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雰囲気にのまれないようにしよう

『Phase ZERO』オフライン大会決勝は、各地の予選を勝ち抜いた4チームで行われる。

つまり、たった2回勝てば優勝である。


準決勝は今まで通りBo1。決勝はBo3。

Boとは『Best of』の頭文字であり、その後に続く数字で何戦先取すれば勝利か、ということを表している。つまり、Bo1は一回勝負、Bo3は「先に3勝した方の勝ち(最大で5戦)」という意味だ。


組み合わせ抽選の結果、準決勝の相手は南地区代表の岡山県立共創高校と決まっていた。


「華湖どうした!?」

「あ、あ、ハ、ハイ!大丈夫です、部長」


間もなく準決勝が始まるというのに、華湖は明らかに動揺していた。

ステージに上がる際、否応なしに見えてしまう客席。聞こえてくる歓声。

薄暗い中に多数の人々が蠢いているのが見える。あちこちで明滅する光。その度に、人の顔が浮かび上がる。

華湖はまるで人でできた高波に飲まれるかのような気持ちになった。

先程のチーム紹介では、なんと『両手で顔を隠す』という珍妙な決めポーズでなんとか乗り切ったが、客席から沸き起こる笑いに、さらに心を固く閉ざしてしまった。


席に座り、ゴーグルを装着するが、マウスを持つ手が震えている。

(ダメだ!落ち着かないと!)

だが、そう思って落ち着けるのなら苦労はない。


ROLU:《栞子、相手の情報はある?》

KANKO:《共創で気をつけねぇといけねぇのは、センターのAKA-Mamushiさん。プロ入りの噂もあるプレイヤーだ》

ROLU:《あとは?》

KANKO:《それ以外は大丈夫!アタイらならバッチシ勝てるよ!》

ROLU:《OK》

UsagiPaisen:《行くぴょん!》

ROLU:《華湖?》

KAKO:《ハ、ハイ!》

ROLU:《どうした?聞いてるか?》

KAKO:《ハ、ハイ!》


(やばー!聞いてなかった!)

華湖はチームVCが耳に入ってこないほど緊張していた。


《下今女学院対、岡山県立共創!いよいよゲームスタートです!》


アナウンスがあると同時に、一斉にポジションに走っていくチームメンバー達。

この試合は普通にやれば勝てると踏んでいた華湖たちは、相手の奇襲に注意しながらも、通常のポジションについた。

相手の奇襲もなかったので、穏やかなスタートとなった。


KANKO:《華湖どうした?!トドメ刺して!》

KAKO:《ハ、ハイ!》


華湖の動きは明らかに普段と違っていた。頭では分かっているのに、手が思うように動いてくれない。

この試合では、BANされたわけではないが、決勝の相手に情報を与えないため、あえてサリーを封印しリンを使っていた。だが、こんな動きであれば、どのカリスマを使うという以前の問題だった。

少しずつだが、確実にゴールドで差を付けられていく。

それに気がついた共創はダウナーに戦力を集めはじめた。


KANKO:《こっち、まずいかも!》

UsagiPaisen:《助けるぴょん!》


なんとか粘ろうとするが、ゴールドで差をつけられ、アイテムでの強化が遅れていた華湖がダメージを出せない。

徐々に押されていく今女。


その時、会場がどよめいた。


KAKO:《な、なに?》


華湖には何が起きたかわからなかった。視界の範囲外で事件が起こっていたからだ。


その時、戦いを優位に進めていた共創は、ウィルダネスに出現した中立モンスターを倒しにかかっていた。それを倒せば、さらにチームが強化される。その勢いで一気にケリをつけようという算段だった。


あと1撃で倒せる。その瞬間。トドメを刺したのはなんと笑空だった。


笑空は相手の視界範囲を把握しているかのように身を隠し、気づかれずに近づくと最後の一撃を入れ、モンスターを倒した。

強化の効果が入るのはトドメを刺したチームになる。いわゆる横取り(スティール)だ。

これにより、形勢は五分に戻った。


KANKO:《ナイス!》

ROLU:《今だ!センターから攻める!》

KAKO:《ハ、ハイ!》


その後、笑空の活躍により押していたセンターを集中的に攻め、なんとか勝利をおさめた。

全く良いところなしだった華湖は、勝利の後もVRゴーグルを外せないでいた。皆が退場していくなか、座ったまま呆然としている。


「ほら!次の試合あるから!行くよ!」


それに気づいた楼瑠が半ば無理やりVRゴーグルを外す。

その様子を見ていた笑空が、華湖の元に歩いてきて声をかけた。


「…足…」

「ハ、ハイ。足?」

「…引っ張らないで…」

「え…」


笑空の容赦のない言葉に、華湖の体が硬直する。

血の気が引き、顔が青ざめる。


「ちょっと!笑空!言い方ってもんがあるだろ!」楼瑠が2人の間に入る。

「部長、良いんです」

「良くない!」

「言われても…しょうがないですから」


そう言って華湖は肩を落とし、2人の間を抜け、トボトボと舞台袖へはけていった。


「笑空、あやまってきな!」

「…なんで…?」

「確かに、華湖はおかしかったけど、勝ったんだからいいだろ!」

「…本当のこと…言っただけ…」

「本当だからって、言っていいことと悪いことくらいわかるだろ!」


ロルは思わず、笑空の襟元を両手で掴んだ。


「ちょ、楼瑠!やめなっって!」

「部長。ステージの上ぴょん!」


異常に気がついた栞子と兎咲が戻ってきて2人を止める。

そう言われて楼瑠は我に返った。


「…ごめん」


ゆっくり手を離し、そう言った楼瑠は、呆然とした顔で舞台から降りていく。

会場は騒然とした空気に包まれた。

栞子と兎咲もペコペコと頭を下げ、逃げるようにその場を去った。


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