AI戦をしよう
「「キャーーー!」」
叫び声の方を見ると、部員達がハイタッチをしたり、抱きあって飛び跳ねたりしている。
「おっ、あのチーム、もう勝ったんだ? 早いねぇ」
楼瑠は目を細めウンウンとうなずく。どうやら、このチームは経験者が初心者を上手く引っ張ったらしい。
「じゃ、もう一戦いってみよっか! じゃ、あなた、ごめんだけど倉井と代わってもらえる? 倉井、ここ入って」
「あっ、わ、わわ私やっていいんですか?」
「うん! もちろん! 見学ばっかじゃ飽きるっしょ?」
やっとできる! そんな喜びで思わず顔がニヤけそうになってしまう。学校の設備に傷をつけるわけにはいかないので、恐る恐る、といったゆくりした動作で席につく。
(あ~椅子が硬いなぁって、そりゃそうか)
学校の椅子は安いオフィスチェアだった。華湖が普段使っているゲーミングチェアと比べたら、座り心地は良くない。
「あなた、名前は?」
自分のGATEアカウントにログインし、設定などを自分用になおしていると、隣の席の部員が話しかけてきた。
「アタシは久保里美」
「あっ、あの……くくく倉井です」
「倉井さん? 下は?」
「か、かかか、華湖です」
「くらいかこ、さんね。経験者だっけ?」
「は、はははい」
「使うカリスマは?」
「あ、あの、サ……サリーなんですけど……」
「はぁ!?」
突然、大声を出されてビクッとして、肩をすぼめてしまう。また殴られる、そう思うと何も考えられなくなって目が回る。そんなことされるわけない、と理解はしているのだが。
「サリーなんてメタと合ってないでしょ!」
「はい! ごめんなさいごめんなさい」
「そんなの今、誰も使ってないわよ! 違うのにしてよ!」
「はい! ごめんなさいごめんなさい」
「てか、この子、初心者だから、サポートやってくれない?」
「はい! ごめんなさいごめんなさい」
この人はお父さんじゃない。殴られるなんてことはない。華湖は、そんなことはもちろん分かっていたが、怒る人には条件反射のように謝ってしまう。早く怒りがおさまって欲しい、そんな一心で。
結局、華湖はサポートをやることになってしまった。普段全くやらない役割なので、どのカリスマを選ぶかでも悩んでしまう。
「わからないなら、とりあえずこのカリスマ使ってよ。使いやすいから」
「は! はい!」
カリスマ達はそれぞれ固有の『スキル』という、様々な効果をもった技を持っており、それを適切に使っていくことが大事だ。 華湖も一応、一通りのカリスマは触っている。だが、知っているだけでは使えるとは言えない。やりながらコツを掴んでいくしかない。
「ちょっと、倉井さん!」
「はっ! はは、はい!?」
「黙ってないで、もっと味方に指示出してあげてよ!」
「あ……ご、ごごごめんなさい!」
隣では、初心者の部員が不安そうにこちらを見ていた。彼女は恐る恐る話しかけてきた。
「あ、あのー……」
「ひゃぁつ!? な、なんでしょう?」
「(ひゃぁつ!?って……)アイテムって何買えばいいのかなー?」
「ええと、AIから、お、お、おすすめされるのがあるので、さ、最初はそれを買えばいいですよ」
「ありがとうー」
華湖は、なんとか会話ができたことにホッと胸をなでおろした。
BoCには数多くアイテムが存在し、いかに相手に先んじてアイテムによる強化を行うかが勝利への鍵となる。
初心者にはもう少し説明した方がいいかな、とも思ったが、アイテムの数が多いし、効果をいちいち説明している時間はない。それに、実際、おすすめを買うだけでも十分だった。
「……」
「倉井さん!」
「ふぁい!?」
「もうちょっと、声出してよ!」
「え! あああ! ごごごめんなさい!」
華湖は、集中しすぎると無言でプレイしてしまうという癖があった。だからいつもは一人でできるアッパーを担当していたのだが、今回はサポートである。チームメイトと息を合わせなければならない。
「……」
「倉井さん!」
「ひゃぁ!」
「もう一息だから、みんなで攻めよ!」
「は、はい! ごめんなさい!」
ゲームはすでに終盤にさしかかっていた。あとはキャッスルを破壊すればこちらの勝ち。華湖は慣れないカリスマを使わされたとはいえ、さすがにこのレベルのAIに負けることはなかった。
「おー! 勝ったね! おめでとう」
部長からの賛辞を受け、生徒は皆、素直に喜んでいる。
「うん、今見させてもらって、みんなの腕前がわかったから、次回はこちらで均等になるようにチーム分けするね。それで、プレイヤー同士での対決をやってみよう!」
「えー!」
「もう?早くない?」と、教室はざわめいた。
「習うより慣れろってね。さ、みんな片付けに入って」
部長の指示を受け、部員たちはパソコンの電源を落とし、帰り支度をはじめた。
「あのー、さっきはー足引っ張っちゃってゴメンねー」
先程、隣に座っていた、初心者と思わしき生徒が話しかけてきた。
「えええ! そそ、そんなことありませんよ! 上手かったです!」
「そうー? 良かったー。このゲームー、はじめたばかりだけどー面白いねー」
「はい! 面白いですよね!」
彼女が、なんだかのんびりした口調だったせいか、華湖は思いの外、緊張していない自分に気がついた。
「ねぇー、思ったんだけどー」
「はい?」
「同級生なんだからー、敬語使わなくていいよー?」
「えっ、あっ、ほほ、本当に?」
「そうだよー、敬語なんてよそよそしいよー」
「じゃ、こ、これからはそうするね!」
「うん、私、これからもっと練習するねー」
「うん! すっごい奥が深いゲームだから、やればやるほど面白くなるよ!」
「ホントー? がんばろー!」
「うん!」
「倉井さん」
後ろから呼びかけられたので振り返ると、そこには里美がいた。
「さっきのだけどさ。もうちょっと声を出して、チームプレイしてよね」
「はっ! はい! ごめんなさい……」
「経験者なのは見ててわかったけど、ちょっと孤立しがちなのよ」
「はい……ごめんなさい……」
「それ」
「え?」
「そのすぐ謝るの。それもやめて」
「あ! ごご、ごめんなさい!」
「ちょ、だから!」
「ああああ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
里美は、はぁ~という大きなため息とともに去っていった。「私、そんなに怖いかな……」という小さな声が聞こえた。
(なんか、ショックだったみたい。このすぐ怯えちゃう癖も直さなきゃ)と、華湖は新たな目標を胸に刻んだのだった。




