下今女学院へ行こう
私立下今女学院は全校生徒598名。1年、2年が200名、3年は2人辞めたので198名。当然男子は0名。きっかり200名なのはそれが定員だから。少子化が進み、定員割れとなっている学校も珍しくない昨今で、常に高い受験倍率を出している人気校だった。それは全国でも唯一、eスポーツに力を入れている女子校だったからに他ならない。
卒業生にプロゲーマーは多数。それ以外にチーム運営やイベント運営、ゲーム制作など、ゲーム業界に進む生徒が多いことで知られていた。女子でゲーマーならここしか無い!と名高い学校だ。
今や数少なくなった成長産業。その一つであるeスポーツ業界に進みたい女性は、年々増えてきていた。下今女子はそんな時代のニーズに合わせ、現学長がeスポーツの取り組みを大々的に始めたのだった。今から5年前のことである。当初は批判もあったものの、その狙いが当たり、今では全国的に名の知られた高校となった。
略称は『今女』。『いまじょ』、あるいは『こんじょ』と呼ばれている。『下女』としていまうとどうしても『げじょ』と読めてしまうので適切ではない、というのがこの略称になった経緯だ。ただ、現在の校風から『ゲーマー女学院』あるいは『ゲー女』という呼び方を、一部からはされているようだった。
1学年200名のうち、eスポーツ部へ入部希望するものは大体100数十名程度。今年はシューター部に46名、カードゲーム部に24名、総合部門は33名、そしてMOBA部門は31名が所属することになった。
「さって、今日はAI戦といきますかぁ!」
そんなMOBA部門の部長、土田楼瑠が元気よく言った。
(始めたばかりの人も多いみたいだけど、大丈夫かなぁ? てか、私まだチーム入れてないし……)
今日もMOBA部新入生は出席率100パーセント。またしても華湖はあぶれることとなった。華湖は経験者ということで、まだ見学でいいだろうという楼瑠の判断もあった。
未経験の新入部員たちは、チュートリアルで基本操作を覚えるところまでは進んでいた。
「さ、準備できたら始めて良いよ!」
楼瑠の号令をうけ、各席でゲームが始まった。あちこちから叫び声や笑い声が聞こえる。
(良いな~。楽しそう)
ゲーム経験はあってもチーム経験の無い華湖にとっては羨ましい光景だった。ミスがあっても罵倒などしない。笑って励ましあって、そしてカバーする。
華湖は見学者という立場に従い、各チームのプレイを見て回った。
やはり、全体的に初心者が目立つ。
BoCは5対5の2チームに分かれたプレーヤーが、お互いの陣地にある本拠地の破壊を目指して戦うというゲームだ。
BoCには『カリスマ』と呼ばれるキャラクターが100体を超えるほど存在し、今もなお増え続けている。カリスマにはそれぞれ特徴があり、攻撃的なものだったり、守備的だったり、回復役だったりと様々だ。
プレイヤーは好きなカリスマを操作し、その特性を上手く活かし、相手陣地に攻め込むのだ。だが、半数程度の生徒はそれを十分に理解していないようだ。カリスマの能力を活かしきれない使い方をしてしまっている。
初心者にありがちな、外見的な好みだけでカリスマを選んでしまっている、というやつだ。
(あ~、HPが減ってるのに、回復してない。あ、単独で『フォートレス』に攻めちゃった。あれじゃ、やられちゃうよ……)
BoCの勝利条件は、相手の本拠地にある『キャッスル』を破壊すること。お互いのチームは、プレイヤーの操作する強力な兵士であるカリスマと、AIが自動的に操作する複数の『ソルジャー』で相手の陣地まで攻めていく。しかし、その前には防衛施設であるフォートレスを先に破壊しなければならない。フォートレスはそれ自体が高い耐久力を持ち、容易には破壊できない。そして、近寄ると自動で強力な攻撃をしてくるので、倒すには装備を整え、かつ何度もアタックをしなければならない。
さらに、陣地の奥には『バラック』という設備があり、これを破壊すると強力な兵士『スーパーソルジャー』を呼び出すことができるようになる。これにより、相手より優位にたてるようになるのだ。
(あらら、みんなバラバラ。こっちは意味もなくみんなで固まっちゃてるなぁ……)
BoCの戦場は上からみると正方形になっていて、右上の角と左下の角にお互いの本拠地が存在する。そして、その2つをつなぐ3つの道、『ルート』がある。もっとも近距離な対角線でつなぐ『センタールート』、左の辺を上に上がり上辺を行く『アッパールート』、対称に下辺を行く『ダウナールート』の3つだ。そしてルート以外の地域を『ウィルダネス』という。ウィルダネスは迷路のような複雑な通路になっている。
アッパールートとセンタールートから1人、ダウナールートは2人。そして1人はウィルダネスに入る、という風に役割分担をするのがよく使われる基本戦術であった。
だが、新入部員の半数はその基本すら理解していないようだった。
「大丈夫、回復するよ」
「危ないから一回キャッスルに戻ろうか」
「そっち、助けに行くから待ってて」
何人かの経験者が味方に指示を出しているのが見える。楼瑠はその光景を腕組みしつつウンウンとうなずきながら見ている。基本的には聞かれない限りは教えない、という方針のようだ。未経験者達も徐々に動きが良くなってきている。
「「キャーーー!」」
そのとき突然、どこかのチームが叫び声をあげた。




