば十人と言われた条件を遥かに超え三十余名の希望者を集めることに成功したのだ。
犬山田の努力がついに身を結んだのである。
犬山田は希望者のリストを意気揚々と提出した。
「ほう!こんなにか!よくがんばったな。これで人数は十分なんだが、あとは顧問の先生が必要なんだ。誰かにお願いしてごらん」
「それなら犬岡先生。お願いします!」
「わっ、私か?!」
犬岡は迷った。顧問を引き受けるというのは簡単なことではないからだ。犬岡はゲームに関し全くの素人であったので指導することができない。さらに言うと、制度上は教員の部活動顧問というのは自主的な活動として参加することになっている。つまり、無給なのだ。彼も若かりし頃は様々な部活動で指導をした。それなりの苦労もあった。だが、年老い、すでに先の見えた教師生活。あとは余裕をもって過ごそうと考えていた。
だが、ここまで生徒ががんばり、努力する姿を見せたというのに、自分がそんなことで良いのだろうか?期待以上の成果を上げた生徒に対し報いなければ何が教育か。犬山田の熱意は、ついに犬岡の心を動かした。
「分かった。やろう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。そのかわり、私は厳しいぞ!」
「はい!これからよろしくお願いします!」
こうして蒲瀬高校eスポーツ部は始まったのだった。
集まった三十余名らのやる気が思った以上だったのは僥倖だった。
誰でもいい、誰かゲームが好きな人、そうして声をかけて集まった彼らである。犬山田も実のところ、頭数が揃えば良い、というくらいの考えだったのだ。だが、類は友を呼ぶ、ということなのだろうか。彼らは思った以上の精鋭だった。
地元格ゲー界では有名な犬中、通称『蒲瀬ザイツェフ』、FPSで有名チームに所属していた犬木、プレイヤーネームは『XTC』。サッカーゲームで大会を各席間していた犬巻、プレイヤーネーム『Makki』。などなど、聞けば名だたるメンバーがその中にはいた。
そして、犬山田と同じBoCプレイヤーも全員ダイヤ以上という精鋭が集まった。
「いける!これならいけるぞ!」犬山田もeスポーツ部の未来に希望を抱いた。だが、問題がなかったわけではない。思った以上に集まったのは良かったが、なにせ予算が潤沢にあるわけではない。高価な機材を全員分揃えるというのは夢物語だった。顧問の犬岡も奔走したが、なんとか二台のパソコンを調達するのがやっとだった。
そのため、個人所有の機材を持ち込むなど対応に苦心することとなった。BoCチームが全員揃って練習するのは、オンラインでしか実現しなかった。
だが、彼らは地道に練習を重ね、気がつけば全員がグランドチャンピオンのランクに到達していた。
アッパーであり部長、チームキャプテンも兼ねる犬山田。センターは猪突猛進の犬鈴木。スカウトはチーム一のベテラン犬佐藤。アタッカーは大胆不敵な犬田中。サポートは特にこれといって特徴のない犬高橋。
全員、自信を持って全国高校eスポーツ大会のエントリーを済ませた。
だが、ここで彼らに最大の試練が待ち受けていた。
一回戦の相手が前回優勝校である下今女学院だったのだ。まごうことなき優勝候補の筆頭。犬山田は自身の運の無さを嘆いた。
「みんな、スマン。まさか初戦で今女とは…」
「おいおい。部長が謝ることじゃないだろ?」犬鈴木は笑顔で言った。
「そうそう。今女がどれだけ強いか知らないが、俺たちが負けると思うか?」犬鈴木は胸をドンと叩き、自信があるというアピールをする。
「フ…今女とやらに俺らの力、見せてやろうじゃないの」犬佐藤は不敵な笑みを浮かべている。
「俺たち全員グランドチャンピオンだぜ?そんなチームが他にあるかっつーの!」犬田中は力強くガシッと犬山田の肩に腕を回し言った。
「知ってた?バナナの茶色い斑点ってシュガーズポットって言うんだって」犬高橋はバナナを食べていた。
「お前ら…そうだよな。部長の俺がこんなんじゃダメだった。よし!俺たち蒲瀬高校eスポーツ部の力、見せてやろうぜ!」
「「オウ!!」」
そして大会本番。彼らは試合時間の大会最短記録を更新して敗退したのだった。




