仕切り直そう
今女と別の準決勝を勝ち抜き、決勝の相手となったのには、またしてもP高校だった。といっても、関東予選であたったところとは別チームだ。
同校は通信教育であることを利用して、全国各地に住んでいる生徒たちを、その地方の代表としていたのだ。各地方予選すべてに参加していたが、オフライン決勝大会に進んだのは関西地区の代表チームだけだった。
正確に言うと、決勝の相手となったのは『P高校 大阪キャンパスeスポーツ部』である。
「さっきの試合はすみませんでした!」
前室に戻った華湖は床につきそうなほど頭をさげる。
「緊張で、手が震えてしまって…」
「で?もう大丈夫なの?」
楼瑠はスッと立ち上がると、華湖の前に立ち言った。
その目はじっと華湖の目を見据えている。あまりのプレッシャーに思わず目をそらしそうになる。
(目をそらしちゃ駄目!変わらなきゃ…部長なら、ちゃんと話を聞いてくれるはず!)
華湖の足は小さく震えていた。心臓も張り裂けそうだ。だが、楼瑠を力強く見つめ返し言った。
「ハイ!今度は秘策があります!」
「秘策?聞こうか?」
華湖は先程、里美と話したことを伝えた。
「そっかー。それであんなに動きが悪かったのか。しかし、アンタの対人恐怖症もたいがいだね」
「ハイ…申し訳ありません」
「誰かさぁ、耳栓なかったっけ?」
「あ、わっちもってるぴょん。これがないと落ち着いて寝られないぴょん」
いきなり華湖の後ろから兎咲が割って入った。
地方から来た学校のため、会場のそばにホテルが用意されていたが、今女は関東なので日帰りの予定だった。兎咲が寝ると言っているのは移動の車中での話だ。
「あら、アンタどこ行ってたの?」
「先生探してたんだけど、見つかんなくてさぁ」さらに栞子も姿を現す。
「栞子もいたのね。そういえば先生いないね。何してんだろ?」
「まー、あの人はほっとくぴょん。それより耳栓はどうするぴょん?」
「そうそう。声も聞こえないようにさ、登場のときはコレも付けといたら良いんじゃないかと思ってさ」
「なるほどー」華湖もうなずく。
「どころで、その…笑空とはダイジョブ?」栞子が恐る恐る聞いた。
「ん。まぁあの通りよ」
楼瑠が顎で指した方では、笑空が相変わらずスマホをいじっていた。
「相変わらず、マイペースだねぇ…」
「うん、まぁ。笑空と話し合っても時間の無駄ってやつね」楼瑠もため息混じりに言う。
「でも、普段は他の部員のことなんか興味ないって感じなのに、あんなこと言うなんてぴっくりしたぴょん」
「んー、あれである意味、期待してんのかもね」
「へ?私にですか?」
「他に誰がいんだよ!」
楼瑠は拳で華湖の頭をグリグリする。
「いッ痛たたた」
「さていよいよ決勝だが、情報はあるのかい?カンちゃんよ」
「そりゃあダンナ、モチのロンでさぁ」
「アンタ…キャラ、ブレてない?」
「そうですかい?アタイはいつもこうですよ?」
そう言いながらスマホを取り出す。
「相手のP高ですがね。地区予選では圧倒的な強さで上がってきたみたいですねぇ」
「ほう」
「さっきの試合も、一方的だったらしいです。アタイは見られなかったですが」
「注意する選手は?」
「中心になるのはFlow選手だぁね。プロチームの練習生らしいんで」
「聞いたことあるぴょん」
「有名選手ってぇ話でさぁ。んで、ここまでは彼のポジションであるセンターで有利をとって、強引に攻めていくってぇ戦術が多かったみたいで」
「ほ~。それがウチらに通じるかね?」
「いやー、なんせこっちにゃセンターに笑空がいますから。そうは問屋が卸さねぇってやつでさぁご隠居!」
「誰がご隠居だ!」
楼瑠は栞子の頭をグーで殴る。
「いったぁ!暴力反対!」
「暴力じゃない。指導だ!」
「ひぃーこの人怖い!」
「しかしまぁ、そうなればやっぱり華湖と栞子が重要になりそうだね」
「わっ私ですか?」
「おそらく、華湖のことはあまり知らんだろ。ダウナーはノーマークの可能性が高い。だから、ウチらはそっから切り込んでいくぞ」
「おー!わっちも頃合いを見て助けにいくぴょん!」
「アンタのその嗅覚はスゴイからね。任せる。笑空は…」
皆が笑空の方を見ると、彼女はいつの間にか立ってこちらを見ていた。
「…私は…いつも通り…やるだけ…」
「だな」
「よっし!下今女学院eスポーツ部!いくぞ!」と栞子は手を前に突き出す。
「「「「おー!」」」」部員たちは栞子の手に自分の手を重ね、声を出した。
「…ってさぁ、アンタそれ部長の私の役目じゃない?」
「へへ、さっきやられたんでねぇ」
「ま、いいけど」
《いよいよ決勝!全国から参加してくれた約500校の頂点が決まります!》
アナウンスが会場に響く。
大歓声と共に、観客達は手に持った応援グッズをしきりに振り回したり、写真を撮ったりする。
サイリウムやお手製の装飾が施された団扇を振る者。なにやら応援メッセージを書いたボードを掲げる者。大声で誰かの名を叫ぶ者。応援の仕方は人それぞれだったが、会場全体が興奮に包まれていた。
《ではまず、下今女学院の入場です!》
「え?」「何だ?」「なにあれ?」
先程の歓声が嘘のように静まり返る。あまりに異様な光景を目にしたからだ。
その観客達の目線の先には、後ろ歩きをする楼瑠に両手を掴まれ、先導されてヨチヨチと歩いてくる華湖の姿があった。さらに異様で観客達を戸惑わせたのは、彼女が頭から黒い布をすっぽりと被っていたことだった。




