優勝を報告しよう
それからの華湖達は忙しかった。
マスコミの取材。動画、写真の撮影。個別にインタビューを、という話もあったが、楼瑠は自分が代表し、全て答えるということにした。なにせコミュ障の華湖と、何を考えているのか分からない笑空という問題児がいたからだ。
あと2人はまだしゃべることはできるのだが、語尾に「ぴょん」などというおかしな言葉をつけずにいられない兎咲、奇妙な江戸っ子口調のようなものを操る栞子とくれば、安心して任せるわけにはいかない。
そこをなんとか、と食い下がられもしたが、むしろこれは彼らのためでもある。事故になると分かっていてやれせるわけにはいくまい。
まだ学生ということで、夜遅くなる前には開放されたが、皆、家路につくころにはヘトヘトになってしまった。
翌日。
部室にて部員たちへの優勝報告が行われた。自由参加ということだったが、ほぼ全員が集まった。
黒板の前で部長、楼瑠を中心にDestinationメンバーが一列に並ぶ。
楼瑠の手には優勝カップが握られていた
「みんな、会場に応援に来た者、配信で見た者がほとんどだろうが、我々の代表チームDestinationが、高校生の全国大会Phase ZEROにて優勝した!改めておめでとう!」
室内に拍手が鳴り響く。あちこちから「おめでとう!」という声が聞こえてくる。
楼瑠が頭を下げたので、他のメンバーもそれに倣った。
よく知った部員達であっても、華湖はまだ人前に立つのは慣れなかった。だが、代表として参加しているという立場から、さすがに今日は体調不良で欠席とはいかなかった。
「でかしたぞー!お前達。優勝賞品はゴジホット製品100万円分だ!これで備品が潤うなぁ」
喜色満面の犬飼がDestinationメンバーに向かって言った。
優勝したメンバーを労う言葉がそれかと、華湖も呆れ顔になってしまった。
「しかしまぁ、優勝したのはお前たちだ。そこで!1人1つ、ゴジホット製品をプレゼントしようと思う!」
「「「おー!」」」歓声を上げる部員達。
「プレゼントって、もともとウチらの手柄なんだけどね」
ちょっと呆れ顔の楼瑠に華湖が話しかけた。
「ゴジホットっていったらマウスとかキーボードですかね?」
「そうだね。ヘッドセットとかスピーカー、Webカメラもあるぞ」
「うーん。今すぐに欲しいものはないかなぁ…」
「今すぐじゃなくても、マウスかキーボードは貰っておいて損はないぞ」
「そういうものですか?」
「うん。ゲームやってると激しく消耗するからね。入力デバイスはいつ壊れてもいいように、予備を持っておいたほうがいい」
「あ、なるほど…」
「特にeスポーツ向けの『e』シリーズがオススメかな。ウチもマウスは『e402』だけど、かなり良いぞ」
「どうせなら一番高いProシリーズいっとくぴょん!」兎咲が華湖の後ろから抱きつきながら言った。
「あーそうですね!なるべく高いほうが良いですよね!」
「わっちはこの最高級VRゴーグルを…」
それを聞いていた犬飼が割って入る
「ま、まてまて!3万!上限3万までな!」
「え~ケチくさいなぁ」楼瑠が不満を言う。
「高校生が贅沢言うな!ま、次までに何にするかは考えておけよー」
犬飼は咳払いをすると、また皆に向かって言った。
「それではメンバーから一言づつもらおうか。まず部長から」
いきなり指名された楼瑠は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに喋り始めた。
「えーと。まずは皆さん、応援ありがとうございました…」
その後も言葉が続いていたが、華湖は何も聞こえなくなっていった。
(え?これ…私も何か言わないといけないの!?無理無理!)
栞子、兎咲、とスピーチが続いていく。
「じゃ次、笛木」
「…ありがと…」
「…」
犬飼は言葉の続きを待つ。
「…」
だが笑空は何も言わない。
「…え?終わり?」
「先生。笑空は無口なんで。ね?」楼瑠がフォローする。
「そ、そうか。じゃ、最後に倉井」
「わっ私…は…」
頭が真っ白になる。
皆が話をしている間に何か言おうと考えていたはずなのだが、まったく思い出せない。
何を言うのかと室内はさらに静まり返り、華湖に視線が集まる。
(し、静かにならないで~!)
華湖は内心で叫んだ。何か言わなくてはと焦るほど頭が回らない。
そのとき、右手をギュッと握られる感覚があった。見ると、隣にいた栞子が手を握っている。次の瞬間、背中に痛みがはしった。反対にいた楼瑠が背中を叩いたのだ。「いっっつ」と言いつつ楼瑠の顔を見ると、いたずらっぽく笑っている。目の端で、なにかがチラチラと動くのを感じてそちらに目をやると、玲流と里美が笑顔で手を振っていた。よく見ると、が・ん・ば・れ、という口の動きをしている。すると、華湖の口からスルッと言葉が滑り出てきた。
「あの…私はまだ、先輩方と比べると力不足なところがあって、足を引っ張ってしまったところもあったと思います」
「そんなことないぞー」と小さく楼瑠が茶々を入れる。クスクスと笑いが起きる。それで、さらに気持ちが軽くなるのを感じた。
「だけど、練習に付き合ってくれた先輩がた、応援してくれた皆さんのおかげで勝つことができました。ありがとうございました!」
言うやいなや腰から直角になるまで頭を下げる。
(~~~!しゃ、喋れたー!)
歓声と拍手がひときわ鳴り響く。
「ちゃんと言えたじゃん!偉いぞ!」そういって楼瑠はさらに背中をバンバン叩く。興奮すると力加減がわからなくなるのか、華湖はさすがに「痛いです!痛いです!」と声を上げた。
そこで犬飼が手をパンパンと叩き、制止する。そして意外なことを言った。
「よーし、みんなご苦労さま。それでな、ついでにこのあと皆で学長にご報告に行くぞ」




