夏休みを満喫しよう
海は却下された。だが、里美がどうしても諦めきれないとうるさいので、話し合いの結果、折衷案としてプールへ行こうということになった。
というわけで、今、華湖は波の起きるプールの端で、浮輪に捕まりながら漂っているというわけだ。
水が苦手な玲瑠は日陰で本を読んでいる。水もイヤ、日焼けもイヤなので仕方なくそうしている。彼女は最後まで行くのを渋っていたが、結局、付き合いならば、と折れた形だ。
里美と愛は泳ぐ気満々で競技用の50メートルプールへ行った。
(まったく、あの体力、どっから出てくるんだか)
華湖はあまり運動が得意でないため、2人が少し羨ましかった。
「いつまで浮いてんだよっと!」
里美の声がしたと思ったら、顔に冷たいものを感じた。いつの間にかすぐそばにいた里美に水をかけられたのだ。華湖は驚いて浮き輪を離しそうになった。
「ちょ!ちょっと!何すんの!」顔を手で拭いながら言う。
「あはは。ごめんごめん」
「里美、そりゃちょととやりすぎだって…」
愛も一緒に戻っていたようだ。隣にいる里美を呆れ顔で見ている。
「まぁまぁ。お詫びにジュースおごるからちょっと休もうよ。玲瑠ー!こっちきてー!」
ちょうど4人がけのテーブル席が開いていたので、皆で座って休憩することにした。
「ところで、華湖。アンタ水着ないわけ?」
「ん?別にこれでイイじゃん」
皆、おしゃれな水着をこの日のためにと新調していた。里美は花柄のホルターネックビキニ。玲流はピンクのワンピースタイプでフリルがたくさんついたもの。愛は黄色と白の横縞のシンプルなビキニ。だが、華湖は学校指定の水着だった。
それは興味がないのと無駄遣いできないの両方の理由からだ。
「良いわけないでしょ!そんなんじゃ、男の子から声かけられないわよ!」
「だから、私はナンパお断りなの!」
「まぁ、私もナンパしてくるような男はお断りだけど」
「私もー」玲流と愛も賛同する。
「アンタ達!そんなんじゃいつまで経っても彼氏できないわよ!?ウチは女子校なんだから、こうでもしないと出会いがないのよ!で・あ・い!」
「私はまだ、彼氏とか欲しくないし」華湖が困った顔で言った。正直に言えば欲しくないというより、まだ男性恐怖症に悩んでいるのだ。
「アンタ、そんなことしてたら高校3年間なんてあっという間よ」
「焦ってもロクな事にならないよ。できるときはできるのよ」
「愛、そんなこと言って、今まで彼氏できたことあるわけ?」
「うっ、そ、それは関係ないでしょ!」
そんな他愛のない会話をしていたが、話題はいつしかゲームのことになる。
各学年代表が参加した、大会についてだ。
「アタシ達も、大会で結果ださないとね」
「んー惜しかったよね」里美の言葉に愛もうなずく。
「あの大会はー、一般からもー参加できるからねー」
「そうそう!華湖は優勝でいい気になってるだろうけど、StageZeroよりレベル高いんだから!」
「いい気になってないって!わかってるよ」
事実、彼女らの参加した大会はレベルが高いことで有名で、プロチームも数チーム参加していた。1年代表は2回戦で敗退。3年代表も3回戦敗退だった。
「ところでさ、この後予定ある?」里美がすこしモジモジしながら言う。
「ん?どっか行きたいとこあるの?」
「いや、実は…」
「何?」里美がもったいぶるので、華湖は少しイライラして聞いた。
「実はアタシ、宿題まだ終わってないんだよね。手伝ってくんないかなーな~んて、はは」
「はぁ?里美、早めに終わらすってあんなに言ってたじゃない!?」
「いやまぁ、大体は終わってんのよ、大体は。あとちょっとだからさー!お願い!」
「この後、私の家でゲームでもやろっか?」華湖が里美以外の2人に向き直って言う。
「良いねー!」
「さんせーい!」
「ちょっと!お願いだから~!」
スタスタ歩いていく3人を追いながら里美が言った。
「しかし、なにも辞めることはないんじゃないですか?」
「…もう…ここでやりたいことは…ないから…」
「やりたいこと?あなたのやりたいことって、何なんです?」
「高校生しか…出られない大会で…優勝すること…」
「高校生だけの大会ですか?3月の大会で優勝したのと、先の夏の大会優勝で達成したと?」
「…ハイ…」
「高校生だけの大会ということならば確かにその2つですが、誰でも参加できるもっと大きな大会もあるじゃありませんか。むしろ、そのちらのほうがレベルも高いでしょう?」
「…それは…いつでも…でられるから…」
「しかし、卒業まであと僅かですし、ここで辞めるのは勿体ないのではないですか?」
「…それは…ダメ…今しかない…」
「なぜ、今なんです?」
「…」
「教えてもらえませんか…こう言ってはなんですが、学費だって安くはないのですよ?ご両親はなんとおっしゃっているんですか?」
「…お金は…返す…」
「お金だけではありません。あとから大学へ行きたくなる、ということだってあるかもしれませんよ?」
「…それは…ない…」
「とにかく、これは正規の手続きを踏んでいないので一度預かります。あなたのご両親、それから担任の先生を交えて、また話し合いましょう。それから決めても遅くはないでしょう?」
「…ハイ…」
笑空はそう言うと、学長室から出ていった。
「やれやれ…どうしたものか」
そうつぶやく学長の手には彼女の退学届が握られていた。




